ユメ先輩のいないホシノvsユメ先輩しかいないホシノ 作:天野ミラ
苦手な方は閲覧をお控えください。
▼???
「物語に終わりはあっても、青春が・・・彼女たちの物語が終わるわけではない。」
「そうして、どのような選択をしても彼女達はそれぞれの居場所でこの世界を生きていく。」
「・・・随分と都合のいい話だと思っただろうか。」
「でもこれで、この物語と議論はおしまいだ。」
「選択に正解は無いんだ、引き金を引くのも引かないのも
「・・・」
「だからここから先は、
「彼女達が、陽だまりを
「見る価値なんてないはずの
「この何気ない日常、そのものが奇跡と言える物で・・・」
「ヒーローが都合よく窮地に間に合うのは、それこそ物語の中だけだと言う事を。」
「・・・この未来を見せる理由かい?」
「それは・・・」
「知っておいて欲しかったのかもしれない。」
「引き金を引くという事が―――どれ程大きな事態を巻き起こすのかを。」
「・・・そしてこんな世界線も、確かにあったのだという事を。」
▼アビドス市内にて
目が覚めて、ユメ先輩とこれからの事を話しながら歩いて・・・
どうやらかなり歩いていたらしい、随分と高いところまで来てしまっていた。
いつの間にか昇っていた朝日が、アビドスの街を照らしている。
モモトークの通知が鳴る。
誰からかは分からないけど、これを見たらきっと皆に会いたくなってしまう。
私達の世界は既に分かたれたと言うのに。
だから・・・
「私のもお願い、シノちゃん。」
『・・・分かりました、ユメ先輩。』
ユメ先輩からスマートフォンを受け取って、散弾銃を構える。
きっと、彼女も同じ想いだったのだろう。
空に向けて、スマートフォンを放り投げる。
決別の意思表示を込めて。
そして、私は引き金を―――
―――引いた。
投げたスマートフォンに大きな穴が空いて、その後ガシャリと音を立てて落ちて割れる。
バラバラになったそれは、もう二度と元に戻ることは無いだろう。
「これで・・・良かったんだよね?」
『ええ、どのみち戻ることなんて・・・出来ませんから。』
私達と、彼女達の道は既に分かたれた。
それでも私達には私達の道が続いていく。
彼女達には彼女達の道が、続いていくのだろう。
その道が交わることは無くても、この青空の下にいる。
それだけで少しだけ気持ちが救われた・・・気がした。
勇者が魔王を倒しても、倒さなくても・・・お話は続いていく。
物語に終わりなんて無いんだから。
あの日から随分と時間が経った、ある晴れた午後の事。
あれから私とユメ先輩は、ヘルメット団に紛れて仕事をしたりして今日の日銭を稼いでいる。
今日も、仕事に出かけようとして。
嫌に大きく聞こえるテレビのニュースが耳に入る。
今、情報がありました!緊急ニュースです!
D.U.地区のシャーレが爆発し!
『―――は?』
突然の内容に脚が止まり、理解が追い付かない。
聞き間違いか?いや、そうであってくれ。
じゃないと、そんなのあまりにも―――
先生が意識不明の重体になったと―――!
『せ・・・んせい?なんで?』
物語は続いていく。
切り捨てたつもりになっていたものを、実際に失ってみて。
大切なモノは失って初めて気づくなんて、分かっていたはずなのに。
▼仄暗い地下の一室にて
仄暗い地下にある暗い一室で、誰かが嗤う。
「・・・先生の攻略法その2。」
「いくら先生が奇跡の担い手と言えど・・・」
「その肉体にはぁ・・・物理的な限界がある。」
「イヒッ、このキャンペーン・・・小生の勝ちだぁァ!」
物語は続いて
色彩の教導者の影響も、別世界の特異点の影響も受けない以上はこの
彼女達は知る由も無い事だが。
▼D.U.地区の病院前
先生が搬送されたらしい病院に辿り着いても、先生に会うことは出来なかった。
爆破事件の犯人が分からない以上は当然の判断と言えるだろう。
先生は未だに目を覚ましていないらしい。
そしてその兆しすら・・・見えないとも。
街のいたるところで怒号や悲鳴が聞こえる。
今、キヴォトスはトリニティの時のような疑心暗鬼に陥りつつある。
何か私にできることはないか探そうとして・・・
今更、私に何ができるというのだろうか。
誰かを救う事など出来るだろうか、誰かを殺めた真っ赤なこの手で。
でも。それでも・・・足掻かなくちゃ。
