病街録   作:とうぶん

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いつも読んでいただいている皆様に感謝申し上げます。
今回はかなり短くなってしまい、大変申し訳ありません。


あるインタビュアーの憂鬱

俺はしがないテレビ局所属のインタビュアーだ。

今日も今日とて仕事だ。

まぁ、当たり障りなく、今日もやり過ごせればそれでいい。

昼下がりの駅前でインタビューを行えという下知が下っている。

幸いにして、今いる場所は交通の要所であるため人の往来はかなり激しく、聞きやすそうではある。

今日のテーマを確認しておかなければ。

えーと…「最近夢中になっているものはなにか」か。

そんなに奇をてらったテーマでもないので、インタビュアーとしては安心する。

早速撮影隊と連携を取り、声をかける対象を定めていく。

 

「あの人とか良さそうじゃないですかね」

 

撮影隊の一人から声が飛ぶ。

その人物を見ると、缶バッジを大量につけているバックを持っている女性がこちらに向かって歩いてきており、いかにも今回のお題に沿った人物ではありそうだ。

 

「よし、声かけてみますか」

 

俺たちはその女性に近づいていき、腕章を見せて声を掛ける。

 

「あの~すみません。▲▲テレビの◯◯という番組なんですけど、街頭インタビューをしておりまして、少しお話伺うことは可能でしょうか?」

 

「ええ、構わないですよ」

 

良かった。感じの良さそうな女性だ。

落ち着いた雰囲気に黒縁眼鏡がよく似合っている。

 

「今伺っているのが、最近夢中になっているものというテーマでして、なにかあったりしますか?」

 

俺は問いかけながら、女性の持つバックに視線を移す。

視線に気づけば、自ずとそれに興味を示していることに気づいてくれるだろう。

 

「そうですねぇ…推し活ですかね」

 

ドンピシャだ。

俺は内心ほくそ笑んだ。

 

「皆さんされてますよね~」

 

「ええ、私の友達も結構しているので、広まってますよね」

 

しかし、この近距離で見るとバックにつけられている缶バッジがよく見える。

…どうも男性アイドルとかではなさそうに見える。

ただ俺の知識がないだけだと思うが。

 

「勉強不足で申し訳ないのですが、その缶バッジに写されている方はどなたなんですか?」

 

「あー、そうですねぇ。先に言っておくと、芸能人とかではないんですよ」

 

「え、ではどのような…」

 

「彼氏を写した缶バッチなんですよ、これ」

 

「…そ、そうなんですか」

 

あぶねぇ。

一瞬言葉に詰まりかけてしまった。

なんかめっちゃ嬉しそうだけど恥ずかしそうな顔してるし。

 

「私の友達とかもアイドルとかアニメキャラの痛バックとか作ってるんですけど、私は彼氏一択ですね」

 

「凄いですねぇ…」

 

「ちなみになんですけど、この缶バッチも一から手作りしてるんですよ!それに全部違う表情のものを!」

 

「彼氏さん愛されてますねぇ…」

 

圧が凄えんだけど…

さっきまで持っていた印象が消え去るぐらい喋りまくるんだけど。

えっ、ていうかこの量の缶バッチ作るのエグくないか?

なんかコスプレしてるようなのもあるし。

ヤバい鳥肌立ってきた。

 

「このことって彼氏さん知ってるんですか?」

 

「いや、知らないですね。あくまで私個人の推し活としてやってるので」

 

じゃあこれで世に出るかもしれないけど良いんですかね?

 

「ちなみになんですけど、彼氏を模したぬいぐるみとかも作ってたりするんですよ…これなんですけど」

 

そう言って女性はバックから小さいぬいぐるみを取り出す。

…どうなってるんだこの人。

芸能人のぬいぐるみとかならわかるが、一般人のぬいぐるみを自作して持ち歩いてるなんて聞いたことねえよ。

 

「…かわいくできてますね」

 

俺は声が震えないように意識しながら相槌を打つ。

初っ端からすげぇ人引いちまったよ…

 

「これが放送されるかもしれないとなると、なんか凄く恥ずかしいですね」

 

鏡見てくれ。めちゃくちゃ幸せそうだから。

彼氏さんこれ見たらどう思うんだろ…。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「初っ端から凄かったですね…」

 

「…そうっすね」

 

あの後、さらに何個かエピソードが広がっていったが、聞いてる身としてはしんどさが勝った。

撮影隊も勢いに気圧されていた気がする。

 

