ユメ先輩のいないホシノvsユメ先輩しかいないホシノ   作:天野ミラ

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「物語」に分かりやすい悪役なんていないとしたら・・・
―――私は誰を恨めばいいの?


路地に咲く花

▼先生視点

 

 

誰かが私の事を呼んでいる声がする・・・気がする。

真っ暗闇な世界で、誰かが私を呼んでいる気がする。

 

「・・・生。」

 

いや、呼んでいる。

私の生徒が呼んでいる・・・行かなくちゃ。

でも行くって何処へ・・・?ああ、そうか、これは・・・

 

 

「・・・先生。」

 

”夢・・・?あれ、君は・・・”

 

「目が覚めましたか、先生。本当に良かった・・・何処か痛むところはありませんか?」

 

薄暗い室内、ヴァルキューレの備品らしきものが積まれたここは・・・倉庫だろうか。

 

”カンナ・・・?何でここに・・・”

 

「私が先生の元に来たわけでなくて・・・先生が私の所に来たんです。」

「気を失う前の事、覚えていますか?」

 

頭が少し痛む、確かヘリに乗って・・・そうだ。

 

 

”ヘリが堕ちて・・・”

 

「えぇ、ここはヴァルキューレです・・・と言っても、今は使われていない第三分校ですが。」

「爆破予告の通報を受けて、第三分校の前で待機していたのですが・・・まさか先生が降ってくるとは思いませんでした。」

 

 

部屋の中が暗い事を除いても、窓から見える外には星空が広がっている。

どれくらいの間、気を失っていたんだろうか。

 

 

 

シッテムの箱はまだ手元にある・・・ああ、そういえばカイザー理事もいた気がする。

まあ、いいか。放っておいても生きてそうだし。

 

「失礼な・・・!私も勿論無事だとも。私の類稀なる操縦テクニックに感謝するんだな!」

 

「あまり大きな声を出すな、カイザー元理事。今は潜伏中な事を忘れるな。」

 

「・・・感謝するんだな。」

 

 

「潜伏中と申しましたが・・・先生。どうか落ち着いて聞いてください。」

「施設内を、ヴァルキューレ生徒に扮したカイザーPMCが捜索中です。目的は先生の身柄を拘束する事。」

 

「そして、ヴァルキューレでは現在待機命令が発生していて・・・つまるところ、増援は見込めません。」

 

 

”あれ、それじゃあカンナはどうしてここに・・・?局長だよね?”

彼女こそ、最も上の命令を遵守しないといけない公安局長の筈なのに・・・

 

 

「私は・・・いえ、私の事は良いのです。まずはここから脱出しましょう、先生。ここもいつまで隠れていられるか・・・」

 

「噂をすれば何とやらだな、急ぐぞ。」

 

 

廊下から複数人の足音が聞こえる。

確かに、私のことを探し回っているらしい。

 

シッテムの箱は・・・起動出来た。

 

 

「大丈夫ですか、先生!?急に電源が落ちて・・・!しかも戒厳令が敷かれていて、すべての通信がシャットダウンしている状態です・・・!」

 

”うん、大丈夫。とれそうなら周囲の生徒に連絡を取りつつ・・・サポートお願いね、アロナ。”

 

「任せてください!スーパーアロナちゃんにお任せです!」

 

 

「・・・一体何と話しておるのだ。あれがオーパーツとも称されたシッテムの箱なのはわかるが・・・」

 

「あまり詮索をするなよ、元理事。お前の事を信頼したわけではない。今は一人でも戦力がいるだけだ。」

 

「分かっておるわ!それに理事で良いわ!直ぐに返り咲くのだから・・・!」

 

 

部屋の外から声が聞こえる。

 

「・・・誰かいるのか?!」

 

 

「・・・正面突破します、先生は後ろをついてきてください。」

「仕方ない・・・!行くぞ、先生!」

 

”う・・・うん!”

