2ヶ月近く投稿できず、大変申し訳ございません。
今回は電波要素が非常に高いと思います。
「フハハァッ!同胞よ、今日も苗を育てることに精を出しているなッ!」
「…寿也もやる?…水やり…」
「なぜかは知らんが我は苗に嫌われている気がしてならんな…」
「…そう。やらないんだ…ざんねん」
「…そうは言っていないだろうッ!ほら、
「…おお。寿也、水やり上手だね」
「水やりに上手いも下手もあるのかッ…?」
「…だって、喜んでるから…」
闇に紛れることが常である我にとって、天敵である朝の強烈な陽射しは身体にとって有毒。
なれど、この世界では我は「上條寿也」なる人間ということになっているらしい。
その上で、齢14歳にて中学2年生ということにもなっている。
そして、隣でパチパチと両の掌を弱く打ち鳴らす女…
平時は物静かであり、同じ空間に存在する庇護される者たちからはどこか遠巻きにされている様子であった。
「して、同胞よ。以前から聞いてみたかったのだが…なぜ、苗を育てているのだ?…先達たちに世話をしろとでも言われているのかッ?」
我は水が無くなった如雨露を狗音に渡す。
ここ最近いち早くここにいて、苗を観察している狗音の行動には謎が多く見える。
「……ようやく芽が出てきた。自らの手で開花させることが有意義だと感じるから。…私はそれを見届けたい。…寿也もなんだかんだ言いながら朝早く来てる。…不思議」
狗音は視線を苗から我に移し、抑揚のない声で喋る。
なんとも感情を表に出そうとしない奴だ。
しかぁし、そこに惹き付けられたのも事実。
我の孤高に共鳴する唯一の存在であるからな。
「ふっ。我も気まぐれを起こす時ぐらいあるわッ!…別に朝から同胞と一緒にいたいとかじゃないぞッ!」
「…てんぷれーとなつんでれ…?」
「違うわッ!決してツンデレなどではない!!」
小首を傾げながら、ビー玉のような目で我を眺める狗音。
ぬぐッ…我とは違い、顔は綺麗な造りをしているな…
ええいッ!そんなにじっと見つめられると、我の心拍数が高まってしまうッ!
「ぬぐぐッ!…朝のホームルームが始まってしまうな…早く行くぞッ!」
「…寿也、まじめだね。私、ずっとここにいたいのに」
「大事の前の小事よッ!小さな一歩をこなしていくことで、大きな未来に繋がることを知れッ!」
「ふふっ…寿也のそういうところ、好き」
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「ぬぐわああっ!またこのような点を取ってしまうとはッ!」
我は返却されたテスト用紙を万力の力を持って握り締める。
そこには100点満点中3割ほどしか得点できていない情けない用紙が無惨にも現されていた。
なぜだ…!あれほどテストの対策はしたにも関わらず、この程度の得点率など…!
我の周りの庇護される者たちは、各々の同胞達とテストの点を見せあっている。
そこから聞こえる声は、我よりも遥かに高い点数ばかりだった。
「……生きてる?」
「同胞よ。我は今、非常に羞恥に悶えている。そっと羽毛布団を引いておいてくれないか」
「…大丈夫。誰も寿也に勉強は期待していないと思う」
「ぐぬッ!」
ふらりと我の机の前に来た狗音の顔を見上げると、常日頃見せる無表情よりも、わずかに口角が上がっているように見えた。
「…打ちひしがれる寿也を眺めにきた」
「随分と良い性格をしているな…ただッ!我はまだ本気を出していないに過ぎないッ!」
そう、我は幻影を宿す黒き彗星。
今回は上手く行かなかったが、優秀な学者の幻影を宿せることができればテストなぞ、恐れるに足らんのだッ!
「…寿也、みんな見てるよ?…でも、そんなところもいい」
「周りを気にして人生が過ごせるかッ!選ばれた者として、力を使う必要があるッ!」
庇護される者たちから見ると、我と狗音は異質なものとして浮いていた。
フッ。上等…
何かを成すものはすべからく孤高な時期があるものだッ!
