ユメ先輩のいないホシノvsユメ先輩しかいないホシノ 作:天野ミラ
▼ナラム・シンの玉座 ホシノ視点
散弾銃を撃つ、がしかし鬱陶しそうに弾が弾かれる。
狙いすまされた相手の射撃を死に物狂いで避ける。
あの散弾の一発一発が致命傷になりかねない、特に足に当たれば。
機動力を失えば、抗う事はできないのだから。
「はぁっ・・・はぁ・・・!」
『・・・』
・・・残酷な事に、どれだけ気持ちがあったって力の差が埋まる訳ではない。
こちらの攻撃は通らず、相手の攻撃はどれも必殺技と言えるような威力。
あれだけ大見え切ってこのザマだ、不甲斐ない自分が嫌になる。
「ん、お待たせホシノ先輩。私も戦える。」
「うん、助かるよ・・・皆。」
何とか体勢を立て直したらしいシロコちゃん、それとノノミちゃんにセリカちゃんが合流する。
ユメちゃんは・・・来ない。
彼女はじっとシノちゃんを見つめて何かを逡巡している。
「全く、一人で背負い込むところは誰に似たんだか・・・」
「あは、あはは・・・」
口調こそ強気なセリカちゃんも銃を持つ手が震えている。
彼女に銃を向けるのを躊躇っているのもあるかもしれないが、やはりあの尋常ならざる雰囲気と実力に気圧されているのだろう。
”待たせてゴメン、ホシノ。皆・・・行こうか。”
「絶対にシノちゃんを連れて帰りましょう・・・!」
先ほど吹き飛ばされた盾をセリカちゃんから受け取る。
ここからは先生の指揮もある、さっきよりも少しはマシになる・・・はずだ。
『・・・馬鹿馬鹿しい。』
届かない。
「全弾発射です・・・!」
「ん、ドローン起動する。」
これでもまだ届かなない。
「あっちゃあ、ノノミちゃんでも無理か・・・」
「何なのよあの硬さは・・・!」
”攻撃来るよ、回避に専念して!”
足元をえぐり取るような散弾の嵐を避けて、残りは盾で受け止める。
ダメージが通っていないとまでは言わない、しかしまるで足りない。
グレネードと射撃で足止めをすることは出来る。
ただ、露骨に時間を稼ごうとすれば、彼女はもう一人のシロコちゃんを標的にするだろう。
しかしノノミちゃんのミニガンですら決定打にならないと分かった以上は、別の一手を打つ必要がある。
そんな時、インカム越しに先生の声が聞こえた。
”ホシノ・・・一瞬で良いんだ。隙を作れる?”
「あの、シノちゃん相手に~?厳しい事言うなぁ先生も・・・」
何をするか分からないが、先生の考えた策。
あの状態のシノちゃんを相手取って、その上で隙を作れなんて無理難題も良い所。
「まあ、任せてよ。」
”無理だけはしないでね・・・!”
でも、私ならできると信頼しての提案。
ここで断れる訳がない。
「シロコちゃん・・・ちょっとやってもらいたいことがあるんだけど。」
「ホシノ先輩・・・正気?」
シノちゃんが散弾銃を構える。
左に持った散弾銃の射撃回数は、今回で五発目のはず。
一撃必殺の攻撃に対して、盾をその場に突き刺して耐えきる。
勿論、こんな事をすれば次の一撃は避けられない。
その事は相手もわかっているだろう。
だからここは・・・仕掛ける。
『・・・何を考えているかは知りませんが。』
真っ直ぐにシノちゃんに向かって走っていく。
ここにきて防戦一方だった、私達の攻勢。
相手も警戒はしているが・・・それでいい。
私に注意さえ向けてくれれば、それで。
シノちゃんが油断なく散弾銃を構える。
右手の
この距離なら、一発は余程運が良ければ避けられる。
つまり二発は絶対に避けきれない。
散弾銃の発砲音が酷くゆっくりに聞こえる。
上に飛んで弾丸を避けようと試みるも、足と腕に被弾して赤い血が舞う。
どうやら、幸運の女神とやらには愛されていないらしい。
・・・分かっていた事ではあるが。
『逃げ場はない、これで終わり・・・』
「シロコちゃん・・・!」
逃げ場のない空中でシノちゃんが銃を構えると同時に・・・手榴弾が飛んでくる。
・・・私とシノちゃんに向かって。
私を巻き込んでの爆発、シノちゃんにはそれほどダメージにならないだろう。
一件意味のない、自爆にも似た行為。
だが、それでも良い。
大きな爆音とともに、空中にいた私の身体は吹き飛ばされ・・・
五発ずつ撃ち切ったシノちゃん。
爆風はそれほど意味をなさないだろうが、警戒は私に向いている。
お膳立てはしたよ・・・!