 

 

 

 

 

 

 

・・・あれから、どれだけのPMCを倒しただろうか。

二桁を超えたあたりから、数えてないけど。

流石に、カンナも理事も疲弊してきている。

 

一度何処かで休憩を取らなければ・・・

そう思って、射撃場の方へ歩を進める。

 

 

「・・・はぁはぁ。現場を引いてから、時間が経っただけあって・・・腕が鈍りましたかね。」

「・・・ぜぇぜぇ。全くどうなっておるのだ・・・!どれだけ倒してもキリがないではないか。」

 

”お疲れ様、撒けたと思うから・・・暫くはゆっくり休んで。”

 

「・・・そんな事をしている時間は・・・!」

「良い、休息は重要だ。特に人の身である貴様と先生にとってはな。」

 

「・・・お気遣い感謝します、先生。」

 

 

「・・・それにしても、どうしたものか。サンクトトゥムタワーに行くどころか・・・外にすら出れておらんではないか。」

 

”そう言えば、聞きそびれてたけど。お前は何で私に協力してる訳?カイザー側の人間でしょ。”

 

「それは、話すと長くなるが・・・教えてやろうではないか!この私の偉大なる計画を・・・!」

 

”そういうのいいから、早く教えて。”

 

「ちっ・・・話甲斐のない奴め・・・」

 

 

 

 

 

あれは・・・数日前の事だったか。

白い鷹の意匠をつけた仮面の、不気味な女から持ち掛けられた・・・一つの提案。

 

 

『それでは・・・貴方に。」

『決して拒めないであろう提案を、ひとつ。』

 

「・・・一体、何だというのだ。」

 

夜闇に異常に目立つ白いドレスに、表情の見えない顔が相まって・・・

独特の恐怖感を感じる女だった。

 

『現在、オクトパスバンクに出向中の貴方は・・・本部からも厄介者扱い。上司と馬が合わず出世どころかいつ切り捨てられるかすら分からない状況だとか。』

 

「・・・だからどうしたというのだ。」

 

 

『逆転・・・したくないですか?』

『もう一度、上の立場に返り咲きたい・・・貴方からはそんな「野心」を感じる。』

 

『とっておきのチャンスがあるのです。』

 

「・・・!」

 

 

『確かな筋からの情報では・・・近日中、カイザーコーポレーション。主にカイザーPMCはこのキヴォトスにおいてクーデーターを引き起こします。目標はおそらく・・・先生。』

『そこで、先生を捕まえる・・・のは悪手でしょう。下手したら褒章一回きりですし・・・何より目の上のたんこぶである貴方がそのような手柄を上げれば社内で確実に揉み消されます。』

 

「私は、どうすればいい。」

 

『頭の回りが早くて助かります、流石は元理事なだけある。えぇ、つまり・・・その逆。先生を助け・・・その情報をクロノス報道部に持ち込むのです。いえ、正確には持ち込む素振りを見せる・・・でしょうか。おそらく匂わせたあたりで襲撃と買収が来るはずですから。』

 

 

「・・・クーデターが失敗すると読んでいるのか。」

 

 

『当然です、ゲマトリアは今回の一件から「手を引きました」から。』

『彼等だけで先生を打倒するのは・・・不可能と言って良い。』

 

 

「クーデターが失敗すれば、カイザーとしてもキヴォトスから撤退せざるを得ない・・・」

 

 

『とは言え、一斉に撤退しては従業員も食いっぱぐれる・・・ならば、そこに需要と供給の隙間が生まれる。撤退したいカイザーと・・・職が欲しい社員・・・』

 

『ちょうど良い所にいるではありませんか、内部告発でその身を省みずキヴォトスの平和を守った・・・ある種の象徴が・・・ね?』

 

 

『方法は・・・任せます。私もカイザーの具体的な策は知りようがないので。ですが、カイザーPMCに潜伏すれば具体的な行動タイミングは察知できるでしょう。』

『勝手知ったる家でしょう・・・紛れ込むのは容易なはずです。』

 

 

「・・・金に弱い採用担当を知っておる。外装は・・・武器はあのルートで・・・ふふっ!」

「ふはははは!感謝するぞ、白鷹とやら!だが貴様は何の得があるのだ?」

 

 

『少しばかり、先生に恩を売りたいだけですよ。「ゲマトリア」として。』

『「黒服」・・・彼は、「シャーレの先生」に随分と御熱心なようですから。』 

 

 

「そうか。気に入らんが貴様の思惑に乗ってやろうではないか!待っておれよ先生・・・!」

 

 

 

 

「という訳だ、はははは!」

 

・・・あまりにも、杜撰な計画に見えるけど。

本人が納得しているならそれでいいか。藪を突くこともないし・・・

 

それにしても、おそらくは「白鷹」だ。

一体どういう目的があって・・・私を助けるようなことを。

 

 

それはそれとして、少し気になったので聞いてみる。

 

 

 

”それで、偉くなってお前は何がしたいの?”

