ユメ先輩のいないホシノvsユメ先輩しかいないホシノ 作:天野ミラ
モニター越しにこちらに手を振るシロコちゃん。
「あーあー・・・見えてるよ、皆。」
”シロコ・・・無事でよかった・・・!”
「ん・・・油断した。まさか、セリカじゃなくて私が狙われるとは・・・」
「ちょ、ちょっと!?それどういう意味よ・・・!?」
「ん・・・そのままの意味。」
『何はともあれ・・・無事でよかったです、本当に。』
誘拐である以上、命は無事である可能性は高かったが・・・
心に大きな傷をつけるような事態が起きていてもおかしくなかった。
気丈に振舞っているだけかもしれないが・・・
いや、金目の物を物色していた辺り本当に大丈夫なのだろう。
盗人猛々しいというかなんと言うか・・・
「シ~ロ~コ~ちゃ~ん???」
「じょ、冗談だから。探して、持って帰る算段をつけてただけで、まだ手は出してない。」
「も~シロコちゃん。火事場泥棒みたいな手は・・・メッ!だよ?」
「ん・・・次は上手くやる。」
「シロコちゃん???」
「今度こそ冗談、それじゃ皆・・・待って―――るから。」
掌握できた権限の問題か、通信状況の問題かシロコちゃんの映し出されていたモニターが消える。
箱舟の大部分を掌握できたことで、詳細なマップが確認できるようになった。
彼女が居るのは、第4エリアの封鎖されたセクション。
ここを開くには、箱舟の上層にある「制御室」を破壊しなくてはならないらしい。
ハッキングしようにも、上層の特別エリアは物理的に離れていて効力が及ばないそうで。
「残るは箱舟の最終エリア・・・中心部の第4次元エンジンのみとなりました。」
「ここを破壊すればついにアトラ・ハシースの箱舟もおしまいってわけ!」
「ええ、ですが油断はできません・・・これまで以上の抵抗が予想されます。」
「そして、シロコさんの救出も行う必要がある、となると・・・」
「二手に分ける必要がありますね?第4エンジンの破壊と制御室の破壊の。」
「制御室には私達「アビドス廃校対策委員会」が行くよ。」
「先生達は、最後の次元エンジンをお願い。」
シロコちゃんを助けるために必要な作戦だ、私達が行くのが筋というもの・・・だろうか。
そうでなくても、このメンバーの中で
”分かったよ、皆も・・・気を付けてね!”
「任せてください~♧」
「次元エンジンの方は頼んだわよ!」
『・・・先生。』
右手をグーの形にして前に突き出す。
何処となく、言葉で気持ちを伝えるのが難しくてこういう形を取った。
”えっと・・・パー?”
『ちっ・・・違いますよ!フィスト・バンプって奴です。』
”あはは、冗談だよ。”
互いの手を付き合わせる・・・私よりも大きい拳。
私よりもずっと弱いはずなのに、安心感があるのはどうしてだろうか。
『健闘を祈ります、気を付けてくださいね。』
”うん、シノも・・・気を付けて。”
「それじゃ、早速だけど行こっか~シロコちゃんも首をながーくして待ってるよ~」
「それもそうですね・・・皆の方のオペレートは引き続き私が行いますね!」
アヤネちゃんのオペレートを元に歩き出した私達。
道中には先程も見た無名の守護者達が押し寄せてくるが・・・
「さっ、次に行こっか~」
「敵性反応・・・ロスト。そこの道を突きあたり右です。」
所詮は雑兵、私達の相手にはならない。
警戒するとすれば、あのシロコくらいだろう。
あちらに出てくるか、こちらに出てくるかは正直何とも言えないが・・・
優先防衛目標としてはあちらが上だろう。
あれから暫く歩を進めて、何の問題もなく制御室らしき場所の近くに辿り着いた。
静かだ・・・いや、敵は偶発的に現れるので音がしない訳ではないのだが。
順調すぎるとも言えるだろう。
敵の動きが無さすぎる、第4次元エンジンの道中にもあの女は現れなかったようだし。
『・・・少し確かめたいことがあるので、ここを任せても良いですか?』
「なっ・・・危険よ!この船の中を一人でなんて・・・!」
上層と言うだけあって船の全容が窓から確認できる。
外郭にある3つの次元エンジンがあった箇所と、今先生が向かっている第4エリア。
地図上では中心部分は空洞となっていたが・・・
『・・・この船の構造は何処かおかしいと思っていたんです。』
『第4エリアの中心は空洞なんかじゃない、そこには”何か”が存在する。』
『敵が地図上には記載したくなかった・・・何かが。』
思い違いなら良い、大したものが無ければ尚良い。
だが、不安の芽は潰しておくべきだ、
だがこのまま・・・こちらにも、あちらにも・・・あのシロコが現れなかったとしたら?
