ユメ先輩のいないホシノvsユメ先輩しかいないホシノ 作:天野ミラ
或る惑星の終着点
青く澄んでいた私たちの空は、
今や、赤く―――紅く染まっている
一人ぼっちの生徒会室の窓から見えたそれは、夕焼けというには赤すぎて
まるで空が燃えているようだった
黒い太陽がゆっくりと、それでも確実にこちらに向かってくるのが見える
とはいえ、ここからだとゆっくりに見えるだけで
実際はとてつもない速さで
このキヴォトスに向かってきているんだろうけど
Q.地球最後の日にあなたは何をしますか?
なんて問い
小さいころ見たテレビでやっていたような気がするけど
あのときは、なんて答えたんだっけかな
なんて、そんな益体もないことを考えてしまうのは
何より、誰よりも自分自身があきらめてしまっているからなんだろう
どこで間違えたんだろう、何が駄目だったんだろう
そんなことを考えるより行動すべきなのに
身体にうまく力が入らない、それに「神秘」が底を尽きた
そんな事を考えているとき、ガラリと部屋の扉が開かれる
「捜したよ、ホシノちゃん」
『ユメ先・・・輩』
水色の髪の彼女は
私の事を校内を走り回って探していたんだろう
呼吸が速いし、汗も滲んでいる
「うん」
『先輩、私は―――』
まだ戦える、まだ抗える
そう言おうとした私の言葉を
彼女にしては、酷く珍しく遮るように
「いいの、ホシノちゃん」
「もういいんだよ、ホシノちゃん。」
『・・・』
二人しかいない空間に、静寂が流れる
「これ以上頑張・・・ううん、傷つかないで・・・」
今にも、泣き出しそうな顔で彼女は、こんな状況でも私の身を慮っていた
まるで向日葵のように朗らかな笑顔が素敵だった
彼女に
彼女に。
―――こんな顔を、させているのか
私が、私が不甲斐ないばかりに
この人の「夢」を。一番近くで支え、守っていこうと
1年前に誓ったのではなかったのか
自分の不甲斐なさに反吐が出る
神童だの、キヴォトス最高の神秘等と持て囃されても
肝心な時に大切な人の笑顔すら守れない
『ユメ先輩・・・ごめんなさい、約束・・・守れなくて・・・』
「・・・ううん。あんなにあった塔の内、4本も折っちゃうんだもん。自慢の後輩だよ!」
どこか諦めたような、無気力な笑み
そんな、彼女の顔を見て、覚悟を―――決めた
愚かな、愚かな選択を
『・・・ごめんなさい、恨んでくれてもいいです』
「恨むなんてありえないよ、そうだ、あの日みたいに屋上でお茶会しようよ。」
「今日は私がサンドイッチ作るからさ!」
「空はちょっと赤いけど、この時間のアビドスは湖に月が写ってとっても――」
そうだ、そういえばテレビの問い
あの時は、大切な人と過ごせたら
なんて答えたんだっけな
『あなたと、夢を追いかけられて・・・幸せでした。どうかお幸せに』
「それってどういう―――」
言い切る前に・・・彼女の意識を刈り取り
そして、そっと抱きかかえる
『おやすみなさい、ユメ先輩』
彼女は私のことを恨むだろうか―――
それとも泣いてくれるだろうか―――
今から
私が行うのはエゴだ
酷く自己中心的で、残酷な。
それでも、それでも私は―――
彼女に、ユメ先輩に生きていてほしいのだ
携帯のコール音が静かな部屋の中に二度、三度響く
『もしもし。聞こえる?』
「おや、想定より早く決断を済ませたのですね」
聞こえるのは、ノイズがかった男性の声
『あまり、時間をかけると私が耐えられそうになかったから』
「それはそれは、ですが本当によろしかったのですか?」
『・・・くどいよ、黒服。これはもう、私が決めたことだから』
今も揺らぎそうになる、寝ている彼女の顔を見ていると
本当はみんなと一緒にいたかった
暖かくて、優しくて、そんな何気ない日常の陽だまりの中に
叶わないことなんて、自分が一番わかっているのに
「クックック、では、あなたに――――」
「決して拒めないであろう提案を、ひとつ」
通されたのは窓から日が差すだけの、薄暗い部屋だった。
彼が拠点にしている研究室の一つだろう。
何かを探していたのか、机の上にはよくわからない資料が散乱しているが
最低限の整理整頓がされているあたり、彼の几帳面さが伺える。
『先輩を、生き延びさせる方法があるって話・・・嘘じゃないんだよね?』
「えぇ、私は嘘はつきませんから、それは貴方もよくご存じでしょう?小鳥遊ホシノ」
不敵な笑みを浮かべている黒色の異形
黒服、彼はそう呼んでほしいと言っていたが・・・
彼のプライベートは未知な部分が多い。名前も含めて
『そうだったね。そういう「契約」だった』
「えぇ、えぇ。そうですとも。」
『時間もないんでしょ?私は何をすればいいの?』
彼の迂遠な話し方は嫌いではないが、今回ばかりは余裕がない
「クックック、結論を急ぐ所は相変わらずですね。」
