夢を見た。
遠い、未来の世界。
どの世界にも、ポケモンはいた。
泣き、笑い、怒り、愛し、憎み、生まれ、死ぬ。
戦争があった。平和があった。交互に繰り返しながら、ポケモン達は確かにそこで生きていた。
多くの世界では、人間の姿もあった。ポケモンとの関係は、様々だった。
人間のいない世界であっても、ポケモン達が仲良く平和に、とはいかなかった。
そんな風に様々な夢を見ていると、時折ポケモンや人間がこちらに気付く事があった。だからといって俺の方で何かできるわけでもなく、ただじっと俺に気付いた相手の言葉を聞くだけしかできなかったが。
たくさんの悲劇を見た。見ている事しか、できなかった。
たくさんの喜劇も見た。見ているだけで助かった。
たくさんの、本当にたくさんの世界を見た。俺の望む世界はどんなものか、考えさせられるものばかりだった。仮に思い付いても理想を実現はできないのではと、怖くもなった。
それでも、ふとした拍子に思い出すのだ。今の自分は、生まれたばかりの幼い命と交わした約束を守れないままに、こうして無様を晒し続けているのだと。
悔恨を胸に、次こそは……と、あるかもわからない機会を待つ。
できる事は、眺め、考え、覚える事。何一つ取りこぼすまいと、世界を掻き抱きながら、ひたすらに、夢を見る。
どれくらい、そうしていたのだろう。長いような、短いような、何もかもがわからなくなり、自分が何者なのかすらも曖昧になった頃、俺は目を開いた。
「で、何か言い訳とかある?」
「(本体から末端までの中間くらいに位置する分身が弁えもせず下克上を狙って色々やらかしてたら巨人が勝利した世界線を生み出しちゃって近い世代の分身を大量に巻き込みながら盛大に自滅したせいで穴埋めしなきゃないけどまた同じ事されたらヤバいんでアルセウスの創造神話を確実に遂行するためにいっそ神話から巨人の描写を削れないかって出された案に沿うよう誘導しろって命令だったのでやらざるを得なかったから、くらいしか)ないです」
寝ぼけた頭で妙にセンチメンタルな気分を抱いていたが、いざ本格的に目が覚めると記憶は地続きだった。
むしろ夢は見たけど内容はさっぱり思い出せんようになってる。アルセウスボディにも記憶力の弱点はあるようだ。『ドわすれ』するアルセウスとか、あまり見たいものでもないが。
その意味では、逆襲のイメージが強くてシリアス全開なはずのミュウツーはゲームだと普通に『ドわすれ』する。最初からスマブラに出られるだけのギャグ適性を持っていたわけだ。
だがここに出自を考慮すると、どこぞのブラスター化するブレードのように改造の副作用による記憶障害なんて可能性もある辺りが闇深で、実に昭和のウルトラ怪獣じみている。
さておき、とりあえず世界がどうなったかの確認をするためにも案内役を見付け出し、のほほんと携帯端末を弄っていたので奇襲し捕縛した。
そして俺が長い眠りに就くのも既定路線だった風だったので一通り利用された分の仕返しをしてから弁明の機会を与えるも、案内役は特にないと開き直ってしまった。
まぁ、先にお仕置きを済ませたので言い訳しても今更な感じはある。それはそれとして、開き直るなと言いたいが。少しくらいは反省の色を見せろと。
「はぁ……それで、今は世界が創造されてからどれくらい経ってて、世界はどんな感じに変わったんだ?」
埒が明かないので、話題を変える。
「銀河だの太陽系だのが整って、地球相当の惑星が生まれて、生命の誕生と進化が順調に進んだ今は恐竜全盛期ですね」
返って来たのは、予想とはまるで違う答え。
てっきりゲームとかの作品が始まる年代までスキップされているとばかり思っていた。それに過去は過去でも、例えば原始時代でマンムーを石槍持った人間の集団が襲ってるとかを予想してたんだが。恐竜とな。
「……ポケモンや人間は?」
「(極一部の例外を除いてまだ存在して)ないです」
「……つまり?」
「おめぇの出番だ、Meal」
「それは悟飯と違うだろ」
と、いうわけで。少なくとも『この世界において』という前置きありだが、ポケモンは自然発生しないらしい。
つまり俺が介入したり、ディアルガやパルキアのような神と呼ぶべきポケモン達が協力する事で生み出さなければない。
