ユメ先輩のいないホシノvsユメ先輩しかいないホシノ   作:天野ミラ

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種は、既に撒かれた
後は発芽を待つだけである


最後の夜

▼アビドス砂漠 シノ視点

 

逃げ出してきて・・・しまった。

この広いアビドスの砂漠には、煙がないからか綺麗な星空が広がっている。

どんな犠牲を払う事になったとしても、私達は数時間後にはあの宙に向かって飛び立つ。

 

エンジニア部が、そしてキヴォトスにおけるその道のプロフェッショナル達が。

この船を解析するために、一堂に会している。

 

船のテクノロジーは解析できてはいないらしいが、動かすだけならば問題は無いという状況。

まあ、黒服があれだけ時間をかけて完全な起動に成功しなかった代物らしいから。

それもまあ無理はないのかもしれない。

 

『先生・・・』

 

・・・先生は狡い人だ。

私が断れない事を知っていて、これ以上背負わせようとするんだから。

アビドスの皆の為、放課後補習部の皆の為、私自身の目的の為。

 

「どうしたの?シノちゃん、辛気臭そうな顔して~可愛いお顔が勿体ないよ?」

 

そして・・・何よりも、ユメ先輩の為に。

 

『少し・・・感傷に浸っていただけです。』

 

どうしてなんだ、このまま諸悪の根源である「色彩」を破壊して・・・

皆揃ってハッピーエンドって、そんな未来はどうして来ないんだろう。

何か、間違えたのかな・・・私。

我ながら、そこそこ上手くやれてたと思ったんだけどなぁ。

 

「隣・・・座るね?」

『えぇ、寒いので身体を冷やさないように気を付けてくださいね。』

 

星空の下に二人っきり。

少し前にも、こんな事があった気がする。

 

「私は・・・さ。馬鹿だから、シノちゃんの悩みを全部は分かってはあげられないけど。」

「辛い時はシノちゃんが立ち上がれるまで、何時だって傍にいるから。」

 

『私は・・・』

 

もう誰も失いたくなくて、誰も手放したくなくて。

そんな喉元まで出かけた言葉は・・・慟哭と共に消えた。

 

 

それから、一時間ほどが経って。

私はウトナピシュティムの船内。

〈危険!絶対に立ち入り禁止!〉と書かれた倉庫へと足を踏み入れていた。

 

「・・・おや、もうよろしいので?」

「それにまさか・・・それを手放すとは。唯一の可能性でしょう、よろしかったのですか?」

 

『私の生きる世界は・・・ここだから。』

『それに私に立ち止まっている時間は無い。どうせお前も何か画策はしていたんでしょ?黒服。』

 

「ククッ、まあそうですね・・・何もしていなかったと言えば嘘になりますが・・・」

「この船には現在、「名もなき神々の王女」が搭乗しています。」

 

『名も無き・・・なんて?』

 

「おや、私としたことが・・・1から10まで説明したつもりになっていました。」

「つまるところは忘れられた神々を打倒するための「兵器」にして「鍵」でもある彼女・・・」

「彼女の事を語るには、ミレニアムで起きたセミナー会長の調月リオとの物語からお話ししなければなりませんが・・・」

 

『話が長いのは相変わらずですね・・・結局それって誰なんですか?』

 

名もなき神々の王女、AL-1S・・・こちらでは「アリス」と呼ばれる少女。

「彼女こそがこの物語の・・・文字通り「鍵」になると。私は見ています。」

 

『ああ、ゲーム開発部にいたあの子ですか。確かに前の世界で見覚えはありませんでしたが。』

 

 

 

「あの、アリスを呼びましたか?」

 

『そうそう、これくらいの背丈と長い髪の・・・?』

「ここは立ち入り禁止と書いてあったはずなのですが・・・」

 

どうしよう・・・先生からは「絶対に」黒服と生徒を合わせないように言われてたのに・・・

話の渦中にいた彼女が、何の因果かこの部屋に足を踏み入れていた。

 

