ユメ先輩のいないホシノvsユメ先輩しかいないホシノ 作:天野ミラ
薄々思ってたんでしょ?
砂祭りが始まってすらないのに、中編が終わったけど?これ後編で全部終わるかな?ってさ。
でもさ、書きたいエピソードは省きたく無い。
なら・・・全部後編に突っ込んじゃえば良い。
その結果として文字数が1万と7千文字を越えたとしても、これは後編であり―――1話だから。
本当にごめんなさい。
好きなところがあればここすきしてくれると、次以降の参考にします。
▼アビドス砂祭り1日目 朝
燦燦と輝く太陽、キラキラと輝く水面。
天気予報通り、砂祭り会場は晴天だ。
まあ、砂漠だから雨が降る事は殆どないんだけど・・・
これも、天が味方に付いたと思う事にしておこう。
「それでは短いですが、挨拶の方はこれで閉めさせて頂きます。み、皆様楽しんでいってください!」
「「「わぁああああああ!」」」
凄い熱狂だ、お祭りと言うだけあって皆騒ぎたいだけなのかもしれないが。
とりあえずは、アヤネちゃんの砂祭り開催式の挨拶が終わった。
ついに3日間に渡るお祭りが幕を開けた訳だ。
本来は一か月近くの間にも渡る大きな祭りだったが、実行委員の人間が私達しかいない以上は長期の開催は厳しいと見込んでの3日。
ここから先は、激務続きになるだろう。
だが、それよりも先に・・・
頑張った後輩をたくさん褒めてあげないと。
「きっ、緊張しました・・・本当に私で良かったんでしょうか・・・」
確かに、アヤネちゃんはあの一件であくまで一時的に生徒会長に立候補しただけだ。
だが、私はこの場の挨拶はアヤネちゃんが適任だったと思う。
『直前まであんなに緊張してたのに、とっても立派でしたよアヤネちゃん。いや、生徒会長様とお呼びした方が良いかな?』
「ちゃ、茶化さないでくださいよ・・・!」
『ふふっ、ごめんごめん。でも本当に立派でしたよ。』
「今回の砂祭りにはアビドスの復興がかかってますから・・・絶対に失敗できません。」
それは、その通りかもしれないけど。
『一人で背負いすぎなくたっていいんですよ、アヤネちゃんには頼れる先輩がいるでしょ?』
アヤネちゃんはまだ一年生だ、年齢や過ごした年月が全てだとは言わないが・・・
いきなり学校を背負って挨拶をしたり、指揮を執るというのは想像できない程の重圧になるだろう。
程よいプレッシャーは必要だとは思うが、それだけで折角の砂祭りを終わらせてほしくない。
アビドスの皆にも、砂祭りを楽しんで欲しいから。
「そうかもしれませんね・・・頼りにしてますからね、シノ先輩?」
『うっ、そこで私ですか・・・これはゆっくりしている訳にはいきませんね。』
まあ、元々期間中はゆっくりする予定はあまりなかったと言えばなかったのだが。
少し心配だが、アヤネちゃんは大丈夫だろう。
先ほどと違って、迷いのない顔付きになった。
この様子なら、彼女が本当にアビドスの生徒会長になるのも・・・
そう遠くはない未来なのかもしれない。
・・・ユメ先輩はどう思ってるのかな。
こちらのユメ先輩も、元々のアビドスでの生徒会長だったと聞いてはいるが。
聞いてみたいような、少し聞くのが怖いような気持ちもある。
▼砂祭り一日目 昼
人の集まりは上々・・・どころか想定した倍近い人数が集まってきている。
近くに駅があるとはいえ、アビドスはそこまで近い学区ではないと思うのだが。
砂漠であれば猶更だ、これも皆の頑張りと言えるだろう。
それにしても、想像していたよりも騒ぎやトラブルが少なすぎる気がする。
警備の方でも、特に大きなトラブルがあったとも聞いていないし。
・・・ある程度は、想像がつくが。
今も、トリニティの生徒を人気のいないところに連れ込もうとしているヘルメット団の生徒が、黒いパーカーを深く被った少女に気絶させられているのが視界の隅に移った。
極力私達の前に姿を現そうとしない彼女。
この前の事件でも、陰から力を貸してくれていたらしい彼女。
十中八九、別の世界のシロコだろう。
私は、区別のためにもクロコと呼ぼうか。
こちらの世界のシロコちゃんには関係の無い事だから。
私とユメ先輩はともかく、他のアビドスの生徒と出会う分には好きにすればいいと伝えてからは・・・シロコちゃんとは何度か話した・・・のだと思う。
皆も、気を使ってか私達の前ではそういう話題は出さないようにしてくれているから。
最近は日課になってしまった、郵便受けのチェック。
どうして空なのを確認して安心しているのかは、理由がある。
現金が・・・入っていたのだ。
しかも、束で。
差出人は書かれておらず、それらしい装飾も無かったがそんな事をするのは一人しかいない。