あんな優しい先生が、こんな目に合わされて・・・黙ってなんて・・・
そんな
思考が、上手くまとまらない。
「シノちゃん!」
「あっ、ユメ先輩?」
思考の渦に囚われていて、一人じゃない事を忘れていた。
こんなにも周りが見えなくなるなんて。
「シノちゃん・・・私達は、私達に出来る事をしよう?」
「・・・迷うのも悩むのも終わってからでも遅くないよ。」
『そうですね。ありがとうございます、ユメ先輩。』
そうだ、とりあえず犯人を捜さないと。
その後の事は、見つけてから考えよう。
▼アビドス砂漠
あれからどれくらいの時間が経っただろうか。
必死に情報を集めて、集めて・・・それでも見つからなくて。
何とかそれらしい相手の尻尾を見つけた・・・そんな時だった。
悪い事は重なるようで・・・
いや、おそらくはどれも
アビドス砂漠の方で、大きな何かが衝突するのが分かる。
急いでその場に向かってみれば・・・
赤い空が広がる砂漠で、遠くから見ても分かるほどの大きな巨大。
その近くには倒れ伏した対策委員会の皆と、大きな神性を感じさせる異形。
そして
「うぁ・・・ゆ・・・め・・・」
「私だよ!ユメだよ・・・ホシノちゃん!」
「ユメ・・・」
「
「・・・ッ。私は・・・!」
ユメ先輩の言葉すら届かない。
おそらくはもう自我すらほとんど残っていないのだろう。
あの時の色彩の教導者とシロコと似た様相。
おそらくは、
一度テラーとなったものは、もう二度と元に戻ることは無い。
温めた卵が元に戻ることは無いように・・・それは不変のものだ。
それこそ、奇跡でも起きなければ。
「色彩」と「この怪物」が持つ、異質なエネルギーが反発し合っている。
このまま目の前の怪物との戦いが始まれば、世界がその衝突の余波で壊れかねない。
だから、私が止めないと。
『―――黒服、どうせいるんでしょ?』
「・・・貴方の身体は万全ではないどころか、本来はその神秘を使うべきですらない。」
「そんな状況で・・・その上、箱舟の外で
そんな事はわかっている、分かっていても。
『そうするしかないから。』
「・・・戻れなくなりますよ。」
『覚悟の上だよ。』
「・・・でしたら、私に止める権利はありませんが。」
「待って、シノちゃん?一体何を・・・」
『ごめんなさい、ユメ先輩。また勝手に決めて・・・でも。』
『今の小鳥遊ホシノを止めれるのは、きっと私だけなんです。』
顔がひび割れていくのを感じる。
壊れた世界の持っていた神秘を、無理に身体に押し込んでいく。
自分と他の何かが混ざっていくような、そんな感覚。
『安心してください、
『あなたに大切な誰かを殺めさせたりなんてしませんから。』
「私が、私が殺した・・・私が。私が私が!」
両者が殆ど同タイミングで―――引き金を引いた。
開戦は激しさと共に、そして終幕は驚くほど静かに終わった。
視界と思考に霧がかかった様に、靄がかかっていて・・・
戦闘の事は、よく覚えていないけど。
それでも分かるのは倒れ伏したホシノのヘイローは既にヒビ割れて壊れかけていたという事。
つまり、私が殺したようなものだということだ。
どんな理由があって、世界の為にもホシノ先輩の為にそうする事が最善であったとしても。
私なんかより、よっぽど優しくて立派で・・・帰りを待つ皆がいる・・・
そんな彼女の命を私が奪った。
『せめて・・・ユメ先輩はホシノ先輩と一緒にいてあげてください。』
「・・・シノちゃんは?」
『わたしには、やらなくちゃいけないことがあるので。』
「・・・そっか。」
ユメ先輩は、何も聞かずにホシノといる事を選んでくれた。
最期の時が、一人じゃないのは彼女にとっては唯一の救いであると言えるだろう。
私はこの事件に、この悲劇に終止符を打ちにいかなくちゃ。
暗い暗い地下へ続く階段を下っていく。
先生を、ホシノ先輩を、皆を傷つけたあいつを。
許せない、許せるわけが無いから。
本当に許されるべきで無いのは、きっと私だけど。
「ありえないッ!何故一般の生徒ごときがセトの憤怒をォ!」
『黙れよ。』
引き金を引いた。
「ぐがっ、何故ここが・・・!だがそんなものは無意味!小生には次のキャンペーンが・・・!」
引き金を引いて、引いて引いて引いて―――引いた。
薬莢がカランと床に転がる音と、ゴミが逃げようと床を這いつくばる音だけが空間に響く。
