原典…それは使用者の望みを叶え、死を齎す物。この世界にもそれは存在する。
ここはとある本屋。原典と呼ばれる童話ばかりを集めたこの本屋で、死を齎す原典を読んでも死なない男がいた。男の名前は鷺宮樹(さぎみやいつき)。大学生の頃に、付き合っていた彼女(せいれい)によって原典の番人にされてしまい、言葉は忘れ、ただ原典を読むことと守護することを運命付けられた男。
あるとき彼は、いつものように一冊の原典を読んでいた。読み進めていて本の中盤に差し掛かったとき、急に意識が遠のく感じを覚えた。そして…
気付くと、あたり一面真っ白な世界にいた。「ここはどこだ? 」と独り言を呟いて、彼は自分の声が出ることに驚いた。そして彼はある一つの結論をだした。
「俺は原典の番人じゃなくなったのか……だから……」
俺は死んだのだと。彼女にとって俺は用無しになったのだと。最初はそう思っていた。ただ違和感を感じたのはそれから少ししてだった。
「どうして死んでいるのに、こんなに意識がはっきりしているんだ? 今まで見てきた死者は、すべて感情や意識などなくなっていったはず……」
「どうしてか知りたいか? それはお前が祝福された男だからだ」
彼は呟き、その呟きに答えが返ってきた事、そして後ろからかけられた声にびっくりした。
「お前は誰だ……そしてどうしてなのか知っているのなら……理由を教えろ」
「いきなり命令口調は感心しないね。まぁそんなことはどうでもいい……私は死を司る冥府の王……君は私が殺した」
「てめぇ……そんなこといわれても信じられるか! 」
「別に信じる信じないは君の勝手さ。ただ君は原典の番人なのだろう? だからとある世界に飛んでもらい、その世界にある壊された原典を復元・回収してもらう。そしてついでにその原典に魅入られた少女を救ってもらう。そのための力と武器は与えるつもりだ」
「どうして俺がそんなことを……理由を教えろ」
「理由? そんなの簡単さ。原典と言うものの魔力を、数多の人間を引き寄せる妖しい魅力を正しく理解している者。……それ以外に必要かい? それに君はこの命令を無視できない。なぜなら…」
「何だよ……」
「その世界で君は、君を原典の番人へと仕立て上げた理由(そんざい)を見つけることができるからだ。どうだい、これでも行かないと言い切れるかい? 」
「そんなこと……そんなことを言われたら行かないとは言えないだろうが! いってやるから武器をよこせ」
俺がそう目の前の男に告げると、男は楽しそうにでもどこか憂いを帯びたように笑った。
「そうかそうか。理解してくれて何よりだよ。では、君にはこの腕輪を。あっちの世界に行ったら、起動するようにしてあるから心配しなくてもいい。それに、その世界で君に敵う存在は無いから。あと、姿なのだがそうだな……怪しまれないように小学三年生くらいの背丈で、髪の色は黒、顔は若干女の子よりだな。じゃあ幸運を祈る」
冥府の王はそれだけを言い残し、消えていった。それと同時に一面真っ白だった空間が消え……俺は公園の中に墜落していた。……といっても死ぬことは無く、かすり傷程度ですんだのだが……
「そういえばさっきもらった腕輪……こっちの世界にきたら起動するって言ってたk……」
「マスター、名前をお決めください」
俺はびっくりした。誰でもそうなるだろう。だっていきなり腕輪が名前を決めろとか言ってきたのだから。俺が何も言えずにいると、腕輪は同じ事を何度も繰り返し言い、いい加減うんざりしてきた俺は、半ば叫ぶように言う。
「アルテミス…お前の名前はアルテミスだ。これでいいだろ」
「ありがとうございます。マスター」
腕輪は俺のセンスに言及することなく、受け入れた。そして俺が訊いたことにすべて答えてくれた。この世界のこと、腕輪のこと、魔法のこと、この世界にあると言う原典のこと……ここまで訊いたとき、俺はある致命的なことに気付いた。それは……
「住む場所は? 」
「さあ……何も訊いていません。マスター」
「はぁああああああ!? 右も左もわからないこの世界に飛ばされて、住む家が無いってどうしろと? 俺に死ねと言いたいのかよ! 」
