ユメ先輩のいないホシノvsユメ先輩しかいないホシノ   作:天野ミラ

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盤面は少しずつ動き出す


対局

▼シノ視点

 

『起きてください、起きてください、先生。』

 

”ん、んん・・・。あと5分・・・!”

 

昨日から思ってたけど、この人・・・眠い時は著しくIQが下がる

 

『あの、ユメ先輩みたいなこと言わないでくださいよ。』

 

”えっ、シノ?何でここに・・・って、ああ・・・”

 

『寝ぼけてるんですか?朝ごはんはユメ先輩が買ってきてくれたので。』

『それと、期限が迫っている、先生のサインがいる資料はまとめておきました。』

『出張中に使ったレシートはまとめておいてください。』

 

”お、おお・・・助かる・・・。”

 

『当り前じゃないですか、秘書なんですから。』

 

『ユメ先輩、おそらくホシノ先輩がさみしそうにしてるので後で電話してあげてくださいね。』

 

「は~い!」

 

『それで、ユメ先輩がこの辺りで人気らしいパン屋に買いに行ってくれたので。』

 

「ヒフミちゃんが教えてくれたんだよ~すっごく美味しいんだって!」

 

ユメ先輩とヒフミちゃんはどうやら昨日の間にモモトークも交換し終わったらしい

殆ど喋ってもないだろうに、これがコミュ強ってやつか・・・

 

『朝は、コーヒーはいりま・・・ってどうしたんです?』

『もしかしてご飯の方が良かったですか?』

 

”いや、違うんだけど・・・誰かと朝ごはんを食べるのも久しぶりだなって。”

 

『そうですか、アビドスの子なら誘えばだれでも来てくれると思いますよ?』

 

”う、うん。そういうことじゃないんだけど・・・コーヒーは貰おうかな。”

 

先生には通常の業務もあることは把握しているが、補習授業部の授業が行われるのは放課後

つまるところ先生も私達も放課後までの時間は自由に使えるという訳だ

 

私達の目的はあくまで補習授業ではなく、トリニティとゲヘナの戦争を止める事

目的を誤ってはならない

 

『ユメ先輩は先生のお手伝いをお願いします、私は少し出歩いてきますね。』

 

「は~い、いってらっしゃい~」

 

 

 

流石に目立つので、制服は着替えて仮面は外して歩き回る

トリニティにホシノと仲のいい人間もそうそういないだろう

 

前髪で目元を隠して・・・学校指定の物を身に着ければ

案外、誰か分からなくなるものだ

 

丁度、女子トイレで他の生徒に水やりを嗜んでいる女子生徒がいたので

話を聞いてみることにする

 

『それで?どうしてこんなところで?』

 

「それはっ・・・!あいつが昨日密告したから・・・!」

 

『口のきき方に気を付けた方がいいんじゃない?君もこんな動画が回ると困るでしょ?』

 

「・・・ごめんなさい、何をお聞きになりたいのですか?」

 

『まず、昨日の出来事って?』

 

「氷の魔女にあいつが・・・いえ、あの子が密告したせいでとんでもない目にあったのですわ。」

 

『ふぅん?昨日のは彼女の起こした暴力事件だって聞いたけど。』

 

「私が正実にある事ない事吹き込んだおかげですわ。」

「いい気味です、今頃正実の牢屋にでも監禁されているのではなくて?」

 

『百合園セイアについて、知っていることは?』

 

「・・・セイア様は体調が悪くて、最近お姿を見せていないそうですわね。」

 

『そっか、聞きたいことは以上かな。帰っていいよ、君。』

 

「あの、動画の方は・・・」

 

『帰ったら消しておくよ、「信じてくれる」でしょ?』

 

「それは、話がっ・・・!い、いえ、分かりましたわ。ごきげんよう。」

 

胸糞悪い、トリニティの生徒はこういう所があるからあまり関わりあいたくなかった

全員がそうではないのは勿論理解はしているが・・・

ここで暴れたら全てが台無しになるから彼女には悪いが堪える

彼女・・・風邪ひいてないといいな

 

 

聞き込みの結果は、大した情報は得られなかった

あえて言えば現時点でのゲヘナ学園へのヘイトはかなり高いみたいだ

 

そもそも、こんな状況でお互いに手と手を取り合ってなんて条約が上手くいくのだろうか

何でもいいから手掛かりが欲しい所だけど

 

 

大きな手掛かりが得られないまま、放課後を迎えてしまった

記念すべき一日目の補習授業が始まるわけだが

 

「えっと、ここは・・・この公式を使って・・・」

 

「ハナコ、ここはどう解けばいい?」

 

「えっと、ここはですね~この定理を使って・・・」

 

「ありがとう、理解した。」

 

どうやら勉強への意欲は皆高いようで、ハナコは他の生徒たちにも教えている

更に今日は服も着ている・・・なんで補習授業部にいるんだろうか

 

”コハル・・・その教科書は二年生の奴だから、こっちのを使おうか。”

 

「なっ、しっ、知ってたけど!余裕過ぎて二年生の所まで見てただけなんだから!」

 

「あはは・・・えっと、頑張りましょうね?」

 

『お茶とお菓子を用意したので、皆さんよければどうぞ。』

 

”ありがとう、シノ。用事はもういいの?”