クロコ自身も、それが赦しになるとは思っていないだろうが・・・
何かを形にして償いがしたかったのかもしれない。
家の前に張り紙をしてからはピタリとやんだが。
そういう償いは・・・求めていない。
今でも、彼女の事が憎いのは変わらない。
赦せたわけでもない。
だけど、こうしてみると彼女も一人の人間なんだという事実が重くのしかかる。
・・・ここから先を言葉にするべきではないだろう。
私達の道が交わることはもうないから。
今は、砂祭りの方に集中しよう。
▼一日目 夕方
少しずつオアシスが暗くなって、中央の湖も綺麗にライトアップされている。
最終日のフィナーレには大きな花火をあげる予定だから、恐らく一番人が集まるのはそこだとは思うけど・・・お昼よりもかなり多くの人が集まっている。
これだけ人が多いと、見知った顔を探すのも大変だろう。
そして、はぐれてしまえば合流するのも困難そうだ。
昼の内に、企業や商店街の方へのあいさつ回りは済ませたのでパトロールがてら会場を回ろうと思っていたのだが。
見知った顔・・・というより、お世話になった顔を見かけたので話に行ってみる事にする。
『お疲れ様です、ティーパーティーの皆さん。』
「シノさん、その節はどうも・・・お世話になりましたね?」
「あはは、ナギちゃんったらヒフミちゃんの写真を見てから30分くらい固まってたんだよ?」
「あそこまでナギサが取り乱すというのも久しぶりに見た気がする。一体何を送ったんだい?」
あぁ、ヒフミちゃんとアズサちゃんの水着の写真の話か。
でもまあ、人数の指定まではしてなかったし・・・
『まあ、約束は守りましたからね。追加で送ったのでそれでチャラと言う事にして欲しいです。』
「それにしても・・・やっぱり私が広げたオアシスが賑わってると感慨深いものがあるよね☆」
『その節は本当にありがとうございました。おそらくあれ一本で食っていけますよ。』
普通は木を丸ごと植林なんてできる筈がない、本当に重機は偉大だ。
「言っとくけど、私を重機扱いしてるのはあなただけじゃんね?」
「おや、違ったのかい?」
「セイアちゃん~?」
「待ってくれ、流石に君の力でアイアンクロ―は洒落になってない・・・!」
「少しだけ頭を柔らかくしてあげるよ☆」
「い、一応他校への奉仕活動と言う名目だという事は忘れないでくださいね・・・」
随分と元気そうで何よりだ、セイアちゃんの体調もだいぶ良くなったのだろう。
代わりに未来視は失ったらしいが、今になれば人の身に過ぎる力だったとも思う。
・・・でも今人体から鳴っちゃいけない音が鳴ったような。
そんなじゃれ合ってる?二人を無視して話を続けるナギサちゃん。
「こうして二人でゆっくりお話し出来るのはお茶会以来でしょうか。あの時は何と言うか・・・」
『謝罪は必要ないですよ、あの時は互いに立場があった・・・それだけです。』
ナギサちゃん視点で、止まれない気持ちは分かる。
それに被害者である補習授業部が気にしていない以上は、これ以上何かを言う必要も無い。
「どうしても感謝を伝えておきたかったのです、貴方達が居なければ三人でこうして砂祭りを回る事も出来なかったでしょうから・・・」
『私が居る事で、本当にあの事件は良い方向へ向かったんでしょうか・・・』
ずっと思っていた事だ、先生だけならもっとスマートに解決できたんじゃないかと。
そんな事を思ってしまう。
「やはりミカさんへの風当たりが強い事には変わりませんが、それでも想定していたよりずっと柔らかいものになっています。これは間違いなく事後の対応が良かったからです。」
「本当に感謝しているんです。もし私に出来る事があればティーパーティとしても桐藤ナギサ個人としてもお力になりますから。」
『それは・・・ありがとうございます。』
こんな私でも誰かを守る事が出来たというのなら・・・
私がここに居た意味はあったんだな・・・なんて思う。
『・・・ところでセイアちゃんは大丈夫なんですか?』
「あっ!?セイアさん!お気を確かに・・・!?それではまたお会いしましょうね・・・!」
真っ青になったセイアちゃんを背負って何処かに走っていくナギサちゃん達。
あまりミカちゃんを怒らせるのはやめておこうと思った。
▼二日目 昼
今日は土曜日と言う事もあって、昨日より人が多い。
だから、会場を回るがてら昨日と同じくパトロールに出かける事になったのだが。
「うへぇ~過剰戦力だと思わない?」
『一人でパトロールは何かあった時に柔軟に動けないので、二人一組と言うのは合理的だとは思いますよ?戦力としては過剰気味だとは思いますけど。』
私とホシノ先輩で、何からここを守れと言うのか?
