ユメ先輩のいないホシノvsユメ先輩しかいないホシノ 作:天野ミラ
▼ナラム・シンの玉座 シノ視点
”アズサッ・・・!”
「わかってる、先生!」
腕を振るう―――だけで銃弾が叩き落とされる。
”避けて、ヒフミ!”
「はい・・・うぁっ!」
この距離で当たった散弾銃のペレットがまた1人、2人と相手を戦闘不能にする。
倒れ伏した補習授業部の皆とシロコちゃん。
たったの
たかが数分で拮抗していた”戦い”は”蹂躙”になった。
人数差では覆せない、圧倒的な力。
身体を裂いてあふれ出しそうな程の、膨大な量の”神秘”。
ここまで上手く行ったのも、このナラム・シンの玉座が次元・時間・実在の有無・・・全てが確定されずに混ざり合うという性質を持っていたからだろう。
これこそが”崇高”。
その為に星一つ無くなったと言えば、全く割に合わないが。
―――それでも、この復讐を遂げるには十分すぎる。
”そんな力に何の代償も無いわけが・・・”
『代償がある事なんて疾うに分かりきってますよ、センセ。』
人の身に有り余る力を扱おうとすれば、器がどうなるかなんて分かりきっている。
器より大きい水をつぎ込めば中身があふれる、無理にでも詰め込めば罅割れて・・・壊れてしまうだろう。
『所詮、力のない正義は無能である。』
『自らのエゴの為に、何処まで犠牲に出来るか。それだけの話です。』
それにどの道・・・全てが終わった後に、私の居場所なんてどこにもないのだから。
傷だらけの身体でゆっくりと立ち上がった、白い髪の彼女。
『勝ち目がないなんて事・・・分かりきってるでしょうに。』
『まだ立ち上がるんですか、本当に死んでしまいますよ・・・えっと。』
―――なんだっけ、名前。
大切な人だったと思うけど、思い出せない。
私と言う人間の中身がこぼれてしまった影響だろうか、それとも神秘を混ぜすぎた影響か?
人格に影響があるなんて、実験では知り得なかった情報だ。
・・・それもそうか、”神秘”とは単なるエネルギーではないのだから。
各個人に紐着いたそれを無理やり扱おうとすれば、
あ・・・アズサ。そうだ、アズサちゃんだ。
何時まで持つかも分からない以上、早く終わらせないと。
「例え虚しくても・・・足掻くと決めたんだ。それに・・・」
「戦っているのは・・・私達だけじゃない。」
足音が聞こえる、援軍か。
確かに時間を稼げば、他のメンバーも到着するだろう。
それがどれほどの意味を持つというのか。
「ありゃ、これまた凄い事になってるね・・・嫌な予感はしてたけど。」
桃色の髪をたなびかせて、現れた少女。
「”復讐なんてする気ならやめてください”・・・なんて。」
「あの日止めてくれた君がそっち側に立つんだね、シノちゃん。」
トリニティの病室での一幕を思い出す。
・・・確かにあの時は私が止める側だったな。
それでも、あの時と今では状況が違う。
失ったものはもう戻っては来ないのだから。
『取りこぼすことも承知の上です。それに言ったじゃないですか。』
『生きている内はやり直せると思う・・・って。』
「どうやら説得は無理みたいだね・・・仕方ないかぁ。」
そう言って散弾銃と盾を構えるホシノ。
私なら、敵わない事なんて
『・・・止められるとでも?』
「止めてみせるよ、それがおじさんの・・・いや。」
「
散弾銃を放つ・・・が、盾で「受け止められる」。
「うっへぇ~重いねえ、手が痺れちゃいそうだよ・・・」
この戦闘で、初めて攻撃を受け止められた。
その事実に驚愕こそするが、そう長くは持たないだろう。
何せ軽口こそ叩いているものの、その表情は険しい。
「でもさ、ここで頑張らなきゃ一生後悔すると思うからさ。」
「楽に通れると・・・思わないでね?」
実在と非実在が入り混じる空間で、同じはずの存在が相対する。
同じ、小鳥遊ホシノとして。
▼ナラム・シンの玉座 先生視点
まさに激闘、防戦一方ではあるものの・・・しかしあの状態のシノを相手取れている。
ホシノが時間を稼いでくれている間、負傷者の手当てや立て直しを図らなければいけない。
