病街録   作:とうぶん

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読んでいただいている皆様に感謝申し上げます!
今回はリメイク(後半部分)したものになります!


【リメイク】ヒトカゴ

「へぇ、インコ飼い始めたのか」

 

 

 

「うん。そうなんだよ」

 

 

 

俺はいつの間にか幼馴染であるミツバ家の住人になっていたインコをじっくりと見つめる。

 

そのまん丸とした眼を向けられると、心の中を覗かれている気分だ。

 

 

 

「このインコ、名前は?」

 

 

 

「まだ決めてないんだ~。どんな名前がいいのか、よくわからなくて」

 

 

 

ふうむ。呼び名がないとは。愛着があるんだかないんだか。

 

 

 

「…じゃあ、好きなものを名前として付ければいいんじゃないか?例えば…食べ物とか」

 

 

 

みかんとか、ショコラとか。わりと犬とか猫につけられてそうな名前だ。

 

目の前のミツバは我が意を得たりと掌をポンと叩き、「それ、良いわね!考えてみるわ」と言った。

 

 

 

それにしても、鳥籠から感じるじっとりとした視線が俺を捉えて離さない。インコってのはもっと騒がしいものだと思っていたが、コイツはまるで声を発さない。

 

 

 

「わっとと…着信だ」

 

 

 

突如、スマホの着信が響き部屋を出ていくミツバ。

 

この空間に一人となった俺はあらためて部屋を見回す。

 

…ミツバに招かれた部屋はひどくこざっぱりしたものだった。

 

 

 

あるのはベッドに机、本棚、クローゼットぐらいのもので、およそ華の女子高生の部屋にしてはこざっぱりしている気がする。

 

いたく殺風景な景色に、ここで常に生活している感じがしなかった。

 

 

 

 

 

「ちょっと、ゴメン。隣町まで用事ができちゃったから、この部屋で待っててくれるかな?」

 

 

 

通話が終わったであろうミツバは顔の前で手を合わせ、バタバタと部屋を飛び出していった。

 

家主不在の家に居るというのもむず痒いが、ミツバから「今日は大事な話がある」と事前に言われていたので、待っててやろうと思い腰を下ろす。

 

 

 

話し相手を失った俺は適当に時間を潰そうとし、本棚に手をかける。

 

綺麗に揃えられている背表紙は几帳面なミツバの性格を表していて、人の性格は本人の振舞い以外からも感じ取れるんだなと思った。

 

 

 

一冊薄い小説を抜き取り、ページ捲っていく。

 

 

 

……一時間ほど経っただろうか。

 

何しろここには壁時計もない。

 

 

 

小説の内容は至ってシンプルで、端的に言えば幼馴染の男女がデートを重ねて意識し合う、そんな話。

 

カフェに行き、映画を隣り合って見て、観覧車の頂上でキスをする。

 

 

 

同じ幼馴染を持つ人間として羨ましい限りだ。

 

何しろミツバと甘い雰囲気になったことなどないのだから。

 

空想に耽りながら、8割方読了したその小説をさらに読み進めようとしたその時。

 

不意に鳴き声が部屋に響き渡った。

 

鳥籠を見ると件のインコが俺を見ながら囀ずっている。

 

 

 

「ツキヒト、ツキヒト」

 

 

 

「あ?」

 

 

 

耳を疑った。

 

インコは人間の喋る言葉を真似できると聞いたことがあるが、なぜ俺の名前を呼んでいるのだろうか?

 

 

 

「ダイスキ。ダイスキ」

 

 

 

「………」

 

 

 

続けざまに放たれた言葉に俺はなんとも言えない気持ちを抱いた。

 

まさかインコから告白されるとは。

 

俺は人間にはモテないが鳥獣の類いからは好意を持たれる気質だったのか。

 

 

 

ふと鳥籠が置かれている机を見ると、大学ノートが置かれているのが目に留まった。

 

表題には「日記」としか書かれていない。

 

確かに几帳面な幼馴染のことだ。日々の生活記録を残していても不思議ではない。

 

俺は好奇心に負け、ページを捲っていく。

 

