ユメ先輩のいないホシノvsユメ先輩しかいないホシノ   作:天野ミラ

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彼女にとってよくある日常だったあの日
その裏側のお話


よく或る日常の一頁 前日譚

あれから、どれほど時間が経ったのだろう

一瞬だった気もするし、とても長い事旅をしていた気がする

 

私たちの前に現れたのは、広大な砂漠だった。

此処が何処かは・・・分からない

 

舟の中にあったのは機器類と黒服の渡してくれたスーツケース

それと、まるで黒服のように黒と白い罅割れの意匠がされたロケットペンダントだけだった。

 

舟の外郭はまるで役目を果たしたかと言わんばかりに透けて、消えてしまった。

携帯も当然の如く圏外で、食料も水もない。

不味いな・・・世界を捨てて逃げ出しておいて、こんな所で餓死するなんて笑えない。

 

『先輩、ユメ先輩。起きてください。』

 

「んー・・・んにゃーえへへ、もう食べられないよ~」

 

寝ている先輩を見て、自分が焦りすぎていた事に漸く気づく

流石は先輩と言いたいところだが、この状況ではそうも言っていられない。

 

「ん、ホシノちゃん?あれ、えっと・・・私確か・・・ここどこ?空が・・・青い?」

 

どうするべきか、彼女には何も告げずに嘘をつくべきなのか。

私のエゴで始めた物語が、どうやっても彼女を深く傷つけることになる。

そんなことはよく、よく分かっていたはずなのに。今になって深く突き刺さる。

 

『一旦、私についてきてくれますか?取り合えず夜をしのげる場所を探しましょう。私も少し・・・考える時間が欲しいので』

 

「・・・分かったよ~。にしても暑いねぇ、ホシノちゃん怪我は大丈夫?あれ、なんともなさそう・・・」

「若いって素晴らしいねぇ」

 

『そうですね』

 

ユメ先輩はよく人を見ている

おそらく私が何かを隠していることを察してはいるのだろう

それでもこうして、私を気遣ってくれている

 

それに比べて私は今、自然に笑えているだろうか

 

 

 

 

結局のところ、まともな建築物に会えたのは・・・夕暮れに近づいて、肌寒くなってきたころだった。

砂漠の夜はよく冷える。ここで街につけたのは不幸中の幸いだろう。

 

随分と閑散とした地域だが・・・

 

「ここは~アビドスかぁ・・・ってアビドス???」

 

『随分と・・・なんと言うか活気がありませんね。』

 

『辛うじて観光客向けの宿は空いているようです、今晩はここにしましょうか。』

 

「うん!髪も砂だらけだし、お腹もペコペコだよ~」

 

 

調べてみたところ、どうやらここはアビドス校舎からかなり離れた位置のようだった

交通機関は生きているので、明日は・・・あるかはわからないが自宅の方に向かってみることになるだろう。

 

 

夕飯は質素だが、おそらく具材の味を生かした味付けだった・・・ように思う。

場の雰囲気に流されて明日でいいかと、逃げ出しそうになる。

ただ、いつまでも逃げてばかりでは、いけないだろう。

その結果、恨まれることになっても・・・それが私の選んだ選択なのだから

 

 

『先輩』

 

「なぁに?」

 

『少しお話したいことがあるので、その・・・』

 

「そうだねぇ・・・夜の散歩でも、しよっか」

 

 

5分か、10分か。互いに何も喋らないまま道を歩く。

荒廃したアビドスは、明かりが殆どなく。

そのせいか星がよく見えた。

 

『結論から言うと、此処は・・・私たちのいた世界とは別。』

『並行世界のようなもの・・・のはずです。』

 

「うん」

 

『私が・・・私が・・・先輩に、先輩にだけは生きてほしくて』

『それで、それで・・・』

 

「うん」

 

『私は、キヴォトスを見捨てました。見殺しにしました』

『此処には、私たちの知るアビドスは何処にもありません。』

『後輩も先輩も、りょーちゃん達も商店街の方々も・・・』

『だから、だから・・・』

 

 

「ごめんね・・・ホシノちゃんにだけ辛い選択をさせちゃったね」

そう言って先輩は私を抱きしめる。

 

『せ、先輩?』

 

「そりゃあ、不満なことはあるよ?ちょっとくらい私に相談してほしかったなぁとか」

「でも、私に相談したら首を縦に振らないことくらい・・・わかってたから、こうしたんだよね」

 

 

「ごめんね、辛かったよね、一杯悩んだよね。苦しかったよね・・・」

「気づいてあげられなくて、ごめんねぇ・・・・・・」

 

『何で、何で先輩が謝るんですかぁ・・・』

 

「よく頑張ったね、お疲れ様・・・」

 

 

そうして二人で泣き続けて

一息つく頃には、空は白み始めていた

 

 

 

 

 

 

 

カーテンから射す日の光で目を覚ます。

昨日は夜遅くまで起きていたせいで、寝不足は否めないが

資金も潤沢にあるとはいえ、現状の理解を急がなくてはいけない

 

