ユメ先輩のいないホシノvsユメ先輩しかいないホシノ 作:天野ミラ
実際にこの工程で作った料理の味を保障するものではありません
ここは、私の夢でもあり・・・彼女・・・セイアちゃんの夢の中でもある。
世界の何処でもない場所、ティーカップとお菓子のあるお茶会。
この夢の中にいる間はどうも、時間間隔があやふやになる・・・外の様子は黄昏色に染まっていて、何処か神秘的である。
何故私がここにお邪魔しているというのかと言うと・・・
『セイアちゃん、私は・・・ラーメンが食べたいんですよ・・・切実に!』
「神妙な顔して開口一番、それかい?ここは別に飲食店じゃないんだが・・・まあ話を聞こうじゃないか。」
どうしても美味しいラーメンが食べたかったのだ。
「一応、一応は伝えておくとだね?私のこの”未来視”と”夢見”は私自身への負担もあるから、そうおいそれと使えるものでもないんだが・・・」
『・・・それは申し訳ない事をしました、流石に迷惑はかけられないので解散しましょうか。』
流石に友達に迷惑をかけてまで、叶えたい願いではない。
「・・・君が私を友達として扱ってくれているというのはとても嬉しいが、最後まで人の話は聞き給え。」
「まあ、私の体調も最近は安定しているし、”未来視”の方はあまりにも私への負担が大きすぎるから・・・とある人物と”取引”をして、近日中に緩やかにその効力を弱める予定なんだ。」
「つまりだな、まあ・・・今日くらいの使用なら問題ない。」
『そ、そうですか・・・ありがとうございます。じゃあ、お願いします。』
「ちなみに、どうしてラーメンなんだい?お茶とお菓子なら今すぐでも出せるが・・・」
『どこのラーメンでもいいという訳ではなくて・・・”柴関ラーメン”というラーメン屋があるんですが・・・ラーメンの味もわからないまま通うのも柴大将に申し訳なくてですね。』
『それに私自身も、どんな味のラーメンなのか気になるので、何とかしてラーメンを食べる為に今回の場を設けさせていただいたという訳です。』
「君の”味覚異常”の話は聞いたが、思ったよりも深刻な事態だな・・・とは言え、私もラーメンには詳しくないぞ?」
『その為に、今回は頼れるゲストを呼んで来た訳なんです。』
『他に事情を知っている、唯一の友人・・・アズサちゃんを。』
「おはよう、シノ。それにセイア。」
「頼りにしてくれるのは嬉しいが・・・シノ。私もラーメンには詳しくないぞ。」
『3人寄れば文殊の知恵・・・と言いますから、私達3人ならきっと美味しいラーメンが作れるはずです・・・!』
シノ、アズサ、セイア・・・この珍しいメンバーで始まったラーメン探求、その第一歩は・・・
「ラーメンをあまり食べることは無いのだが・・・私のイメージで出してみた。まずはこれを食べてみてほしい。」
お菓子や、お茶の要領で、何処かから取り出された茶色いスープのラーメン。
見た目は完璧に醤油ラーメンだけど・・・
とりあえずスープを口に含んでみる。
『醤油の味がついていて美味しい・・・ですが。』
「シノ・・・味がついているからといって美味しいというのは間違いだと思う。」
「・・・わかってはいたが、醤油と麺になってしまっているな。」
自分の中で、明確にイメージできるものでないと味がぼやけるらしい。
つまるところ、夢の中でラーメンを作るしか・・・ない!
場所を、キッチンに移す。
『まずは豚肉を用意しましょうか。』
「・・・チャーシューから作るつもりかい?」
『当然です、スープも作りますよ。』
と言っても私が知る柴関ラーメンの醤油以外の情報は・・・
し~ばし~ばし~ば⤵︎せ~き⤴︎ラ⤵︎ーメンという謎のイントネーション。
醤油ラーメンが一番売れ行きがいい事、家系のような特盛トッピングができる事くらいだ。
今回は、鶏ガラベースで作ってみようと思う。
スープはラーメンの命とも言える部分なので気が抜けない。
鶏ガラを湯引きした後、血合いなどを取って余計な風味が出ないように下処理を行っていく。
鍋に水を入れて、火にかける。そこに先ほどの鶏ガラと臭み取りのための長ネギ、生姜を加えて煮込んでいく。
別のボウルで、乾燥したシイタケと昆布を戻しておく。
「手際が良いな、何時間くらい煮込むんだ?」
『とりあえず、3時間くらいですかね?その間にチャーシューの仕込みを終えちゃいましょうか。』
「私も手伝おう、どんな仕上がりになるのか・・・ワクワクするな。」
「・・・君達、どれだけここに居座るつもりなんだい・・・?」
目を輝かせるアズサちゃんと、呆れた様子のセイアちゃん。
申し訳ないが、作り終わるまでざっと5時間くらいはかかるので諦めてほしい。
まずはシンプルに豚バラのブロックを紐で結んで、長ネギの青い部分と生姜などを一緒に鍋に入れて煮込んでいく。灰汁取り等はアズサちゃんに任せて・・・1時間~2時間弱火で煮込んでいる間に、ラーメンのかえし・・・つまりタレ作りに取り掛かっていこうと思う。
鍋に醤油とニンニクと生姜、それと・・・料理酒を加えて・・・?
