どうせならこっちにも
「……暇だなぁ…」
現在土曜日 AM.10:15
大学に入って一人暮らしを初めて早数ヶ月。
この百瀬瞬、怠惰すぎてやることが無い。
生活範囲は食料品の買い出しに行くスーパーかコンビニ、若しくは適当な昼飯を買いに行くファストフード店ぐらいか。
態々電車に乗ってどこかに遊びに行くほどアクティブでもなく、かといってこの怠惰に何も感じることなく過ごせるほどのだらけ具合では無い。
「………」
何を見るでもなく適当にTVをつけ、ワイドショーを垂れ流しながらスマホをいじくる。
高校時代の友人達は趣味なり何なりを持っているようで、SNSを見ているとそういう人達の投稿が輝かしく見えてくる。
「………だーーーッ!!」
グチグチ考えてると脳がネガティブ感に支配されてしまう。
これを脱するために何をすべきか、単純明快外に遊びに行けばいい。
だが何処に行くか
観光地?1人で行くもんじゃない。
流行ってる店?そんな店に1人で入れる程の陽キャじゃない。
電気屋?金が無い。バイトもしてない。怠惰。
考えた末思い当たったもの、それは─────
「うーん、太陽が気持ち良い。」
お散歩。
日光を浴びると精神的によろしい。
先程迄のネガティブな脳みそが綺麗さっぱり何処へやら。
適当に公園に寄ると、休日ということもあってまあまあ人がいる。
世間話をするご婦人、ベンチに座っているご老体、遊具で遊ぶおガキ様達。
「最近の子供も公園は使うんだな…」
自分が子供の頃は既にゲームがあった。
小学校時代の放課後と言えば基本的にゲーム、運動系はごく稀であった。
「まあその方が健康的でいいよなァ」
ちょっと出てきた腹の肉を気にしながら考える。
まあ自分の場合は運動をしなさすぎるというのもあるが。
普段ならこのままイヤーな思考にズブズブと沈んでいくところだが、降り注ぐ陽の光によってそんな思考は直ぐ様消し飛ぶ。
やはりこの選択は間違いではなかったようだ。
「……ふわぁ…」
ついでに眠気が復活。
夜中にぶっ続けでゲームしてたのもよろしくなかったか。
外で寝るのはあまり良くないだろうが…
「………まあええか…」
眠気に抵抗することは出来ず、そのまま意識を手放す。
おやすみ───────────
「…あのー、大丈夫ですか…?」
「……はっ」
起床。
場所は変わらず公園のベンチ。
隣を見ると、20代後半程の男が立っている。
「ああ、良かった…何時間も寝ていらっしゃったんで…」
「あ、どうも…」
寝ぼけたまま男に反応を返すが、意識がハッキリしてくると周囲の様子に意識が向く。
薄暗い。
「あの…今何時ぐらいっすかね」
「えーと…6:45ですね。」
「6時ッ!?」
何時間寝てんだドアホ
「マジっすか…うわぁ…」
「え、えーと…大丈夫ですか?」
「ああいえ…大丈夫っす」
土曜日の数時間で何ができるか
そりゃあもう色々できる。勉強しようと思えばできるし、どっかに遊びに行くことも出来る。まあぜんぶやる気なかったけど。
その上昼飯も食べ損ねた。
完全に一日を無駄にしてしまった。
「うーむ、とにかく帰らないと…すいませんね、心配かけちゃって。」
「いえいえ、こちらこそ気持ち良く眠ってるところ邪魔しちゃって…」
「ホント助かりましたよ…多分この勢いなら夜まで寝ちゃってました。」
「あはは…とりあえず、お帰りならお気をつけて。」
「そちらこそ。」
礼儀正しい人で助かった…。
アレな人に目付けられてたら財布とか盗られかねんし、ホントに良かった。
しかし
うーむ、なんと馬鹿なことをしたのか…。
前々から昼寝すると結構な時間寝てしまうということは分かっていたと言うのに。