「…とりあえず、一緒に今回のテスト範囲を復習しよう。このままだと、色々危ういかも」
「ぐぬぬ…背に腹は代えられない。今日の放課後にでも図書室で行おう。いいか?」
「らじゃー」
気の抜けるような返答をする狗音。
同胞に手間をかけさせてしまうのは忍びないが、我がこのような体たらくでは「機関」から庇護される者たちを守ることはできないだろう。
我の使命として、いつか来る「機関」との対峙に向けて、自らの能力を高めなければならないのだ…。
「…あ、あの…上條くん?少し、お話があるんだけど…放課後に少し職員室に来てもらってもいいかな?」
「ぬ…我が師か。…申し訳ないのだが、放課後は先約があってだな…別日に変えてもらうことはできないだろうか?」
狗音と入れ替わるように、このクラスを統率している我が師…我妻がトレードマークの困り眉をひっさげて話しかけてくる。
我妻はまだ教師としては相当に若く、他の教師よりもぎこちなさが伺える。
だが、小動物的な可愛さと初々しさから親しみやすさが湧くのであろう。
庇護される者たちの話を耳にする限り、かなりの人気を誇るようではある。
「そ、そうだね…。上條くんにも色々あるもんね…。だけどできれば、少しでいいから時間くれないかな…?」
「ここでは話せない内容なんだろうか?」
意外にも粘り腰の我妻の答えに、我は訝しむ。
狗音との約束があるのも事実だが…急を要する事項なのだろうか?
「そ、そうだね…ちょっと他の子たちには…ね?」
「…ならば致しかない。放課後時間を作らせてもらう」
「ご、ごめんね…無理言って。じゃあ、放課後になったら職員室に来てね…」
困り眉がより深く下がり、顔には汗の玉が浮かんでいる。
我妻のような多方面に気を使うような生活は我はしたくないが。
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今日も「機関」の攻撃はなく、退屈な時間が過ぎていった。
奴らが我に恐れをなしているという自惚れた考えは流石に持っていない。
だからこそ、その時が来るまでに力を蓄える必要がある。
庇護される者たちはそんなことはつゆ知らず、今日も遊興にふけったり、球技に勤しんだりする。
世界が平和であることは良いことだが、いずれその平穏が崩されることを知るのは我と同胞である狗音だけだ。
そして今日も放課後は狗音と知識を蓄えるために勉強をするつもりだったのだが…
我は職員室のドアをノックし、中に入る。
多くの教師が我に一瞬目を向けるが、自らが受け持つ生徒ではないことがわかると、すぐに業務に戻る。
「あっ、上條くん…来てくれてありがとぉ…」
「あぁ」
その中で一人、付箋がそこかしこに付けられたパソコンからこちらを向き、すぐに駆け寄ってくる我妻。
その落ち着きのなさから、未だに我妻は社会人ではないのではないかと錯覚する。
「じ、じゃああっちの応接室でちょっとお話しようか」
「…?」
我妻が指し示す部屋は我に馴染みがなく、まったく記憶にないものだった。
先導されながら、その部屋に入ると見知らぬ女性が仏のような顔をしながら鎮座している。
年齢は…我妻よりも年上だろうが、そこまで重ねてはいないだろう。
「こんにちは。上條くん。…いえ、幻影を宿し黒き彗星、というべきかしら」
その女性は我と我妻にソファを勧めると、開口一番に我の真名を口にした。
なぜ我の真名を知っているのだ…?