「無駄だと言ってるだろうがァ!そもそもこの肉体の死など真の・・・」
『黙れ。』
今、引き金を引いている半分は憂さ晴らしだ。
これからの事を考えれば、別にこんな事をする必要は無い。
でも許せなかったから引いた、それだけ。
初めてを終えてしまえば、引き金というのはどうやら随分と軽くなるものらしい。
「ぐっ・・・!」
引き金を引いた。引いた・・・引いた。
今何度引いただろうか。
致命傷だけは避けて、出来るだけ痛めつけるように。
・・・体力を削ぐように。
「はぁ、はぁっ!無駄だと何度言えば―――!」
『お前にもう次は来ないよ。』
殺してもおそらく次があるというのなら、答えは簡単だ。
世界と同じように取り込んでしまえば良い。
これで4度目だ、問題ないだろう。
「なっ、何だその力は!?ルール違反だろそんなの・・・!?」
白と赤い茨が絡みついていく、これだけ弱っていればそう時間はかからないだろう。
「小生は知らないッ!そんなものがあって良いはずが無い!小生のキャンペーンに割り込んでくるなァ!」
『お前の赦しなんて求めてない。』
「ヒイッ!?小生は被害者なのです!セトとホルスの力に魅入られただけなのです!」
「だから。赦しを・・・お赦しをォ!」
『・・・くだらない。』
呑み込まれる最後まで、聞くに耐えない妄言を垂れ流していた。
人の人生を・・・命をゲームの駒として。
この世界を勝利と敗北でしか見ていないカス。
こんな奴に先生とホシノ先輩は・・・
『先生、ホシノ先輩・・・終わったよ。』
ゆっくりと黒が、そいつを呑み込んで。
私の意識も、深い闇に落ちていった。
▼○○ヵ月後
目を覚ます。
起き上がれるとは思っていなかったから、自分でも驚きを隠せない。
ノノミちゃんもアヤネちゃんもシロコちゃんもセリカちゃんも無事だろうか。
確認を取ろうと思って・・・やめた。
『皆からホシノ先輩を奪って、今更どんな顔で・・・』
それにもう、連絡を取る手段すらない。
直接顔を合わせるのが怖かった。
責められる事なんかより、皆の顔を見るのが怖かった。
とりあえずユメ先輩に連絡を取ろうとして・・・あれ。
そう言えば・・・
『私って・・・誰だっけ?』
自分の名前が、思い出せない事に気づいた。
▼退院後
退院して、暫く経ってからの事。
私は、要経過観察だが自宅での療養をすることになった。
「大丈夫、シノちゃん?痛い所はない?」
『・・・?あ、あぁ。大丈夫ですよユメ先輩。』
「・・・そっか。それは良かったよ~」
私を気遣ってくれるユメ先輩の目元は隈が深い。
眠れていないのだろう、きっと私の症状のせいでもあるだろう。
医者の話では、強いストレスによるもの。
黒服の話では、神秘を混ぜすぎた代償。
私と言う個人を逸脱しすぎた・・・ツケが来たのだという。
他者と自分。
混ざるはずのないものを、無理に混ぜた結果。
自己性というものが、揺らいでいる・・・のだとか。
「それで、これからの予定なんだけど・・・」
『えぇ、分かってます。』
あの事件から、アヤネちゃんは目を覚まさないらしい。
セリカちゃんは・・・行方不明。
ノノミちゃんはハイランダーに転校したとのことだ。
シロコちゃんが一人残っているが・・・
アビドスは、事実上の廃校。
このままでは、借金の返済見込み無しとして所有権が債権を持つ彼らに渡る事になる。
そんなことはさせない、ホシノ先輩が守ったアビドスを守らないと。
▼??日後
もう、方法や手段なんかに頼ってはいられなかった。
アビドスを取り戻すために、何だってした。
最早、この
そうして取り戻したアビドスに、確かに
久しぶりに訪れた対策委員会の部室。
皆が
でも・・・そこには・・・
「ただいま、皆。」
『かえり・・・ました。』
セリカちゃんもアヤネちゃんもノノミちゃんもホシノ先輩も・・・そしてシロコちゃんも
もうそこにはいなかった。
今思えば・・・あの箱舟での一夜の後。
私に彼女達の元に顔を出す資格なんてないなんて・・・
それももしかしたら、私が逃げ出していただけだったのかもしれない。
天秤にかけるということ。
どちらかを諦めるということ。
その意味を私は真に理解していなかった。
机の上にはシロコちゃんの「さようなら」と書かれたメモが一枚。
「シロコちゃんを探さなきゃ・・・シノちゃん!」