醤油は仕方ない、セイアちゃんの印象に残ってるものしか用意できないのだから。
『これ、料理酒ってどうなってるんですか?』
「・・・どうなってるんだろうね?」
『ほ、本当に入れてもいいものですか?大丈夫ですか?』
「・・・やめておくべきだ、シノ。嫌な予感がする。」
・・・今回は長ネギと干しシイタケの戻し汁を加えてみよう。
暫く煮込んでいくと、西洋系のキッチンに醤油の良い香りが広がっていく。
空腹の概念がこの空間にあるのか分からないが、心なしかお腹がすいてきた。
具材は・・・チャーシューと煮卵とネギでいこう。残念ながらメンマは用意できそうにないし。
流石に発酵の工程を挟むわけにはいかない。
煮卵に火を通す作業は、セイアちゃんにお願いして・・・麺作りに入ろう。
小麦粉に水とかんすい・・・は分からないよな、重曹を混ぜ合わせてよく混ぜる。
出来上がった生地を袋に入れて、30分ほど寝かしておく。
生地は薄く延ばして、食べやすい太さにカットして打ち粉としてコーンスターチをまぶす。
少し不揃いな麺になってしまったが・・・自家製麺だから仕方ないだろう。
ゆであがった豚肉に軽く火入れをして、焼き目を付けたら卵と一緒に別の鍋に移したタレに漬け込んでいく。
『後は、時間が解決しますかね。』
「ふむ・・・偶には料理をするというのも楽しいものだね。」
「誰かと何かを作りあげる・・・うん、楽しいな。」
流石に暑いキッチンで作業をしていたからか、汗が出てくる。
流石に一旦休憩しよう、冷たい水が飲みたい。
一旦、涼しい外へ出て一息つく。
「それにしても、あの一件以来・・・君とこうして落ち着いて話をするのは久しぶりだな、白洲アズサ。学校には馴染めているかい?何か困っていることは無いかい?ティーパーティとしても、百合園セイア個人としても困っていることがあれば便宜を図ろう。」
「問題ない、補習授業部の皆も良くしてくれているし。」
「そうか、それは・・・良かった。」
「毎日が・・・本当に楽しいんだ。ただ・・・ふとした時にこれは夢で、目覚めてしまうんじゃないかと思う時が・・・ある。」
「私もこの空間に入り浸りすぎて・・・夢と現の境界が分からなくなった時があった。だが・・・その時は、きっと君を大切な友人が引き戻してくれる。」
「出来た繋がりを、陽だまりを・・・決して手放してはいけないよ?」
「勿論だ。どんな事があってもこの手は離しはしない。」
「そうか、そうだな・・・そしてそれは、私にも言える事だった。このラーメン作りが終わったら・・・私もナギサとミカを連れて街に出かけてみるとしよう。」
セイアちゃんはこちらを向いて、神妙そうな顔つきで話し始める。
「・・・そして、シノ。君は少しばかり無茶をしすぎだ。君の献身は素晴らしいものだが・・・君がいなくなると悲しい人間だっている事を、努々忘れないでくれ、」
『献身なんて大それたものではないですが・・・出来るだけ気を付けます。』
私の”それ”はあくまで、私の目的を果たすためのものだから。
「ならいいが、君は計画を立てる時点で既に自分の身の安全性を度外視していないかい?仕方ないのはある程度理解しているつもりだが・・・あまりにも向こう見ず過ぎて心配になる。そもそもだな・・・」
『う・・・はい。気を付けますから・・・』
耳が痛い話だ、確かに巡航ミサイルの時は結構危なかった気がする。
「・・・当然。私も友人がいなくなるのは悲しい。だから気を付けてくれたまえよ。」
「・・・少し、説教臭くなってしまったな。私はもう少し涼んでいくから調理に戻るといい。そろそろ鍋も良い具合だろう。」
『はい、ありがとうございます。セイアちゃん。』
ベランダに残ったセイアちゃんの頬が少し赤く染まっていたのはきっと、熱気のせいなのだろう。そういうことにしておこう。
ここまで来たら、もう盛り付けるだけだ。
麺を茹でている間に、出来たかえしにスープを加える。
チャーシューと切った長ネギ、煮卵を用意しておいて・・・
茹でた麺の水気を切ってから、器に入れる。
具材を乗せて、最後にスープを作るときに出た鶏油を加えたら・・・
『完成ですね!!』
「早速食べよう、シノ!」
黄昏色に染まってテラス・・・に不釣り会いなどんぶりが三つ
