ユメ先輩のいないホシノvsユメ先輩しかいないホシノ   作:天野ミラ

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この場に正義はない、それぞれのエゴがただあるだけ。


戦う理由

▼ナラム・シンの玉座 先生視点

 

 

「シノ・・・こんなの・・・こんなの戦いじゃ・・・」

『これは戦いじゃないと言ったでしょう、シロコちゃん。私は()()を持ってこの場に居る。』

 

 

対象的な()()()()()()()()()()を身にまとった少女たちの争い。

激情を抑え付け、冷静に・・・そして正確に攻撃を行うシノ。

それに対しプレナパテスを庇おうと、応戦するシロコ。

 

先ほどまでのダメージが蓄積しているからか・・・それとも銃を向けるのを躊躇しているからか、防戦一方と言った様子。

いや、恐らくはシロコには攻撃を当てる気が無いのだろう。

彼女の痛々しい生傷ばかりが増えていく。

 

 

「お願い、私は好きにしてもいいから先生だけは・・・私が悪いの。」

 

『そんな都合の良い話がある訳無いだろうが、この期に及んでッ!』

 

「ぐっ・・・!」

 

シノのプレナパテスを狙った射撃を、その身で受けるあちらのシロコ。

軌道を反らせるとはいえ、それにも限度がある。

そして色彩の教導者(プレナパテス)に回避行動を取れるだけの体力はもう、残されていないのだろう。

 

 

「せ、先生・・・?」

 

見たことの無い形相のシノに対して・・・

どうするべきなのか、彼女にも分からないのだろう。

私に指示を求めるシロコ。

こう言う時にこそ、私が率先して道を示さなきゃいけないのに。

私は彼女を止める言葉を持ちえなかった。

 

”止め・・・なきゃ。”

 

 

『もしこの舞台に上がってくるなら、それ相応の()()を持って来る事です。』

『相手が誰だって、邪魔をするなら・・・()ですよ。』

 

 

強い憎悪の籠った言葉に、身が竦む。

私自身はどうなっても構わない、でも実際に戦うのはシロコだ。

シロコが取り返しのつかない傷を負う事を、私は恐れていた。

 

 

「ククッ、言っておきますが私の策略ではありませんよ、先生。」

「この復讐は彼女が望み・・・彼女自身が選択したもの。私は所詮、その手伝いをしているに過ぎません。」

 

”それは・・・分かってる。”

 

操られてるようにも、唆されているようにも見えない。

これが、彼女がずっと抱えてきた本心。

彼女自身が時折見せた、闇の正体。

その強い憎悪は、彼女の人格形成にも大きく起因しただろう。

 

 

ぼんやりとした夢の中で聞いた、セイアの話を思い出す。

あの時は聞こえなかったはずの部分すら鮮明に思い出せる。

 

 

「私の最後の予知は、この終焉を”乗り切った”先生の姿を確かに見た。」

 

 

虚妄のサンクトゥムは折れ、確かにキヴォトスの終焉は回避された。

 

 

「だから、先生に頼みたいのはまた・・・別の話。」

 

「君が答えられなかった、あの問いを覚えているかい?」

「その答えを出すべき時が来る。」

 

 

どんな情状酌量があったとして・・・人を殺した者は許されても良いのか?

エデン条約の時にセイアが言っていた「()()()()

 

 

その答えを出すべき時が今なのだろう。

それでも私は、未だに答えを出せていなかった。

 

 

「その時に、先生。貴方は・・・どんな選択をするのか。」

「その結論が、例え今までの物語を貶める(アンチ・ヘイト)ものだとしても・・・」

 

 

今までの、物語。

私と生徒が紡いできた、青春の物語(ブルーアーカーイブ)

 

 

 

『・・・今までは、運が良かっただけなんですよ。』

 

 

大企業(カイザー)は肝心な所で失態を犯し、生徒会長(梔子ユメ)の遭難に直接は関わっていない。』

 

無名の王女(アリス)を巡る争いは、彼女(リオ)の力が及ばす。』

 

