ユメ先輩のいないホシノvsユメ先輩しかいないホシノ   作:天野ミラ

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戦場に「それ」は不要なものだから


第3次元エンジン占領戦

第2次元エンジンの攻略も佳境という事らしい。

他に休憩に来ていないメンバーというと・・・

 

「シノ、元気そうで何よりだ。」

『えぇ、かなり休めたので・・・そろそろ私も前線に合流しようかと。』

 

「本当?もう少し休んでてもいいのよ?」

「正実のエリートであるこの私に任せておけば万事解決なんだから!」

 

心強い事を言ってくれるが、何もしないというのは思ったよりも辛い。

何もできない歯痒さを感じて、身体を動かしたくなる。

 

 

「わぁ、トリニティの皆さんですね!新しい仲間が加わりました!」

 

「ゲーム開発部のアリスちゃんですか・・・ふふっ♡」

 

恐らくは殆ど初対面のはずだ。

それでも物怖じせずに誰とでも仲良くなれるのはアリスちゃんの才能だろう。

 

 

「アリスちゃんの教育に悪いから変な事言わないでよね!」

 

「あらあら、コハルちゃん。()()()って例えば・・・どういう事ですか?」

 

「えっ・・・それは・・・その・・・」

 

「あはは・・・コハルちゃんが困ってるのでその辺で・・・」

 

「ふふっ、流石に私もTPOくらい弁えていますよ?」

 

 

本当かどうか怪しい、そのうち大きな舞台でやらかしそうで・・・

 

それにしても、補習授業部の皆が来るとは思っていなかった。

オペレーターとしてハナコちゃんが来ることは知っていたが・・・

 

『そういえば、どうして飛び入り参加を決めてくれたんですか?』

『皆さんがいるのはとても心強いですが・・・』

 

「それは・・・」

「セイアちゃんが提案してくれたんですよ?どうやら私達がついていった方がイイ事♡がある気がするって。」

 

セイアちゃん・・・詳しくは聞いてないが予知の能力を失ったとは聞いたけど。

似たような事を出来る何かがあるのだろうか、彼女も大抵秘密主義で分からない事が多い。

 

『まあ、セイアちゃんが言うからには・・・早々悪い事にはならないとは思いますが。』

 

その分トリニティの防衛戦力が落ちないが心配だが、その辺りはティーパーティを信じよう。

終わりだけ見れば・・・あの補習授業部を巡って起きた争いも、比較的綺麗に納められた訳だし。

その結果として、未だにトリニティは相当な戦力を保持している。

あれだけの争いがあって死人が一人もいなかったというのも、奇跡的な話だ。

一番危なかったのは、私と先生か・・・

 

『そろそろ管制室に行きましょうか、私も攻略戦の様子を確認しておきたいですし。』

 

「シノ、もう休憩は大丈夫なのか?」

 

『ええ。もう充分に休みました、多少の誤差があったとしても・・・』

『もうあのシロコに遅れはとりません。』

 

「そうか、シノが味方なら心強い。一緒に頑張ろう。」

 

「危なくなったらすぐ下がりなさいよね!」

 

丁度管制室に向かうと、第2次元エンジン前での様子が映し出されていた。

アビドスの皆に相対する、黒いシロコ。

 

「シロコちゃん?」

 

「・・・」

 

「皆も待って・・・ッ!?い、行かないで!」

 

「・・・どうして。」

 

黒い虚空のような空間に入っていき、姿が見えなくなった彼女。

次元エンジンを占領する事には成功したものの、こうものらりくらりと逃げられては・・・

 

それにしても何処か様子がおかしい。

時間を稼いでいるようなそんな動き。

確かに時間を稼いで、多次元解釈を復活させれば私達の負け。

その判断は正しいのだろう。

ただ、少しだけ・・・何かが引っかかる。

 

 

 

”お疲れさま!あと半分も頑張っていこう!”

 

第2次元エンジンの占領を終えた先生達が帰ってくる。

現状の占有率としては半分といった所。

ここからはおそらく相手の抵抗も激化していく・・・筈だ。

 

”シノもアリスももう大丈夫なの?”