「お前の方でディアルガ達に案内しなかったのか?」
「いやぁ、しようと思ったんですけどねぃ」
俺を待たなくても可能なら先に進めても良かったんじゃないのか、と問えば、何故か言い淀む案内役。
嫌な予感に顔をしかめながら言葉の先を促すと、案内役はそうしなかった……いや、できなかった理由を話し始めた。
「オレセウスさんが休眠した事でギラティナちゃんがギャン泣きして協力できなかったと言いますか、そのまま暴れ始めたので止めようとしたディアルガさんパルキアさんと壮大な兄弟喧嘩に発展しちゃいまして。大人しくはできましたけど、力尽くだったのでギラティナちゃんの気持ちは晴れず、むしろ完全に拗ねてしまい仲違いし続けてますの」
「oh...」
どうやらギラティナが駄々をこねた挙げ句に力で抑えつけられるも、そこではんこつポケモンらしさを発揮したようだ。
「ちなみに喧嘩の余波でユクシーさん達は宇宙のどこかへ吹き飛ばされて散り散りに」
「えぇ……パルキアが捜して集めたりしなかったのか?」
「喧嘩のダメージが抜けずディアルガさん共々休眠しちゃいましたねぃ」
「なんてこったい」
余りのくだぐだ具合に、どうしたものかと頭を抱える。
だがしかし、これはある意味で正解なのかもしれなかった。
そう考えた理由は、ポケカGBのカード説明でライチュウやゴースの能力を伝えるために例として挙げられていたインドゾウの存在だ。あれを見た時の衝撃は忘れられない。
(ゲームの世界に浸ってたのに、唐突なインドゾウで一気に現実へ引き戻されたからなー)
その経験から、俺にはポケットモンスターの世界が現実の延長だという認識がある。
しばらくは……そう、インドゾウの姿を確認するまでは、ポケモン不在のまま時間が流れていくのを見守る。その選択肢には、一考の余地がある。
「ディアルガさんも時間を戻して怪我や消耗をなかった事にするだけの力が残っていませんでしたの」
「ふーん。それで? 俺が復活したわけだけど?」
「んー、基本的にチュートリアルの宇宙創造は終わったので、後は好きに創造してもらって結構なんですよねぃ。どんな世界にしたいのか希望があれば相談に乗りますよぅ」
「そうかい」
ディアルガ達が動けないなら私自らが出ると張り切るしかないのだが、どうやら最低限の仕事は終わってるらしい。
このままポケモンが存在しない世界を見守るのもそれはそれで面白そうなのが困る。
というか恐竜の時代も気になるが、カンブリア紀は来たのか来てないのか。アノマロカリスとかハルキゲニアを見たい心の中の男の子が騒いでいる。
いや、その辺は時間を超越してるアルセウスなら録画気分で振り返りできるか。パンゲア大陸を見てはしゃぐのは後でもできるわけだ。
なら、やる事は決まってる。
「ギラティナに会いに行く」
「なるほど。ご武運を」
「えっ」
「えっ」
「お前も来るんだよ、元凶なんだから」
約束はみんなで遊ぶだったから二人じゃ物足りないかもしれんが、ディアルガ達を優先すると余計に拗ねそうにも思えた。
なので、ここは一つ案内役を連行して『こいつが全部悪いんです』って事にすればディアルガ達への隔意も薄くなるんじゃなかろうか。当然、ディアルガ達への説得にも同じ形で使う予定だ。
「いやどす」
「……逃さん…………お前だけは……」
「ヤメロー! シニタクナーイ!」
逃げようとする案内役だったが、本気で逃げる気があるのかと言いたくなるほどに動きが鈍い。
物でも心でもない以上、物理法則や概念の基礎部分は俺が創造しているはずなのだが、これほどまでに効果が大きくていいのだろうか。ポケモンバトルするとき鈍足アタッカーの接触技とか当たらない気がする。
それはそれとして、逃げる意思がある以上は多少手荒な手段でも問題ないと判断した。遠慮なく『ねんりき』や『サイコキネシス』のような技にも通じる念動力で拘束、連行する。
案内役の悲鳴は、虚しく響いて消えた。
「お邪魔しまーす」
『ぴぃぃぃっ!?』
「おー、ギラティナは変わらんなー」
『え? あ、え……?』
俺自らが創造した事で独立した世界となっている『やぶれたせかい』へダイレクトアタックをかましたら、何の因果かギラティナの背後から勢いよく出現してしまった。