『エデンを冠する条約では、皆が協力して信じあうことが出来た。』

 

『汚職と腐敗に塗れていた治安維持組織(ヴァルキューレ)は、新たな一歩を踏み出そうとしている。』

 

 

 

『ただ、死人が出なかっただけ。誰も死ななかっただけ。』

 

 

散弾銃の弾丸を反らせきれずに、鮮血が真っ黒な床に広がる。

苛烈さを増す攻撃に対して、その口調は激情を押し殺したように凪いでいて。

ここに至るまでに協力してくれた4人。

実際、運が悪ければ。

少し運命の歯車が狂っていれば、この未来は起き得なかったのだろう。

 

 

『銃弾は貴方を貫いたが致命傷にならず。』

 

『ミサイルの炎は誰の命も奪わなかった。』

 

『本当に・・・運が良かった、だからこそ彼女達(アリウス)は赦しを得たのでしょう。』

 

 

 

『そして、高貴なる血を求めた彼女(ベアトリーチェ)は、その咎を許されずその姿を消しました。』

 

 

『許されなかった()()と彼女達の差異は、悪意の有無と死人の有無、そして生徒である事。』

 

『こいつ等は違う、違うんですよ先生。』

『もう彼女達の手は真っ赤に染まっているんです、私と同じように。』

『許されるはずがない、許してはいけない。』

 

 

散弾銃を持つ手が、震えている。

狙いすら定まらない程の震え、それを抑えて狙いをつけている。

 

 

『そして何より私が許せない・・・!』

 

『お前だけがのうのうと、新しい人生を歩み出そうとしている事が許せるわけが無いッ!』

 

 

再びの発砲、シロコが庇い切れずにプレナパテスに直撃する。

硬質な音と供に弾は弾かれるが、その金属の身体に罅が入っていくのが見える。

 

 

「逃げて、先生・・・!私が時間を稼ぐから!」

「―――ァ。」

 

 

力を使い果たしたのか、動くことも出来ず何かを発するだけのプレナパテス。

私は、私はどうすればいい?今目の前で行われていることが間違っている事だけは分かる。

でも、理由を持ち得ないまま舞台に上がれば・・・取り返しのつかない事になる気がする。

 

 

「お願い、何でもするから先生だけは。」

 

『何でもするって言うなら―――』

 

 

『返せ!返せよ!皆をッ!!私達のアビドスを!!!』

 

 

2度の発砲、連射したせいか二発目は見当違いの方向へ飛んでいく。

抑え付けていた激情が、止めきれずに噴出している。

冷静さを失いつつある彼女、その攻撃は苛烈さを増している。

しかし、彼女の強みである戦闘中の判断の速さと冷静さは最早見る影もない。

 

 

『出来ないのなら話は終わり。ここで二人纏めて朽ち果てろよ、色彩諸共。』

 

「・・・戦術的鎮圧ッ。」

 

 

動けないプレナパテスの代わりに、盾を構えるシロコ。

如何にホシノのEXと言えど、あれだけの威力を受けきれるかどうか分からない。

 

 

『我が眼光と化して・・・』

 

 

神秘の奔流が巻き起こる、散弾銃の銃身が真っ赤に染まる。

黒い床を、爆発しそうな程大きな赤い光が染めていく。

 

 

『焼きつく―――ッ!?』

 

 

 

 

ガキンと硬質な音が鳴り響き、散弾銃(Eyes of Horus)の銃身に突き刺さった一発の弾丸がその射線を大きくずらす。

真紅の奔流は、横に大きくズレて壁に赤い花を咲かせる。

 

 

 

「やはりか、最悪の場合こうなる事は想定していた。」

 

 

 

射撃音がしたのは、このナラム・シンの入り口の方向。

三人ほどの人影が、こちらに向かって走ってくるのが見える。

 

 

”アズサ、コハル・・・それにヒフミ!?どうしてここに・・・?”

