ユメ先輩のいないホシノvsユメ先輩しかいないホシノ   作:天野ミラ

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友達と苦難を乗り越えて
努力がきちんと報われて
辛い時は仲間と慰めあって、誰もが最後に笑顔になれるような


友情・努力・勝利

▼ナラム・シンの玉座 先生視点

 

左手に持った散弾銃での射撃を、躱しきれずにアズサが被弾する。

お返しとばかりに放った手榴弾は、爆風で彼女の髪をたなびかせるだけに終わった。

 

「重いっ・・・!」

 

4人がかりで、最大限のサポートをしても・・・まだ、届かない。

その事実が、シノの今までの積み重ねを感じさせる。

何より、彼女自身が思考の冴えを取り戻しかけている。

今は拮抗しているが、その均衡もいつまで持つか分からない。

 

「回復するわ!危なくなったらすぐに下がってよね!」

 

「ありがとう、助かる。」

 

救急箱をアズサに向けて投擲するコハル。

回復役であるコハルがいる以上は、長期戦は私達の有利に働きやすい。

 

 

『良い連携ですね。流石ですよ・・・かなり厄介です。』

 

 

 

『なら、まずは厄介な回復役から落とせばいいだけの事・・・!』

 

「えっ・・・きゃっ!」

 

シノがコハルに接近する、その展開は・・・

 

 

「ん、良い判断。でも・・・合理的過ぎる。」

 

当然、想定している。

シロコが間に入る事で、射線を潰し接近を防ぐ。

 

 

右手の散弾銃をシロコに発砲するが、シロコが回避し当たらない。

回避際に作動させたドローンがミサイルを発射させようとして・・・

 

 

『遅いッ!』

 

 

流れるような動作で撃ち落とされる。

ドローンの残骸がプスプスとシノの足元で黒い煙を上げる。

 

・・・そして、一瞬の内に閃光と爆音が辺りに鳴り響く。

爆風に巻き込まれたシノ、黒い煙が晴れて彼女のシルエットが見える。

 

 

『自爆ドローン・・・ですか。』

 

「こういうのは、私の得意分野だから。」

 

 

『知ってます、知ってますよアズサちゃん・・・敵に回るとやはり厄介・・・!』

 

 

しかし無傷・・・とまでは言わないが彼女を止めるには、威力が到底足りない。

おそらく、咄嗟に神秘を防御に回したのだろう。

 

 

先ほどとは違い冷静な対処が見られるが・・・

決定的に攻撃に鋭さがない、打倒しようという気概は痛いほど感じるが。

 

先ほどのような・・・()()が感じられ無い。

お互いを想い合っている、それでも銃を突きつけ合う・・・悲しい戦い。

 

 

「シ、シノ・・・帰ろうよ!」

「帰ってシノと行きたいところも・・・やりたい事も・・・!沢山あるんだから!!」

 

 

『コハルちゃん・・・帰ったとして・・・』

 

 

拒絶するような、狙いも碌につけられていないような感情に任せた発砲。

当たることは無いものの、火力自体は凄まじい。

 

 

『私とユメ先輩だけが生き残って・・・黒幕を見逃してのうのうと陽だまりの中で生きる?』

『そんな、そんなの・・・あの子達に顔向けできるわけが無いでしょうが・・・!』

 

 

悲痛な彼女の叫び、彼女はきっと・・・

 

 

『何より、あの子達を見捨てたのは・・・私の()()。』

『あの子達を殺したのは私も同然・・・直接的に手にかけてないだけで、その本質はそう変わらないんですよ。』

 

”そんなことは無い・・・無いんだよ!”

