ユメ先輩のいないホシノvsユメ先輩しかいないホシノ 作:天野ミラ
それと同じように、名前のない生徒などいない。
彼女達にも、彼女たちなりの「生活」があって、「信念」があって、「喜び」があって・・・
▼同刻 シャーレ前
囮役を引き受けた私。
だからこそある程度は目立たなければいけないが・・・あの数を正面から相手するのはあまりにも無謀すぎる。
入り口前に陣取っているPMCに向かって、射撃をし・・・遮蔽に身を隠す。
倒されないように、しかし先生達に意識が向かないように存在感を出さなければいけない。
ただし、相手方の数が多い・・・それに、歩兵はまだしも、ハンドガンで戦車の厚い装甲を抜ききれない。
「・・・っ!」
少しずつの被弾が重なって、体力を奪われていく。
あとどれくらい持つだろうか。
「・・・先生達に、ああは言ったものの。流石に厳しいか・・・」
そんな中、こちらに走ってくるヴァルキューレ所属らしき制服の少女が・・・2人。
「カンナ局長・・・!?」
「こ・・・公安局長殿がマチナカデオソワレテルー!?」
生活安全局のキリノとフブキ。
「フブキ、キリノ・・・!?何故ここに・・・!?待機命令が出ている筈だ。」
いるはずのない・・・いては行けないはずの二人が何故こんなところに。
「いや~それが・・・シャーレの先生を助けるんだ~ってキリノが言っても聞かなくてさ・・・まさか局長がいるとは思ってなかったけど・・・」
「当然です!困っている市民の方々を放ってはおけませんから!それにしてはフブキも行く気満々ではありませんでしたか?」
何故ここに来たんだ、お前たちまで罰を受けることは無いだろう。
この問題の責任を取るのは・・・私だけでいい。
「フブキ・・・お前は賢い子だから、突っ走りがちなキリノを止めてくれると思っていたが。」
「いや~なんていうの?ほら・・・ここで見て見ぬふりしたら・・・後悔しそうだし。」
「生活安全局だけじゃありません・・・!我々も見逃せませんでした・・・!」
そう言って後ろから現れた盾を持ったヴァルキューレの生徒達。
ざっと20人以上はいるだろうか、この面子は・・・私の部下、公安局のメンバーだ。
「公安局・・・お前達も。待機命令を・・・上からの指示を破るというのはどういうことか分かっているのか。」
「百も承知です・・・!それでも、一人の警察官として!この事態を見逃すわけにはいかなかったのです!」
「それに・・・何故でしょうか。同じ考えで局長殿も動いているんじゃないかと・・・その、思っておりました。」
「それに、美味しいものは何の杞憂もなく食べたいじゃん?ドーナッツ食べてる時まで難しいこと考えたくないからさ~これが終わったら長期休暇・・・期待してるね、局長?」
待機を無視して独断で動くなんて、治安組織に属するものとしてはあまりにも不適格。
事が終われば、その無断行動の責任を取る事になるだろう。
「これが終わったら休暇以前に謹慎だバカ者、全く・・・」
待機を無視して独断で動くなんて、治安組織に属するものとしてはあまりにも不適格。
ただ・・・本当に・・・
「手のかかる《良い》部下達を持った。」
「この後の事は頭が痛いが、まずは・・・生きて帰るぞ!」
「了解~まあ別に・・・倒しちゃっても構わないんでしょ?」
「フブキ、それは所謂フラグと言う奴ではありませんか!?」
▼シャーレ執務室
”ミヤコ、怪我はない?リンちゃんは見ての通り無事!”
”カンナの方も大丈夫だって本人から連絡があったから心配いらないと思う。ヴァルキューレのみんなが助けに来てくれたんだって。”
「私は大丈夫です、先生。これで作戦目標はオールクリアでしょうか。」
”・・・その筈なんだけど。ああ、とりあえずは通信を復旧させないとね。”
アロナの力も借りて、サンクトゥムタワ―の制御権を復旧させる。
それと同時に通信の制御も取り戻したけど・・・
新着メッセージは・・・300件以上。
中には緊急性の高い物から、私の身を案じるものもある。
とりあえず、緊急性の高い物から返信・・・しようとして。
空が、赤く・・・朱く染まる。
彼女から話には聞いていたけど・・・本当に空が朱く染まるなんて。
そういえば誰よりも先に助けに起草だったシノの姿が見えない。君はいったい今どこに・・・
「気を付けてください、先生。何か嫌な気配を感じます・・・!?」
そう言って何もない場所から現れたのは、シルクハットを被った肖像画を持った、首のない男性。
「おや、ようやくお会いできましたね・・・先生。こちらも少々「立て込んで」いたもので。」
”あなたは・・・ゴルコンダ?”