 

「む、私は・・・」

 

少し、言い淀んだ。

特に理由がある訳ではないのだろうか。

 

「私は・・・」

 

思いついたように大声を上げる理事。

 

 

「そ、そうだ!最新式の兵器を買うのも良いな。それに破損したパーツを買い替えんとならん。」

「ラブ達を呼んで、宝探しの続き何ていうのもいいかもしれんな・・・!」

 

”そう・・・頑張ってね。”

 

「ああ、言われずとも貴様の身は無事に送り届けてやるとも。クロノスのインタビューを受けたら私の偉大さを喧伝しておくといい!」

 

”絶対ヤダ。”

 

 

 

「随分とくだらない理由で協力していたんだな、元理事。」

 

「む、ならば貴様はどんな高尚な理由で戦っているというのだ、公安局長殿?」

 

 

 

「・・・私は、責任を取りに来ただけだ。」

「このヴァルキューレに蔓延る不正・・・それを、放置した本官には。」

「市民の方々の安眠を守る・・・義務がある。」

 

”他のヴァルキューレの皆は・・・?”

 

「・・・トリニティの正義実現委員会が、クーデターの際にどうしていたかは・・・先生もよくご存じでしょう。彼女たちは・・・待機していた。上からの命令を守って。」

「・・・それは、間違いなく正しい行動です。上の言う事を聞かない公安組織等・・・リードの付いていない狂犬に違わない。」

 

「・・・とは言え、私は先生も知る通り。腐敗に塗れた「悪い犬」ですから。」

「後のヴァルキューレは。私とは違い「正義」の為に戦う・・・真っすぐな子が担っていくはずです。」

 

 

「ふん、正義か・・・最後まで聞いておれば・・・くだらん理想論だな。」

「人は誰しも自分の為に生きておるというのが何故分からんのか・・・」

 

 

”理事、それ以上口を開くと置いていくから。”

 

 

「おお、怖い怖い。それでは置いていかれないように口を閉じるとしよう。」

 

 

 

”カンナ・・・私はカンナも・・・「正義」の為に戦う立派な警官だと思うよ。”

 

「お気遣いありがとうございます、先生。ただ・・・悠長に話している時間は無さそうだ。」

 

 

訓練場の外には、捜索に来たPMCの足音がする。

此処が見つかるのも時間の問題だろう。

残りの弾薬も・・・そう数はない。

近くにはSRTの住んでいる、子ウサギ公園がある。

そこまで強行突破するしか、他に方法はない。

 

 

”二人とも、行ける?”

 

「えぇ、最後に・・・「狂犬」の名を・・・奴らに思い知らせてやることにしましょう。」

「当然だ、この私を誰だと思っている・・・!傭兵会社カイザーPMCの元理事だぞ!」

 

 

意気込みとしては、誰にも負けないくらいの気持ちだったが。

敵の増援ばかり増え続けて、こちらは消耗する一方。

気持ちが強くても、戦況がどうにかなる訳じゃなかった。

 

いつの間にか、追いやられるようにして建物の屋上まで来てしまっていた。

逃げ場は・・・縄梯子があるが、降りている最中に追いつかれれば良い的になる。

 

 

 

「おい、先生!このままでは埒が明かんぞ!」

 

「・・・私が、敵を引きつけましょう。」

 

”そういう訳には・・・!”