まさか、「機関」の手先なのではないだろうか…
思わず身構え、すぐに身体を引こうとすると。
「あー!ごめんなさい。いや、貴方のお話を聞きたいから、今日こちらに呼んだのよ」
「どういうことだ…我のことを知っているのなら「機関」の手の者だろう…話すことは無い。退席させてもらう」
「誓って「機関」の者ではないわ。…いずれ「機関」が起こすであろう事件に向けて、貴方の話を聞きたいの」
放たれた言葉に、挙動が止まる。
我の真名だけでなく、事件についても予測しているのか。
であれば…狗音以外にも協力者となってくれるかもしれない。
「…わかった。対話をさせてもらおうじゃないか。…まず始めに、そちらの名前を聞かせてくれないか」
「私の名前は藤咲…別名、
仲介者…藤咲はバインダーと片手にペンを持ちながら、こちらを見続けている。
ただ、引っ掛かることを言葉にした。
「「機関」に対抗できる人材が、他にもいるのか?」
「そう…。貴方以外にもいるの。けれど、その詳細は話すことができないの。申し訳ないんだけどね」
「それはなぜだ?」
今後「機関」と戦うにあたっても、戦力はいればいるだけよいし、情報もあればあるだけよい。
個々に別れていては、有事の際に協力することもできない。
「…対抗できる人材についても、秘匿にしなければならない情報もあるの。だから、すぐに情報を共有することはできない。けれど…遠くない未来、力を持つ者たちが結集する時が来る」
「そうか…」
藤咲の断定するような口調に、一定の理解が生まれる。
「だから仲介者として、私は情報を集める必要がある。今回、貴方に接触を求めたのもこれが理由よ…ね、我妻先生?」
「あっ、そ、そうです!担任として、理解に努めないといけないと思いまして…」
ここにきて置物と化していた我妻に話が振られる。
なるほど…
どうあっても我の身分は学生。
有事の際には担任にも話が通っていれば、動きやすくなるに違いない。
我妻が同席しているのも合点がいった。
「そういう経緯があったのか」
「そう。…これから対話させてもらうにあたって、我妻先生も同席し続けても構わないかしら?」
「構わない」
藤咲は軽く頷くと、口を開く。
空気が緊張をはらみはじめた。
「まず、貴方が「機関」を認識し始めたのはいつ頃かしら?」
「…それに関しては前提として話すことがある。我には天田狗音という同胞がいる。その同胞の話から我等に危害を加える「機関」という組織について話を聞いたのだ。…ちょうど2年生になったころ、同胞と出会い話を聞いた」
「その天田さんが貴方に話をしたのがきっかけなのね?」
「そういうことだ」
藤咲は持っていたペンを滑らかに走らせ、記録していく。
そうして藤咲から幾つかの質問があり、我はそれに対して答えていく。
隣の我妻を時々横目で見ると、なにやらそわそわと落ち着きがなく、何か言いたそうではあったが。
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「お、お疲れ様でした。藤咲先生。上條くんの事前情報は役に立ちましたかね…?」
「我妻先生…今回は事前情報をもとに彼に合わせて対応させていただきましたが…まぁ、このようなケースは珍しくないですけれどね」
「そ、そうなんですかね…?私も、勉強不足で申し訳ないのですが…」
「ただ、彼の言っていた天田狗音というワードが鍵になるとは思いますが…まぁ、長引くようであればしかるべき医療機関に相談してもらうのも手かもしれません…まずは引き続き、可能な限り彼と今後も対話をすることが求められるかと。それには先生の協力を要してしまいますが…」
「で、できるだけ頑張ってみます…」
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「すまん、遅くなった」
藤咲との対話は予想よりも時間がかかってしまった。
急ぎ図書室に向かうと、狗音だけが音も立てずにその場に立っていた。
その視線は、虚空に向かっているように見える。
「…長かったね。…何かあったの?」
「そうだ。実はな…我等の協力者となってくれる人物との会合が入ってしまってな、待たせて悪かった」
「………」
返答がない。
狗音はただ我をぼうっと見つめるだけで、言葉を発しない。
確かに口数が多い方ではないが…
「…時間は限られているが、少しでも勉強をしなければ。同胞も座ってくれッ」