まあ流石に自宅でもない所でここまでガッツリ寝てしまうとは想定外だったが…。
「…飯どうすっかな…今からスーパーに買いに行くのは面倒だし…。」
自宅からはスーパーよりコンビニの方がよっぽど近い。
もう今日はコンビニ飯で済ませるか。
「しっかし…もうすっかり暗いな。」
スマホを置いてきてしまった故に正確な時間は分からんが、少なくとも7時は超えてるぐらいだろう。
何時もなら既に飯を食ってる時間。
あまりこの時間似た家を出ることは無い故、何か新鮮味を感じる。
「さてさて、さっさとコンビニ行っちゃいますか…。」
「…っし、帰るか。」
適当にソーセージとサラダを買って帰宅。
このソーセージが割とピリ辛で美味いんだコレが。
まあ1食で2パックぐらい食うとしつこく感じるのだが…。
「……おや」
帰路の途中、先程公園にいた男を見つける。
何か電話しているご様子。
「……仕事か、それとも家族友人との連絡か。」
まあんな事気にして何があるという訳でもないのだが。
さっさと帰るナリ〜
「…此方は異常なしです。今の所反応は消えてませんけど。」
《そうか…まあいい。んじゃ、できる範囲で調査を続けてくれ。》
「了解。」
電話を切る。
何時もならここまで手こずることは無いのだが…。
「はてさて何処にいるのやら…見つからないと帰れないんだがなぁ。」
電話でこそああ言っていたが、とりあえず何かしら痕跡を掴んどかないと後で飯を奢らされかねない。
脳内で色々と愚痴りながら、手にした端末で反応を探る。
確かに反応はある。
だが色んな方向、距離に移動していて掴むことが出来ない。
時々異様に近くなるがどこを見渡してもソイツは居ないのだ。
「……機器の故障か、それとも…」
だとしたら完全な無駄足だ。
ここまでの数時間色々歩き回ったが、その苦労が完全に水の泡になってしまう。
「…そうだ」
距離、方角が駄目なら縦軸ならどうか。
3次元的に見れば場所も特定しやすくなるか。
思い立ち、端末を操作。
全方向に反応を探る。
そして反応したのは
「…下か」
今立っているのは普通に地面、なら反応の元は地中にいる。
過去あまり見なかったタイプだ。
ひとまず電話だけしておこう。
「…………」
何度かコールを待つが、どうにも出るのが遅い。
何やってんだあの人は、本職でもないのに調査をこっちに押し付けておいて。
「ッ!?」
耳元からけたたましい音が響く。
電話先の音ではない、正に耳元の端末からだ。
直ぐ様確認すると
「近づいてる…ッ!?」
反応の元は凄まじい速度で此方に近づいてきている。
30m
20m
10m
「不味いッ…!」
調査こそすれ、対処は自分にできることでは無い。
9
8
7
6
5
4
3
2
より一層端末の音は激しくなり、やがて地面から轟音が鳴り響く。
「ッ!?」
凄まじい音と共にアスファルトが砕け、土煙が上がる。
土煙が上がった先に居たのは
「っ!?」
どこからとも無く爆音が。
方向的にはさっき男が居た場所辺りか。
反射的に足を早める。
原因は分からないが、何か妙に胸騒ぎがする。
「もしやこれが…」
いや、分からないことが多すぎる。
とにかくそこに行かなければ何も分からない。
ひたすらに足を動かし、音がしたであろう場所に着くと
「うーわ…ゲホッゲホッ!」
凄まじい土煙。
アスファルトなのにどんな量だよ。
そしてその土煙が明け、そこに居たのは
「グァァァァァ…!!!!」
「…何だ、コイツ…?」
黒い怪物。
1部虫…というか蟻のような意匠を持つ人型の異形がそこに立っていた。
そしてその横に転がっていたのは
「ッ…!?あれって!!」
先程の男。
地面に横たわっている。