ビナーでも攻めてくる想定でいるのだろうか。
まあ、ちょうど今空いてたのが私たち二人だけと言うだけなんだろうけど。
「それにしても・・・ほんとにさ。砂祭りが開催されたんだね?こうして歩いてみて、やっと実感が沸いたというか。」
『そうですよ、そして来年もきっと続いていくはずです。』
「そっかぁ、そうなんだね・・・」
感慨に浸るように呟いた彼女。
ホシノ先輩の部屋に飾ってあった、ボロボロの砂祭りのポスター。
聞くことは出来なかったが、ある程度想像はついている。
おそらくはこちらの世界のユメ先輩の・・・
「シノちゃん、ありがとね。」
『どうしたんですか、改まって急に。』
「改めてお礼が言いたくなっただけ!それじゃ、気を取り直してパトロールといこうかぁ~」
『そういいつつ綿飴の屋台に並びにいかないでくださいよ、まぁ良いですけど・・・』
綿飴を食べるなんて何時ぶりだろうか、お祭りの時しか食べないがお祭りの時は何となく食べたくなってしまう魅力がある、
そうそう、この会場のスポンサーにはモモグループもいる。
なので、折角だから綿飴の袋も特注で・・・
「ペロロ様をみつけましたよ!アズサちゃん!!!」
「ひ、ヒフミ・・・早すぎる・・・!」
耳が早すぎる、来なければプレゼント用に持って行こうと思っていたのに。
今までに見たことのない速度で走ってきた、ヒフミちゃんと後ろを追う補習授業部のみんな。
まぁ・・・元気そうで何よりではある。
「何とか確保できました!観賞用・保存用・布教用で三つは欲しい所ですね・・・」
「ふ、袋でも欲しいものなの?おじさんにはわからないなぁ・・・」
「何を言ってるんですか!私の知る限りでは公式がペロロ様のわたあめ袋を作ったのは今回が初めてです!!それに他にもいくつか会場限定の商品があるんですよ!?」
実は試供品として提供していただいたのだが、これを言うと色々と不味そうなのでやめておこう。
まさか、消費者としてではなくこっち側で関わることになるとは思っていなかったが。
弁明をしておくと、モモグループはアミューズメントパークなどを手掛けていて信頼と実績から声をかけたので、そこに私情は挟んでいない。
まぁ、嬉しいのは確かだけど。
「・・・あっ!?ホシノさんとシノちゃんじゃないですか!」
「い、今気づいたの?」
どうやらお目当ての品物を手に入れ終わったらしいヒフミちゃん達。
お昼をとってなかったので、そんな彼女達とお昼ご飯を一緒に食べることにした訳だが。
それにしても意外だった、真ん中の湖で泳げるからてっきりハナコちゃんは水着で来ると思っていたのだが。
お祭りらしく可愛らしい浴衣を着ている。
まぁ、彼女も友達と純粋にお祭りを楽しみたかったのだろう。
ん?いや待て・・・浴衣って確か・・・
「ふふっ、確かめて・・・みます?」
ずいっと顔を近づけてきたハナコちゃん。
『や、やめておきます。』
「あら、残念です♡」
本当にそうだった場合、確認できるわけがない。
注文は済ませたが、この込み具合なら料理が届くまで暫くはかかるだろう。
『それで、お祭りは楽しんでもらえてますか?』
主催側としては、友達が楽しめているかは気になる所ではある。
「ま、まあ?悪くないんじゃない?」
「そう言って昨日寝付けないって電話してきたのは誰でしたっけ?」
「ちょっとハナコ!それは言わないでって言ったでしょ!?」
「あらあら、私はコハルちゃんの事とは一言も言って無いんですが・・・」
「うっ・・・うるさい!」
『ふふっ、皆が楽しんでくれているようで開催側としても何よりです。』
そして私個人としても、補習授業部の皆が楽しんでくれると嬉しい。
こちらの世界では数少ない、アビドスの外の友人と言える存在。