「話したの?」
「何をだ」
「…私たちのこと。「機関」のこと」
椅子に腰かけると、狗音は対面に座らず我の背後に立ち、こちらを覗き込むようにしている。
「ああ…協力者は多い方が「機関」に対抗することが出来るからな。協力者となってくれるなら情報の開示はすべきだろう」
「…寿也は、ばかだね。お馬鹿だ」
「バカとはなんだッ!…ッ」
狗音の方へ振り向くと、伽藍堂の瞳で我を見下ろしていた。
思わず言葉が詰まり、顔を背けてしまう。
胸がバクバクと激しい音を立てている。
「…寿也、ダメだよ。私、前にも言ったよね…忘れちゃったのかな?…「機関」に対抗できるのは私たちだけだって。寿也のお友達だった人たちだって、家族だって、ただの人間でしかないんだよ?」
「いや…しかしだな、我等が知らない可能性も…」
「…私が言うことは絶対、間違ってないよ。これまでそう思ってきて、どれだけ裏切られたのか忘れちゃった?…寿也は優しすぎるよね…信じられるのは私だけなのに」
「ぬぐぅ……」
忌まわしき過去。
離れる友だった者たち。
意図せず我に関する聞くに耐えない陰口を聞いたときは足元が崩れた気がした。
また腫れ物を触るような家族。
昔はこちらが辟易するぐらいに構ってきたというのに。
近頃はぎこちない笑顔のような何かを顔に張り付け、その間から我を覗いている。
…それでも。
狗音はだけは傍に居てくれた。
我を陥れようとするまだ見ぬ「機関」に対抗するため、我の話に寄り添い、助言をくれた。
だから、かけがえのない同胞として我は信用し、信頼を置いている。
「…ふふっ。そんな人をすぐに信用しちゃうお馬鹿なところがある寿也が私は大好き。…だから、何度だって寿也が間違った道に進もうとするなら、私が軌道修正してあげる。…寿也が信じて、縋っていいのは私だけ」
いつの間にか窓の外は夕焼けに染まり、その朱い陽を背に受けながら人差し指を顔の前に立てる狗音は、神秘的でまるで幻影のようだった。
我は思わず狗音に向かって手を伸ばそうとしたが、やめた。
触れてしまうと飛沫のように消えてしまいそうだったからだ。
「…同胞よ。我がどうかしていたな。この聖戦は我等以外に立ち入る隙などないこと、改めて心に刻んだぞ」
「…そうやって、私の言うことに素直に耳を傾けるところも好き…」
我等以外に誰もいないこの空間で、改めて狗音は我を理解し、信頼していることを再確認した。
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あれから1ヶ月ほど経った。
相変わらず直接的なコンタクトを「機関」はしてこない。
だがしかし、ふと我が気を抜いた時に奴らは仕掛けてくるかもしれない。
この1ヶ月の間、何度か我妻から再度藤咲との会合について打診があったが、きっぱり断った。
当初は食い下がってきた我妻も、我の強硬な態度に根負けしたのか、話を持ち掛けてくることは無くなった。
その様子を見ていたのであろう。
狗音は至極満足げな表情を浮かべていた。
…そのため、我が会話するのは必然的に狗音ばかりとなる。
そんなことを思いながら、今日も早めに家を出る。
家に居ても、我を理解してくれる人間はいない。
狗音。狗音だけが…我と共に歩んでくれる。
少しでも狗音と居る時間を確保したいから、自転車を飛ばす。
日課の花壇の水やりからが、我と狗音のスタートだ。
ほどなくして中学校に着き、自転車を停め花壇に向かう。
いつも我より先にいる狗音の後ろ姿が見えてくる。
「……?」
立ち尽くした狗音に、側に転がる
その場に滞留する異様な雰囲気に、目を細める。
そうして歩みを進めるとその先にある花壇が目に入ってくる。
「なんだ、これは…」
狗音に声を掛ける前に、その惨状に衝撃が走る。
これまで我等が手塩にかけて育てた花が、無惨にも踏み荒らされている。
すぐに狗音の方を向くと、呆然とした表情で生気を宿していなかった。
「同胞よ、これは何があったのだ?…まさか「機関」の攻撃なのか…」
「……誰かが荒らした。私たちが育んだ命を侵した。許さない。許さない許さない許さない」
か細く冷たい声から窺える激昂。
こんな狗音を我は見たことがない。
だが我も気持ちは同じで、沸々と込み上げる怒りを抑えられそうにない。
探さなければ。
これが「機関」の手だろうが、はたまた違う者だろうが、命への冒涜はそれ相応の誅罰を下すべきだッ!