「大丈夫ですか!?おーい!!」
反応は無い
だが何とか呼吸はしている。
気絶しているだけのようだ。
「何とか一安心か……いや」
「ゴァァァァァァ…!!」
安心出来るわけが無いか。
怪物は辺りの建物、その他の物もお構い無し、見境なく破壊を行っている。
建物は一撃で砕け、電柱が真っ二つに折れている。
「"アレ"はこういう時の為…ってことか。」
父さん、母さん、ごめん。
アレは多分、使うべき時は今だ。
どうにか男を建物の陰に運び込み、蟻の怪物と対峙する。
「ぶっちゃけ俺もどうするべきか分からんが…今はとにかく、お前をどうにかしなきゃなァ!!」
覚悟を決めろ、"力"を使う覚悟を。
両親から徹底して使うなと言われてきた力。
だが、瞬間的に理解した。
今使わなければ、俺も男も死ぬのだ。
心を強く決め、全身に力を込める。
「ぬぅっ…!おォォォォォォォォッ!!!」
その雄叫びと共に、身体は変化していく。
より強く、より『異』なる姿に。
「…コレが、俺か。」
カーブミラーに映った己の身体。
怪物と同じ黒く硬質の肉体、そして大きく赤い目。
その姿、目の前のものと幾らかの違いこそあれ、紛うことなき『怪物』だった。
「っし…!行くぞォォォォォッ!!」
「ガァァァァァァァッ!!」
走り出す二つの黒い影。
駆け抜ける余波、衝撃でアスファルトが砕け散る。
「そぉいッ!!」
近くにあった看板を引っ掴み、蟻怪物に向けてフルスイング。
「ゴァァッ!?」
綺麗にクリーンヒット、大きく仰け反る。
が
「ガァァァッ!!」
「のわっ!?」
お返しとばかりに振り上げられた拳、此方の肉体も強固とはいえあちらのパワーも凄まじい。
拳が当たったダメージも中々に小さくない。
「ッ…! まだまだァァァァァ!!!」
「ゴァァァァァァァァッ!!」
「………ッ!? これは…!」
気が付くと、目の前で怪物同士が殴りあっている。
どういう状況だ?
端末に録画されていた映像を確認すると
「…彼は」
先程公園で寝ていた男。
彼が怪物に変化し、"アント"と戦っている。
あの時の彼には何ら異常は感じなかったが…。
何しろ分からないことが多い。
彼を呼ぶとしよう。
「……片桐、目の前で戦闘がおっ始まってます」
《端末のカメラで確認したが…態々連絡しなくても良かったんだが?》
「アンタがさっき出なかったから態々連絡してやってんでしょーがッ!!」
何を言ってるんだこの男は
《悪い悪い…まあとにかく、一旦そっちに合流する。あんまり危なくない所に隠れとけ。》
「はぁ…了解。」
一先ずは観察に徹しよう。
「ッ…!! オラァァァァッ!!」
拳を突き出すが、蟻怪物は軽快にジャンプして回避。
「ガァァァァッ!!」
「うおっと!」
その勢いで繰り出された蹴りを何とか避ける。
「ちぃッ…!」
お互いの攻撃は何れも回避or当たっても決定打にならない程度に終わる。
こちらの体力も無限では無い故、できることなら早急に終わらせたいところだが…
「ゴァァァァァァッ!!」
「まあンな調子よく終わるわけねぇよなぁッ…!!」
「ガァッ!?」
向かってきた相手の勢いを利用して顔面に一発。
速度が速度だけに回避しきれずにクリーンヒット。
「そぉいッ!!」
「ガッ」
そこら辺に落ちてたゴミ箱を頭から被せ
「おんどりゃぁッ!!」
「ゴァァッ!!」
横蹴りで蹴り飛ばす。
蟻怪物は石の塀に思いっきり突っ込み、静かになった。
「あら、終わっちゃった?」
あんだけタフだったのに思ったより早く終わった。
ぶっちゃけ拍子抜け。
「いんや、まだ終わってないぜ。」
「ッ!?」
上空からの男の声。
先程の男じゃない、別の誰かだ。
