ユメ先輩のいないホシノvsユメ先輩しかいないホシノ 作:天野ミラ
その瞳は、何を見るのか。
▼???
物々しい雰囲気の室内に底冷えした空気が満ちる
部屋にいるのは・・・四人の人型達。
「・・・ふむ、あちらはこう転びましたか。非常に興味深いですが・・・展開としては概ね予想通りですか。」
黒服を着た異形が呟く。
「勧善懲悪・・・と言ったものが大衆受けする事は知っていますが・・・些か私の望む「テクスト」とはかけ離れていましたからね。彼のラストの展開には少し文学性を持たせてほしいものですが・・・まあ、私の作品ではなく、「彼女」の作品ですから・・・これでいいのでしょう。」
「そういうこったぁ!」
男性の後ろ姿の写真を持ったコートの異形は、納得するように頷く。
「しかし魅せてくれるな・・・先生!やはりそなたこそ、この席に相応しい・・・ああ、共に一つの作品を描いてみたいものだ・・・!」
マネキンのような異形は感心するようにその二つの頭部を震わせている。
「続いての議題に移りましょう・・・おや、そろそろ時間ですか。」
空間が歪む、世界に不可解な”色”が満ちる。
何もなかったはずの虚空が意味を持ち・・・その裂け目から現れる黒いドレスの少女。
狭間から現れた女は、こちらに銃を向けようとして・・・不可解そうにこちらを見る。
「確認した当初は驚きましたが・・・まさか「色彩」が「名もなき神」と接触した後だったとは。実際に目にしても信じがたいですね。」
「命あるすべてを常世に導く、死の神・・・それが貴方の「
「何分興味はありますが・・・如何せん実験の予定が立て込んでおりまして・・・」
「随分・・・余裕そう。」
「おや、想定外と言ったご様子・・・」
「我々に「色彩」への対抗手段がないとでも思っていたのですか?「彼女」・・・ベアトリーチェが「色彩」に接触するずっと前・・・「あの黒いスーツケース」を開いた時点から・・・準備していたのですよ。」
「・・・何が言いたいの。」
「つまるところ・・・」
『邪魔者にはここで消えてもらおう、そういう事だよ。』
表情の読めない、白い仮面がそう口を開くと同時に・・・
放った手榴弾が、開戦の合図となった。
彼とこちらの世界で初めてあった・・・あの日。
彼が提示した条件の内一つは、「とあるタイミング」で彼の護衛として動く事、それが今日という訳か。
これには他の「ゲマトリア」は含まれていないが・・・
別に他二人を守る気もないが、利用だけはさせてもらおう。
シロコによく似た少女、黒いドレスを着た「
武器は
感情的になりそうになって、唇を噛み締める。
落ち着け、自分を見失うな。
戦闘では冷静さを欠いたものから消えていく。
「・・・一人増えようと変わらない、殲滅する。」
『やれるものならお好きにどうぞ?』
後ろに黒服がいる以上・・・契約上避ける訳にもいかずに被弾を覚悟で距離を詰めるが。
『・・・ッ、流石に。』
アサルトライフルの点射が容赦なく私の「装甲」を抜く。
こうなると距離を詰める手段が欲しくなるが・・・
「アヌビス・・・成程。これ程までとは・・・」
「黒服、確かに素晴らしいが・・・感心している暇は無いだろう。ふむ・・・稚拙な上に「
そう言って、空間が蠢き・・・見覚えのある幽霊のような怪物がどこからともなく沸きだす。
ユスティナ聖徒会の複製、一発で吹き飛ぶような耐久力だが・・・
数が多く、相手も捌くのに精一杯らしい。
・・・好機と見て、距離を詰めるが。
虚空を裂いて出現するヘリコプター・・・これは、まるでアヤネちゃんの・・・
標的を変えて、ヘリに散弾銃を撃ちこむ。
が、ユスティナ聖徒会は殆ど一掃されてしまったようで・・・
こちらに鋭い3点射撃が飛んでくる、のを”視て”躱す。
お返しに、ショットガンを三連射・・・
距離はあると言えどダメージは入っただろう。
必然的に、仕切り治す形になった。
「・・・想定外の戦力。仕切りなおすべき?いや、計画は実行する。」
『攻め手に欠ける・・・黒服、何かない?』
「残念ながら・・・私、直接的な戦闘能力は殆どありませんので。」
『分かってはいたけど・・・』
牽制に、手榴弾を放る。
相手も同様の選択をしたようで、ピンを抜く音がする。
放物線を描いて飛んでくる”それ”。
特注の物のようで、火力もかなり高そうだが・・・
「ふむ、ならばこういう解釈はいかがでしょう。」
私が放った手榴弾だったはずのものは、他の”何か”に置き換わり・・・?