「すまない、少しいいだろうか!本日我等が手入れしている花壇が何者かに踏み荒らされていた!何か知っていることがあれば是非とも教えていただきたいッ!」
我はホームルームが終わった後、ここぞと言わんばかりに声を張り上げた。
それを聞いた庇護される者たちは驚くこそすれ、次第にさざ波のような声をそれぞれ交わしている。
狗音の方を見ても、俯いたままで何も変わりがない。
「あ、あ~、そういえば、昨日部活終わりにたまたま見かけたんだけどさ。サッカー部の先輩たちが花壇の方で集まってたの見たんだけど…」
「それは本当かッ!…誰なんだ、そいつらはッ!」
一人がさざ波の中から明確な意味を持つ言葉を押し出した。
我はその言葉を発した者に駆け寄る。
「あ、あぁ。あ、でも絶対俺が言ったって言わないでくれよ?あの人らめちゃくちゃ目立つタイプの人たちだし…」
「無論だ!早く教えてくれッ!」
思わず肩を掴んで揺らしそうになってしまうほど、我は急いていた。
押し潰された花以上に、狗音がまるで消え去ってしまいそうな雰囲気を纏っていたから。
せめて、そいつらに謝罪させなければ気が収まらない。
我の中の炎は、薪をくべられたように未だ燃え盛っていた。
全く耳に残らなかった午前授業を終え、遂に決戦の昼休みに突入した。
いくら上級生と言えど、幻影を宿し黒き彗星である我が後れをとるはずもなし。
「機関」でなくても、悪を説き伏せなければ…
「失礼するッ!この中に○○達はいるかッ!」
ドアを開くと、ぐわっと視線が集中してくるのが分かる。
確かに、異分子である我が入ってきたから、警戒するのは当然だろう。
「あぁ?俺等になんか用?」
すぐさま反応を返してきた男とその取り巻き達が、我の元に荒々しく歩み寄ってくる。
まるで、上級生の威厳を見せつけるかの如く。
「花壇の件と言えば話はわかるだろうッ!あれは我等が懸命に世話をし、咲かせた花たちだッ!それを踏みにじる行為を見逃すわけにはならない!」
「あー、あれか。てか何でコイツタメ語なん?お前下級生だろ?」
「なんかイラつく喋り方だし…」
我の主張をよそに、上級生達は何か囀ずっている。
そこに謝罪する意思は垣間見えなかった。
「ええいッ!少なくとも我等…いや、狗音に謝罪しろッ!…グッ」
襟を掴まれる。
しかし暴力に屈するわけにはいかない。
目を見据え、視線は外さない。
「お前、うるせぇよ。あぁ?…たかが花だろうが。いいストレス発散になったわ」
「監督が俺等のことベンチ外にしやがるからさぁ。…いやぁ、スッキリしたよなぁ」
「そんな自分勝手な理由で生命を冒涜していいと思ってるのかあッ!…ぐへっ!」
顔面に握られた拳が飛んでくる。
鼻っ柱に直撃し、血液がたらりと垂れる。
「別に?つかサッカー部も辞めたしな。もうどうでもいいわ」
続けて蹴りが腰をしたたかに打ったのをきっかけに、取り巻き達も続々とそれに続くように我を囲み始める。
我も力を発動しようとするが、まるで顕現することができない。
なぜだ…
なぜなんだッ!
