ユメ先輩のいないホシノvsユメ先輩しかいないホシノ 作:天野ミラ
▼ナラム・シンの玉座 先生視点
近づくにつれて見えてくる、相手の姿は三人。
一人は黒いドレスを着たシロコ・・・もう一人は
「アロナちゃんが二人いるのはまだ理解できますが、どうしてシッテムの箱のOSが実体を!?」
「回答、この「ナラム・シンの玉座」は、次元・時間・実在の有無・・・全てが確定されずに混ざり合う混沌の領域だからです。」
「だからこそ、一管理システムでしかない私がこうして実在し、同一存在である砂狼シロコが同じ世界に二人存在できる。」
「私の声が先生以外に聞こえているという事は、出鱈目を言っているという訳ではなさそうですね・・・」
硬直してしまった状況、何も喋らないプレナパテス。
別の世界の私なら、何かしらのコンタクトを取ろうと考えると思ったのだが。
「・・・先生、私の方でスキャンを行った結果なんですが。」
”うん、教えてくれるかな、アロナ。”
今は少しでも場を理解できる情報が欲しい。
「プレナパテスは間違いなく、別の時間軸の先生です。そして・・・」
「プレナパテスは既に・・・生命活動を停止しています。」
”死んでる・・・って事?”
「そうだよ、先生。だって―――」
「―――先生を殺したのは、私だから。」
「・・・えっ?」
あの日見た、何処となく覚えている雨の日の夢。
あれは、恐らく別の世界の私・・・プレナパテス自身が見た光景だったのだろう。
「そうしたら、先生は「色彩の教導者」になった。」
「これは恐らく、色彩の影響だろうね。」
「そして私を色んな世界に連れて行ってくれてるの。」
「世界を終焉させるという私の性質・・・その運命を実現させる為に。」
「ふ、ふざけ―――」
「貴方は私だよ、砂狼シロコ。世界を滅ぼしたのも、先生を殺したのも・・・私。」
「―――ないでッ!!!」
シロコがアサルトライフルを構え、ばら撒くようにトリガーを引く。
しかし、一発も・・・ただの一発もその弾丸は当たることは無かった。
プレナパテスが私なら、あれは恐らくシッテムの箱の演算処理によるもの。
”待って、シロコ!”
「そんなの・・・そんなの私は信じないッ!」
「ふざけてもないし、信じなくても良い。でもこれは・・・」
弾が当たらない事に痺れを切らしたシロコが射撃しながら、接近する。
しかし、どれだけ距離を詰めても最低限の動作で弾丸は回避される。
未来視の如き戦況予測と、彼女自身の戦闘経験の多さ・・・
「既に定められた事。私たちが存在する限り、変わりようのない事実。」
肉薄したシロコが銃を構え接射を試みるが・・・
鋭い蹴りによって、構えていた突撃銃は宙を舞う。
「あなたより、幾つもの死線を潜り抜けてきた。」
「あなたの知らない事を・・・たくさん知って来た、その差は埋まらない。」
「・・・っ!」
何時の間にかもう一人のシロコが構えていた、真っ黒な突撃銃。
色こそ違うものの、シロコの持っているものと同様に見える・・・その銃口が射撃による閃光を発する。
退避の為に大きく距離を取ったシロコ。
倒れこそしなかったものの、ダメージは浅くない。
「諦めて、楽になった方が良い。私は・・・あなたよりも強い。」
”シロコ・・・!大丈夫!?”
「せっ、先生。私・・・私は!」
”大丈夫、分かってるよ。シロコはシロコだよ。”
「同情するよ、シロコ。もし何もしなければ・・・何も知ることなく終われたのに。」
「足掻くから、苦しむ事になるって・・・もっと早く知れていればよかったのにね。」
彼女の呟いたその一言は・・・哀れみのようにも、自嘲のようにも聞こえた。
▼ウトナシュピテムの本船
「座標・ナラム・シンの玉座に入った途端、先生との連絡が途絶えました。」
「先生とシロコさんの事は心配ではありますが・・・我々は我々に出来る事をするしかありません・・・!」
「一旦、現状を整理しましょうか。現在進行中の爆破シーケンスを止められなければ・・・虚妄のサンクトゥムの再出現は際限なく行われ、キヴォトスは滅びの未来を迎えます。」
「仮に先生達が上手くやったとしても、船を取り戻さない事には我々は帰還する事が出来ない。」
「そのために箱舟の東西に位置する、解除装置を破壊した後・・・最下層のシャル・カリ・シャッリ回廊にある「端末」を破壊してアトラ・ハシース側からのアクセスを止める他ありません。」
「解除装置の破壊にはゲーム開発部とアビドスの皆さん、回廊までの露払いを補習授業部が行い美食研究会とフウカさんに端末まで向かってもらう形を取りましょうか。」
「絶対、絶対おかしいよこれ・・・!」
「フウカさん、ここが正念場ですわ!」
「えぇ、ここが正念場です、我々も最後までオペレートします・・・!」
「それでは作戦を開始します・・・!」
一斉に走り出した私達、ここからは時間との戦いになる。
「最期にもうひと仕事と行こうか~」
「シロコちゃんと先生は無事でしょうか・・・?」
「シノちゃんも向かったし・・・きっと無事だよ。」
どうしてだろう、何かが引っかかる。
何かを見落としている・・・そんな気がしてならない。
「・・・少し良いだろうか、ヒフミ。」
「ど、どうしたんですか?アズサちゃん・・・」
「話しておきたいことがあるんだ。」
▼ナラム・シンの玉座 先生視点
指揮も戦闘力も相手の方が上・・・悔しいが認める他無い。
シロコだけでなく、
「手榴弾・・・!?」
”シロコ伏せて!”
