ユメ先輩のいないホシノvsユメ先輩しかいないホシノ 作:天野ミラ
所謂説明会なので、ここまでの作中の要素のネタバレを含みます。
「神秘」に対する独自設定や、独自解釈を含みます。
月日が流れる。
神秘と言うものは、虹の根元のようなものでした。
全容は見えていて、ある事自体は分かっていても決してたどり着けない、それ。
神秘を知れば知る程・・・「崇高」と言うものが遠くに感じてしまう。
―――だからこそ、面白い。
未知の探求、「出来ない」ではなく「やれる事が無数にある」。
一人の研究者としてこんなにも心躍る気分だったのは何時以来でしょう。
だからこそ・・・
『何をニヤケてるの?気持ち悪い・・・』
「ククッ・・・それは失礼いたしました。実験の続きと行きましょうか。」
いえ、これは口にするべきではないのでしょう。
あくまで我々の関係は利害の一致、生徒と
あれから、神秘の研究を続けるにつれて分かったことは・・・
神秘はその身・・・生徒本人から離れれば離れるほどにその効力を失うという事。
中には例外もありますが・・・少なくとも小鳥遊ホシノにおいては”それ”が当てはまる。
ここで一つ、当然とも言える疑問が発生しました。
即ち、生徒本人とは・・・一体何を指すのか。
服は?キヴォトスの外なら服がはじけ飛ぶような爆発を受けても、彼女達の服が全損するような事態にはならない。
銃は?銃での殴打も見受けられるが、銃身が曲がるまでの耐久力が高すぎる。
髪は?何故燃え尽きない?体液は?皮膚は?骨は?なぜ?なぜ?なぜ?
検証の結果見えてきた事実は・・・老廃物として排出されうる要素。
髪や爪と言ったものはどうしても繋がりが薄くなるというもの。
排出された時点で自分ではないという認識なのか、小鳥遊ホシノ固有の問題と言えるのかは実験のサンプルが少なすぎて判別は尽きませんが・・・
検証の結果見えてきた結論としては・・・
『血液においては強い誘導率を誇ると・・・これ、何の役に立つの?』
流石に骨を切り出すわけにもいかなかったので、血液が最も高い誘導率を誇るというのが結果。
他の”部位”も非常に気になる・・・気になる所ではあるが、あくまで彼女は共同研究者。
私のモルモットではない事を弁えなければ、この関係はたちまち崩壊する。
「おや、事実が確認できた・・・それだけで十分ではないですか?」
「とは言え分かりやすい”成果物”と言うものは、何時だって必要になるのも確かです。」
試作品の弾丸をテーブルの上に幾つか転がす。
材料の観点から、量産には至らなかったが・・・
「貴方から採血した血液の一部を使用した弾薬です。」
「分かりやすい武力が必要との事でしたので用意いたしました。」
『それで・・・効果は?』
「この弾薬は文字通り・・・貴方の手先や指先のように神秘を込める事が出来る。」
「つまり、攻撃に使用する神秘の伝導率もその最大容量も文字通り”桁違い”。」
これは、弾丸を生徒本人だと誤認させるような物。
「構造上の問題でスラッグ弾になってしまいましたが・・・問題はないでしょう。」
『助かるけど・・・欠陥があるんだよね?』
「1つ目は、量産が難しい事。」
「これは、原料が原料なので当然と言えるでしょう。」
「2つ目は・・・攻撃に無理にリソースを裂くことにより、防御力が著しく低下する事。」
「これもまた当然の事です、神秘の出力には限度がありますからね。」
「3つ目は隙が大きい事。」
「貯める時間が必要であり、神秘の消耗も大きい。外した場合は拙い事になるでしょう。」
「欠点は多く、技術としても未完成・・・ですが。」
『それを加味しても余りあるメリットがある・・・と。』
「今いるラボくらいなら容易く吹き飛ばせるでしょう、その威力は隕石すらも容易く上回る。」
月日が流れる。
「神秘の譲渡の理論こそ完成したものの・・・実際の実験が出来ないというのは残念ですね。」
『・・・するつもりなら、お前とはここまでだから。』
「いえ、契約は契約ですからね。それに「特定の行動による神秘容量の増加」についても少なくない結果が出ていますから。」
何とももどかしい思いだが、此処で彼女との関係を失うのはかなり痛い。
まだ確認しなければいけない事象が山ほどあるというのに。
それに・・・それに?
「珈琲を・・・おや、お疲れでしたか。」
学校の方も激務であるのだろう、何やら”砂祭り”なる祭りの復興に向けて日夜作業をしているらしい。
アビドスの行事に興味はありませんが・・・眠られるとこちらの実験に・・・おや。
神秘が・・・薄れている?
