ユメ先輩のいないホシノvsユメ先輩しかいないホシノ   作:天野ミラ

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アンチ・ヘイト/オリジナル総力戦とその前口上を含みます。
閲覧の際はお気を付けください。


哀れなる犠牲者(Victim) 前編

▼とあるゲマトリアの独り言

 

「彼の者が司るジャンルは・・・平たく纏めるのなら「ホラー」といった所でしょう。」

 

「パニックやトラウマと言った・・・「恐怖(テラー)」とは性質の異なる”恐怖”、このジャンルの中では・・・先生。貴方は主人公足りえない。迫り来る怪物の前に、その教鞭が何の役に立つというのでしょうか。」

 

「・・・そういうこったぁ!」

 

 

 


▼とある総力戦の前口上

 

 

先生、このキヴォトスの事件の裏でどれだけの犠牲が生まれているか知っているかい?

マダムが圧制を敷く、アリウスで只の一人も死者がいなかったわけじゃない。

 

それは語られていないだけの、忘れ去られたモノ達。

 

ゴルゴンダの言葉を引用するなら、物語のノイズになり得る、「知らずとも良いもの」。

 

そんな、「物語(メインストーリー)」の裏で、「無念」のままに「物語」を終えた・・・

忘れ去られた犠牲者」達の、成れの果て・・・”それ”が冠する名は「Victim

 

犠牲者を忘れることは出来ても、彼女たちがいなかった事にはならない。

そういったテクスチャが、彼女達を半ば無理やり動かしている。

 

どうか、先生。彼女たちの事を真に思うなら・・・終わらせてあげるんだ。

彼女たちはきっと今も苦痛と絶望の中に囚われている。

 

 

どうか、彼女たちの旅の終わりに・・・救いがありますように。

 

 

―――総力戦「Victim」より引用

 


 

 

 

▼第七サンクトゥム「Victim」戦

 

 

ぼんやりと突っ立っていたアリウスの生徒を突き飛ばす、と同時に私の足元がパックリと割れ・・・何もない空間が広がる。いや、その下には下歯しか無い口と巨大な舌が私を吞み込まんと迫ってきていた。

身体は重力に逆らえず、自由落下を続ける。

 

どうする、どうすればよいのか分からずに一瞬判断が遅れる。

 

 

”シノっ!!!下に向けて最大火力を撃ちこんでっ!!!”

 

 

絶叫にも近い先生の指示で、我に返る。

 

と同時に、右手の散弾銃に神秘を込める。

この距離で撃てばもはや自爆と変わらない”それ”。

 

 

『焼き・・・尽くせッ!』

 

 

閉鎖空間と化したこの地中に光が跳ねる。

あまりの熱量と、衝撃に身体が浮く。

肌が焼け、目も開けれれない程の極光と共に私は”地面”に転がり込んだ。

 

『うぐっ・・・ケホッ。』

 

「シノちゃん大丈夫っ!?」

 

 

『ホシノ・・・先輩?なん・・・とか。すいません心配を掛けました。』

 

「私達の事は良いから・・・!一旦下がってっ!」

 

『戦闘の続行に問題はありません、まだ動けます。』

 

「その傷でまともに戦えるわけ・・・!先生も何か言ってあげてよ!」

 

 

ゆっくりと先生を見る。

例え、此処で止められたとしても・・・私は一人だとしても戦い続ける。

 

先生は何か言おうとしていたが、諦めたように目じりを抑えると、渋々と言った様子で・・・

 

 

”・・・シノ、無理だけはしないでね。”

 

『・・・当然です、これ以上醜態は晒しません。』

 

 

「あーもう・・・ッ!せめて私の後ろから離れないでよ!」

 

『信頼してますよ、ホシノ先輩。』

 

 

最悪の幕開けと化した、Victimの攻略戦。

アリウスの彼女を助けたことに、後悔はなかったが。

 

・・・傷口が、じくりと痛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「先ほどの生徒は此処から離れたところに寝かせてきた。呼吸と脈に問題は無かった。」

 

”ありがとう、サオリ。ヒナは・・・大丈夫?”

 

「え、えぇ。咄嗟に動けなくてごめんなさい、先生。」

 

無理もないと思う、眼の良い私だからこそ間に合ったとも言える。

私以外が向かっていれば、仲良く地中行きだっただろうから。

 

 

Victimを良く見てみれば、私の知る”それ”に比べて・・・墓の回りに浮かぶ光輪の数が少ない。

前の世界での情勢より、今の世界の情勢の方が良いから・・・だろう。

 

 

つまるところ、今までの先生や皆の頑張りが実を結んでいるという訳だ。

特にエデン戦争では大量の負傷者が出た。

言ってしまえば”あれ”が世界を終わらせる決定打だったのだろう。

 

 

『まずはあの墓を壊さない事には始まりません・・・火力を集中させましょう。』

 

”ホシノ、敵の大技に合わせてタンクお願い!ヒナはEXの準備を・・・!”