「そんなに怒らないでください。マスター。その辺歩いていれば、そのうち泊めてくれるところもあるでしょう」
「はぁ…しょうがない。そうするか」
俺は特にいい考えも無かったので、仕方なくアルテミスの言葉に従うことにしたのだが……この世界に来て、歩き始めてから二十分後、朝から何も食べていない俺は行き倒れ寸前となった。そして俺はもう喋ることもできず、薄れゆく意識の中あんのくそ野郎ぜってー殺してやると心に誓った…
それから俺はどのくらいの時を寝ていたのだろう。目を覚ましたときには、目の前に見知らぬ女の子の顔があってびっくりした。
「あ、目が覚めた? もぉーびっくりしたよ。ユーノ君と散歩から帰ってきたら、お店の前にあなたが倒れてたんだから。あっ、ユーノ君って言うのはフェレットのことなの。それでね……」
そして、このハイテンションだ。正直ここがどこで、俺がどういう状況か全くわからない状態で見知らぬ女の子から、絶え間なく話を聞かされるいわれなどないと思った。そして、話が途切れた一瞬の隙を見て、俺は女の子に聞いた。
「ここはどこ? そしてお前は誰? 」
この問いかけに対して帰ってきた答えは…簡潔なものだった。
「えーと、ここは私のお家で私の名前は高町なのは。そういえば君の名前は? 」
名前もわからない相手にあれだけの話をしていたのか…ある意味長話が好きな街のおばちゃんよりもすごいかも知れないな。俺はそんなどうでもいい事を考えつつ俺は質問に答えるフリをして、逆に質問してみた。
「俺の名前は鷺宮樹だ。それd…「へぇー樹君って言うんだぁー。よろしくね」…」
ここから先は…完全にペースを失い、もはやなのはのなすがままに情報を聞き出されていった。…魔王かこいつは。結局俺がわかったことと言えば、ここは海鳴市にある翠屋と言うお店で、なのはの両親がやっているケーキ屋だということと、両親がいない俺を(そういう設定にしておいた)引き取ってくれると言うこと、なのはと同じ小学校に通うこと。これくらいだった。…というか完全に俺の意思を無視して話が進んでいったし…
あの後幸運にも次の日が日曜日だと知り、俺とアルテミスはその日曜日を利用してなのはとその両親から逃れるために、近くの図書館を訪れていた。…原典がありそうなのはここぐらいしかないからな。そこで俺は高いところの本が取れないでいた車椅子の少女と出会った。なんか見ているだけというのはちょっとあれだったので、俺は手伝うことにした。
「大丈夫ですか? 」
と声をかけながら本をとって彼女に手渡した。彼女は突然のことに驚きながらも、俺の好意を素直に受け入れてくれた。
「ありがとう。あなたいい人やね。お名前聞いてもいいですか? 私は八神はやてっていいます」
「俺は鷺宮樹」
「へえ~イツキ君いうんね。よろしくね」
「……」
「どうして軽く泣きそうなん? 」
「話をしっかり聞いて、的確に返答が帰ってくるということに純粋に感動しているんです」
それから俺とはやては、日が暮れるまで話し込んでいた。お互い読書好きだということもあり、そしてお互いが相手の話を聞きながら話が進むので話は弾んだ。そして、遠くから聞こえた「はやてちゃーん? 」という声でお開きとなった。
「あ、いたいた。はやてちゃん帰りますよ……ってこの子は誰ですか? 」
「この子か? この子は鷺宮樹君いうんやて。高いところにある本をとってくれてな、それからお話をしてたん」
それから迎えに来た白衣姿の女性にお礼を言われ、帰り際にはやての家の場所まで教えてもらった後「今度うちに来てなー」と言われた。
俺ははやてのやわらかい雰囲気に軽く好感を覚えつつ、翠屋に戻るべく図書館を出た。これが俺とはやての初めての出会いだった。
鈴音「過去に自分の書いた文章を改めてみたけど……ひどいねw」
樹「強引な展開が多いから、話の進みは早いけど読者置き去り感がすごいよな」
鈴音「まあこれはおいおい直す方針です」
なのは「私の出番は増えるのかな?かな??」
鈴音「なのはが怖い……では次話でお会いしましょう」