 

『えぇ、お陰様で。』

 

まずはこの補習部に先生を呼んだ目的が、本当にただの補習かどうかを確認しなければならない

不審ではあったのだ、アビドスと違い、これだけの潤沢な教員や設備がある中

慎重かつ・・・策を巡らすタイプに見える桐藤ナギサが、わざわざ外部から教員を招くだろうか

 

「でも、良かったです。この様子なら次回のテストで全員揃って合格できそうですね?」

「「一度目のテストに不合格者が出たら、合宿を開催してください」とティーパーティから言われていたんですけど・・・」

 

「三次試験まで行くこともなさそうですし!杞憂に終わってよかったです・・・」

 

『何かあるんですか?』

 

「いえ、なんでもないんです!次の試験・・・頑張りましょう!」

 

本当にそううまくいくだろうか

特に一回目のテストまでの期間が、やけに短いのも気になる

そして浦和ハナコ、彼女がテストの点数で不合格したようには到底見えない

 

漠然とした不安だけが、残る

 

とはいえ、現状補習授業が延びるのはこちらとしては好都合ではあるのだが

 

 

そうして迎えた一度目のテスト

 

”皆緊張せずに頑張ってきてね!”

 

「合格したらケーキバイキング行こうね!」

 

『皆さん頑張ってください。』

 

「はい!頑張ります!」

 

どこかぎこちない足取りで試験会場に向かう彼女達

 

まあ試験監督は先生なので、当然この後合流するのだが

 

『こちら、試験問題です。何か細工があるかどうかは確認済です。』

 

”あはは、ありがとうね。そんなに警戒しなくてもいいと思うけど・・・”

 

『・・・だといいですね。』

 

何せここはトリニティ、試験用紙の不備で不合格といういちゃもんをつけてきても

何らおかしくはない

先日のトイレで泣いていた彼女を思い出せ

陰湿で、醜悪なやり方が、此処では罷り通るのだ

 

 

試験は特に問題なく行われた、コハルちゃんがかなり緊張していた事を除けば

これから採点に入るわけだが、流石に先生がやるといって聞かなかったので

ねぎらうためにも彼女たちに差し入れを持っていく

 

『お疲れ様です、皆さん。これ差し入れです。』

 

「まあ、ありがとうございます~」

「あ、ありがとうございます!それで・・・結果は・・・」

 

「私たちは採点には関わってないから、結果は分からないの・・・ごめんね~」

 

「そ、そうですよね・・・き、緊張します・・・」

 

「皆はどうでした?小テストみたいな難易度ではあったので、私は大丈夫かなって思います。」

 

「悪くない、と思う。」

 

「わ、私は余裕だったわ!」

 

「あらあら、どうでしょう~」

 

「だ、大丈夫そうですね!」

 

 

 

”採点が終わったから、テスト用紙を返却するね。”

 

先生が一人ずつ答案を返却していく

 

「よ、良かった~・・・」

 

”本当はテストの点数を発表するなんてことはしないんだけど。”

”補習授業部存続にかかわる話だから点数をこちらに掲示するね。”

ーーー合格ーーーー

阿慈谷ヒフミ 73点

ーーー不合格ーーー

白洲アズサ 34点

花江コハル 12点

浦和ハナコ 2点

 

 

「な、な・・・なんでですか~!?」

「先生、えっ、採点間違いとか・・・」

 

”ないはずだよ。”

 

「惜しいな。紙一重だ。」

「全然惜しくはないですよ!?」

 

「む、難しかったし・・・」

「さっき簡単って言ってませんでした!?」

 

「あらあら・・・書く所を間違えてしまいましたかね?」

「筆記式でしたよね!?」

 

「う、あうううぅ・・・」

 

キャパシティをオーバーしたかのように、彼女がその場にどさりと座り込む

大丈夫かな、結構膝から行ったように見えたけど

 

『大丈夫?ヒフミ?』

 

「うわぁ、ペロロ様だぁ!ペロロ様が喋ってる~えへへへ・・・」

 

『私はペロロ様じゃなくて、シノだよ。ほらゆっくり息を吸って?』

 

「ひっひっふ~・・・」

 

『先生、ヒフミはだめそうだから保健室に運んでくる。』

 

”う、うん・・・お願い、シノ。”

 

その日はヒフミを保健室に送って、そのまま解散という形になった

 

 

 

時刻は既に、夕方を通り越し、夜に差し迫ろうとしているが

どうやら先生はティーパーティーに呼ばれているらしい

わざわざ、こんな時間に・・・?

