ユメ先輩のいないホシノvsユメ先輩しかいないホシノ   作:天野ミラ

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これは、記録であり観測であり・・・終末である


「神秘」に対する独自設定や、独自解釈を含みます


幕間
終わった世界の実験記録(ログ)その1


妙にノイズがかった音声が頭の中に響く。

 

・・・記録は・・・できていますかね?

お元気でしょうか、あちらの世界の「私」

いや、あえて・・・こう呼ぶべきでしょうか・・・「黒服」と。

 

これは無名の司祭の産物・・・今から終わる世界の実験記録

名を付けるとすれば・・・「コリントの手紙」といった所でしょうか。

 

これを見ているという事は、私との契約に同意を示してスーツケースを開けたという事。

そして、無事に記録が出来ているという事でしょう。

 

 

これは・・・当時の世界を垣間見る事の出来る”テレスコープ”。

あるいは”ダイアリー”とも呼べるかもしれませんが・・・この場において”それ”はさして重要ではないでしょう。

 

重要なのは、どうやって記録するか・・・ではなく、何を記録するかですから。

まあ、そのファクターやプロセスも非常に気になる事ではありますが・・・

今はあまり時間がありません、私にもまだやるべき実験が残っておりますので。

 

 

 

「手紙」と称しましたが、これは動画や冊子のような記憶媒体ではなく・・・謂わば追体験です。

途中で止めることは出来ないのですが・・・まあ問題は無いでしょう。

 

 

 

・・・ああ、それと言い忘れていました。

追体験するのは、私自身・・・同一存在の記憶と経験です。

自己の混同にはくれぐれもご注意を。

自己性(アイデンティティ)とは容易く剥がれ落ちてしまうものですから。

 

 

 

 

場面が切り替わる。

 

 

 

 

目を覚ますと、目の前にあったのはいつものオフィスと実験器具。

来客でも来た後だったのでしょうか、ご丁寧に二人分のティーカップとコーヒーが用意してあります・・・片方は手を付けていないようですが・・・

湯気が立っていないところを見るに、時間がかなり経っていますね。

部屋を・・・月明かりが照らしています。

時刻は深夜のようですが・・・こんな時間に一体誰が・・・

 

 

―――いや、「知っている」ものでした、何故知らないなどと思ってしまったのでしょうか・

どうしてこんなに大切な事を忘れていたのでしょうか。

 

今日は遂に・・・来たのですから。

キヴォトス最高の・・・神秘が。

 

 

 

貴方との出会いは、今思えば最悪の形だったと言えるでしょう。

キヴォトス最高の神秘・・・小鳥遊ホシノ

 

 

 

 

 

 

 

 

場面が切り替わる。

 

 

 

月明かりだけがさす暗い室内に、コンコンとドアを叩く音が暗い室内に響き渡る。

返答を待たずに、少ししてやや無遠慮にガチャリとドアを開く音が反響する。

 

現れたのは、桃色の短髪の少女。

制服の校章から、アビドスの生徒のようだが名前は・・・確か。

 

 

「おやおやおや、来客を招いた覚えはなかったのですが・・・」

「小鳥遊ホシノ、アビドス高校の1年生。」

「巷では、”有明のホルス”などと呼ばれているようですが・・・どうやってここを?」

 

 

 

口からは、予め決められたような文言が流れる。

―――違う、私の意思で喋っている。

 

 

 

『カイザーの理事が快く教えてくれたよ。』

『今頃は・・・バッテリーも持たずに砂漠で宝探しでもしてるんじゃないですか?』

 

 

 

「クックック・・・彼とは1週間程前から連絡が取れなかったのですが・・・成程、そういう事情でしたか・・・惜しい事をしました。」

「それで、ここを訪れたのはその報告・・・という訳ではないのでしょう?」

 

 

こちらを睨みつけるような表情の彼女。

手元に持った散弾銃を強く握りしめている辺り、かなり警戒されているようだ。

 

 

『単刀直入に言えば・・・忠告。これ以上ユメ先輩の夢を邪魔するようなら、容赦しないから。』

 

「おや、私が何かしましたか・・・?」

 

『とぼけるつもりなら・・・!』

 

 

彼女が手元に持っていた銃をこちらに向ける。

一触即発の雰囲気ではありますが。

 

 

「そもそもとして、あの砂嵐は我々が引き起こしたものではありません。」

「私は、水を売っただけ・・・それだけの事です。例えそれが法外な値段だったとしても、死に往く歴代アビドス生徒会にとっては正に・・・1本の蜘蛛の糸だったでしょう。」

「とは言え、貴方の働きによって・・・私の計画に大きな障害が生まれてしまったのも事実。潔く身を引きたいところではありますが・・・」

 

 

『・・・それで?迂遠な言い回しで煙に巻くつもり?』

 

 

「ここはひとつ取引をしませんか?有明のホルス。」

 

『・・・取引?』

 

「ええ、貴方にとっても利のある取引です。私もアビドスの現状には心を痛めておりまして・・・」

 

 

『胡散臭い・・・何が目的?』

 

 

「私にも、「欲しいモノ」がありまして。ですが、貴方の敬愛する”ユメ先輩”の為にも。この提案は利になると思うのですがね・・・?」

 

 

『・・・ユメ先輩。話だけは聞くけど、判断はそれから。』

 

 

 

「えぇ、それでは・・・”建設的なお話”を始めるとしましょうか。」

 

 

『黒服、お前はいったい何者なの?』

 