そして、到底あり得ないような大爆発を引き起こした。
解釈によってテクストを変えたのか。
そして、相手の投げた手榴弾も私の足元に着弾する。
高火力だが、耐えれない程でもない・・・
爆風が部屋に広がり他のゲマトリアのメンバーにも届いたが、まあ大した問題ではないだろう。
しかし、つけていた白い仮面が割れてしまった。
ゲマトリアの前で、素顔を晒したくはなかったんだけど。
黒煙が晴れて、お互いの姿が露わになる。
酷く、動揺したような彼女の顔。
「・・・先輩?黒服・・・まさかお前ッ・・・!」
「おや、彼女がここにいるのは・・・・紛れもなく彼女自身の意思ですよ。それに・・・」
『・・・冷静さを、欠いたな。』
注意が黒服に向いた、一瞬。
その一瞬が、一手があれば十分だった。
「・・・ッ!?
『遅い。』
右手の散弾銃から発せられた、今にも爆発しそうな程の光が部屋を染め上げている。
がら空きの鳩尾に左手の散弾銃の銃身を叩きつける。
振りぬいて・・・大きく空中に吹き飛んだ、彼女に向けて・・・私は。
―――引き金を、引いた。
『我が眼光と化して・・・焼き尽くせ。』
放たれた特注のスラッグ弾は赤色の閃光となって、部屋を照らす。
その弾丸は敵対者を貫く・・・筈だったが。
傷こそあったが、彼女はまだ健在だった。
二発目を装填しようとして。
「・・・くっ、まだやれる・・・先生。」
突如として、空間に穴が開き・・・彼女が取り込まれていく。
『逃がすか・・・ッ!?』
撃った三発の弾丸は、まるでバリアでもあるかのように彼女を避ける・・・
この距離で撃った「散弾銃」が一発も当たらない・・・?
突如として現れた亀裂は、初めからなかったかのように・・・ふっと消えた。
先ほどの爆発で、黒服以外のメンバーは少なくないダメージを負った。
そのためか、興味を無くしたのか・・・
各々が自分の目的の為、部屋を去っていく。
『・・・逃がした。』
「むしろお手柄と言えるでしょう。貴方としてはここで仕留められなかったことを悔やむかもしれませんが。」
『・・・逃げられたッ!』
「落ち着いてください、「白鷹」・・・いいえ、「高那シノ」。まだ物語は始まったばかりでしょう。」
あまりの不甲斐なさに、自分が許せなくて・・・床を叩く。
物にしか当たれない自分に更に、苛立ちが募る。
仕留めきれなかった。足りなかった・・・私が、弱いせいで。
「まずは、実験の完成が先決でしょう。時間が味方をするのは・・・何も彼等だけではない。」
「むしろ、時間が経てば有利になるのは・・・”我々”なのですから。」
冷静になれ、悔しがっていても後悔しても事態は好転しない。
まだ私にはやるべきことが残っている。
例え、無意味だったとしても抗う事をやめる理由にはならない。
アズサちゃんが教えてくれたことだ。
『・・・取り乱した、ありがとう。まずは、被害の確認と・・・今後の動向を探る。落ち込むのも、悔やむのも・・・全てが終わってからでいい。』
次こそは・・・必ず。
終わった世界の実験記録その2を近日中に更新予定です。