 

私達も、ティーパーティの部屋の前までは来たが・・・

どうやらティーパーティも先生も私達に話を聞かせたくないらしい

 

ここで波風を立てると、先生に迷惑がかかるから

静かに待っていることにする

 

 

 

▼先生視点

 

部屋の前で、二人と別れてからナギサの待つ部屋の中に入る

こんな時間なのについてきてもらったことに、申し訳なさを覚えるが

 

まずはナギサとの話に集中しないと

 

「あら、先生。こんばんは、第一回のテストはあまり芳しくない結果に終わったようですね?」

 

”そうだね、でもみんな頑張ってるから。次はきっとうまくいくよ。”

 

「そうですか、ところで先生、チェスは嗜まれますか?」

 

”ルールくらいは、何とか・・・”

 

「・・・少し、打ちながらお話ししましょうか。」

「ですが、経験者相手だと勝負にならないと思いますので、特別なコマを使用いたしましょう。」

 

ハンデをつけてもらったにもかかわらず、ゲームはナギサ有利に進む

駒が盤面にあたる音だけが、静かな室内に響く

 

「何か、お聞きしたいことが・・・あるのですね?」

 

”う、うん。3回の試験に合格できないとどうなるの?”

 

唐突に話を振られたからか、思ってもいない1手を打ってしまった

 

「チェック、ヒフミさんですね?いえ・・・答えて頂か無くても結構です。」

 

手玉に取られている盤面も、会話も

 

「このチェスというゲームの基本は、交換です。」

「ポーンがとられたから、ポーンで取り返す。もしくは良い位置を手に入れる。」

「そうやって、堅実に・・・時には静かにチェックメイトを狙う。」

 

「カバーも位置も取れない。」

「そんな、駒は果たして必要でしょうか?」

 

”不要な生徒なんて、一人もいないよ。”

 

「おや、私はチェスの話をしていただけですよ?先生。」

 

二人の間に緊張が走る、先生としてそんなことを認める訳にはいかなかった

 

 

「例えば、この駒の中に、裏切者がいて・・・キングに刃を向けたらどうしますか?先生。」

 

そういって彼女は、私のナイトの向きをクルリと変える

それは、いわゆるステイルメイトの状態で・・・

私は駒を動かすことが、できない

 

「結論から言えば、補習授業部は・・・「生徒を退学させるため」に作った箱のようなものです。」

 

「エデン条約、トリニティとゲヘナの友好・・・いえ、少し違いますね。」

「両校の無用な損耗を防ぐことができる、連邦生徒会長から託された唯一の一手。」

 

「それを邪魔しようとする者がいる、ここまで言えば聡明な先生ならご理解頂けたとと思います。」

 

「ですが、それが誰かわからない・・・なので。」

「可能性のある容疑者を一つの場所にまとめてしまおうという訳です。」

「先生にはその裏切り者を探していただきたいのです、不可能なら・・・」

「箱ごと捨ててしまうのも、一つの選択でしょう。」

 

”そんなやり方は・・・!”

 

「先生、時に先生は・・・大切な人を不慮の事故で失ったことはありますか?」

 

”ない・・・けど。”

 

「それは、良かったです。」

「ですが、そうであるなら猶更、軽はずみな事は言わないでください。」

「もう、私は止まれないのですから。」

 

盤面も動かないまま、沈黙が続く

私は・・・私は・・・それでも・・・

 

”それでも、私は私のやり方で、その問題に対処させてもらうね。”

 

彼女は笑顔を崩していない、

ただ、部屋の温度が数度・・・下がった気がした

 

 

「失礼、そのナイトは物の例えです。戻していただいても良いのですが・・・」

 

黒いクイーンがキングを捉える

先程の白のナイトが邪魔で、どこにも逃げることができない

 

「これで、チェックメイトです。ですが・・・相手の駒を触るのはルール違反なので。」

「今回は私の負け、ですね。ふふふ、楽しかったですよ先生。」

 

そう言って笑う彼女の笑った顔は、話してる最中には一度も見せたことのない年相応なもので

 

「今夜はもう遅いので、お開きにしましょうか。それでは先生・・・貴方の選択が」

「できるだけ苦痛を供なわない結末であることを、願っていますね?」

 

「そして、願わくばトリニティに利のあるものであることを。」




ユメ「もしもし〜ホシノちゃん?」
ホシノ「ユメちゃん!?寂しかったよ〜おじさんがいない間も元気にしてたかナ?」
ユメ「ホシノちゃん、言葉までおじさんになっちゃった・・・」
シノ「本当に寂しかったのが自分でも気恥ずかしくなって、誤魔化してるだけですね。」
ホシノ「そういうのはせめて本人のいないところで言ってくれないかなぁ!?」
ユメ「か、可愛い〜!いっぱいお土産と写真送るからね!」

↓正直この小説に求めてるものって↓

  • ストーリー(シリアス)
  • 日常
  • バランス
  • その他(コメントまでどうぞ)
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