ユメ先輩のいないホシノvsユメ先輩しかいないホシノ   作:天野ミラ

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引き金を引いたのは覚悟か、それとも―――


哀れなる犠牲者(Victim) 後編

▼第七サンクトゥム「Victim」戦

 

「うへ~随分と大きな山羊さんだね・・・これはおじさんに受けきれるかなぁ・・・」

 

『図体は大きいですけど、性質はそこまで変わらない・・・筈です。』

 

 

”とりあえず、さっきと同じ陣形で行こうか。”

 

 

赤色の空の下・・・大きな黒色の巨体が蹄で地面を蹴る。

それと同時に地面が隆起し、まるでマエストロのようなマネキン人形にその姿を変える。

無機質でのっぺりとした顔、今の所は何者でもない・・・それ。

少しずつゆっくりとこちらに向かって来ている、攻撃力は然程無いが数というものは厄介である。

 

 

「数を減らして意味があるのか分からないがある程度は間引く必要がありそうだな。」

「・・・殲滅は任せて頂戴。」

 

 

 

先に仕掛けたのは私達だった、土人形を立ち位置で躱しながら散弾銃を放とうとする・・・が。

まるで私に掴みかかるように泥人形が射線を遮る。

それを盾で振り払おうとしたホシノ先輩の前で、泥人形は「よく見知った顔に」その姿を変えた。

 

 

「・・・えっ。」

 

『幻影です!惑わされないでッ!!』

 

 

 

水色の髪の彼女。

詳しい話こそ聞けていないが、こちらの世界ではユメ先輩はやはり・・・

 

 

茫然自失と言った様子でその場に膝をついたホシノ先輩に掴みかかろうとする泥人形を、紫色のマシンガンの弾丸が貫く・・・と同時に大きく爆発する。

 

 

姿を保てず、泥に代わる”彼女だったもの”。

不幸中の幸いと言うべきか・・・「こちらでは」再現できるのはあくまで「見た目だけ」らしい。

とは言え、先程の、彼女の顔が崩れていくのが脳裏にこびり付いて離れない。

 

 

『ホシノ先輩・・・立てますか?』

 

「あっ・・・ああ・・・うん。ごめん、取り乱した。」

 

 

私の手を取って、ゆっくりと立ち上がるホシノ先輩。

良かった、「折れては」いなかった。

 

こいつとの戦いで、心を摘まれた子を・・・沢山見てきた。

 

 

攻撃をするわけでもなく、こちらを見て・・・まるで嗤っているような態度の山羊。

おそらくは、どんな揺さぶりが効果的かを学習しているのだろう。

 

 

「・・・この悪辣さ、マダムにそっくりだな。」

 

『作品は作り手に似ると言いますが・・・「そういうこと」らしいです。』

 

「道理で・・・何か懐かしい不快感を感じたんだ。それと・・・いや、何でもない。」

 

 

私の方を見て何かを言いかけた、サオリ。

よく分からないが・・・

 

 

「・・・来るわ。」

 

 

大きな山羊が歩みだす、こんな状況で会話に集中する訳にも行かない。

ヘイローのような光輪から生えた腕で出来た・・・歪な翼のようなものを羽ばたかせて、優雅に歩いている黒い巨体。

 

 

「メェェエェェッ!」

 

 

大きな鳴き声で、トラウマを想起する。

けれど、あの時とは違って後ろには頼れる仲間が、先生が・・・ホシノ先輩がいる。

 

意思表示を込めて、両手に持った散弾銃(eyes of horus)をVictimに向ける。

恐怖とか、痛みだとか・・・そんなものは此処で歩みを止める理由にはならない。

 

 

 

 

大きな蹄が、私達を押しつぶさんとばかりに迫ってくる。

純粋な質量による押しつぶし・・・流石に、盾でどうにかするのには分が悪いだろう。

 

”後ろに避けて・・・!ヒナはその位置で攻撃準備お願い。”

 

「分かった、次こそは撃ちぬいてみせる。」

 

 

巨体での押しつぶしを、後ろに引いて避けようとしたところに泥人形が掴みかかってくる・・・

のは”視て”回避を行う。

 

 

それと同時に貯めの終わったヒナが、その機関銃をVictimに向ける。

 

 

「こいつの・・・出番。」

 

「メェエェェ!?」

 

 

機関銃から横薙ぎに放たれる、紫色の奔流。

流石の巨体でも・・・いや、巨体だからこそまともに受けてダメージを蓄積させていく。

そんな、”地上”にいる限り逃げ場のない「それ」を・・・

 

 

「その巨体で・・・飛ぶのか・・・!」

 

 

大きく跳躍する事で、回避したVictim。

そのまま、腕で出来た歪な翼をはためかせてこちらの様子を伺っている。

 

 

とは言え、地上から離れたことによって土人形の再生成が行われていない。

相手としても、苦肉の策ではあったのだろう。

 

 

しかし、かなりの高度まで空を飛んだ黒山羊に、こちらもダメージを与える手段が限られるのは確かだ。

 

 

「・・・浅いね。」

 

”とは言え、確実にダメージは蓄積してるよ、この調子だよ。”

 

 

地上に残った泥人形を少しずつだが着実に破壊していく。

減っていく泥人形に痺れを切らしたのか・・・奴が地上へと降りてくる。

 

「メェェェッェ」

 

 

巨大な土の塊が、空へと浮かび上がって・・・槍の形をとる。

テニスコートと同じくらいの長さの”それ”。

 

 

 

”相手も、此処で勝負を決めるつもりみたいだね。シノ・・・任せてもいい?”