「ごふっ!!」
「というか、こいつあれだわ。頭イっちゃってるやつだろ」
「あー、訳わからないことベラベラ一人で喋ってることで有名の。後輩の間で話が出てたから耳に入ってきてたわ」
「あぐっ!!」
「やベー中二病だよな。そういや前に彼女が朝早く登校した時コイツ見かけたらしくて、狗音狗音って誰もいない方向へ喋ってたって。友達いなさすぎて狂ってんじゃね?」
「ギャハハっ!マジなやつ初めて見たかも。ま、そんなやつ潰しちゃってもいいだろ」
「がっ!!」
意識を保つことが難しくなってきた。
まるで終わる気配のない容赦なき打撃が、我を襲う。
おかしい。なぜだ。我は誰よりも強いはず…
なのに、なんでこんなに…
「狗…狗音…た、助けてくれ…オェッ」
「狗音って誰だ、よっ!気持ち悪いっつの!!」
「妄想の世界のオトモダチってやつ?もうコイツ手遅れだろ」
まるでサッカーボールを蹴るような鋭い蹴りが腹に突き刺さる。
いつも隣にいたじゃないか。
もしや我に失望したのか。
こんな奴らにいいようにされている我から目を背けたくなったか。
ふははっ…そうか。…そうか…仕方ない…な。
諦めと同時に…意識が飛び…視界が暗転する。
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「…ボロボロ、だね。そんな傷だらけになるまで、私のために頑張ってくれた寿也が大々、大好き…。そして、そんな大好きな寿也をいたぶった…お前らを…地獄を見るより辛い目に遭わせてあげる…!!」
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「…寿也、寿也…?」
「い、痛ッ…同胞…か?…ここは…どこだッ?」
目を開くと、視界いっぱいの竹藪。
というか、それしかない。
空からまるで天界へと続くような神々しい光が差している。
「…よかった。私たちは「機関」に勝ったんだよ。寿也の頑張りのお陰だね」
「そ、そうなのか…?我は花壇のことで件の上級生たちに謝罪を求めにいって…それから…」
ふと、我を優しく包み込むような感覚。
…その感触は、狗音が我に抱きついたからだった。
その初めて触れた柔肌により自然と鼓動が高鳴っていく。
「…寿也と私は使命を終えたよ。あとは私と未来永劫…一緒にいることができる」
狗音は我の所在なさげな指に自身の指を絡ませていく。
その指はじんわりと、温かく。
全ての思考を蕩けさせるような温もり。
「…寿也は、それでいいよね?…私と、ずうっと、絡み合っていたいよね…?」
元々美しかったビー玉のような眼に、すうっと黄金色が宿っていく。
優しげなのに、獲物を喰らおうとするような獰猛さも感じさせられる。
「…ああ。同胞と我は、一心同体だからな…」
「…永遠…だね。そういうこと言っちゃう寿也のこと…絶対離してあげない…♪まぁ、もう離れられないんだけど…♪」
今度は神々しい光が徐々に我等を包み込んでゆく。
そこに未知による恐れの感情はない。
なぜなら、我には
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「ねぇ、ヤバくない?うちの中学ニュースになってない?」
「あー、あの有名なヤバい奴が行方不明になったからねぇ。本当に異世界にでも行っちゃったんじゃない」
「うわー。こわっ。…ゲッ。なんか記者っぽい人が校門に張りついてるし…」
「ねー。そういえばさ、ヤバい奴とケンカしてた3年生達ってまだ病院にいるんだよね?」
「なんか状況見てた先輩から聞いたんだけど、ボコボコにされてたヤバい奴が急に人が変わったように3年生達相手に立ち回ってたらしいよ」
「やばっ…」
「本当に、ケンカってレベルじゃなくて…下手しなくても殺してしまいそうな勢いだったみたいだよ…その後ヤバい奴はどこかへ行って、その場は血の海で、掃除大変だったみたい…」
「ひえ~…」
「いつになったら普通の生活に戻るんだろうね…」
自分だけしか可視化できない存在っていいですよね。
次回の投稿は9/9を予定しております。