「前提として―――このキヴォトスはこれから凡そ1時間後、どうしようもない破滅を迎えます」
「それは・・・枝から離れた林檎が地に落ちるように、川に落ちた蟻が流されるように。」
「変えようのない事実、というやつです」
「我々が行うのは、落ちる前の林檎を摘み取るように、川の上に舟を流すようなものです」
『・・・話が長いのは相変わらずだよね。結局なにをするのさ』
「これはこれは、失礼しました」
「彼の船は、残念ながら我々では完全な起動とはなりませんでしたが・・・」
「既存の技術を用いて流用することはできました。研究対象としては誠に惜しい事をしましたが・・・過ぎたことでしょう」
「名づけるなら―――ジウスドゥラの小舟とでも」
「ただし定員は二名・・・といったところでしょう。それに、動力のない、不完全なものです」
小舟・・・といったが、それは半球形状の透明なガラス玉で
中に良くわからない機器類があるのを含めても
とても舟に見える代物ではなかった
『私に動力をやれって話だね』
「・・・えぇ。私が彼女、梔子ユメを無事に送り届ける代わりに、あなたは私の言う通りに動く。そういう契約です」
「聞くまでもないかもしれませんが・・・」
『うん、受けるよ。その契約』
「クックック、そう言っていただけると思っていましたよ、小鳥遊ホシノ」
「それでは、時間もありませんので、別れの挨拶の程を」
『大丈夫、もう済ませたから』
これ以上、彼女と話していたら
揺らいでしまうから、彼女と離れたくないと
一緒に死んでほしい、なんて 思ってしまうから
「それでは良い旅路を」
彼がそう言い終えると同時に、後ろからの強い衝撃に姿勢を崩す
丁度小舟の中に押し込まれるような形で
『どういう、つもり?』
「どうも何も、初めからそういう契約だったではありませんか」
ガチャリと扉らしきものがはめ込まれる音が嫌に室内に響く
「おっと、その扉。内からは開かないので力任せに壊したりはしないでくださいね?替えが聞きませんので」
『なんで、そんな・・・!お前は自分が犠牲になってなんて殊勝な奴じゃないでしょ?』
倒れた私を見下ろすような構図で
彼は独特な笑い声をあげながら
何処か上機嫌そうに、何かを隠すかのように笑っていた
「クックック、これはこれは・・・酷い言われようですね。」
「まあ間違いではありませんが…簡単なことです。」
「その舟には動力が必要で。出力的に転送できて二人が限度」
「つまるところ・・・あなたに首を縦に振らせるには元よりこうするしかなかった。というだけの話です」
「そちらの箱にはまとめた資料があるので、「あちらの私」にお渡しください。」
『ねえ、待って』
「・・・察するに、あなたは死に場所を求めていたのでしょう。これはこれは酷い事をした。」
図星、だった。
みんなを見捨てて、自分だけ、のうのうと生き残るなんて耐えられなかった
先輩にその重荷を押し付けておきながら
自分にはそんな覚悟も、度胸も何もなかった
戦いの中で仲間を失っていって
私も戦いの中で終わりたかったのかもしれない
そうすれば、あの子たちに会えるから
それが、それが
『わかってるなら―――!』
「ですが、小鳥遊ホシノ。あなたは私、いや我々の最高傑作です。現状最も崇高に近いといっても過言ではないでしょう」
「だからこそ、その至高を花びらかせてほしいのです。これは、契約ではなく共同研究者としての最期のお願い、という形にはなりますがね」
「もし、その至高が花びらく日が来れば、それは今ここで終わる私への、いや我々にとって喜ばしい事です」
「少なくとも、この世界に意味はあったのだから。とね」
その言葉はまるで呪いのようでもあり、鎖にも見えた
『ズルい言い方・・・そう言われたら生きていくしかないじゃん』
「何分、大人とは狡い生き物なので」
「さあ、我々の間に湿っぽい挨拶等、不要でしょう。元より互いの利害が一致した故の関係」
「ただ道が分かれるだけの事、貴方はアナタの道を行けば良い」
「私もこちらでやり残した最後の実験がありますので」
「ただ―――小鳥遊ホシノ、貴方と過ごした時間はなかなかに有意義な時間でした」
「それでは、良い旅を、小鳥遊ホシノ」
視界が歪んでいく、いや歪んでいるのは世界のほうなのだろう
『あ・・・』
何か言おうとして。何か言わなくちゃいけなかったのに。
不敵に笑う黒服とオフィスの姿は、瞬きとともに・・・消えた
「ただ、ワタクシらしくない事をしましたね。観測できない崇高に何の価値があるのか・・・」
「―――情を優先するなど、研究者としては三流でしたね」
↓正直この小説に求めてるものって↓
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