「そういうこったぁ!」
ゲマトリアの一人、ゴルコンダ。所々服が破れているのを見るに、ゲマトリアの方でも何か戦闘があったのだろう。
「・・・下がってください、先生。私がお守りします。」
「おや、戦いに来たわけではないのですが・・・成程、少しばかり観客が多すぎるようです。」
”話は聞くから、何もしないで。ミヤコも、私は大丈夫だから・・・”
「・・ですが、いえ。了解しました。」
油断のならない相手だが・・・戦闘をしに来たわけではないようだし、話ぐらいは聞いてもいいだろう。何より、彼をここで打倒するには・・・こちらも消耗が激しい。
「バシリカでお会いして以来でしょうか?此処で貴方へ宣告をするのは本来・・・「フランシス」の役目だったはずなのですが、少しばかりテクスト・・・いえ、事情が変わりまして。」
「端的に言えば、この物語は大きな転換点を迎えました。終わるはずだった映画に無理やり続きを付け足すような。3話目にしてシリアスを始めるような・・・あるいは・・・ああ、そうですね。売れなかった作家が、読者向けにその物語の本質を歪めるように。」
”何を言ってるのか・・・わからない。”
「えぇ、それでいいのです。そして理解する必要もない。言いたかったのは・・・この物語の主人公は既に・・・貴方ではないと言う事です。いえ、元よりそうだったのかもしれませんが・・・」
「この青春の物語は、今までその青春と言うジャンルを、学園と言う舞台で繰り広げていたからこそ「先生」である貴方が主人公でいられたのです。ですがそれは・・・覆された。」
「これまでの物語はすべて忘れるといいでしょう。」
「これから繰り広げられるのは、構成も脈絡も必然性もない。必然的に・・・そして恣意的に作られた「滅び」が引きおこる世界。」
「確かにこの世界の本質は・・・意味を持たない力だけが暴れまわる理解不能で不条理な世界なのですから、ある意味では正しいとも言えるのでしょう。」
”ジャンルなんて関係ないよ、私は皆の先生であり続けるだけ。”
「そういうこったぁ!」
「・・・そう言うと思っていましたよ、先生。」
「それに意味を失った世界などと言うものはあまりにも「文芸的」でない。ですが、残念な事に我々は既にそれらに「関与」する「権利」を失いました。」
「ですので、我々は「読み手」として見守るとしましょう・・・先生、いえ・・・・」
「もう一人の「主人公」よ。」
「とは言え急いだほうがいいでしょう。この物語が迎えるのが、例えどのような絶望的なモノであれ・・・もう、歯車は動き始めているのですから。」
”それは、お前に言われなくてもわかってるつもりだけど。”
「最期に、一つだけ。助言をするとすれば・・・」
「この「物語」に「完璧なハッピーエンド」等と言うものは・・・存在しません。それは完璧な絶望が存在しないように・・・至極当然の事です。それを努々お忘れなく、先生。」
”結局お前は・・・”
助言をしに来ただけだったのか、それとも他の目的があったのか。
問いただしたかった所だったが・・・まるで霞のように瞬きと共に何処かへ消えてしまった。
とは言え、彼を探す暇はない・・・まずは・・・
”アロナ、生徒の皆に連絡してほしい。”
”「黒い塔の近くには近寄らないように。」、「まずは自分の命を一番に考えてほしい事」。そして・・・「皆の力を、貸してほしい事」。”
「わかりました、先生!このアロナちゃんにお任せください!」
”ここからは相手の好き勝手にはさせない・・・シャーレの番だよ。”
▼アリウス自治区 某所
殆ど人のいなくなった、アリウスの自治区。
今となっては「元」と言うべきなのかもしれないが・・・
殆どのメンバーはトリニティに行ったり、ヘルメット団とかいうゴロツキに加わったり・・・
今やここに隠れ残った人間も、私達くらいになってしまった。
そんなアリウスの・・・マダムがいらっしゃった至聖所の・・・近くに堂々と立つ赤い柱。