それは何処かに、彼女達の本拠地が存在する事になる。
何よりあの時の戦闘、手傷を負った程度の撤退。
ゲマトリアの会議室で見たときのような、必死さが無い。
「しょうがないなぁ・・・無理はしないでよ?」
『確約は出来かねますが・・・善処します。』
「ちょ、ちょっと待ってよ!?シノちゃん!」
『ユメ先輩、皆を守ってください。後の事は私がケリをつけてきます。』
反応を待たずに、走り出す。
何が目的かは分からないが、敵を倒してしまえばどうとでもなるはず。
「追っても無駄だよ、追いつけないからさ。」
「私達は・・・私達に出来る事をしよう。」
▼第4次元エンジン 先生視点
”もうすぐ第4次元エンジンが・・・あれ?”
「あはは・・・辿り着いちゃいましたね?」
「そこの物陰に隠れているかもしれない、注意しよう。」
無名の守護者の抵抗こそあったものの、何故か黒シロコの姿は何処にも見えなかった。
目の前には大きな次元エンジンが見えている。
後はこれを破壊するだけで終わりになる・・・筈だ。
「まあ?壊せるうちに壊しちゃった方が良いわよね!」
「ちょ、ちょっと待って下さいコハルちゃん!罠かも・・・!」
”どのみち壊すしか・・・私達に道は無いんだから、大丈夫だよ。”
例え罠だとしても突き進むしかない。
狙撃中の弾丸が突き刺さり、黒い煙を上げて最後の次元エンジンが破壊されていく。
「アトラ・ハシースの箱舟の全エリアのハッキングを完了。」
「自爆シーケンスは一度起動したら、もう取り消しは出来ないから準備が出来たら教えてね。」
ヴェリタスの皆の方も準備が出来たみたいだ、後はシロコを迎えに行って脱出するだけ・・・
「制御室の方も破壊が完了したんだけど・・・こっちにもあのシロコちゃんは現れてないんだよねぇ~それを探りにシノちゃんがそっちに向かってるんだけど・・・」
閉じられていた第4エリアの扉が開く、近未来的な室内と赤い室内灯。
そして中にいたのは、私達の良く知るシロコ。
「・・・先生。」
”シロコ・・・良かった!”
「積もる話もあるけど、早く脱出しないといけない。」
「シロコ先輩・・・!ウトナシュピテムの本船がある第一エリアまでご案内しますね!」
これで・・・
「ちょっと待って頂戴・・・!?ウトナシュピテムの本船の中枢システムが・・・?」
<自爆シーケンスを実行します>
「どどど、どうして!?まだ自爆シーケンスは実行してないのに!?」
アトラハシースの箱舟の自爆シーケンス・・・じゃない。
通信機越しに聞こえたこれは、まるで・・・!?
「皆、伏せてっ!?」
大きな爆発音が船内に響き渡る。
本船のあった第一エリアの方から。
”皆・・・無事!?”
「こっちは無事・・・ですが船が。」
「・・・やられました。こちらがアトラ・ハシースの箱舟をハッキングしていた間。」
「相手は、ウトナシュピテムの本船をハッキングしていたという事ですか・・・」
「現在、ウトナシュピテムの本船は相手が掌握している形になります。このままでは帰れない所か・・・虚妄のサンクトゥムが・・・復活します。」
空が再び朱く染まっていく、地上の様子は見えないが。
サンクトゥムの出現まで秒読みだろう。
もし相手がどこかに隠れているとすれば・・・
”シロコ、賭けになるけど・・・ついて来てくれる?”
「ん、先生が行くなら・・・何処へだって。」
走り出す、私達。
本船とは逆の方向、アトラ・ハシースの箱舟の中心地に向けて。
そこに何かがある、そんな気がしたんだ。
「ハッキング先が分かったよ!場所は・・・アトラ。ハシースの箱舟の中央。」
「座標名は、ナラム・シンの玉座。先生がもう向かってるんだね?」
”うん、ハッキングはこちらで止めてみせるから・・・他の問題をお願い!”
「き、気を付けてください!先生、シロコ先輩!」
「ん、突入したら敵の制圧に回るね。」
嫌な雰囲気を感じる、そんな大きな広間。
室内なのに、霧が立ち込めていて・・・暗い事もあって中の様子が見渡せない。
「ん、止まって先生。私が先導する。」
”私の方でも、気を付けるけど・・・シロコも気を付けてね。”
少しずつ・・・歩を進めるごとに中心に人影が見える。
「・・・動かないで、動いたら撃つ。」
「・・・」
「動くな・・・!」
こちらの様子を気にせずに、懐から何かを取り出そうとする無機質な白色の巨体。
「我々は望む、ジェリコの嘆きを・・・」
「・・・ッ!」
アサルトライフルの射撃音が響く、空になった薬莢が床にカランと落ちる。
射撃は・・・何処か
何処かで見た、挙動だ・・・とても見覚えのある弾丸の
「・・・我々は覚えている、七つの古則を。」
聞き覚えのある、パスワード。
もしも勘違いでなければ・・・
「「シッテムの箱」に常駐しているシステム管理者であり、メインOS。」
「A.R.O.N.A、命令を待機中。」
私の持つのと同じ、タブレット端末「シッテムの箱」。
”シロコ・・・下がった方が良い。もし私の推測が正しければ・・・”
”あれは、別の世界の・・・