「た、大変だよ!ホシノちゃん!!!」

「わ、私が・・・私が・・・」

 

そう言って部屋に入ってきたユメ先輩のスマホの画面には

【アビドス前生徒会長 失踪か】等といったニュースが並んでいる

別の世界の事ではあるが、あまりいい気分にならないのも確かだ

 

「どどど、どうしよう!」

 

『ユメ先輩、落ち着いてください。こっちの世界の先輩の話ですよ・・・にしても、そうか・・・』

 

事件が起きたのは、一年ほど前の事らしい

 

『ん・・・っと、先輩。とりあえずですが』

『お面を買いに行きましょうか』

 

「・・・なんで?」

 

 

 

丁度、縁日でありそうな天狗の面を見つけることができたので

それを被ることにする

 

「えっと、つまり・・・こっちの世界のホシノちゃんに会ったり、間違われたときのための対策?で買った・・・ってこと?」

『そうですよ、先輩。今日はアビドスの校舎の方まで向かう予定なので、保険です。』

 

半分は本当だが、もう半分の理由は

自分と同じ顔をした人間がいきなりあらわれたら

気が休まらない・・・か、いい気はしないだろう

 

「ふーん、折角の可愛いお顔を隠しちゃうなんてもったいないなぁ」

「ねぇねぇ、私もおそろいの奴買っていい?ね?」

 

『先輩は必要ですか・・・?まあいいですけど・・・』

 

「わぁい!ちょっと待っててね!」

 

昨日、あんな事があったというのに。私を気遣って明るく振舞ってくれているのだろう

目元に薄っすらと隈も見えた。

今日は自宅で寝るにしても、宿をとるにしても

早めに抑えるべきだろう。

 

 

 

交通機関を用いてアビドスの校舎近くまで来た、来たが・・・

 

「随分と・・・荒れてるね?」

 

『えぇ、砂漠化が進みすぎている・・・』

 

別世界の影響というべきか、本校があった方向は砂漠になっていて

先輩の家も私の家も埋もれてはいなさそうだが

先輩の家のあたりは少し怪しい

 

「とりあえずお昼にしよっか~もう少し人通りの多い方にいってみよ?」

 

『そうしましょうか。』

 

 

それから10分程歩いた頃の事、だった

 

「にしても分校の方しか残ってないなんてね~あまりこっちには来ないから美味しいお店とかわかんないなぁ~」

 

『先輩』

 

「お昼はラーメンがいいなぁ・・・最近忙しくてコンビニが多かったからなぁ~」

 

『先輩』

 

「んぇ?どうしたの?ラーメンは嫌?」

 

『後ろを向かないで聞いてください、おそらくつけられてます。急ぎますよ』

 

「う、うん・・・?なんで?」

 

道を四つほど曲がって路地裏まで来たが

気配が消えない

気のせいではなく、私たちに目的があると見ていいだろう

フードかヘルメットでも被っておくべきだっただろうか、些か迂闊だった

 

 

 

足跡はこちらに向かってきて・・・

ついに姿を現す。あれは

 

 

「先輩?」

「なんで、いや。どこに行ってたんですが。心配、したんですよ」

 

 

こちらの世界の「わたし」

もう一人の小鳥遊ホシノ、その人だった

 

「いや、違う。先輩は…っ」

「何者なんだ、どうして先輩の顔を・・・」

 

困惑している、のも無理はないだろう

とはいえ、どうしたものか弁明しようにも彼女の手はショットガン(Eye of Horus)にかかっている

穏便に済ませられる雰囲気ではなさそうだが

一瞬の静寂の、後

 

「ホシノちゃんだぁ!ねぇねぇ、あっち、あっちにもホシノちゃんがいるよぉ!」

 

 

仮面をつけてた意味の半分が一瞬にして崩壊した

先輩はこういうところがある。こういうところも彼女らしさだが

今は黙っていてほしかった・・・が助け舟であるのも事実

 

仕方がないので仮面を外す

あちらの私が息を呑むのがわかる

 

 

『こんにちは、こっちの世界の私、いや「小鳥遊ホシノ」』

『困惑するのは理解しているが・・・立ち話もなんだ。そちらの喫茶で少し「お話」をしないか?』

『私は、私の事は・・・』

 

 

いつまでも、あちらこちらの小鳥遊ホシノでは判別が付き辛いだろう

何より、こちらの世界の主役は彼女なのだ

私は異物でしかない

 

私は・・・私は・・・

 

『高那 シノ。シノと呼んでくれればいい』

 

帰るべき星を失った私には、さぞお似合いの名前だろう。




1日目 後日談
ユメ「それはそれとして、さっき先輩に「だけは」生きてほしいって言ってたの忘れてないから」
シノ「えっ」
ユメ「明日起きたら、詳しく聞かせてもらうから・・・お部屋に来てね」
シノ「えっえっ」

↓正直この小説に求めてるものって↓

  • ストーリー(シリアス)
  • 日常
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