俺としては一瞬でしかなかったが、ビッグバンから恐竜全盛期までと前世ベースならおそらしく長い時間が経過しているだろうに、ギラティナの反応は俺の知っているギラティナそのままだった。
(まぁ、一緒に過ごした時間はめっちゃ短いんだけどな!! し に た い)
ものすごい罪悪感から思わず自虐が浮かんだが、どうにか『こらえる』。技を使わなければ『ひんし』になっていたかもしれない。はー『じこさいせい』『じこさいせい』。
「元気かいギラティナ。パパだよ」
『あ、うん……』
「そしてこれはパンダ」
『うん……うん?』
おかしいな、前世じゃ久しぶりに会う相手への挨拶として鉄板ネタだったんだが。そのためにタ○ステで大きめのぬいぐるみを確保してから向かってたくらいなのに。
「世代格差ってご存知で?」
「創造した覚えはないな」
ギラティナの困惑具合を見るに、どうやら前世ネタはプリインストールされてくれないようだ。
もしやこれも直に創造せずガチャ経由で誕生してもらった影響だろうか。聖杯くん最低だな。
この分だと最期を看取られる場面でお前のために死ぬなら本望だって告げた後に「んとうを取ったら……」と続けても通じない可能性が高い。これは由々しき事態だ。ただでさえ電子書籍版だと最後の答え部分を削除されてるし。
『えっと、パパ?』
ズキュゥゥゥン!
首を傾げ上目遣いに様子をうかがうギラティナ(オリジンフォルム)を前にして、胸を撃ち抜かれたような衝撃に軽く意識が飛んだものの、どうにか『こらえる』事に成功した。
間に『じこさいせい』を挟んでおいたのは正解だった。挟まなければ失敗して『ひんし』になっていたに違いない。なお現在の残りHPは安定の1だ。
「うん? どうした?」
『どうやってここに?』
冷静さを装って先を促せば、ギラティナはあどけない表情と声で本題を問うてきた。
「あぁ、元は俺の創造した場所だしな。『始まりの間』から痕跡を見つけて、あとはシャドーダイブで」
よくよく考えたら『やぶれたせかい』への行き方がわからなかったので、ひとまず時間の流れとは切り離されている『始まりの間』へ戻ってから、俺が眠る前に作った入口を探した。
そして痕跡を見付けたのだが、ギラティナの方で閉じてしまっていたらしく、『やぶれたせかい』へと続く道が存在しなかったのだ。
とはいえギラティナは自由に外と行き来できるのだから、一応は上位互換なはずのアルセウスにも行き来は可能なはず。
そう思って色々と試そうと、まず最初にギラティナの固有技であるシャドーダイブを試したら、一発で通ったのだった。
こればかりは運が良かった、と言うべきだろう。
『おぉー、おそろい……えへ』
そんな俺の答えを聞いての反応がこれだ。さっきのパパ呼びは予想していたので耐えられた。だが今回は予期せぬ一撃、しかも弱点かつ急所に当たったと言っても過言ではない。
俺の心臓は停止した。
「……我が生涯に一片の悔いな死」
『ふぇ?』
「…………死亡確認」
『ぱ、パパァー!?』
こうして俺は無事『ひんし』状態になったが、案内役が死亡確認を発言したせいでギラティナが取り乱し、こうしてはおられんと気合で復活する事になるが、それはまた別の話。
とりあえず、うちのギラティナは少なくとも俺に対しては反抗的ではない。そしてパパっ子である。最の高かよ。
ついでにこの後は約束の通り『やぶれたせかい』のアトラクションを一緒に楽しんだのだが、その際の会話がこちら。
「みんなで、って言ってたのにゴメンな」
『ううん……パパをひとりじめできるから、うれしい』
「あふぅぅぅん!?」
『パパーッ!?』
衝撃の余り思わず地対空ミサイルのような挙動で吹き飛んでしまい、ギラティナを心配させてしまったのは、俺としても悔恨の極みである。
修行のためにギラティナの台詞を録音して重リピしようと決めた、復活後初日の事であった。
「ギラティナちゃんにマイクを向けながら『パパ大好き』と言わせようと迫ったオレセウスさんの姿は、控えめに言って変態かつ事案でした」
「黙れ小僧!」
ちな、アトラクションは元々ポケモン用なので移動タイプや体型は問わない。そしてサイズは破れた世界特有の空間の歪みを利用して均一化される。
オレセウス曰く「これも次元連結システムのちょっとした応用だ」らしい。