内容は半年前頃の出来事から記されてた。

 

学校での出来事や遊びに行った話など、ほほえましい記録が続いていく。

 

 

 

「ん?」

 

 

 

ノートの中腹までパラパラと読み進めていくと、あるページが荒々しく切り刻まれていた。

 

なんだこれ。

 

ふと感覚的にこれ以上は覗くなと脳が警鐘を鳴らしているが、おそるおそる次のページを乾いた指で捲る。

 

 

 

✕月○日

 

今日もツキヒトとあの女が話している。

 

なんの用件もないのに親しげに話している。

 

あの女の緩んでいる頬をひっ叩いて、二度と近づくなと言い放ちたい。

 

でも私は我慢できる女だから。

 

我慢できるから。

 

 

 

ページを捲る。

 

 

 

△月○日

 

今日あの女から空き教室に呼び出され、ツキヒトとの関係を聞かれた。女はツキヒトのことが好きだと私に言った。その瞬間私は沸騰する頭を全力で冷やしながら、「ツキヒトと私は付き合う予定だから、横槍は良くないと思うな」と優しく、優~しく諭してあげた。

 

我ながら本当に慈悲に溢れていると思うが、あろうことかあの女は「でも今は付き合ってる訳じゃないんでしょう?なら近い内に告白、させてもらうね」と言い、どこかに行ってしまった。

 

ふざけてる。ふざけんな!

 

私は近くにあった椅子を蹴り上げたけど、ムカつきが増しただけだった。

 

 

 

ページを捲る。

 

 

 

○月✕日

 

もう限界だった。

 

私はツキヒトと離れるのが嫌だった。

 

けれど関係性を壊す可能性がある告白をする勇気がない。

 

だけどあの女が告白して、万に一つでも、億が一にでも成功したらおそらく私はツキヒトの隣には居られないだろう。ああ、コワい。あの女を排除してしまいたい。

 

だけど、そんなことをしたら私も社会的に排除されるだろう。どうしたものかと無い頭を必死に焼き焦がすと一つ、刹那的な考えが浮かんだ。

 

 

 

…ページを捲る。

 

 

 

✕月✕日

 

やっぱりお母さんが仕事の都合で海外に行かないといけなくなったみたい。

 

お父さんも単身赴任中だから、なおのこと寂しいな。

 

…寂しいけど、ホントに好都合。

 

お母さんが寂しくならないようにと、何か動物でも飼う?と提案してくれた。私はインコを飼いたいと伝えた。お母さんはご近所に迷惑かけるんじゃない?って言ってたけど、元々お父さんが使ってた部屋を防音室に改造するって伝えたら納得してくれた。

 

…インコはおまけだけど、寂しさを紛らわすにはちょうどいいかも。

 

 

 

……ページを捲る。そういえば、この部屋はまるで声が反響している感じがしない。恐ろしく静かな空間の中で汗が一筋、背中を伝った。

 

 

 

△月✕日

 

どうやらあの女は翌月に行われる体育祭の終わりにツキヒトに告白するらしいと、あの女の友達が口にしていた。

 

腸が煮えくり返って、しょうがない。

 

…計画は着々と進んでいる。

 

問題ない。問題ない。問題ない。

 

………おかしくなっていく私を、許してください。

 

 

 

 

 

………震える手でなんとかページを捲る。

 

 

 

×月○日

 

この家には私以外の人間はいなくなった。

 

もう止められない。止める気もない。

 

私はお気に入りの幼馴染との恋物語が綴られた短い小説を読みながら、すっかりこの家に馴染んだインコに向かってツキヒトへの愛を何度も紡ぐ。

 

小説のラストページ、男の子は思いの丈を告白し、女の子は嬉し涙を流しながら頷くというところで物語は終わる。

 

…きっと彼らは私たちの見えないところで、幸せに暮らしていくのだろう。

 

羨ましさを感じるとともに、自らの浅ましさや臆病さを突きつけられている気がして、胸が張り裂けそうな思いだった。…でも幸せになりたい。私だって幸せになりたい!!

