ユメ先輩のいないホシノvsユメ先輩しかいないホシノ 作:天野ミラ
皆が幸せな、そんなハッピーエンドが・・・ね。
▼ナラム・シンの玉座 先生視点
あちらのシロコが投げた手榴弾が、撃ち抜かれて空中で爆発する。
爆風と共に突進してきた彼女の行く手を、シノが立ち塞ぐように牽制する。
”シロコ、手榴弾の用意をお願い。シノはそのまま牽制を続けて。”
「ん、分かった先生。」
『了解です。』
戦況は互角と言っていい。
攻めるプレナパテスと、消極的な立ち回りをする私。
今までと真逆の立ち位置と言っていい戦い。
だけどそれを相手に悟られないようにしなければならない。
『警戒されてますね、今撃ってもまず当たらなさそうです。』
「ん、相当厄介。」
相手もこの状況に焦っているようで、どうにかして戦況を変えようとしている。
「決め手に・・・欠ける。」
「推奨、さらなる戦闘への再分配を・・・」
「その、必要は・・・無い!」
虚空からミニガンを取り出した彼女、ノノミの持っている
ミニガンが回転を始める、その火力は味方にいた時に痛いほどわかっている。
『シロコちゃん、後ろに。』
「ん、分かった。」
ミニガンが鈍い音共に連射を始める、逃げ場のないように掃射されたそれを避ける事は難しいだろう。
盾を持ってないシノが地面に向けて散弾銃を向ける。
数発撃ちこんだと思うと、シノは・・・かかとを地面に振り下ろす。
「戒めの・・・時ッ!」
パラパラと煙が晴れて、瓦礫と共に二人の姿が現れる。
割れた地面の床を、二人を守る遮蔽にしたのだろう。
流石に大きなミニガンを射撃しただけあって、大きな隙が生まれる。
”シロコ、今!”
「ん、手榴弾・・・投擲。」
「しまっ・・・!」
咄嗟にミニガンを盾にしたようだが、爆発の直撃を受けた彼女。
相手側の焦りを感じる、箱舟の演算リソースをこちらに割り振ったせいだろう。
『ナイスです、シロコちゃん。』
「シノこそ、良い機転の利かせ方だった。」
”油断しないでね、2人とも。”
煙が晴れて、姿を現した彼女は殆ど無傷。
あの距離の爆風の方向すら反らしたか・・・かなり強い演算負荷がかかるはずなのに。
「次、次はどうすればいい・・・先生。」
焦燥感から縋るように、プレナパテスを呼ぶあちらのシロコ。
先ほどよりも戦闘に箱舟のリソースを裂いているというのに、上手く行かない事が焦りを生んでいるのだろう。
”シロコ・・・もう・・・”
「驚いた、こんな姿になって・・・こんな事をしていても・・・先生は私の事をシロコって呼ぶんだね。」
”うん、シロコに伝えたいことが・・・”
「それでも、何も変わらないよ。私は・・・」
大きな爆発音が、船内に響き渡る。
それと共に、船内に響き渡る警告音。
「―――生、先生!」
ザザッと言うノイズと共に通信がかかってくる。
”・・・ヒマリ?良かった、解除出来たんだね!”
「ええ、後は脱出するだけ―――。脱出シーケンスの権限を付与して―――ので――帰還して―――!」
ノイズ交じりではあるが、帰還すればいいのだろう。
ただ、相手もそんな隙を作ってはくれなさそうだ。
「脱出シーケンスの回数は搭乗員の人数と同じ
ブツリと連絡が切れる、不安定なこの場所で次の通信がいつ繋がるかは分からない。
28回・・・つまりあちらのシロコは数に含まれていない。
私は、どうするべきだろうか。
”シロコ、シノ・・・!あっちは上手く行ったって!”