 

通信は未だ回復していない、助けどころか内部の状況は分からない筈なのに・・・

 

 

「アズサちゃんが確かめたいことがあるって言っていたので、給食部の護衛を終えて直ぐ走って来たんです!」

 

「道中の梅雨払いを終えたら後はトラックが走るだけ。他よりも早く終わる仕事だった。」

 

「当然、私達が優秀なのもあるけどね!」

 

 

突然の乱入者に一瞬茫然とし、武器を構えなおすシノ。

表情こそ見えないが、強い困惑と怒りが見て取れる。

 

 

『なんで、なんでなんで・・・何で来たんですか?』

 

 

「そういう・・・そういう目をしていたんだ。」

「復讐に囚われた人間のする、憎悪の籠った目。」

 

 

『私が何をする気か分かってて・・・邪魔をしに来たと。』

『アズサちゃん達も、私の復讐が間違ってるって言いたいんですか?』

 

 

 

「いや、そうじゃない。」

 

 

「復讐は何も生まないとか・・・そんな綺麗事を言いに来たんじゃない。」

「シノがシノなりに苦しんで来たのも知ってる、全てを覚悟してこの場に立っている事も。」

 

 

『それじゃあ・・・どういう了見で、私の前に立ちはだかるんですか・・・!』

 

 

 

あの時聞こえなかったはずの、一言が脳裏に過ぎった。

それは、祈りにも似たセイアの願い。

 

 

「私だけは、否定しない。だから・・・」

「だから、救ってあげてくれよ・・・先生。大切な・・・友人なんだ。」

 

 

 

相対しているだけでも、地面が震えているかの錯覚を覚える程のプレッシャーの中。

 

「私の時と・・・()()()と同じなんだ、シノ。」

 

息を大きく吸って・・・アズサが答える。

 

 

 

「ただ、大切な友人が人殺しになるのを止めに来た・・・それだけ。」

 

 

 

 

「確かに平凡な私には、復讐とかシノちゃんの想いとか・・・分かるなんて口が裂けても言えませんけど・・・」

「それでも、これで終わりなんて私は認めたく・・・ないんです!」

 

「私・・・私は、シノが辛そうにしてるように見えたから。」

「それに、上手く言葉に表せないんだけど・・・これが終わったらシノが()()()()()んじゃないかって。そう思ったら居ても立っても居られなくて・・・」

 

 

 

『そんな・・・そんな・・・』

 

 

 

そんなもの(友情)なんかで?私達、出会って1年も経ってないって言うのに?』

『・・・そんなものの為に、この()()に自らの身を投じようと?』

 

 

「時間の長さなんか、ちっとも関係ありません!」

「シノちゃんは大切なお友達です!大切な友達の為なら、命だって懸けれます!」

 

 

 

『・・・ッ!何を言っても無駄なようですね。』

『互いの譲れないものが、食い違ったのなら・・・後は力だけが全てを決める。』

 

 

 

散弾銃をこちらに構えなおす彼女。

この3人を相手取りながらプレナパテスとシロコにトドメをさすことは出来ないと、判断しての事だろう。

 

 

「・・・指揮を頼めるか、先生。」

 

 

期待のこもった目で、アズサがこちらを見る。

戦って、勝てるかも分からない。

勝って、彼女が止まってくれるかも分からない。

この行動が間違いでないのかは・・・もっと分からない。

 

 

「ん、私も準備は出来ている。覚悟は・・・今、決めた。」

 

 

でも、それでも。

生徒が進むのなら、私が覚悟を決めないで、止まっていてどうする。

生徒に過ちを犯させないのも、大人の役目だろうが。

例え、その復讐がどんなに正しいものだったとしても。

 

 

 

”任せて、完璧にサポートしてみせる・・・!”

 

「あぁ、行こう・・・先生!」

 

「絶対に止めてみせますから、シノちゃん!」

 

 

君に誰かを殺させたりはしない。

その為に・・・戦うんだ。

 

 

 

『人数や指揮だけで、勝敗が決まらない事を・・・その身を以て味わえッ!』




友のために自らの命を捨てられるのなら、それはきっと。
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