ホシノに続いて他のアビドスのメンバーも、この玉座に到着する。
「ちょっと、どうなってるのよ・・・!」
「これは・・・どういうことですか?なんでシノちゃんとホシノ先輩が・・・」
「・・・シノちゃん。」
困惑を隠しきれない様子のノノミとセリカ。
そして浮かない顔のユメ。
「ちょっとシロコ先輩大丈夫・・・!?」
「ん、なんとか。」
「先生も無事・・・?」
”ありがとう、私は大丈夫だから。先に補習授業部の皆を・・・”
「私も大丈夫、だからヒフミ達を・・・」
気絶したヒフミとコハル。
アズサは意識こそあるもののの、一番消耗が激しい。
プレナパテスの状況は・・・見ただけでは分からない。
あちらのシロコも茫然としたまま手を床に付いている。
「大丈夫なわけないでしょうが・・・!酷い顔よ・・・!?」
”本当に大丈夫だから。”
シッテムの箱と演算処理を酷使しすぎた、この綱渡りの状況で針の穴を通すような過酷さ。
もし一手でも間違えていれば、既に勝敗は決していただろう。
とはいえ、疲れただけだ。
まだ・・・まだ動ける。
ホシノとシノの戦いを、じっと見つめている・・・ユメ。
「あれが、色彩の教導者。」
「やっぱり・・・こうなっちゃうんだね、シノちゃん。」
もし、もしもの話だが・・・彼女を説得できるとしたら。
それはおそらく”同じ世界から来た”「梔子ユメ」・・・彼女だけだ。
だが・・・
”ユメ・・・”
「うん、分かってる・・・分かってるよ先生。」
「でも、ごめんね・・・先生。私には無理だよ。」
「私・・・何もわかってなかった。」
当然の事と言えるのかもしれない。
「分かってるつもりだった、もう何をしたって私達のアビドスは帰ってこないんだって。」
「あのシロコちゃんにだって事情があるんだって・・・それも聞いたよ。」
「戦って問題を解決しようとしたら、それは次の争いの火種になるだけだって・・・そんな事を思って生きてきた。」
「復讐は復讐を呼ぶ、こんな事があっていいわけない。」
「そんな事・・・分かってる・・・つもりだった。」
「でも・・・でもさ。私・・・私、胸が痛いの・・・」
「あの子達を許して、明日から何時もと変わらない素敵な日常に戻りたい気持ちは勿論あるの。」
「だけど・・・私。」
「実際にあの子達を・・・前にして。」
「どうしても・・・仄暗い感情が浮かんで消えないよぉ・・・」
自分の大切な人を奪った相手に復讐しようとする、大切な人を止める事。
私には理解してあげる事すら出来ない。
▼ナラム・シンの玉座 ホシノ視点
一撃一撃が恐ろしく正確で、重い。
相対しているだけで、膝の震えが止まらない程の力の差。
それでも止まる訳にはいかない。
『なんでっ!あたしの!邪魔をするんですかっ!』
「ッ・・・!」
癇癪のように振り払われた銃身を躱しきれずに、持っていた盾が宙を舞う。
ユメ先輩の遺してくれた・・・大切な盾を。
『もしも、こちらのユメ先輩の死因になった奴がいたとして!それでも止まれるんですか!?』
盾を持っていた腕がまだ痺れている、それにしても―――
「それは・・・」
―――痛い所を突かれる。
そうだろう。私なら、絶対に・・・
「止まれない・・・だろうね。」
『だったら・・・!』
「でも、
復讐するだけなら、私も止めるか迷っていたかもしれない。
だが・・・一人称すら、覚束なくなる程に意識の混濁が見られる。
おそらくは、混ざってしまった”何か”のせい。
自分の身を犠牲にしてでも、復讐を果たそうとしている。
正しいかどうかは、確かに私に口を挟む資格はない。
「どんな理由があってもさ・・・」
「死のうとしてる後輩を、易々と見逃せるほど・・・おじさんも出来た人間じゃないんだよね。」
それに、この復讐を終えた後、私なら
「もう大切なものは手放さないって決めたんだ、帰ってきてよ・・・シノちゃん!」
『私は・・・小鳥遊ホシノです。今までも・・・これからも・・・!』
エゴの押し付け合いは続く、決着がつくまで。