 

 

「・・・チッ。あまり好まんが、私に策がなくはない。」

 

”本当・・・!?お願い、理事。”

 

 

そう言って、カンナに何かを耳打ちするカイザー理事。

何かを渋っていたようだが、理事の口から「正義」と言う単語が出た瞬間に、彼女の顔付きが変わった。私の生徒を危険に晒すつもりならその案は・・・

 

 

「そう言えば、先生。金や地位を得て何をしたいかと聞いたな。」

「貴様らのくだらん理想論を聞いて思い出したよ。私は・・・学校を作りたかったんだ。」

「カイザーの傭兵育成学校だがな!ふははははは!」

 

 

”こんな時に何を・・・!?”

 

 

驚いているところで、カンナに身体を抱きかかえられる。

それと同時にPMCが屋上に突入してくるのが、視界の端に見えた。

 

”カ・・・カンナ?”

「先生、あまり喋らないでください。舌を噛むと危ないので。」

 

 

「良いか!貴様が認識している「ヘルメット団の皆」とやらにはそれぞれ名前がある!その事を忘れていては貴様の理想など夢のまた夢だという事を忘れるな!」

 

 

 

何をするつもりだ、理事。これじゃまるで・・・

 

「最後になるが・・・カイザーはあの生徒会長の死とは無関係だ。間接的にと言われればそれまでだが・・・あの事件はおそらく、完全な事故。あの女にとっては酷な事実かもしれんがな。」

 

 

”生徒会長・・・?理事、一体何を言って・・・”

 

 

「・・・聞かされておらんのか、なら忘れるといい。さらばだ先生、公安局長!次会う時は高い椅子から存分に見下ろしてやろう!ふはははは!」

 

縄梯子を下りていく、あれほど大きかったカイザーの理事の声は・・・もう聞こえなかった。

 

 

”待って、カンナ!理事・・・お前は確かに許されない事をしたけど・・・!然るべき場所で罪を償うべきだ・・・!”

 

「・・・先生、どうかご理解を。」

 

ヴァルキューレの校舎がどんどん小さくなっていく。

数十分後、私達二人は無事に子ウサギ公園に辿り着いた。

 

 

 

 

 

 

結局、この世界は自分が気に入るか、気に入らないかどうか。

 

公安局長殿のお情けで生き残るのが気に入らなかった、それに華々しい活躍をしなければニュースに取り上げても貰えないではないか。

理想論まみれの青二才共が・・・社会は・・・大人の社会はそんなにきれいなものでは生きてはいけない。ただ、何故か自分の昔の事を思い出した。

 

 

そうだ、私は・・・殆どは名前すら知られない、この世で自分が1番不幸だと思ってる馬鹿どもが・・・気に入らなかったんだ。

だから、学校を作りたかった。

 

カイザーの傭兵育成学校を作って、資本の「正義」の元にキヴォトス中の不良どもを集めて恐喝なんかよりマシな職を提供してやる。

 

いつからだろうか・・・手段を選ばなくなってからだろうか。

いつの間にか目的を見失っていた。

 

 

ヘルメットを被る事も出来ずに、独り消えて行く者。

犯罪に手を染めて、後戻りできなくなるもの。

 

 

そんな馬鹿どもの横っ面を札束で引っ叩いてやりたかった。

金は・・・全てを解決するはずだから。

 

 

もう指一本動かせない。

 

 

「・・・オイル切れか。悪役にはお似合いの最期かもしれんな。」

 

 

ああ、結局。何も為せなかった。

機械の身体が・・・寒さ何て感じるはずもないのに無性に寒かった。

 

 

 

 

・・・増援らしき足音が聞こえる。

足音は四つ、だが・・・機械兵にしては足音が軽い気もする。

 

 

 

「随分ボロボロじゃない。ほら、私達は報酬分は働くけど・・・」

 

「・・・ふん。言い値をくれてやる。」

 

「そう来なくっちゃ!流石理事、太っ腹~」

 

 

 

まさか自分が助けられる側になるとは、人生とは・・・分からんものだ。

 




黒服「あれを味方につけましたか、確かにこういう場面には適任かもしれませんが・・・」
黒服「・・・本当にそんな都合よく話が進むとお思いで?」

白鷹『さぁ?焚きつけられればその後なんて、どう転んでもいい。お前も似たような事してるでしょ?。』

黒服「それはそれは・・・ククッ。」
白鷹『人手が足りないんだ。使えるものは何だって使うよ。』
  『・・・もう、私からは何も奪わせない。』
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