「とは言え、都合が良い事も確か・・・ククッ。生徒との接触は禁じられていましたが・・・」

「来てしまった分には、仕方が無いでしょう。」

 

「立ち入り禁止と言う事は、お宝を保管していると思ったのですが・・・」

 

「確かに、考え方によってはこの出会いは宝物と言えるかもしれません、王女よ。」

「・・・!アリスは王女じゃなくて勇者です!でも、貴方は一体・・・?」

 

 

「私の名前は、「黒服」。一つ貴方に・・・魅力的な提案をしようと思いまして。」

 

 

 

全長135m×23m×13mの巨大建造物。

内部に15のエリアを持つこの巨大な戦艦は・・・あまりにもオーパーツ。

そして何より特殊なのは・・・この船の75パーセント以上は演算装置で構成されている事。

天井に浮かぶアトラ・ハシースの箱舟に対抗するために作られたこの船は。

量子コンピュータを用いた演算処理により、あの防壁を突破できる・・・はずだ。

 

 

「シノ先輩・・・?大丈夫?」

 

『ああ、セリカちゃん。大丈夫ですよ。私も・・・少し緊張してしまってるみたいです。』

 

「いきなり宇宙戦艦だもんね・・・私もまだ実感が沸いてないというか・・・」

 

 

あれから、先生とは結局話せていない。

行政官のリンさんが、今後の予定を話すために開いてくれたブリーフィングが始まる。

 

「虚妄のサンクトゥムの再出現まで、12時間の予想です。」

「ここから8時間後、この船は夜明けと共に出発する予定です。」

 

話せていないまま、出発まで8時間と言う所まで来てしまった。

きっかけを掴めないまま・・・時間だけが過ぎてしまった。

もしかしたら、これが最後になるかもしれないのに。

 

「オペレーターの皆様にはこちらのマニュアルを覚えていただきます。時間は短いですが、優秀な皆さんなら必ず成し遂げられると信じています。」

 

有事の際の事を考えて、地上を防衛する戦力も残さなければいけない。

だから、船に乗るのは限られたメンバー。

その上、半分ほどはこの船を動かす為のオペレータとしての搭乗になる為、実際の戦闘員としてはもっと少ない数になるだろう。

だが、そちらに関してはあまり心配はしていない・・・先生が無事ならの話だが。

 

「ここまでで、質問はありますか?」

 

「え~っ?流石に厳しいんじゃ・・・」

「モモカちゃん・・・出来ますよね?」

「まあ・・・やれって言われればやるけどさぁ・・・」

 

『そちらのドローンは一体?』

 

「私は完全自立型AIドローン・・・AMASよ。」

 

「りっ・・・リオ会長ですよね!?今までどこに・・・!」

 

「私は・・・」

 

「アリスちゃん達には絶対に近づかないでくださいね・・・!」

 

調月リオ・・・

話には聞いたことがある、ミレニアムの生徒会であるセミナーの会長である彼女。

ビックシスターとも呼ばれる彼女が、何故その身を隠しているのか。

聞いたところによるとそれはシンプルで・・・

AL-1Sことアリスの破壊・・・と言えば、聞こえはいいが。

そのヘイローを破壊・・・つまりは殺害しようとしたからであるらしい。

 

そんな彼女が、今私達に手を貸すことを・・・「贖罪」する事を許されようとしている。

それは、彼女の起こした行動が「未遂」だったからなのか、そこに「大儀」があったからなのか。

第三者である私には分からないけど・・・

何故かサオリの事を・・・そしてアズサちゃんの事を思い出した。

 

 

”一つ質問があるんだけど・・・”

「どうされました?先生。随分深刻そうな顔をされていますが・・・」

 

”この船には、大切なものが無いんだよね。”

「武装の類は流石に8時間で仕上げるのは無理があるとお話しした通りですが・・・」

 

”「制服」だよ・・・!宇宙戦艦といえばコスチュームは必要不可欠でしょ!”

