ユメ先輩のいないホシノvsユメ先輩しかいないホシノ   作:天野ミラ

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第一サンクトゥム攻略戦と、その後のお話。


死線を越えて

▼第一サンクトゥム「BINAH」戦 ユメ視点

 

熱い日差しが少しずつ体力を奪う、そんな中砂漠に悠々と聳え立つ第一サンクトゥム。

それを守護するかのように、私達の前に立ちふさがる黒色のビナーと戦い始めてから・・・一時間ほどが経っただろうか。

 

囮の役割を果たした、今は使われていなかった列車。

便利屋の子たちが乗ったそれが、ビナーに向けて突っ込んでいく。

 

 

「トドメは真のアウトローである、私たちが頂くわ!」

「その勇姿をしかと目に焼き付けなさい!」

 

「あはは!爆発物山盛りで行くよッ!」

 

 

 

爆発物を大量に詰めた列車は、だんだんと速度を更に上げていって・・・

 

 

「凄い爆発ですね~☆たまや~」

 

「いや、別に花火でも何でもないから・・・あれ。」

 

 

ビナーへの衝突と共に・・・耳鳴りのしそうな程に、大きな爆発が起きた。

爆風が少し離れた所まで退避していた私達の髪を揺らす。

 

そんな爆発で起きた煙が晴れて・・・目に入るのは黒色の巨大。

これだけの規模の爆発を喰らっても、未だ健在のビナー。

 

 

「どんだけタフなの!?そろそろ、倒れなさいよっ・・・!」

 

「とは言え、流石に相手も無事じゃないね。」

 

 

見てみると、所々ショートしたかのように火花が散っている。

確実に効いてはいる、あと一押しといった所・・・かな?

 

「後、もうちょっと・・・!皆、がんばろうね!」

 

 

 

そんな朗報も束の間、ビナーも勝負を決め切ろうとしているのかは分からないけど。

もう、何度目になるか分からないレーザーを射出しようとエネルギーを溜め始める。

 

 

「・・・熱光線、来ますッ!」

 

「皆は私が守るから・・・!」

 

 

真っ黒なビナーの口にエネルギーが集まっていく。

口の中が真っ白に染まって、今にも膨張しそうなエネルギーの塊。

吐き出されたそれは、私達を溶かさんと物凄い熱量と共に私達に襲い掛かる。

 

 

迫る熱光線を前に、視界がスローになる。

これが・・・ゾーンって奴かな、走馬灯じゃないと良いんだけど・・・

何てことを思っていたからか、昔の事を思い出す。

 

 

 

今から、二年前・・・私達がまだこの世界に来る前の事を。

 

 

 

疑念、不信、暴力、嘘・・・そういうものを当り前だと思うようになったら・・・

いつか自分を見失って、大切なものを失ってしまうと。

 

昔、ホシノちゃんに・・・いや、シノちゃんにそんな”理想論”を語ったことがあった。

当時は、その事でシノちゃんと少しだけ衝突したこともあったっけ。

 

 

戦って問題を解決しても、それは次の争いの火種になってしまう。

だから、相手を許すことが大事なんだって。

今でも、そう思ってる。

そこは私が貫き通すべき信念・・・だと思うから。

 

 

それでも世界は残酷で、”力”がなくてはどうしようもない事が一杯あるんだって事。

無知な私は知らなくて・・・いや、きっと知らないフリをしていて。

 

 

決定的だったのは、私が二年生の時の夏。

毎月少しずつ返していた借金の利率を、一気に100倍にするなんて言う・・・とんでもなく一方的な通告を受けた日の夜の事だった。

 

寝れなくて、悶々とした気持ちのまま生徒会室に残っていた私。

その日の深夜に、ボロボロになって帰ってきたシノちゃんを見て・・・私はどうしようもない不甲斐なさを抱いた。

 

 

おそらくはカイザーコーポレーションの所に一人で赴いて、こうなったんだろう。

純粋な悪意の前に、話し合いが通じない相手に・・・私が戦わない事を選んだことが・・・結果的に彼女を傷つけた。私が、シノちゃんを傷つけた。

 

 

私は見ないふりをしていただけなんだ。

結局、私が戦わない事で・・・誰かがその”ツケ”を払わなきゃいけない事もあるんだって。

 

 

そう思って、次の日から銃を撃つ練習を始めたけど・・・

訓練の的にこそ当てれても、いざ実際に戦おうとして・・・全く当たらない。

手に握った600gの鉄の塊が、異様に重く感じたんだ。

 

 

 

