ユメ先輩のいないホシノvsユメ先輩しかいないホシノ 作:天野ミラ
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苦手な場合は読み飛ばして大丈夫です
▽ユメ視点
百夜堂を出て、次の目的地に向かう際中。
『結構長くなっちゃいましたね、付き合ってもらってありがとうございます。』
「ううん、こっちこそシノちゃんに任せきっちゃってごめんね?」
『それで、聞きたいんですけど・・・あんみつはどうでしたか?』
「すっごく美味しかったよ!」
『そうですか。やはり、百夜堂にオファーをかけたのは正解でしたね。』
シノちゃんも食べてたはずなのに、なんでわざわざ私に聞くんだろう。
何時か話してくれるだろうと思っているけど、未だに話してくれる気配がない。
私の事を頼ってほしい、隣で支えてあげたいのに・・・
彼女は何時も私に見えない遠くを見ている気がして、少し寂しい。
「まだお昼だけど・・・用事はおしまい?」
『いや、今日は一日エスコートするって言ったじゃないですか。シズコちゃんからおすすめのスポットを幾つか聞いてるんです、ユメ先輩さえよければ行きませんか?』
「・・・本当?やったぁ~楽しみにしてるね?」
『えぇ、まずは渦巻映画村の方に行ってみましょうか。』
という訳で渦巻映画村に来た私達、普段は見ないような様式のおうちを見ているだけで面白いかもしれない。
忍者ショーや大道芸をやっているみたいで・・・
確かにカップルも多いかもしれない。
「やや、そこのお方!よければこの後、忍術研究会で忍者ショーを開催予定なのです!よければ観に来てくださいね、にんにん!」
「わぁ~忍術ショーだって!言ってみよっかシノちゃん!」
『そうですね、折角ですから行ってみましょうか。』
「ではお待ちしてますね!ドロン!」
そう言ってドロンと消えた狐耳の子・・・?今消えた・・・?
「し、シノちゃん・・・!本当に消えたよ!?」
『本当に忍者みたいですね・・・!これはショーの方も楽しみになってきました!』
「そうだね、行こっか!シノちゃん!」
『ちょ、ちょっと引っ張らないでくださいよユメ先輩!今行きますから!』
かなり大きなシアターの方へ向かうと、10分後に開園予定らしいのでチケットを買って中に入る。
題目は「猫津頭の戦い~主と忍の許されざる恋~」らしい。
血判状を巡る忍び同志の戦いと、主との禁断の恋を描いた物語らしいけど・・・
本当に、忍術ショーなんだろうか・・・?
『「・・・」』
ショーが終わって、シアターを出る。
結構な人数が入っていたので、邪魔にならないように外に出てから感想会にしないと。
適当なベンチに腰掛ける、お日様が暖かくて心地いい。
『すっごく良かったですね・・・!』
「ね~!」
『イズナちゃんって言うんですね、あの子。クナイと忍者刀で殺陣なんて出来るのかと思ってたんですが・・・とってもかっこよかったですね。』
「うんうん、立場が邪魔をして互いの気持ちに素直になれない二人の恋・・・見てて涙が止まらなかったよ・・・!」
『それにしても、煙玉を使ったとは言え本当に消えたように見えましたよね。』
「私も忍術使いたいかも・・・!」
「そう言ってもらえるとイズナも嬉しいです!引き続き楽しんでくださいね、ニンニン!」
そう言って去っていく演者の子、当然のように後ろにいてびっくりした。
楽しい時間はあっという間で・・・
その後も、忍術屋敷を回ったり、大道芸を見ていたら時刻はもう夕方に近くなっていた。
終電までには帰らなきゃいけないよなぁ・・・明日は日曜日だけど。
『今日、遅くなっちゃってもいいですか?ユメ先輩。』
「えっ、い・・・良いけど・・・」
ちょっとドッキリする聞き方だなぁ・・・
『実は先ほどシズコちゃんに温泉旅館をお勧めされてて、そこでお風呂とご飯食べてから帰ろうかなと。』
「えっ?」
『午前中はデートらしい事もできなかったので、良ければ一緒に行ってくれませんか?』
「う、うん・・・!行く!」
豪華ではないものの、雰囲気の良い旅館に辿り着く。
ライトアップされた綺麗な建物を見ると、こんな所にいることが少し場違いなんじゃないかと思ってしまう。
人でそこそこ混みあってはいそうだけど・・・当日で使えるものなんだなぁ・・・
『それじゃ、行きましょっか。』
木目調の廊下を抜けて、脱衣所に入る。
温泉特有の匂いがして、まだ見ぬ温泉への期待が高まる。
少しお風呂に入るには早いからか、中はそこそこ空いている。
衣服を脱いで、タオルと鍵を持って・・・
「一緒にお風呂に入るのも久しぶりだね?前は急な雨に降られた時だっけ・・・?」
『ちょっと、今言わないでくださいよ・・・意識しちゃうじゃないですか。』
「そ、そうだよね・・・あはは。私、先行ってるね?」
そう言えば、一応デートという体で来てるんだったっけ・・・
意識してしまうと少しだけ恥ずかしい気もする。
ちょっとだけ気まずい雰囲気になってしまったので、先に中に入ると中には石造りの床が広がっていて奥の方には泡の出る温泉もある・・・!