「はあ・・・何を言い出すかと思えば。」

 

「それは・・・一理ありますね。」

「確かに宇宙空間に近い場所に行くわけですから、宇宙服とまではいかなくてもそれに近い機能は必要かもしれません。この天才デザイナーにしてミレニアムが誇る・・・」

 

”だよね!作ろうよ・・・私達だけのコスチューム!”

 

「よし、ひと仕事しようじゃないか。コトリ、資料の準備は・・・」

 

「勿論!こんな事もあろうかと漫画やアニメに選り取り見取りですよ!」

 

「デザインは・・・私も少しお手伝いできるかもしれません♡」

 

 

『ふふっ、なんですかそれ・・・』

 

こんな時でも、いつもと変わらない・・・

いや、いつもと変わらないように振舞っている先生を見て。

なんだか、肩肘を張って構えてるのが馬鹿らしくなってしまった。

言葉は・・・伝えないときっと後悔する。何時ぞや(最後の日)の時のように。

 

”シノ・・・やっと笑ってくれたね。”

 

『狙ってたんですか・・・?全く。後で話したい事があるので、艦橋に来てください。』

 

”うん、分かった。”

 

「私の方で、実際のアトラ・ハシース占領戦のメンバーをまとめておきますので・・・実働部隊の皆さんは一度休憩を取ってください。寝不足で判断が鈍るようでは本末転倒ですので。」

「それでは、解散とします。」

 

 

本来は空が見えるはずの艦橋からは、殺風景な掘削現場の洞窟が広がっている。

この大きな船が、本当に空に浮かぶのか・・・疑問は尽きないが、エンジニア部の皆を信じる事にする。

信じる・・・信じるか。

トリニティの時も、そうだった。

私達は、信じる事で前に進んできた。今回もきっと・・・きっと。

 

 

”おまたせ、待った?”

 

『今着た所です・・・なんて、何言わせるんですか。』

 

”ふふっ、落ち込んでは・・・無さそうだね。”

 

軽口の応酬から始まった、私達の会話。

その後の話を、先生は急かさずに・・・私が話すのを待ってくれている。

 

 

『先生、頼まれていたあの件ですが・・・』

 

”うん。”

 

『お断りします。』

 

”・・・っ!そうだよね。ごめん、確かに一生徒に背負わせるにはあまりにも・・・”

 

『違いますよ、先生。何を・・・』

 

先生の目をじっと見る、澄んだ・・・良い目だ。

 

『弱気になってるんですか。』

『確率が高くない?今までだってそうだったでしょうが。』

 

試験を邪魔された時も、ミサイルが降って来た時も・・・

ベアトリーチェを倒した時も。

どんなに絶望的な場面でも、貴方は勝ち取って来た。

 

『保険をかけて逃げないでくださいよ。例え、それがどんなに大変でも・・・』

 

『貴方の選んだ選択に・・・最後まで責任を取り続けてください。』

 

その言葉は、まるで呪いのように・・・私にもずっしりと突き刺さった。

色々な物を捨てて逃げた私だから、選択する前の彼女に言える忠告。

 

『それで、どうしようもなかったら・・・仕方がないので先生のケツを拭いてあげます。』

『だから・・・最後まで・・・足掻き続けろ。』

 

”シ、シノ。そうだね、私も少し・・・弱気になっていたのかもしれない。”

 

無理もないと思う、自分が死ぬかもしれない状況で・・・

冷静でいられる人間が、どれ程いるだろうか。

彼女だって、先生であっても・・・一人の人間なのだから。

 

”皆で揃って・・・必ず帰ってこよう!誰一人・・・欠けることなく!”

 

酷な事を言っている自覚は・・・ある。

それでも私は、先生の事を・・・信じる。

きっと先生なら今回も乗り切ってくれるだろう。

 

 

だから、皆で・・・色彩を・・・

 




先生 ”あのね、シノ。”
シノ『どうしたんですか、先生?生意気な事を言った自覚はありますが・・・』

先生 ”女の子があんまりケツとか言わない方が良いよ。”
シノ『そっ・・・そういう雰囲気でしたか???』

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