 

 

『ええ、私がここで・・・決着をつけます。』

 

 

世界を跨いだこの因縁に・・・終止符を打つ時が、来た。

 

 

外せない一撃・・・タイミングを見計らう必要がある。

可能ならば、相手の大技の後。

身動きが取れない隙を突く。

 

その為の下準備を済ませる。

 

 

Victimはどうやら私に狙いをつけたらしい、土器色の聖槍が私を目掛けて空高くから降ってくる。

攻撃を用意する都合上、回避は・・・取れない。

そして、取るつもりもなかった。私達には・・・

 

 

「させる訳・・・無いでしょ!」

 

 

頼れるタンクがいるから。

流石に真正面からは受けきれないだろう、だから槍の先端に大きな盾を滑り込ませて軌道を変えた。土煙が上がり、破片と衝撃が私とホシノ先輩の身体を襲う。

 

が、この土煙はむしろ都合が良い。

 

 

地面に指を沿わせ、いつもとは違った要領で神秘を流し込む。

テストは2,3度しか出来ていなかったが・・・強度は十分だろう。

 

 

土煙を晴らすかのように、膨大な量の神秘の奔流が巻き起こって・・・赤い光を放ち始める。

両手に持った散弾銃(eyes of horus)が、その銃身を赤く染める。

 

 

本能的にか、空へ羽ばたいて逃げようとする黒い山羊の翼を二人の弾丸が貫く。

 

 

「ここまで来て、逃走を選ぶか・・・虚しいな。」

「でも、逃がしはしないわ。これでフィナーレ。」

 

 

そして、地中から生えた真っ赤な茨の付いた白い蔦が絡みついて・・・その巨体を地に繋ぎ止める。

 

 

 

 

 

一瞬、怪物が驚愕の表情でこちらを振り向いた。

そのお陰か、必殺の一撃を溜めるための隙が生まれる。

 

 

”神秘”を銃身に込める・・・込める。

真っ赤な光がバシリカを染め上げていく。

 

 

「メェェェェエェェ!!!?」

 

 

慌てたような様子の黒山羊が地面を踏む。私の目の前の地面が隆起し・・・そして人の形を取る。

人形は、その姿を変えて・・・アビドスの制服を身に纏い・・・

 

 

 

金髪のショートヘアの女の子(りょーちゃん)に、姿を変えた。

 

 

 

分かってる、これは本物の彼女なんかじゃない。

だから問題ない・・・問題ない・・・はずだ。

 

 

引き金を、引こうとして。

 

 

 

「私を”また”殺すんですか?ホシノ先輩。」

 

 

 

声まで、模倣するのか。

だから、なんだ?彼女ならそんな事は言わない。

私の思い出を、彼女を侮辱するな。

 

 

 

それにそんな夢は何度も見た、彼女の姿をした人形なんて幾つも破壊してきた。

 

私は・・・もう間違わない。私の大切な人は、誰にも奪わせない。

 

 

 

▼先生視点

 

土人形が姿を変えたのは、見た事のない金髪のショートヘアの女の子。

アビドスの制服を着ている事から、アビドスの生徒である事だけは確かなのだろう。

 

 

 

「私を”また”殺すんですか?ホシノ先輩。」

 

 

分からない、分からないけど・・・今までの傾向からして、あれはおそらくシノの・・・

いや、彼女が”小鳥遊ホシノ”として生きていた頃の大切な人のはずだ。

 

 

シノが、引き金に指をかける。

今にも爆発しそうな程、散弾銃の銃身が真っ赤に染まっている。

 

 

だからこそ、駄目だ。ここで彼女に引き金を引かせたら・・・

勝利は拾えても、何か大切なものを落としてしまう気がして。

 

 

 

”シノ・・・待って!撃っちゃダメだ・・・!”

 

『ああ、大丈夫です。だって・・・』

 

 

 

まるで自分に言い聞かせるかのように呟く彼女。

 

 

『こんな光景・・・幾度となく見てきましたから。』

 

 

そう言った彼女は何処か諦観の混じった横顔で

 

 

『―――我が眼光と化して、焼き尽くせ。』

 

 

―――引き金を、引いた。

 

 

 

 

 

散弾銃から放たれた朱い光が、人形と山羊を包み込むように放たれてバシリカをこの空のように真っ赤に染めあげる。

放たれた光が収まる頃には・・・黒い山羊も泥人形も・・・

 

 

まるで最初からいなかったかのように、何もなくて。

 

 

『終わりましたか・・・お疲れ様です、皆さん。』

 

”シノ・・・ごめんね、辛い役回りを・・・私は・・・生徒になんてことを・・・”

 

 

 

 

『何で先生が謝るんですか?もとはと言えば私達の世界が悪い事ですし、それに・・・』

 

 

 

『・・・もう、慣れましたから。』

 

 

私の事を、安心させようとしてくれたのだろう、仮面を外して笑顔を作る彼女。

ただ、無理をしているのは一目瞭然で・・・両手を強く握りしめていた。

 

 

『さあ、帰りましょう?アビドスの皆も心配ですから。』

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。シノちゃん・・・!」

 

 

そう言って、帰るために歩き出したシノ。

ホシノが焦った様にその後ろを追う。

 

 

 

そんな彼女の後ろ姿は儚げで・・・今にも消えてしまいそうに見えた。

 




サンクトゥムの守護者戦は全ては描写しない予定です。
二つ程描写の予定はありますが。

どんな描写が好きor欲しい?

  • 戦闘描写
  • 心理描写
  • 場面描写
  • 会話文
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