立った湯気からは、美味しそうな醤油の香りが漂っている。
『海苔を忘れてましたね、これでよし・・・と。』
「早速頂くとしようか。ラーメンを食べる機会は無いものだから・・・柄にもなくワクワクしている自分がいる。」
「うん、冷めないうちに食べよう。」
『「「いただきます。」」』
「・・・美味しい。」
「確かに美味しいな。自分たちで作ったというのもあるのだろうが・・・」
鼻腔をくすぐるのは、醤油の香り。
鶏の出汁が効いたスープ、醤油にキレこそ少ないものの味わい深いかえし。
煮卵も醤油の味が染みている。チャーシューは焼き目をつけたのが功を奏して、香ばしい風味を感じる。
『美味しい・・・本当に・・・っ。』
「・・・な、泣くほどかい!?ほら、ハンカチを使いたまえ・・・!」
「・・・シノ。」
『・・・っ。すいません取り乱しました。その、久しぶりに暖かい食べ物から味がして・・・結構自分でも堪えてたみたいです。』
「まあ、その・・・なんだ。ラーメンみたいに時間がかかるものはおいそれとは出せないが・・・茶菓子と紅茶・・・軽食くらいは用意しておくから、また来るといい。」
『・・・ご心配には及びませんよ、私も我慢くらいはできますから。』
『冷めないうちに食べてしまいましょう。』
麺もしっかりと満足の行く出来になっている、美味しくてスープまで飲み干してしまった。
まあ、夢の中なら問題は無いだろう。
問題は・・・
『これ、おそらく紫関ラーメンでは・・・ないですよね。』
「・・・私も薄々思っていたが、これではオリジナルラーメンだな。」
「私は、美味しかったと思う!」
『そ、そういう問題じゃないんですよ、アズサちゃん・・・!』
「まあ、食べたことのない素人が再現するというのも無理がある話だ。」
『それは確かに・・・そうでしたね。』
「だから、彼を呼ぶ他ないだろう・・・(まあ、少し負担は増えるが。)彼はきっと夢の中でも困っている子がいればラーメンを振るってくれる・・・そういう人なんだろう?」
「つまり、餅は餅屋・・・と言う事か。」
暫くして、この場にいるはずのない誰かが。
飲食店のような場所に様相を変えた・・・ここに現れる。
柴犬の彼は、私を見て・・・そして。
「どうしたんだい、嬢ちゃん?困りごとかい?」
『・・・ラーメンが、食べたくて。』
絞りだしたような、一言。
それに対して大将は、一瞬の戸惑いの後・・・何も聞かずにこう言った。
「・・・理由は聞かねえ、ちょっと待ってな。」
あの夢から、暫くして・・・
芝大将のお店にやってきた。
時刻はすっかり暗くなっていて、少し肌寒いけど・・・
今から暖かいラーメンを食べるのにはちょうどいいかもしれない。
注文して、届いた柴咲ラーメン。
醤油の香りがあの時の夢を思い出して・・・食欲をそそる。
だけど、きっと・・・
食べようと思った所で、珍しく柴の大将に話しかけられる。
「変な話かもしれねえがな・・・?顔も妙に雲がかったように覚えてないんだが・・・」
「夢の中で女の子にラーメンを振舞ったんだよ・・・それを嬢ちゃんを見ていたら何となく思い出してな・・・?」
少し、ビックリする。
上手く誤魔化そうと思ったが・・・何故かそれが無性に嬉しくて・・・
『ふふっ、なんですか・・・それ。』
「いや、お客さんに変な話しちまったな。忘れてくれ・・・」
「サービスで煮卵とチャーシュー多くしておくからよ。」
『はーい。それじゃ・・・いただきます。』
スープを口に含む、口の中には醤油の味わいが・・・
少しだけだが・・・確かに・・・した。
シノ『どうして・・・今回の場を設けてくれたんですか?セイアさんらしくない気もしますが。』
セイア「君が私をどう思っているのかはよく分かったよ・・・!なんて、ああ・・・まあその通りだな。確かに私の本質的に他者への興味・・・そういったものに少し欠けている・・・と言えば良いのかな。確かにそういう癖があるのは事実だが。」
セイア「言ってしまえば、贖罪だよ。私は結果的に二人を見捨てかけた、犠牲を良しとしかけたんだ・・・これくらいで許されるとは思ってはいないが・・・。」
アズサ「それで食材関係と言う事か・・・!」
シノ『あ、アズサちゃん・・・!?薄々思ってましたが私がツッコミに回るんですね・・・!?』