休日はよく遊びに行くことが多い、この前は先生の奢りで焼き肉に行ったし。
「それにしても・・・こうして見ると、本当に姉妹みたいですね〜」
似ているのは当然だろう、同一人物なのだから。
そう言えば他の皆に詳しくは説明できていなかったっけ。
まあこのままでも良いか、
『お姉ちゃんと呼んでくれても良いんですよ?』
「な、何で私が妹になっちゃうのかな?」
『私の方が身長は高いですし。』
「ふーん・・・表に出なよ。あの時の決着をつけようか、シノちゃん。」
『じょ、冗談ですよ。』
「・・・どっちも小っちゃいでしょ。」
『「こ、これから成長期が来るから・・・!」』
一年生の中でも大きい方じゃないコハルちゃんより小さいというのは、流石に危機感を覚える。
ノノミちゃんとか、同い年の筈なのにな・・・
少し時間が過ぎて、美味しそうなたこ焼きと焼きそばが席に来る。
ソースの香りが広がって、食欲をそそる。
夏のビーチと言えば焼きそばって感じがする。
海ではないのだが、海の家みたいな様相の店内だし。
「クライアント様じゃ無いですか!?特製
『お邪魔してます、ありがたくいただきますね。』
シズコちゃん自ら店員をしてくれているなんてありがたい限りだ。
経営の相談などもしてくれてたというのに、接客もこなすなんて・・・
本当に彼女には頭が上がらない。
それにしてもいつ休んでいるのだろうか。
・・・まあ、怖い事は置いておいて早速頂こうと思う。
『おいひい・・・』
「それは・・・本当に良かったな。」
「もう、急いで食べなくても料理は逃げないから食べるか喋るかどっちかにしなさいよ・・・」
『真のお姉ちゃんはコハルちゃんだったんでしょうか・・・?』
「そんなわけないでしょ!?」
「そう言えば来週は暇だろうか、美味しいパンケーキのお店を見つけたんだ。皆で行きたい。」
『来週は・・・えぇ、大丈夫ですよ。空けておきますね。』
結局焼きそばにたこ焼き、あんみつまで食べてしまったせいでお腹は一杯になってしまった。
しかし、とても満足できたのでまあ良いだろう。
▼二日目 夕方
ノノミちゃんとシロコちゃんと一緒に最終日の花火の為の設営準備や資材の搬入を行うことになった。二年生だけで行動するというのも久しぶりな気がする。
この前は、ショッピングに行った時だったっけ。
「花火楽しみですね~☆」
「ん、それにしても随分と沢山打ち上げる。」
『砂祭りと言えば”これ”という名物にしたいという目論見もあります、来年以降もこれを目当てに人が集まるような名物にしたくて。』
どうやらこの花火に例の噂が相まって随分とカップル達の間で話題になっているようだが。
まあ、話題になるのは有難いが何処からそんな噂が流れているのだろうか・・・
道を歩いていると、随分と大きな人だかりが出来ているのを見つける。
どうやらお金のない学生の為に、無料での炊き出しを行っているようなのだが。
そういう所まで気を利かせる余裕は私達にはなかったのでありがたい。
「えぇい!押すな!割り込むな!喧嘩をするな!まだまだ数はあるから落ち着いて並べ!列を作ることは出来んのか貴様らは!」
「そうはいっても、皆お腹減ってるっすからねぇ・・・しょうがないんじゃないっすか?」
「うちらもお腹が減ったから貰うね。」
「私も一つ貰ってもよろしくて?」
「む、貴様らは・・・まあ、構わんが。」
「ふむ、合格点といった所でしょうか・・・」
「当然だろう!この私が腕によりをかけて作ったのだぞ!」
随分と騒がしい事になっている、まあそちらはそちらに任せよう。
私達には私達のやる事がある。
花火の打ち上げ予定場所に辿り着いたが、ここでも何か揉めているらしい。
商店街のおじちゃんと相手は・・・ゲーム開発部か?