 

「了解、任せて。」

「えぇ・・・覚悟して。」

 

 

墓の回りに漂う無数の光輪から、銃口が現れてこちらを狙う。

一つに込められた神秘は一般の生徒のそれと変わらないが・・・

問題は、その数。

いくら、装甲の堅い生徒と言えど無防備に受ければ・・・無傷とはいかない。

 

 

「・・・私が、行くっ!」

 

ホシノが大きな盾を構えて、機を伺っているヒナの前に立つ。

まるで雨のような弾丸の嵐が降り注ぎ・・・土煙で何も見えなくなる。

 

 

煙が晴れて・・・目に入ったのは紫色の極光

 

”ヒナ・・・お願い!”

 

 

ヒナが墓に対して射撃を行おうとする・・・と同時に目の前の土が隆起して人の姿を模る。

 

それは後ろの墓を庇うかのように射線を遮る。

所詮は土の塊、弾丸で簡単に貫通できる。

それだけなら、特別考えることは無い。

 

 

「逃がさな・・・っ!?」

 

 

”その土人形が、生徒の顔をしていなければ。”

 

 

土の人形はまるで、初めからそうであったようにゲヘナの制服を着た生徒に姿を変える。

それによって、タイミングを逃した彼女のEX(イシュ・ボシェテ)が不発に終わる。

 

 

・・・やはり、先ほどの件もあって逡巡が生まれてしまうか。

相手を対象にした攻撃力ダウン・・・幻覚の強度によっては、行動不能(スタン)や混乱状態になりかねない。

 

 

「・・・ごめんなさい、せっかくのチャンスを。」

 

『仕方ないと・・・思います。』

 

 

とは言え、状況は悪くなる一方ではある。

体力も弾も消費する一方で決定打になりえていない。

ここは一つ、打開策が欲しい所ではあるが・・・

 

 

「私がやろう。」

 

”サオリ・・・頼める?”

 

「ああ、路地裏の”あの時”のようにはいかない。次は指示通りに撃ち抜いて見せる。」

 

 

とは言え、サオリに任せっぱなしという訳にはいかない。

私も・・・私に出来る事をしよう。

 

 

『隙はこちらで作ってみせます。行けますか、ホシノ先輩?』

 

「勿論!あまり危ない事はしないでよ?」

 

 

相手も警戒をしているのか、攻撃の手を止めてこちらの出方を伺っている。

そこであえて、相手の前に一人躍り出る。

 

 

『我が眼光と化して・・・』

 

 

両手の散弾銃(eyes of horus)に神秘を込める。

薄暗いバシリカに赤い光が満ちる・・・と同時に。

 

私の前の土が隆起し始める・・・と同時に、銃口がこちらを向く。

それを確認してから、後方へ大きく距離を取って盾の後ろに隠れる。

射撃の雨が降り注ぐが・・・ホシノ先輩の盾に殆どが弾かれてダメージにはならない。

 

庇うべき攻撃を失った、土人形はアビドスの制服に身を包んだ姿に変わりつつあるが・・・

 

 

それと同時に、後ろに回り込んでいたサオリの突撃銃に神秘の高まりを感じる。

 

 

”サオリ、脆くなってる部分を狙って!”

 

・・・et omnia vanitas!

 

 

反撃を許さないために至近距離まで近づいての射撃。

その三発の弾丸が墓の根元を貫き・・・そして、全体に罅が入り始める。

程なくして、大きな音を立てて黒い墓が崩れ始める。

 

 

 

 

 

・・・これで、終わりなら良かったのだが。

 

 

前の世界で・・・ベアトリーチェが自分以外に唯一手掛けた・・・いや、「「儀式」の偶然の産物で産まれたと考えています」なんて「黒服」は言っていたが・・・「崇高」に届きうるもの。

 

 

 

曰く、儀式犠牲はつきものである。

犠牲があればそれは儀式たり得る。

そんな解釈が・・・犠牲者を取り込み続けたモノの成れの果て。

 

Victimの本体が今、地中より現れる。

 

 

 

墓石の下が盛り上がり・・・大きく歪に捻じれた黒い角が・・・地面から生えてくる。

そして吸い込まれそうな程真っ黒な目の付いた頭部が、そして身体が這い上がってくる。

それはまるで・・・墓から蘇った様にも見えた。

 

 

「メェェェッェ!!!!」

 

 

色彩に侵されたモノ特有の・・・黒い体表と対をなすような白色の目と口内。

空気を震わせる鳴き声に。地面が揺れるような錯覚を覚える。

 

 

古来より、贖罪の為に捧げられたという「犠牲の山羊」。

それこそが”あれ”の核にして・・・根幹。

上に聳え立っていた墓石は彼が世界に干渉するための発信機でもあるが・・・

 

 

それ以上に、彼を地中へとつなぎ留めておくための楔としての役割を果たしている。

 

 

光輪から伸び出た無数の「黒い腕」が、まるで翼のようにその体を包む。

 

天使か神でも再現したつもりだろうか、そのおぞましいフォルムに寒気がする。

作品は造り手に似るというが、上位者を気取る所まであの女にそっくりだとは・・・

 

 

『ここからが・・・本番です。』

 

”・・・っ。気を引き締めていこう。”

 

 

心なしか、少しずつ寒くなってきたこのバシリカで。

真っ黒な目が値踏みをするかのように・・・静かにこちらを見つめていた。




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