夕暮れの射撃訓練場で一人で練習していた、私。

そんな私を見て・・・シノちゃんは。

 

 

『本当に、才能がないというかなんと言うか・・・』

 

「ひぃん・・・そ、それは自分が一番分かってるってば・・・」

 

 

当時のアビドスは余裕がなくて・・・シノちゃんは今に比べて、ちょっとだけ棘のある女の子だったと思う。

それでも、本当は心優しくて・・・私なんかには勿体ないくらいの後輩。

 

 

『別に・・・無理に頑張らなくても良いんじゃないですか?』

 

「で、でも・・・私が頑張らないと。生徒会長として・・・」

 

『いや、戦う事を放棄しろって言っているんじゃなくて・・・ほら。』

 

そう言って、壁に立てかけてあった私の盾を指さしたシノちゃん。

 

 

『誰も傷つけたくないのなら、誰も傷つけないなりの”戦い方”があるって言う話ですよ。正直、非効率的ですし・・・相手を倒した方が簡単ですから。茨の道だとは思いますけどね。』

 

 

目が覚めた、気分だった。

私は、不甲斐なさなんて言って・・・後輩を守るためなんて理由をつけて。

誰かを理由にして、自分の信念を曲げようとしていたんだなって。

 

 

「私なりの・・・戦い方。ありがとう、ホシノちゃん!」

 

『・・・本当にその道を行くんですね。言い出したのは私ですし、特訓なら付き合いますよ。』

 

 

 

 

だからこそ、私は・・・

 

誰かを傷つける事はまだ怖い、暴力が当たり前になってしまう事が怖い。

戦いが憎しみを呼んで・・・次の争いが生まれる事が怖い。

 

・・・でも、大切な人を失うのは・・・もっと怖い。

 

 

完璧な防御で、相手の戦意を削ぐ。

弾丸と戦意が無くなれば、人はもう戦えないから。

誰も傷つけずに、相手を倒す・・・それが私の選んだ道。

そんな、私の―――

 

 

「消極的・・・鎮圧!」

 

相変わらず物凄い熱量だ、盾を持つ手が痺れる。

流石に、真正面からは受けきれない・・・だから。

 

熱線の軌道を盾で逸らす事で、ビームは何もない砂漠に着弾して大きな土煙を上げる。

あらゆる状況で、相手の攻撃を無力化する事を目的とした防御のための戦術。

 

残念ながら、ビナーは動力切れも戦意も有り得ないかもしれないけど・・・

今は、これで良いと思う。

 

 

私は一人じゃなくて・・・後ろには、頼れる後輩たちがいてくれるんだから。

 

 

「今こそチャンスよ!一気に攻め切るんだから!」

「お仕置きの時間です~♣」

 

 

弾丸の雨が、ビナーを襲う。

セリカちゃんは損傷部分を狙い撃つように、ノノミちゃんは豪快に敵を制圧するかのように。

 

 

・・・それでも、足りない。

もう一度、ビナーの口元が大きな光を放ち始める・・・と同時に。

 

 

「社長、風向き的にもう少し上・・・うん、そこで大丈夫。」

 

「あんなに大きければ、片手でも命中させられるんだから・・・!」

 

 

スナイパーライフルが直撃して、ビナーが大きく仰け反る。

ただ、口元に貯めたエネルギーは未だに健在だ。

 

 

「よし、ふふっ!命中よ!」

 

 

盾を構える、後1、2発くらいなら余裕をもって受けられると思うけど・・・

それ以上は、少し怪しくなってくるかな・・・?

後衛の皆の体力も限界が近そうだし・・・

 

 

 

「さあ、帰るわよ。」

 

「えっ、でも・・・ビナーはまだ・・・」

 

「い、いいから・・・!間に合わなくなるじゃない・・・!」

 

 

 

そう言ってビナーに背を向けて、歩き出す便利屋のアルちゃん。

 

 

その後ろで、熱光線をチャージしていたビナーの口元がキラリと光って・・・口元に刺さっていたスナイパーライフルの弾が爆発する。

誘爆するような形で、ビナーの溜めていたエネルギーの奔流が大爆発を起こす。

 

 

「言ったでしょう?トドメは真のアウトローである、私たちが頂く・・・とね。」

 

 

大きな砂塵が巻き起こって、それが晴れた頃には・・・

爆発に巻き込まれて破壊されたビナーと虚妄のサンクトゥムの残骸があった。

 

確かに、爆発を背に歩きだす後ろ姿はカッコいい・・・カッコいいんだけど・・・

 

 

 