 

『少なくとも、私はそう思ってますよ。間違いなく私は・・・皆を見捨てた()()()。』

『私の居場所は・・・そこじゃない。』

 

 

その罪悪感を、後悔を、そして絶望を・・・背負ってずっと生きてきたのだろう。

ずっと、ずっと―――ずっと。

 

 

『本当は私もあそこで死ぬはずだったのに・・・こんなに苦しむならいっそ。』

 

 

初めから足掻かなければ(あの場所で死んでいれば)よかったのかもしれませんね。』

 

 

対照的な二人が出した結論は、奇しくも同じ。

生まれて生きてきた事への・・・深い後悔。

そんな事はない・・・生まれた事を後悔しなきゃいけない子供が居ていいはずがないのに・・・

 

 

彼女達の深い―――深い絶望を、私は埋めてあげる事が出来ない。

 

 

『なんて、くだらない事ですね。過去はどうやっても変えられないというのに。』

 

 

 

『もし本当に私の事を想っているなら・・・そこをどいてくださいよ。』

『たった一発・・・たった一度引き金を引くだけで、もう終わりに出来るんですよ。』

 

 

「それはきっと・・・深い傷を残す。」

 

 

『知ったような口で・・・とは言えませんよね。アズサちゃんもきっと悩んだ側ですから。』

もう一人の私(小鳥遊ホシノ)もあの時・・・こんな気持ちだったのかな。』

 

 

 

 

『とはいえ交渉は決裂ですね、ここからは・・・本当に容赦しない。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

散弾銃の発砲を合図に再び、戦闘が再開される。

彼女の動きにキレが戻る、そして何より・・・

 

 

”アズサ・・・射撃・・・じゃなくて避けてっ!”

「分かっ・・・た!」

 

 

アサルトライフルの掃射を、体で受けながらも距離を詰めるシノ。

被弾を恐れない、見ていて痛々しくなるような戦い方。

こちらが一人でも戦闘不能になれば、この均衡が崩れる事を理解している。

その()()()を速めるための、捨て身の戦法。

 

 

『逃げるんですか・・・!戦いからも!結論を出すことからも!』

 

 

痛い所を突かれる。

だけど、だけど・・・その挑発に乗る訳にはいかない。

私の一時の感情で、生徒を傷つける訳にはいかない。

 

「安心してほしい、シノ。これで・・・終わらせる。」

 

 

アズサが持つアサルトライフルをゆっくりと構えなおす。

とっておき(EX)の単発射撃、これで勝負を決め切るつもりだろう。

 

シノもそれを悟ったのか、散弾銃に赤い光が集い始める。

 

 

『我が眼光と化して―――』

 

「Vanitas...」

 

 

 

とは言え、彼女も無策での撃ちあいに応じた訳ではく。

 

 

『縛り付けろッ・・・!』

 

 

何処か見覚えのある、赤と白の茨が絡みつきアズサの行動を止める。

 

 

その赤い光でシノが狙いをつけたのは、アズサとは見当違いの方向。

つまるところ・・・もう一人のシロコとプレナパテスを狙った狙撃。

威力調節の利かない()()を、アズサに向けるのを嫌ったのだろう。

 

 

Victimとの戦いで一度だけ見せた()()を使うなら、勝負を決める時だと信じていた。

 

”ヒフミ!”

 

「はい、作動・・・させちゃいます!」

 

ヒフミのデコイが急速に膨らんで出現する。

アズサの・・・足元から。

より体積の大きいデコイに絡みついた茨を横目に、アズサがアサルトライフルを構える。

 

 

『なっ―――!?』

 

「vanitatum...!」

 

 

 

白色の閃光が、突き刺さりその身体が宙を舞う。

ドサリと地面を何度か転がり、壁に激突したシノ。

勝負を決める一撃は、彼女自身の優しさゆえに・・・確かに彼女に届いた。

 

 

 

 

 

 

 

壁に叩きつけられ、一瞬意識を失う。

深い、深い微睡の中に落ちていきそうになる。

このまま、何もしなければ・・・楽になれるのだろうか。

 

 

そんな折、暗闇の中で・・・何かが聞こえる。

 

<また、諦めるんっすか?()()()()()。>

 

 

そうだった・・・まだ、終われない。

手も足も頭だって動くのに・・・ここで立ち止まる必要なんてない。

ゆっくりと立ち上がると、こちらを心配そうに見る先生達。

 