大きな爆発と共に、爆風がこちらまで届く。
少しずつ・・・だが着実に被弾が増えている。
「現実はこんなもの、悪い事は言わないから諦めた方が・・・ッ!?」
後方から飛んで来た赤色の光条が、もう一人のシロコを掠める。
この戦闘が始まって初めてとなる有効打。
『遅くなりました・・・シロコちゃん、先生。』
「ん、待ってた。」
”シノ・・・来てくれると思ってた。”
桃色の髪をたなびかせて現れた、散弾銃を持った少女。
ここに入る前に向かってくれているとは聞いていたが・・・
急いで走ってきたのだろう、息が少し荒い。
「もう一人の・・・ホシノ先輩。」
『小鳥遊ホシノはこの世界には一人しかいない。私はシノ、高那シノだよ。』
「別の世界の・・・異分子。成程、それなら辻褄が合う。」
『もう逃げるつもりは無いんですね、文字通りここが決戦の場と言う事ですか。』
「もう、時間を稼ぐ必要は無いから。」
『あの時の続きと行きましょうか、先生・・・指揮をお願いします。』
”任せて、皆で・・・勝とう!”
『私がフロントを張ります、シロコちゃんは消耗が激しそうですし。』
”了解、そのプランで行こう。”
2vs1と形勢が逆転した私達だが、それでも戦況はそこまで有利になったわけではなかった。
ここは相手の掌の上と言っても良い、演算処理に箱舟の力を利用している以上は相手の方がより優れた行動予測ができるという事。
だが、しかし・・・
”シノ、そこから3時の方向!”
『了解しました。』
”シロコは退路を塞ぐように射撃お願い。”
「ん、了解。」
「正面から迎え撃てば良いだけ・・・!?」
『”視えてる”んですよ。そこは私の間合いです。』
援護射撃を嫌って接近戦闘に持ち込んだ相手に対して、行動予知と純粋な動体視力を使って・・・相手の進行方向に散弾銃の射撃による牽制を入れるシノ。
言ってしまえば、究極の後出しジャンケン。
相手の方が演算処理が上であっても、実際に動くのは生徒だ。
その生徒が対応しきれなければ意味がない。
”シロコ!”
「ん、ドローンでの火力支援を始める。」
「・・・戦術的制圧ッ!」
突如として現れた盾で攻撃を防ぎ、散弾銃でドローンを打ち落とす彼女。
見間違いでなければあれは、ホシノの
原理は分からないが、この様子ならアビドス全員のEXを使えると踏んでおいた方が良いだろう。
使ったではなく、”使わせた”。
相手の手札がここで、一枚知れたのは成果と言えるだろう。
とは言えダメージは殆どない、このままでは爆破シーケンスが起動するのが先になるだろう。
「ドローン起動、火力支援を開始。」
お返しとばかりに相手もドローンを起動して攻撃を行おうとする。
”シノ、後ろに退いて!シロコはドローンを撃ち落として・・・”
『その必要は無いです。』
ドローンが起動する一瞬の隙をついて、肉薄するシノ。
だが、その位置じゃ攻撃を避けれらない・・・!
ドローンから放たれた無数のミサイルが着弾し、大きな爆炎をあげる。
その直後、煙の中から飛び出た赤色の閃光がもう一人のシロコに直撃する。
「ぐっ・・・!」
『浅いですか。』
煙の中から出てきたシノは、当然無傷とはいかずに所々火傷をしている。
”なんで・・・!下がってって・・・”
『時間が無いんですよね?あの程度の攻撃なら、受けきった上で反撃できますから。』
”そう言う事じゃ・・・いや、後にしよう。でも、自分の身体はちゃんと大切にして欲しい。”
「ん・・・シノは気を付けるべき。」
ダメージは相手の方が大きい、有利になったはずの戦場。
だが、一抹の不安をぬぐい切れずにいた。
「提案、箱舟の演算リソースの一部を戦闘指揮に再分配する事を推奨します。このまま戦闘を行った場合の勝率は30%以下と予測されます。」
「・・・先生、その必要は無い。」
プレナパテスが手元のタブレットを操作する、この空間から感じる圧のようなものが一段階上がった気がする。
だがしかし、それは外の皆にかかる負担が減ったという事。
時間は必ずしも相手の味方をするわけではない。
今は皆を信じて、耐える事が正解・・・のはずだ。