「これが、真のハードボイルドショット・・・と言った所かしら。」

 

 

 

「格好つけてるところ悪いんだけどさ、アルちゃん。電車爆発させた辺りからスカートがめくれて・・・パンツ見えてるよ。」

 

 

スカートがめくれて、パンツがずっと見えていたので・・・どうしてもそちらに目が行ってしまう。

 

 

「な、な・・・なんですって!?早く教えなさいよ!?」

 

 

「あはは、そういうファッションなのかなって思ってさ。」

 

「そんな訳ないでしょ!?も・・・もう!行くわよ、皆!」

 

 

 

「お疲れ様・・・随分と締まらないけど・・・これで決着だね。」

 

「うん、カヨコちゃんもお疲れ様。他の皆も、上手くやれてるといいなぁ。」

 

 

空は赤いままだけど、きっとシノちゃん達なら大丈夫・・・だと思う。

私に出来る事は、無事に帰って来た時に・・・先輩らしく沢山褒めてあげることくらいだから。

 

 

 

 

▼シャーレの会議室 先生視点

 

一旦シャーレで会議を挟む事になった、本当は各地で頑張っている生徒たちの元へ足を運びたいところではあるが・・・最後のサンクトゥムタワーがD.U.にある以上はここで待ち構えるのが最善策だと思う。

 

先ほどの激戦を考えても、最後の守護者・・・”ペロロジラ”とはかなりの激戦が繰り広げられるだろう。シノは策があるから大丈夫だとは言っていたが・・・

 

今、シノはまともに話を聞ける状態にない。

 

 

 

”まずはお疲れさま、皆。各地のサンクトゥムも順調に攻略が進んでるみたい。”

 

 

丁度一日前、会議を行った会議室ではすでに攻略が終わったアビドスの皆がそろっている。

サオリはスクワッドの皆の増援に、ヒナは名残惜しそうにゲヘナの方へ帰っていった。

なんでも、治安維持に避難誘導とサンクトゥムの攻略で手が足りないそうだ。

 

 

「・・・あのさ、言いたいことはたくさんあるけど。”これ”はそのままでいいの?」

 

 

ユメの横にピッタリとくっついて顔をうずめているピンク髪の2人を指さすセリカ。

 

 

「あ、あはは・・・」

 

何処か困った様子のユメだったが、何も言わない辺り許容はしているんだろう。

 

 

『ちょっとユメ成分を補給しているだけなので、気にしないでください。』

「うへ~滲みる~」

 

 

”あれ”の後だから、気持ちは分かる・・・なんて軽はずみな事は言えないけど。

Victimと戦った後だからヒナも見知った顔が恋しくなったのだろう。

精神を削ってくる、何ともベアトリーチェらしい守護者だった。

 

 

「いや、あんたらが気にしなくてもこっちが気になるのよ!一体何があったらそうなる訳!?」

 

『聞かないほうが・・・良いですよ、セリカちゃん。』

 

顔をうずめたまま振り向いて、器用に澄まし顔を作るシノ。

 

 

「キリっとした顔で言われても、説得力皆無なんだけど??」

 

「わ・・・私は大丈夫だから・・・」

 

「ユメ先輩が気にしなくても、こっちが気になるって言ってるんだけど・・・」

 

 

何とも、緊急事態とは言えないような雰囲気が流れる室内だが・・・

状況にのまれて恐慌したりするよりは、しっかりと気持ちに切り替えをつけた方がいいだろう。

とはいえ、話さないといけない事があるのも確かで。

アヤネが立ち上がり、大きく咳払いをする。

 

 

「こほん!それで話を戻しますが・・・現在、サンクトゥムは3柱が撃破完了。他に関しても順調に討伐が進められているそうです。なので、残りの憂いとしては最後のサンクトゥムタワ―と・・・」

 

 

”いなくなったシロコの捜索・・・だね。”

 

 

「ねえ、先生。シロコちゃんは・・・無事だよね?」

 

縋るような、ホシノの声に・・・私は。

 

 

”きっと無事だよ。”

 

 

例えどんな時でも、生徒を安心させるのが私の役割だと思ったから。

それに、相手がおそらくは誘拐という手段を取った以上はシロコの生存は現実的ではあると思う。

 

「うん・・・うん、そうだよね。ありがと、先生。」

 

 

空は未だに、真っ赤に染まったままで。

まるで世界が終わるかのような、雰囲気を醸し出している。

 

偽物のサンクトゥムを全て破壊した・・・その後の事はシノやユメにも分からないらしい。

それでも、このままじゃ終わらない、そんな予感がした。




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