興味はあるけど、まずはかけ湯をしないと。
『お待たせしました、ユメ先輩。何処か興味ある所とかありました?』
「んー・・・やっぱり・・・露天風呂かなぁ!」
『私も、露天風呂は気になってました。眺めもいいらしいですよ。』
「それじゃ、早速行ってみよ!」
外にでると、夕焼け色に染まった空と大きな桜の木が広がっていた。
夜空と言うには少し早いけど、月が見え始めている。
少し肌寒いけど、温泉に入ればちょうどいいくらいだろう。
石造りの温泉からは湯気が立っていて、乳白色のお湯がとても綺麗だな。
早速、温泉に浸かる事にする。
「ふぃ~極楽極楽~」
『おじさんみたいですよ、ユメ先輩。でも確かに、いい湯ですね。』
「も~酷くない~?」
意識しないようにはしていても、シノちゃんの事が気になってついついその姿を追ってしまう。
こんな小さな身体で、毎日戦っていてくれたんだよね・・・
背中に火傷の跡が残らなくて本当に良かったと思う。
もし、後遺症が残っていたら・・・考えるだけでもぞっとする。
肌とか見た目は大丈夫だけど、質感とかも戻っているのだろうか。
無性に気になって、人差し指をつーっと沿わせる。
『ひゃん!?ちょ、ちょっとユメ先輩?』
良かった、ちゃんとすべすべだ。
頼もしすぎて、見ないふりをしていたのかもしれない。
シノちゃんは確かに強くて、頭が良くて、頼りになって・・・
それでも怪我だってするし、悩むことも当然ある。
指を首の方に持っていく。うん、すべすべだ。
『あっ、あの・・・ユメ先輩?』
「ん~?」
何となく愛おしくなって、頭を撫でてみる。
お湯でしっとりとした髪の上に乗せたタオルの下で、大きな癖っ毛がぴょこぴょこと動く。
こういうの、アホ毛って言うんだっけな。
本人もまんざらでもなさそうなのでもう少しだけ続けてみる。
「ありがとね、シノちゃん。」
『なっ・・・何がですか?』
「ん~・・・色々?」
この細い肩にどれだけの責任や選択を背負ってきたのだろう。
最期の日だってそうだ、その決断を下すのにどれ程の苦悩があったのだろうか。
幸せになってほしいなって思う。幸せにしてあげたいなって思う。
いつの日か心から笑える・・・そんな日が戻ってくればいいなって思う。
『その・・・私の身体なんか見て楽しいですか?』
「うん、とっても!」
『そ、それなら良いんですけど・・・いや良くないですけど・・・』
辺りは暗くなってきて、学区の真ん中にあるご神木の桜もライトアップされて昼とは違って見える。
長い事温泉に浸かっていたからか、顔が赤くなってきた気がする。
『そ、そろそろあがりますか?』
「うん、そうしよっか。」
それからご飯を食べて、手を繋いで駅まで歩いた。
お風呂上がりの夜風と、この雰囲気がとても心地よかった。
駅に着いた頃には時刻は20時を回っていた。
ホームに帰りの電車が来た。
時間が遅いからか、方向の問題か、席はガラガラで。
隣にいるシノちゃんは、うつらうつらと首を振っていた。
「シノちゃん、眠いの?」
『はい。そのちょっとだけ最近寝付けなくて・・・』
「・・・そっか。着いたら起こしてあげるから、寝てても良いよ?」
『そういう訳には・・・』
「今日くらいは、素直に先輩に甘えてくれたら嬉しいな?」
『そう、ですね。それじゃお言葉に甘えてもいいですか?』
「うん、おやすみ・・・シノちゃん。」
真っ暗に染まった空の下、帰り道の電車に揺られている。
疲れからなのか、それとも甘えたいだけなのか分からないけど・・・
私の肩に寄り掛かったまま、すーすーと寝息を立てているシノちゃん。
今日はとっても楽しかった。
最近難しい顔をしていた、シノちゃんの息抜きにもなっていたらとても良いんだけど。
今日はデートと言っていたが、私はシノちゃんの事をどう思っているのだろうか。
大切な後輩で、一番仲が良くて・・・家族のように思っているけど。
もし私かシノちゃんの内どちらかしか助からないとしたら、最後まで足掻いて・・・
どうしようもなければ、迷わずシノちゃんを取るだろう。
それくらいには、シノちゃんの事を大切に思っている。
きっとシノちゃんも逆の事を思ってると思う。
私の・・・私達の中に、恋愛感情はあるのだろうか。
少しだけ考えてみて・・・これは恋じゃなくて・・・
・・・何となくわかった気がするけど、この感情を言葉にしてしまうと。
この関係が変わってしまう、そんな気がして。
今はこの感情に蓋をすることにした。
クチナシの花言葉 とても幸せです・喜びを運ぶ・胸に秘めた愛