「もう少し聞いていかなきゃならないですよね…」

 

「ですねぇ」

 

眼鏡の女性と別れた後、数人に声を掛けたがインタビューを拒否され、小休止している。

今日はなぜか特に男性がつかまらない。

 

「あ、あの子どうっすか?」

 

「…んん」

 

小柄で、ヘッドホンを首にかけた女性がこちらに向かって歩いてくる。

高校生ぐらいだろうか。ビジュアルも綺麗で、画的にも映えるだろう。

 

「声掛けてみるか。あの~すみません」

 

「なにか?」

 

俺は眼鏡の女性にしたようにインタビューの趣旨などを伝える。

 

「いいですけど」

 

「本当ですか?ありがとうございます。ではあなたの最近夢中になっているものを教えていただけますか?」

 

「そうですね。声ですかね」

 

女性はヘッドホンを軽く触る。

 

「声ですか…?音楽とかではなくて?」

 

妙にぞわぞわとしたものが背筋を伝う。

普通なら流行りの歌とかって答えるんじゃないか?

 

「いや、声ですね。このヘッドホンで聞くと最高なんです」

 

10万円ぐらいしたんですよと女性は付け加える。

なるほど確かに高校生ぐらいの子が出すのなら大金だろう。

 

「えーっと、ちなみにその声の主ってどなたか聞いても良かったりしますかね?」

 

「…好きな人の声です。あっ、でも許可は取ってるんで」

 

「…それは芸能人とか、販売されているものではなく?」

 

「違いますね」

 

「えっ…」

 

今度は明確に声が詰まってしまった。

嘘だろ。今度は一般人の声ときたか…

 

「声を録音させてもらって、いつも聴いてるんですよ」

 

「それはどんな…?」

 

「色々用途はあるんですけど…例えば試験前とかに◯◯ならできるよとか。落ち込んだ時は◯◯、大丈夫?とか」

 

「…えっと、それはどうやって声は録らせてもらってるんですか?」

 

「その人、将来声にかかわる仕事をしたいらしくて。それにかこつけ…いや、それで練習として私が作った台本を読んでもらってたりするんです」

 

「そうなんですね」

 

この子絶対かこつけて声録ってるだろ。

今日おかしいって。

激しくヤバい人しかここら辺いないの?

 

「ちなみに、一番録らせてもらった声でよかった台詞とかあったりするんですか?」

 

「うーん。まぁ全部私にとっては宝物なんですけれど、あえて言うなら…◯◯、可愛いよですかね」

 

「そこはシンプルなんですね」

 

「えっ?」

 

「なんでもありません」

 

思わず突っ込んでしまった。

仕方がないでしょ。絶対練習にかこつけて際どい台詞とか言わせてると思うじゃん。

 

「ただ、私の名前の部分に関してはさすがに台本に載せられないので、声を繋ぎ合わせてるんですけどね」

 

「……」

 

結局アウトじゃねぇか。

勘弁してくれよ。

確実にカットしないといけないだろこれ。

 

「やっぱり好きな人に自分の名前を呼んでもらうのって嬉しいじゃないですか。今名字でしか呼ばれたことないので。だから今後も頑張らないといけないって思うんですよね」

 

それは何を頑張るの?

正攻法で呼んでもらう努力?

はたまた編集技術なのか?

もう俺はこの女性をバイアスがかかった目でしか見れないよ。

 

「…頑張ってください」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「なんかいつもより疲れましたね」

 

「…ホントにな」

 

俺も疲れたし、撮影隊も疲れている。

いつからこの街はこんなにズレてたんだ?

眼鏡の女性といい、ヘッドホンの女性といい。

こんなもの公共の電波で流せるレベルじゃないだろ。

 

「今日はだいぶ変わった人多かったっすね…」

 

「下手したら逮捕されそうな道に進みそうな人ばかりじゃねえか…?」

 

あの後、男性にもなんとかインタビューすることができたが、もっと洒落にならないレベルの人が出てきて、今日のインタビュー内容はマジでお蔵入りになるんじゃないかと気が気じゃない。

 

「今日のやつ、使える部分あんのかねぇ…」

 

「上の判断でしょうね」

 

「あー、本当に辛いわ…クソッ!」

 

俺はタバコの煙を一気に吐き出す。

こうして一日が終わってゆく。

 

…どうなってんだ、この街はよぉ!!

 

 




今年も皆様お疲れ様でした。
来る年もよろしくお願いいたします。
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