「ん、皆の力を信じてた。」
『えぇ、流石ですね。』
「警告、ウトナピシュティムとの接続解除を確認・・・アクセスが遮断されています。」
「アトラ・ハシースの箱舟の自爆シーケンスが起動しています・・・このままでは計画は失敗に終わります。」
皆がやり遂げた。
例え別々の場所で戦っていても私達はお互いの成功を信じあえていた。
「そっか、本当にやり遂げたんだ・・・厄介だね。」
「現在、自爆シーケンスの解除方法と虚妄のサンクトゥムの再生成を・・・」
「その必要は・・・ない。」
「何時だって先生は、不可能を可能にして、奇跡を起こしてきた。」
「でも、それなら簡単な話。先生さえいなければ後は・・・どうにでもなる。」
「承知しました、箱舟及びシッテムの箱の全リソースを戦闘支援モードに切り替えます。」
暗かった玉座に光が射す、ここからが正真正銘の本気。
「そう簡単に経験の差は埋まらない、ホシノ先輩・・・いやシノ先輩が居ても変わらない。」
「私はもう―――止まれない。」
『止まる必要なんてないですよ、ここで終わらせてあげます。』
三台のヘリコプターが出現する、雨雲号・・・アヤネのEXか。
今までと段違いの攻撃が・・・えっ?
”シ、シノ・・・?”
『ようやく、合点がいきました。』
無防備に歩いていくシノ、そんな事をすれば蜂の巣に・・・!
『あの時出会ってからずっと疑問だったんですよ、どうして攻撃を躊躇するのか。』
『重ねているんですね?私を・・・貴方の知る小鳥遊ホシノに。』
「・・・ッ!近づかないで!それ以上近づいたら撃つ・・・!」
ヘリを意にも解せず、ゆっくりと歩いていくシノ。
何故かヘリからの攻撃は・・・無い。
『本来は道具も手段もそう重要じゃない、そう
『重要なのは・・・「殺意」。お前は自分で引き金を引く覚悟が出来ていないだけ。』
『だから道具に頼るんですね?ヘリやドローン・・・それに
「黙ってッ!」
雨雲号のようなヘリからミサイルが射出される・・・
それを
ミサイルを発射するには、既に互いの距離が近すぎた。
散弾銃の銃口を突きつけると同時に、散弾銃を五度。
撃つ、撃つ、撃つ、撃つ―――撃つ。
「ぐっ・・・!」
”シ・・・シノ!?”
五発撃ち切って、リロードを・・・挟まない。
鈍い打撃音と共に、地面を跳ねるように転がっていく。
「がっ・・・!」
明らかにいつもの冷静な戦い方の欠片もない、様子のおかしいシノ。
震える手で
この距離なら間違いなく当たるだろう、あの威力だ・・・当たれば致命傷になり兼ねない。
それでも・・・
「私には―――撃てない・・・撃てないよ・・・」
しかし、ゆっくりと銃口を下ろし・・・力なく膝をつく。
彼女自身に交戦の意思は見受けられない。
ゆっくりと倒れているシロコに近づく。
”シロコ・・・少し良いかな。”
『先生・・・!』
”お願い、シノ。”
『・・・ッ。怪しい動きを見せれば、直ぐにでも撃ちますから。』
”うん、ありがとう。”
「私の・・・負け。どうしてこうなっちゃんただろう・・・何が足りなかったのかな。」
”ねえ、シロコ。”
「・・・」
”何があったのか、教えてくれるかな。”
「なんで・・・そんな事を聞くの?私に何か事情があると思ってるの?」
”シロコは・・・理由もなくこんな事をしたりしない筈だと思ったから。”
「これは・・・私の本質。死の神である私がいるから・・・私が生きてるから皆が死んだ。」
「私がいる限り世界は・・・滅亡に近づく。」
「それは全ての時空の「忘れられた神々」が消滅するまで止まらない。」
「・・・そんな私に何があったか聞くの?どうして?」
”生徒の事を信じるのが、大人として・・・いや・・・”
独り辛そうにしていた彼女を見捨てられなかった、私が・・・
”私が・・・そうしたいんだ。”
「・・・そっか。」
ぽつぽつと今まで何があったのかを話し始めた、彼女。
「私、私は・・・ホシノ先輩が死んで、セリカが行方不明になって、ノノミが自らの生を諦めて。アヤネが生命維持装置を外して・・・そして、先生が・・・先生が植物状態になって。」
その内容は、想像を絶する程に過酷なものだった。
「先生がもう助からないって聞いて・・・全てがどうでもよくなって・・・もう
「色彩と無名の司祭・・・色彩に触れて、色彩の教導者になるはずだった私の代わりに、先生が・・・先生が・・・色彩の教導者になった。」
「全ては私が・・・私が生きているから。私のせいで皆が・・・皆がぁぁああああ!!」
違う、生まれてきた事を悔いなきゃいけない子供が居ていいはずがない。
「あぁ―――先生。」
「せっ、先生!?」
プレナパテスが初めて口を開く、おそらく最期の力を・・・ふり絞って。
「どうか、どうか――――」
”うん。”
「生徒達を―――よろしくお願いします。」
きっとこの選択を恨む子も悲しむ子もいるだろう。
しかし
私は、私の分の脱出シーケンスを彼女に―――
”え・・・?”