「先生!」
”受け取った・・・!予測位置補足!決めて!”
「―――光よ!」
土煙の舞う戦場で
この船で最も火力のある攻撃と言えば・・・
”お疲れ様、アリス。”
「何とか間に合いました!」
「想定とは違うメインディッシュになりましたわね・・・!」
ゲーム開発部のアリスちゃんの持つレールガン。
光の剣と彼女は呼んでいたが・・・
成程、正しく光の剣と銘打つのが正しいモノだ。
ゲーム開発部と美食研究部。
これでオペレーターの皆以外はこの場に出揃った。
▼ナラム・シンの玉座 先生視点
「さ、流石にやりすぎじゃ・・・」
シノの心配をするセリカ。
しかし、恐らくは・・・
土煙が薄くなり、
つまりは未だ健在、分かっていた事ではあるが。
それだけ、今の彼女は逸脱している。
『・・・流石と言った威力ですが。』
服こそボロボロであるものの、その場に立っているシノ。
しかしダメージは少なくない・・・はずだ。
”悪いけど、力を貸して欲しいんだ・・・皆。”
巻き込むことになるのは分かっている、それでも彼女を止める為にはどうしても足りない。
「う、うん。でも本当に止められるの・・・先生?」
「
モモイの疑問も当然だとは思う、こちらは疲弊していてシノは未だ余力を残している。
止められるのだろうか・・・分からないけど。
”・・・止めなきゃいけないと思うんだ。”
「うん、そっか。指揮お願い・・・先生。」
「シノさん、ゲヘナで逃避行をしている時とは違う”仮面”を被っているのですね。」
「そこに至るまでの貴方の想いは・・・私には分かりかねますが。」
黒い罅割れが目立つものの、シノは今素顔を晒している。
だからそれは彼女たちにしか分からない、比喩表現なのだろう。
「最後の晩餐が無味のままというのは・・・なかなか味気ない物だとは思いませんか?」
「魔王を倒した後も勇者の冒険は・・・続いていくものです。」
『どいつもこいつも・・・』
『美食だとか、友達の為だとか未来だとか・・・そんな、そんなものの為に・・・!』
『
感じる圧がまた一段と強くなる、だが・・・彼女もまた悩みながら戦っているのだろう。
<アトラ・ハシースの自爆シークエンスが最終段階に移行しました。>
船内放送が刻限を告げる、終わりの時は刻一刻と迫ってきている。
「ククッ、このままでは全員、崩壊する船と運命を共にしてしまいますからね。」
「ですので、
彼女達というのはシノと、あちらのシロコ達の事だろう。
「それに伴って通信も復活する筈です。」
通信が回復したようで、一瞬のノイズの後に焦った様子のリンちゃんの声が聞こえてくる。
「アトラ・ハシースの箱舟が崩壊に向かっています・・・!先生、避難を始めなければ・・・!」
確かに猶予はもう・・・無い。
「私達もまだ戦える・・・!」
「私に出来る事は限られているかもしれませんが、全力を尽くします!」
ヒフミとアズサも立っているのがやっとだろうに、戦う意志を見せている。
補習授業部の皆も何とか前線に復帰できそうだ。
あまり無茶をさせたくはないが。
致命的な攻撃を受ける、その前に脱出シークエンスを使わなくてはならないだろう。
脱出シークエンスの回数は残り28回、最後のカウントダウンが始まった。
本編は残り二話ほどを予定しています、どうか最後までお付き合いください。