「どういうことだ!ってかアンタ誰!?」
「おうおう、一気に2つも質問すんなよ。ぶっちゃけこっちの方がお前に聞きたいことあるんだが…」
返答こそ帰ってくるが、男の姿は見えない。
「まあその辺は後にしよう。今は…」
《CROSS DRIVER!》
これまた男の声。
今回はネイティブの英語。
「奴を完璧に倒すことに集中しようか。」
「─────────変身」
《CHANGE》
再びの英語の声と共に上空が激しく光り
大きく翼を広げて何かが降りてくる。
降り立ったそれは、金属質な装甲に身を包んだ黒い戦士。
《KAMEN RIDER CRAVE!》
着地と同時に翼を畳む鎧の男。
「アンタは…」
「俺が何者か、それも後で話そう。その代わり1つ教えてやる。」
「…何すか」
「奴を倒すには…」
《FINISH MOVE!》
腰に付いたベルトの様なものを操作すると、そこから発生した光が右足に収束する。
「"コイツ"が必要になる。」
《LET'S GO! RIDER KICK!》
英語の音声が鳴るが早いか、再び翼を広げて飛翔。
高空で飛び蹴りの姿勢を取り、エネルギーを纏っての急降下。
「はァァァァァァァァッ!!!」
何も知らなければ隕石とも見紛う程のその極光とスピード、塀に打ち付けられた蟻怪物に向けられたソレは怪物に逃げる隙を与えず、全速力で突撃。
「ガァァァァァァァァァァッ!?」
怪物の断末魔と共に、その光は収まった。
「ふぃー…終わったぞー神守ーっ」
怪物の元から歩いてくる鎧の男の手に、何か赤黒い物体が握られている。
「ったく…連絡したらちゃんと取ってくださいよ。」
「いやー悪い悪い。まあそれは置いといて」
此方に向き直る。
「お前、あの蟻の同類か?」
「いや、知らねーっす。ああいうの見たの今日が初めてですし。それに、この姿になったのも…」
「ふむ、なら何も分からんか。なら」
「まだ何かあるんすか?」
「お前、その姿からの戻り方分かる?」
ん?
「……もしかして分からんか。」
「………分かんねーっす」
やべえ
戻ることとか何も考えてなかった
これから一生この怪物姿で生きていくのか?
父さんと母さんが色々言ってきたのはコレが原因だったか
「えっ、ちょ、どうしたらいいんですコレ!?」
「まあまあ、落ち着きなされ。」
「落ち着いてられるかッ!!」
「お茶飲む?」
「どっから飲むんだよ!!」
等とゴチャゴチャ言っていると、先程神守と呼ばれた男…公園で会った男が寄ってくる。
「簡単な話ですよ。出来るだけ強く『戻りたい』と念じれば大体いけます。」
「え?は、はぁ…」
目を瞑って集中。
戻りたい
戻りたい
戻りたい
戻りたい
戻りたい
戻りたい
戻りたい
目を開け、カーブミラーを確認。
「おお、戻った!」
綺麗さっぱり元の人間に。
「良かった良かった。さて、色々聞く前に…とりあえず名前聞いとこうか。俺は片桐荘司、んでコイツが」
「神守 晃です。貴方は?」
「え?えーと」
うーん、何か良くわからんが…名前言っちゃって良いもんかね、仮にも個人情報だし…
でも、この力について何かしら分かることがあるかもしれない。
なら
「俺は百瀬瞬です。」
「百瀬ね。まあ今日は遅いし、連絡先書いといたから明日にでも連絡してくれ。」
「は、はぁ…」
片桐は紙切れを渡し、そのまま神守と帰って行った。
たった数分の出来事だったというのに、濃すぎてその感覚がない。
しかし、遂に自分自身に宿ったあの力が何なのか。それが分かるのかもしれない
過去類を見ない大きな進歩だ。
諸々の期待と興奮に包まれながら、家に足を向ける。
「さて、帰って晩飯でも食うかな。」
ねむい