確かに埃の積もり方からしてそこまで時間は経ってない・・・はずだ。
探した。
「どこにいるの、シロコちゃん・・・!」
探して・・・
『いるなら返事をしてください・・・!』
探し続けて。
「私は、旧校舎の方を探してみるから・・・手分けして・・・!」
もう辺りがすっかり暗くなった頃。
捜し続けた先に、シロコちゃんはいた。
「あっ、シノ・・・?今までどこに・・・」
砂漠の何もない平地の上で、皆の学生証を大事に掴みながら倒れていた彼女。
「ああ・・・いや、もう何でも良いや・・・寒くて仕方ないの・・・全部・・・終わりに・・・」
到着したときにはシロコちゃんは、既に色彩に侵されていた。
シロコちゃんは、もう既に生きる気力を・・・失っていた。
私は何時だって、肝心な時に間に合えない。
空が朱く染まっている。
ここまでが予定調和だと言うのか。
結局はこうなる運命だったというのだろうか。
だとしたら、私達の努力なんて全て・・・
こんなに苦しいのなら、最初から足掻かなければ。
”・・・諦めるのはまだ早いよ。”
「・・・先生!?目を覚まして・・・」
”・・・時間が無いんだ。もう立ってるのもやっとで。”
そこには、眠っている筈の先生が立っていた。
どう見ても、歩くどころか立ち上がる事すらできない傷のはずなのに。
焼けただれた顔を、プレートで固定して。
『何をしようと・・・・まさか。』
”シロコを・・・救わなきゃ。生徒を・・・”
うわ言のように呟いている先生。
信念だけで今立っているのだろう。
”色彩は、私が引き受けるから。”
『・・・まさか。』
「ダメ、先生・・・それだけは。待って、お願い。」
少しずつ、私の知るもうう一人の
不可逆の変化。
私が奪った命・・・色彩とその教導者。
”シロコ・・・いや・・・シノ。お願いがあるんだ。最期のお願い。”
『それ以上、喋らないでくださいっ!今救急車を・・・!』
”もう、長くない事は分かってるんだ。だから、言わせてほしい。”
『そっ、そんな事・・・!』
私の頭を優しくなでながら、消え入りそうな声で話す先生。
”私は、色彩に・・・だから、私を。”
”・・・いや、私に間違いを起こさせないでほしいんだ。”
”こんな事、シノくらいにしか頼めないから・・・本当は良くない事は分かってるんだけど。”
『わ、私は―――』
ここで、先生を止めなければ。
”私やユメ先輩の世界のような事がきっと起こってしまう。
”お願い、シノ。”
”私はもう、シノみたいに苦しむ人を作りたくないの・・・”
そんなことは、認められない。
「私は―――!」
私は引き金を―――
引いた。
パァンと言う乾いた音が砂漠に響く。
鮮血が頬に飛び散る。
先生だったものが、地面に零れていく。
あの時と同じように。
私は何処まで行っても人殺しらしい。
『―――あっ。』
そんな事、分かっていたはずなのに。
『あぁぁ・・・』
涙が止まらない。
これは、私が選んだ選択だっていうのに。
”あり―――がとう。ごめんね・・・”
『あぁぁぁぁぁぁ!!!』
ドサリとその場に倒れ落ちる先生を抱きかかえる。
指先でそっと
そこにはまだ、少しだけ人の温もりがあって。
『あはっ、あはは・・・あははははは!』
どうしようもなく、死んでしまいたくなった。
あれから、シロコちゃんを病院に連れて行って。
どうしようもなく終わりにしたくなって。
ぼーっと青い空を眺めていた。
青い・・・空を。
「・・・シノちゃん。」
だけど、先生が繋いでくれたこの世界・・・青い空を。
私が守らなくちゃ。
私が抗わなきゃ。
『ユメ先輩、私・・・』
「うん、シノちゃん。どこまでだってついていくから。」
『私が、先生の代わりになります。』
「私も、隣で支えるね。」
あれから長い長い月日が流れた。
それだけの時間が経っても・・・私が何者なのかだけが、私には思い出せないままだった。
話を聞いても、違和感が拭えない。
あの時とは違う、私はまだこの世界で抗える。
腕も足も頭もまだ動くのだから。
皆の想いを背負って、私はこの世界で生きていくんだ。
色んな苦難を、キヴォトスに降りかかる厄災を払い続けて。
それでも、何とか日常は・・・続いている。
「予定より5分ほど遅れていますよ、
『いやぁ~遅れちゃってごめんね~』
『
『皆、これからよろしくね?』
―――続いていく。
終わりがないから、救いも無い。