 

 

「黒服・・・成程、「黒服」ですか。」

「そう言えば自己紹介をしていませんでしたね。」

 

「私たちは、貴方達の住むキヴォトスとは別の・・・外部の領域の存在。」

 

 

「適切な名前がありましたので、今はそれを拝借しております。」

「「ゲマトリア」の・・・「黒服」。そうお呼びください。」

 

 

「我々は、求道者であり・・・探求者。だからこそ私が求めるのは・・・」

「貴方の持つその「神秘」・・・そのものです。」

「本来は、もう少し有利に交渉する予定だったのですが・・・機会を逃すよりは損失は少ないでしょう。」

 

 

 

 

場面が切り替わる。

 

 

 

初めは利用するだけして、”反転化”の実験に使う予定・・・でした。

害はともかく利だけが一致しているだけの関係。

 

 

次は私の・・・研究室ですか。

試験官に詰められたのは、赤茶色のドロッとした液体。

あれは、確か・・・血液。サンプルとして採ったものだったものでしたか。

あまり有用なデータは得られませんでしたが・・・

 

 

『ふーん。それで、今日はこれで終わり?』

 

 

「ええ、それで結構です。報酬についてはいつも通り。」

「考えれば考える程・・・実験を重ねれば重ねる程に。神秘と言うものへの謎ばかりが増えていく・・・マエストロが諦めた”神秘”が、早々解明できるとは思っていませんでしたが・・・」

「行き詰まってしまいましたか。」

 

 

彼女が口を出したのは、単純に思ったことがそのまま口に出たのか・・・困っている私を見兼ねてだったのか・・・真意は分かりませんし、今となっては聞くこともできない事ですね。

 

 

『理解できないものじゃなくて・・・理解できたものに焦点を当ててみてもいいんじゃない?』

 

 

「・・・それはどういう?」

 

 

『実験の内容を聞いていた感じ・・・理解できることは増えてはいるんだよね?その「崇高」とやらが何を目指しているのかはよくわかんないけど。』

 

 

「ふむ、そう言った観点で言えば確かに・・・神秘とは解析できないからこそ神秘であると。神秘の「本質」そのものではなく、個人の持つ「根源」に焦点を当ててみるというのも一つの視野ではある・・・成程。問題は山積みですが・・・やってみる価値はあると言える。」

 

「クックックッ、感謝します・・・小鳥遊ホシノ。この報酬は後ほど。」

 

 

『別に、思ったことを口に出しただけだから、それだけ。』

 

 

思えば、ゲマトリアとは志を共にしてはいるものの・・・意見を求める事は殆どなかったかもしれません。誰かと、何かを研究する事でこれ程までに、インスピレーションを得る事ができるとは。

彼らの言葉を引用するとするなら・・・「ミューズ」と言うのが正しいのでしょう。

 

 

「神秘、そしてヘイローが個々人に付与する・・・耐久性。これは各個人において差がある。」

「これらは、本人の「神秘の持つキャパシティ」と比例する傾向がある。ですが・・・」

 

「例えば、トリニティの1年生、「聖園ミカ」そして「桐藤ナギサ」根源的に見れば両者の格はそう変わらない筈ですが・・・その戦闘力には大きな開きがある。」

「貴方はどう思いますか?小鳥遊ホシノ。」

 

『私に聞かれても。でも、”視た”感じは・・・総量は変動するのかな。』

 

「成程・・・それらが”感情”か”特定の行動”に起因するものかは分かりませんが。であるなら現状キヴォトス最高の神秘である貴方の”それ”も変動しうる可能性があると。成程、成程成程成程・・・試してみる価値はあるでしょう。」

 

 

「同じトリニティに焦点を当ててみれば、「百合園セイア」の「予言」、「剣先ツルギ」の「再生性」。どちらも、キヴォトスの外では考えられない程の偉業と言えるでしょう。」

「我々の持つ”それ”とは違う、言わば「権能」。確かにその根源を鑑みれば違和感はないのでしょうが・・・どちらも、同格の根源を持つ他者と比べると、両者の戦闘力の差には疑問が残る。」

 

『私もそうだけど、ある程度・・・指向性のようなものが決められるのかもしれない。』

『集中して”視れば”・・・いつもより良く視れたり。銃弾を弾く筈の肌が、注射器の針を通したり。』

 

 

「クックック・・・成程。であるならば・・・」

 

 

実際に「生徒」としての見解、小鳥遊ホシノ自身の持つ根源である「ホルス」としての特性は、私の実験に多くの「気づき」を与える事となりました。

 

 

利が一致しただけの、利用し合うだけの関係・・・

 

彼女は、アビドスを復興したい。

私は、彼女の持つ「神秘」を理解したい。

 

その為に、互いの持っているモノが欲しかった。

それだけの関係だったはず。

 

 

 

 

 

 

いつしか、私達の間には空のティーカップが「二つ」並ぶようになっていました。

 

 

 

「今日のコーヒーはいかがだったでしょうか、小鳥遊ホシノ。」

 

『味の違いとかはわからないけど・・・悪くはなかったと思うよ。でもちょっと苦みが強いかも。』

 

「・・・確かに風味こそ素晴らしいものですが。焙煎が深すぎるかもしれませんね。参考にしましょう。」

 

「や、詳しい事とかは全く分からないし、興味もないんだけど・・・」

 

 

結局、貴方が敬語を私に使ったことは・・・一度もありませんでしたが。




次の実験記録はまた後程。
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