 

『えぇ、ご心配をおかけしました。』

「はい!アリスがパーティに再加入しました!」

 

”それは良かった!それじゃあ・・・”

 

次の第3次元エンジンは対策委員会主導で進める事になった。

箱舟外郭にある次元エンジンはこれで最後となる。

 

「箱舟の演算機能の半分を掌握した事ですし・・・キヴォトスの諸葛孔明と呼ばれたこの私からも・・・一手仕掛けるとしましょうか。」

 

”何をするつもりなの?”

 

 

「ふふっ、内緒・・・です。敵を騙すなら味方から・・・と言うじゃありませんか。」

「言いたいだけでしょ、それ・・・」

 

 

「これより、アトラ・ハシースの箱舟の第三エリアへの突入作戦を開始します。」

「該当メンバーは先生の指揮に従って、占領作戦を遂行してください。」

 

”それじゃあ行こうか、よろしく頼むよ皆!”

 

「準備万端です!シロコちゃんを連れ帰りに行きましょう!」

 

 

アトラ・ハシースの船内に足を踏み入れる。

黒色を基調とした船内は、見覚えのない材質で構成されており・・・

強化ガラスに似た部分から見える内部は、よく分からない機器や廃熱機構が並んでいる。

確かにこれは箱舟と言うよりも、巨大な量子コンピューターだ。

浮いているのが不自然なほどに、浮力に関する機器が見当たらない。

 

無人と言える、この船内にも当然、防衛機構が存在しない訳ではなく。

 

「・・・来ます。」

 

人ほどの大きさもある6足歩行の獣型のロボットと球体形のドローンが行く手を阻む。

ミレニアムで出現を確認されたらしい、これらの名前は「無名の守護者」

それぞれタイプB・タイプMと分類されるらしいが、その特徴は何と言っても数。

質こそ、そこそこ止まりだが・・・

通路を埋め尽くすかのように群がってくる数はかなりの脅威と言える。

 

 

「全弾発射です~♧」

 

 

・・・通路を埋め尽くすという事は、何処を撃っても当たる訳だが。

群がろうとしていたロボットは種類がどうとか、気にする暇もない位に破壊されていく。

 

 

「いやはや、壮観だねぇ~こりゃあ、おじさんの仕事は無さそうかなぁ・・・」

「サボってないで働きなさいよ!?」

 

 

と言いつつ警戒は怠らないホシノ先輩。

フロントが厚いと、やはり戦いやすい。

 

 

「シノちゃんごめん!そっちに一匹行った!」

 

『了解ですよ、ユメ先輩。』

 

 

散弾銃で撃ち漏らしを処理しつつ、順調に歩を進める私たち。

先生の指揮すら要らない程度には圧倒できている。

その分、先生が周囲の警戒に集中出来るわけだ。

 

このまま行けば数分で第3次元エンジンに辿り着く。

寄せ集めでは足止めすらままならない現状、来るなら・・・今だろう。

 

 

”次元の不事前な揺らぎを確認、前方に注意して!”

「シロコ先輩・・・来ましたね。」

 

無名の守護者を従えるように現れた、黒いドレスのシロコ。

現れるとは思っていたけど、いざ相対すると何とも言えない感情が胸中を支配する。

 

「覚悟してよね!」

「大人しく捕まってもらいますよ!」

 

”一つだけ聞かせてほしい、シロコ。”

 

「・・・ん。」

 

”なんで色彩の嚮導者・・・プレナハデスの言う事を聞いてるの?”

 

「逆だよ、先生。」

 

”・・・逆って?”

 

「プレナハデスの命令で私が動いている訳じゃない。」

 

 

「命令しているのは、()。私が色彩を利用しているんだよ。」

 

 

彼女の立ち位置を告げる、あまりにも決定的な一言。

彼女は別に、操られた被害者ではなかった。

 

 

「先生、朗報と言っていいのか分かりませんが・・・」

「たった今」シロコさんの存在を第4次元エリアで確認しました。」

 

 

「どういう事よ・・・シロコ先輩が二人・・・まさか?」

 

「・・・」

 

「やっぱりか・・・おじさん勘違いしてたよ。」

「色彩がシロコちゃんを変えた訳じゃない・・・「君」は」

 

 

私達の知ってる「シロコちゃん」じゃない。

 

 

私やユメ先輩と同一の、世界を渡る存在。

その線を考えてはいたが、確証が取れてよかった。

シロコちゃんが無事で良かった、それなら・・・思う存分にやれる。

 

『・・・とりあえず今は押しとおりましょう。エンジンはもうすぐそこです。』

 

「相手のシロコ先輩も戦闘態勢に入りました!先生、指揮を・・!」

 

”皆、気を引き締めていこう!”