ふと思いついた事がありました。
我々では完全な知覚こそ出来ない「ヘイロー」。
これらは意識を失ったり、生命活動を止めた場合に存在しなくなるものですが・・・
果たして、消えた神秘は何処に消えるのでしょうか?
無に消え去る?それとも何処か別の物に返還されるのか?
分からない、分からないこそ・・・調べる価値がある。
それさえ分かれば、神秘の提供者が居らずに困っていた現状の打開に繋がる・・・
「ククク・・・やはり貴方は私の「ミューズ」たり得る・・・小鳥遊ホシノ。」
この時の結論から言うと、「無駄」ではありました。
我々の知覚できない領域へと消え去って再利用どころか、観測すら出来ない。
ならば・・・「入れ物」を作ってあげれば?
失われた神秘に指向性を持たせることが出来れば、それは・・・
『・・・あの、寝た私が悪いんですけど。何もしてませんよね?』
「クックック・・・コーヒーを淹れてあります。よければお召し上がりください。」
月日が流れる。
空が真っ赤に染まり、このキヴォトスは滅びの運命を迎える。
色彩の襲撃により、ゲマトリアは事実上の解散。
しかし、幸運な事に我々のラボは無事でした。
消極的な対抗策こそ思いついたものの、私は未だにどうするべきか迷っていました。
「滅び」は決められた理。それに逆らう事に何の意味があるのか・・・と。
それでも、彼女にその提案をしたのは・・・情以外に無いのでしょう。
例え、私の”最期の実験”が実を結んだとしても・・・私は観測する事が出来ないのですから。
それでも用意するに越したことはありません。
無名の司祭の産物・・・ウトナシュピテムの本船は私には作動こそさせられなかったものの・・・
目的の為に流用することくらいは可能でした、研究者としては余すことなく調べたい所でしたが。
時間がありませんでした、それに・・・
私にはまだ、やるべき実験が残っていますから。
携帯の着信音が静かな部屋の中に二度、三度響く。
相手は・・・小鳥遊ホシノ。
『もしもし。聞こえる?』
怯えたような、苦しそうな・・・彼女の声。
おそらくは決断を済ませたのだろう。
彼女には少しばかりのサプライズを用意させていただきました。
なにせ、私だけが世界を渡っても仕方がないものですから。
「おや、想定より早く決断を済ませたのですね。」
『あまり、時間をかけると私が耐えられそうになかったから。』
「それはそれは、ですが本当によろしかったのですか?」
『・・・くどいよ、黒服。これはもう、私が決めたことだから。』
彼女を見送ってから、独りになったラボはいつもより広く感じました。
・・・私らしくない感想ですね。実験には何の役にも立たないというのに。
とは言え、ここで立ち止まっている時間は私にはありません。
キヴォトスが滅ぶまで、長く見積もって3時間もありませんからね。
今までの積み重ねとも言える実験、一度しか出来ないのが難点ですが・・・
理論は完璧、後は少しばかりの運が介在するだけ・・・
「ククッ・・・それでは最後の実験を始めましょうか。」
「題するなら・・・”或る惑星の終着点”。」
「終わったはずのモノが何処へ行きつくのか・・・受け皿は用意しました。」
「彼女の行きつく先に・・・至高が花びらく日は来るのでしょうか!」
「最期に・・・私がこの世界に”意味”を持たせましょう!」
赤い空と真っ黒な太陽・・・それが
首元に付けられた、黒と白い罅割れの意匠がされたロケットペンダントが目の前で揺れる。
『―――ねぇ、黒服。早く・・・起きろ。』
狭い室内で目を覚ます
そうでした、ここはウトナシュピテムの本船で・・・
「・・・おや、私としたことが少しばかり過去の事に思いを馳せていました。」
『そう?どうでもいいけど・・・占領戦中は気を抜かないでよね。』
「えぇ、理解していますとも。」
これからアトラ・ハシースの占領戦が始まる訳ですが・・・
この、虚実の入り乱れた空間でなら条件としては申し分ないでしょう。
それに敵は・・・いえ、相対する相手も格としては十分すぎる。
「さあ、小鳥遊ホシノ・・・いえ、高那シノ。」
『急にかしこまってどうしたの、黒服?』
「最後の実験を始めましょう。我々の成果が花開く時がきます。」
「それを使わずに済む事もまた一つの結末だとは思いますが・・・」
『敵は強大、だから厳しいかもしれないね・・・それと。』
『”お前”じゃない、私と”あいつ”の実験成果だ。そこは勘違いするな。』
「えぇ、ええ・・・そうですとも。少しばかり・・・そう。混同しておりました。」
「死んだ人間が生き返る事等・・・有り得ない事ですからね。」
残すところ数話となりました、この物語の結末までお楽しみいただければ幸いです。
暫くは決戦前の最後のやり取りがメインになると思います。