 

 

 

 

 

………捲る。

 

 

 

○月○日

 

明日、決行。

 

……後悔はしないから。

 

 

 

 

 

戦慄く手を日記から離し、腰を上げて立とうとするが、力がうまく入らずよろけて倒れてしまう。

 

ミツバは俺によくない何かをするのだろうか…そう考えると、恐ろしい妄想が頭にはびこる。

 

抜けた腰をへこへこと芋虫のように動かしながら、ただ一つの出口であるドアに手を伸ばす。あと少し、あと少しで…

 

 

 

「ごめんね。少し痛いと思うけど…」

 

 

 

ああ、なんで。

 

開かれたドアの目の前に立っていたミツバは黒い棒のようなものを俺の頭に向かって思い切り振り下ろす。

 

 

 

「私はツキヒトのことを独占したいだけなの…」

 

体がぐらりと揺れ、視界が淀み、そして意識が黒に染まった。

かすかに見えたミツバの顔は、まるで願いが叶って満足そうな笑みをしていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ツキヒト、ご飯だよ!」

 

「…ありがとう」

 

俺はあの後目を覚ました。

夢だったということはなく、後に残った痛みと変わらない部屋の間取りが物々しいリアルだったことを意識づけられた。

 

そして、なにより。

 

「なぁ、これ外せないか…?結構食い込んで痛いんだが…」

 

ベッドと俺の足が黒々しい鎖に繋がれていて、この現状を見た時はさすがに気を失いそうになった。

おそらく殴られたあの日、「調達」していたものなんだろう。

 

こんなものはアニメやマンガの世界だけであって、俺とは一切関係のないものだと思っていたのに。

 

「…それはムリかな。もう戻れないもん。ここまでやったらさ…」

 

どこか吹っ切れたような顔つきを見せるミツバに、俺の言葉はあえなく却下される。

 

「じゃあ、ご飯食べさせてあげるからさ…口開けて?」

 

俺は口を開けて、流し込まれる食事を咀嚼する。

 

両腕も同じく手錠で拘束されているため、本当に芋虫のような状態なのだ。

この数日間、ずっとこのような状況に置かれている。

 

…だけど、ここまでされてもミツバのことは憎らしく思うことができない。

あの日記を読んで、ミツバの胸中を知ったからだろうか。

かえって鈍い俺が悪い…とまで思ってしまうところがある。

 

「ツキヒト、ダイスキ、ツキヒト、ダイスキ」

 

そして、俺よりも小さい籠に入っているこの部屋の住人が、また喋り出した。

それを受けたミツバが頬を染めながら口を開く。

 

「ねぇ、ツキヒトもさ…私に好きって言ってよ。耳元で囁いてほしい。私だけに向けられる想いがほしい。私からの一方通行な言葉じゃなくて…ツキヒトからの言葉がほしい」

 

俺の手を包み込みながらミツバは懇願してくる。

…不思議ではある。

拘束までしているのに、最後の最後は暴力などの強迫をせず、俺の意思によって発せられた好意が欲しいなんて。

 

この状況にしていること事態、浅ましくて、卑怯なのに…なぜか心が揺さぶられてしまう。

 

ついに俺もおかしくなってしまったのだろうか。

…なら、おかしいもの同士、お似合いなんじゃないか。

俺はミツバの耳元に口を寄せ、はっきりとした語句で伝える。

 

「大好きだ。俺はミツバが大好きだ」

 

「もっと」

 

「そこまで想ってくれていたミツバのことが大好きだ」

 

「…ふふ、うれしい…しあわせ」

 

発する言葉に拒絶反応はなく、想像よりもスラスラと口から出た。

頬を緩めながら、顔を手で隠し身悶えするミツバ。

 

小説のような、誰もが夢見る美しい物語が理想だけれど。

 

現実は狂った籠の中…その中にいる俺たちは歪んだ愛を融け合わせていくのだ。

 

「ツキヒト、ダイスキ…ミツバ、ダイスキダ」

 

その籠の中は健全な世界じゃないから、そう遠くない未来、壊されるだろうけれど。

…壊されるまで、俺とミツバは籠の中で一緒なのは確かなのだ。

 

 

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