 

 

開戦の合図代わりの、鋭い射撃が耳元に飛んでくる。

相手の銃は、突撃銃(アサルトライフル)

無名の守護者達を遮蔽代わりにして、針に糸を通すかのような射撃を行ってくる。

射撃の正確さは流石・・・もしかしたら彼女以上かもしれない。

 

 

逸る気持ちを抑えて、冷静に隙を伺う。

一人で先走って余計なダメージを受けるべきではない。

 

「ホシノとユメは射線を塞いで・・・!ノノミは掃射用意を!」

 

「了解・・・っと。」

「防御なら任せてよ!」

 

てっきり、グレネードを放ってくると思って身構えていたが・・・

消極的な戦法だ、ゲマトリアの会議場で会った彼女とは別物みたいに。

 

無名の守護者を破壊しつつ、リロードを挟むが・・・本当に無尽蔵に湧いてくる。

とは言え、掃射の用意が完了したようでミニガンが射撃の為の回転を始める。

私も用意をするべきだろう。

 

「用意完了です!今撃ち・・・きゃっ!」

 

当然、誰に気を払えば良いかは一目瞭然だ。

鋭い射撃がミニガンを直撃し、ノノミちゃんが大きく体制を崩す。

 

 

「作戦を目の前で・・・」

 

 

言う馬鹿はいない。

 

 

”シノ、行ける?”

『当然です。』

 

 

相手は巨大な怪物ではなく、意思と知性を持った人型。

馬鹿正直に作戦を目の前で伝えてやる必要は無い。

 

先生は会話が聞かれる事も織り込み済みで、別のプランを立てていたわけだ。

こういう所は大人と言うより、先生の駆け引きの上手さ・・・才能によるものだろう。

 

『我が眼光と化して・・・』

 

”神秘”のチャージは不十分、けれど・・・この狭い通路。

無名の守護者や、その残骸がひしめくこの狭い通路では・・・

 

「避け・・・ッ!?」

 

『―――焼き尽せ。』

 

避けられないだろう。

視界が真っ赤に染まる程の極光。

特注のスラグ弾は、例え不十分な一撃でも少なくないダメージを与えられるはずだ。

 

 

『・・・浅いですね、咄嗟に残骸を盾にしましたか。』

 

 

左腕から床に滴る鮮血・・・当然無傷という訳にはいかないと思っていたが。

しかし、思ったよりも浅かった。

この一撃で仕留めきれるとは思っていなかったが・・・

次弾を装填しようとして、黒い靄が虚空に現れる。

 

「・・・撤退。」

 

次弾は・・・間に合わない。

取り逃したことは悔しいが、もう逃げ場はない。

遅かれ早かれ、すぐにこの戦いにも終止符が打たれる。

 

「いや~お疲れ様~後はエンジンを壊すだけだね・・・先生?」

 

何時になく、厳しい顔の先生。

こんな目を見たのは、アリウスの時以来だろうか。

 

”シノ、今のはやりすぎたよ。”

 

 

今の、というのは。最後の射撃の事だろう。

 

『・・・何か、いえ。すみません、先生。当たるとは思ってなくて。』

 

”・・・うん、そっか。”

 

何処となく気まずい空気が流れる、先生は甘い・・・甘すぎる。

でも、それが良い所でもあると思う。

 

「いや~それにしてもゴメンね?ノノミちゃん。怪我はなかった?」

 

「私は大丈夫です!トレーニングの成果が出ましたね~♧」

 

「もたもたしてないで早く行くわよ!時間が命なんだから!」

 

 

黒い通路に所狭しと並んだ機械の残骸を、踏み分けて歩く私達。

帰る頃には、床に落ちた真っ赤な鮮血は・・・赤茶色に変色していた。

 




Twitterって記載してたけどXです。

https://x.com/AmanoMira43648

完結まで少し更新頻度をあげられれば良いなと思ってます。
最終話以外は。
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