そんな目で・・・私を見るな。

 

『・・・届かないかぁ。そっか、そうですよね。流石です、先生。』

『今までの努力が実を結んで・・・の力で、勝利する。』

 

『こうなる事もある程度は見越していましたけど、ここまで圧倒されるとは思ってませんでした。』

 

 

『やはり、生徒一人で出来る事には限度がある。』

『人は一人では存外何もできないものなのだから。』

 

 

”そうだよ、シノ。だから、一緒に帰ろう?皆も心配して・・・”

 

 

 

―――声が聞こえる。

 

<私達を見捨てた、あの時みたいに。>

 

 

 

 

『綺麗で、聞こえが良くて・・・救いのあるそんな終わり。』

 

 

 

私の勝利を願う声が聞こえるから。

 

<負けないでください、まだ出来る事は・・・残ってるでしょう?>

 

 

 

『・・・認められるかよ、そんな結末。』

 

 

まだ―――終われない。

 

 

”シノ、一体何を・・・?”

 

 

 

 

 

 

そう言って、ゆっくりと立ち上がったシノは首元の黒いペンダントを・・・()()()()()

 

途端に、彼女の顔が黒く罅割れていく。

その罅は、まるで黒服の罅のようにも・・・泣いているようにも見えた。

 

 

「やはり・・・こうなりましたか。」

 

 

”黒服・・・?一体何を・・・”

 

 

「あれは”あちらの私”の最後の研究結果にして・・・滅んだ世界が最後に産み落としたもの。」

消えたはずの神秘は何処へ行くのか・・・その実験の唯一の成功例。

 

 

『滅んでしまった世界が持つ神秘を、私という表面(テクスチャ)で上書きする。』

 

 

窓のないはずのこの空間に、立っていられない程の大きな風が巻き起こる。

身の毛がよだつほどの純粋なエネルギーが、この場に風を巻き起こしているのだろう。

止めるどころか、立っているのがやっとな程だ。

 

 

「素晴らしい・・・!最早、質量を伴うほどの膨大な神秘。」

「”反転”する訳でも無く・・・彼女は正に、”生徒”の枠組みのまま”神話の世界”に足を踏み入れている・・・!一人の研究者として・・・こんなに幸せな時間は無いでしょう!」

 

 

”・・・黒服。”

 

拍手をしそうな程に上機嫌な声色で話す黒服。

 

”だったら・・・どうして、そんな・・・”

 

 

ただ、その横顔はまるで何かを惜しんでいるようで。

 

 

 

”・・・悲しそうなの?”

 

 

 

「ああ、そうですか。そう見えるのですね。」

「確かに、私個人として・・・あえて今の感情を言葉にするのなら―――」

 

 

 

「・・・いえ、”それ”は最早、語られるべきではないのでしょう。」

 

 

 

「ここまで来た以上、もう引き返すことは出来ないのですから。」

 

 

人の身にありあまる程のエネルギーを取り込んで、花開いた”崇高”。

一人の人間がが作り替わっていく様。

 

 

『滅んだ惑星(ホシ)を取り込んで。私は・・・”高那(たかな)シノ”は・・・』

 

 

『今、”崇高”へと至る。』

 

 

悍ましい・・・悍ましいはずのその光景を。

何処か()()()だと思ってしまった、自分がいた。

 

 

 

 

 

 

 

『私は、滅んだ世界の復讐者・・・”小鳥遊(たかなし)ホシノ”。』

 

 

 

『皆がいるから、私はもう・・・負けない。』

私には、皆がついている。

 

 

()()()は、ここまで必死に積み重ねてきたから。

この世界に来る前から、ずっと準備してきた・・・努力してきた。

 

 

『・・・だから、(わたくし)は勝ちます。』

だから、勝利は私にこそ相応しい。

 

 

 




そんなハッピーエンドがあれば、きっと幸せだっただろう。
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