まるで血のように真っ赤に染まったその柱の下から、このアリウス全域に歌が響き渡る。
「これは「
「ま、不味いんじゃない?何か不気味な感じがするし・・・逃げようよ?」
確かに、神聖なキリエにしては随分と不気味な感じはする。
まあ、このアリウスに流れるキリエとしては丁度いい位だと思ってしまう。
「私達のような犯罪者が、何処に逃げればいいというのですか。マダムもおっしゃられていたでしょう、私達のような犯罪者には・・・ここ以外に居場所はないと。」
「分隊長殿・・・で、でもどうすれば?」
「・・・私が、様子を見てきます。」
「作戦時間の1刻の間に私が戻ってこなければ、ここを放棄してカタコンベ内に潜伏しなさい。」
「で・・・でも!?」
「分隊長に意見するなんて、随分と偉くなったものですね。」
目つきは鋭く睨みつけるように、可能な限り高圧的に言葉を発する。
此処で育って長いからか、恐怖で人を縛り付けるようなやり方に慣れてしまった事に嫌気がさす。
「ひっ・・・はい。了解いたしました。」
「それでいいのです、命令には忠実である事。それだけがこのアリウスで生き延びる賢い知恵ですよ。」
が、この時ばかりは自分にそういった素質があったことに感謝するべきだった。
「・・・もしかしたら、これはあくまで仮定の話ですが。」
「・・・はい?」
ありもしない夢物語、本来なら見る価値すらない理想論。
ただ、まだ小さいこの子にはせめて苦しんで欲しくなかった。
「餓死する位なら・・・「シャーレの先生」とやらを頼るといいでしょう。サオリが言っていました。あの大人だけは信頼できる・・・と。」
「所詮、人伝ての情報ですが・・・何もしないよりは幾分かマシなはずです。」
「で、でも・・・本当に私達なんかを?」
「幾分かマシと言ったはずです、可能性は極めて低いでしょう。」
「ですが全てが虚しいとしても・・・餓死だけはやめておいた方が良いと思いますよ。」
「・・・とても苦しいですから。」
今はもういない、昔の仲間の事を思い出す。
まともな食事もとれないアリウスで、内戦の頃から一緒だった戦友。
結局、私だけ無様に生き残ってしまったが。
「・・・分かりました、分隊長殿。」
「えぇ、それでは任務を開始します。何もなかったら、直ぐに帰ってくるので。」
「お待ち・・・しております。」
彼女と別れを告げて、キャンプ地を出る。
私も、あのお方には数える程しか会った事がない。
彼女の御存命中は、近づかないように言われていたため・・・
バシリカの至聖所の内部を見たのは、これが初めてだった。
割れたステンドグラスと聳え立つ真っ赤な柱。
そして・・・その柱の根元にあるのは、10mを越えそうな十字架の・・・墓・・・だろうか?
丸い輪っかがその周りに沢山浮かんでいること以外には、特に不自然な点は見られない。
一体誰が何のために?キリエもそこから響き渡っているようだけど・・・
嫌な予感はするが、あれが何かを調査しない事には問題を先延ばしにするだけだ。
意を決して、近づいてみると・・・墓の下に人影が見える。
白い頭蓋骨に薔薇の校章・・・アリウスの生徒だろうか。
何故こんなところに、危ないからこちらに来るように命令しようとして・・・顔を見て。
「・・・嘘。なんで・・・っ。」
死んだはずの戦友。
きっと「物語」にすら語られない程、ありふれた最期を迎えた・・・私の戦友。
彼女を迎えに行こうとして、歩を進める。
なんでここにいるんだ?今までどうやって生きてきたの?
言いたいことは沢山あったけど、今は彼女の事を抱きしめてあげたかった。
貴方を見殺しにしてしまったことを・・・謝りたかった。
そんな私の姿は・・・傍から見ればふらふらと灯に吸い寄せられた虫のように見えただろうか。
「・・・あ。」
最後に私が見えた景色は、不自然にパックリと割れた足元の地面と・・・
「誰」も居ない、寂しい至聖所だけだった。
・・・そして「結末」がある。