パァンと言う乾いた音が・・・室内に響き割った。
壊れてはいないものの、操作しようとしたシッテムの箱が床を滑る。
”シ、シノ?何を・・・”
『何を?はこちらの台詞ですよ、先生。今自分が何しようとしているのか分かってるんですか?』
『先生・・・いや、あなたは自分の身を犠牲にして助けようとしたんですよね?』
『よりによって・・・
淡々と事実確認をするように、私のしようとしていた事を話す彼女。
私の身を案じて・・・というよりも、内心に秘めた怒りを零さないようにしているように見える。
”彼女は・・・もう一人のシロコも私の・・・”
『・・・生徒だから?プレナハデスが別世界の自分だから?だから・・・何?』
『色彩に利用されていたから?プレナハデスが
『・・・仕方がないって本気で言ってるの?』
”そうじゃないけど、その責任は彼女だけのものじゃ―――”
『―――私の、私達の世界は”色彩”に滅ぼされたのに?』
”・・・っ。”
彼女・・・シノにとって、色彩とその教導者達は単なる倒すべき敵じゃ・・・ない。
その事を、私は理解していなかった。
『邪魔だけはしないでください、これは私の・・・』
「私はともかく、先生だけは―――!」
あちらのシロコがプレナパテスを庇うように手を広げる。
シノの散弾銃が朱い光を帯び始める。
生徒が
シッテムの箱を拾い直し、帰還用のモジュールを起動させる。
例え嫌われたり恨まれたとしても、構わない。
”シノ、先に地上に・・・!”
『―――黒服。』
色彩鮮やかだった、ナラム・シンの玉座が
何処かからか現れた黒い頭の異形。
「アトラハシースの存在証明機構を掌握しました。あれだけのセキュリティと言えど
”黒服・・・!”
「おっと、先生。こんな状況で、テレポートなんて無理な移動を行えばその存在を維持しきれずに・・・最悪は霧散の恐れもあります。くれぐれも大人しくしていてくださいね?」
『色彩が何だっていい。私の・・・私達の”復讐”を邪魔するなら誰であっても・・・敵。』
”・・・待って、シノ。”
『そうですよね、優しい顔で私の身を重んじても・・・結局は並行世界の自分の意思が大切なんですもんね?』
”違う、話を聞いて・・・シノ・・・!”
『もう既に、”言の葉を交わす時間”は過ぎ去ったんだよ。』
吐き捨てるように、何時になく強い口調で告げられた
まるで、決別のようにも聞こえた。
『・・・あるいは、もう少し早く話し合ってれば”何か”変わったのかもしれませんが。』
一抹の、後悔のようなものが込められた一言。
その意味を問いただす前に、閉じられたはずの室内に・・・大きな風が吹き荒れる。
ヘイローを持たない、私にも・・・彼女の周りに圧力のようなものを感じる。
・・・そして、明確な拒絶の意思も。
今の彼女は、助言も救いも求めてはいないのだろう。
『黒服は貴方を協力者として定義し、高め合えると信じていた。』
『マエストロは貴方を理解者と認識し、互いに高め合えると信じ・・・』
『ゴルコンダは貴方をメタファーと認識し、お互いを通じ完成されると信じました。』
『そして、ベアトリーチェは貴方を敵として認定し・・・貴方の前に立ちはだかった。』
『ならば、私は貴方を・・・いや、”シャーレの先生”をこう定義しましょう。』
『仇敵・・・と。』
何時になく表情の見えない彼女が、天狗のお面を外す。
その目に見えるのは絶望、失望・・・そして強い怒り。
今になって口調と仮面を変えたのは、”生徒”としてでなく”ゲマトリア”として・・・
私の前に立ちはだかるという意思表示もあったのだろう。
『我が名はゲマトリアの「白鷹」。』
『先生、邪魔するなら・・・命の保証は出来ないよ。』
『今から始めるのは、仇討ち・・・正真正銘の殺し合いなんだから。』
―――そんなものが、本当に在れば。
過去が取り返しのつかないモノな以上は、そんな事は有り得ないというのに。