「どうしても花火の打ち上げの現場が見たいの!お願い!」
「次回作る予定の作品の為にどうしても見ておきたいんですが・・・ダメですか?」
「俺たちとしても見せてやりたい気持ちは山々なんだがよ・・・打ち上げの当日は保安距離もあるからあんまり近くで見せてやる訳にはいかねぇんだ。」
「そこをなんとか・・・!」
そういう訳か、確かに良い資料にはなると思うが。
『お久しぶりです皆さん、事情は聞かせてもらいましたけど。』
「お久しぶりです~ゲーム開発部の皆さん☆」
「あっ、お邪魔してます・・・」
「しゅ、主催者権限で何とかならないかな!?」
『そう言われても無理ですね、直接見るのは流石に厳しいです。』
「うぅ、そうですか・・・残念です。」
「落ち込まないでください、王女。」
とは言え、折角花火を楽しみにしてくれているし・・・
私としても恩がある相手だから、何とかしてあげたい気持ちもある。
『保安距離は人間に対するものですからね。もし職人さんの邪魔にならない程度なら例えドローンが飛んでいても気にならないかもしれません。そんな精密で高性能なドローンを持っている人間は限られるとは思いますが・・・』
「そんなドローンなんて・・・いや、リオ会長なら持ってるかも?」
「そうですね!賢者をパーティに加えに行きましょう!」
「本当にありがとう!ゲームが出来たらアビドスに送るね~!!!」
そう言って走り去っていったゲーム開発部の子達。
嵐みたいな子達だったな。
「ん、これ荷物と差し入れ。」
「ありがとよ、シロコの嬢ちゃん!ドでかいのを打ち上げるから楽しみにしててくれよ!」
「ん、楽しみにしてる。」
「そういえば、シノちゃんはやっぱりユメ先輩と見るんですか~?」
『いや、まだ誘ったりはしてないですけど・・・』
「そうなんですか・・・こういうのは当人同士に任せるべきなんですかね~でもやきもきします・・・!」
「早くくっつくべき、時間は有限。」
『な、何を言い出すんですか・・・!?私とユメ先輩はそういうのじゃないですから・・・!』
「ん・・・これは難敵。」
「大変ですね~☆」
『ニヤニヤ笑わらないでください・・・ほら、次の搬入に向かいますよ!』
後ろからの生暖かい視線が微妙にむず痒くて、その場から逃げ出すように歩き出す。
私の事を一体何だと思っているのか。
▼最終日 昼
”いや~ついに最終日だね。最後には花火も上がるんだよね?”
『えぇ、先生はホシノ先輩と見るんですよね?花火。』
”その予定だよ、
例の噂と言うと、恋が叶うとか叶わないとかいうあれか。
『ああ、まあ・・・先に約束してましたしね、先生の方から・・・』
”う、うん。そういえば、シノは誰かそう言う人いないの?”
『へぇ、先生もそう言う話お好きなんですね?』
どちらかと言うと少し意外だった。
いや、そうでもないか・・・?
もしかしたら、先生も祭りの熱気にあてられているのかもしれない。
”あはは、まあ定番と言えば定番でしょ?”
『まあ、確かにそうですが。今の所は特に・・・ですかね。』
恋、恋かぁ・・・恋愛なんてしている暇がなかったとも言えるが。
正直な所、分からないという方が正しいのかもしれない。
”・・・ユメの事はどう思ってるの?”
『どうしてそこでユメ先輩の名前が?
友情は感じるが、私なんかにユメ先輩がそういう魅力を感じる筈がないし。
”聞いてみたかったんだけど、シノにとってユメってどういう存在なの・・・?”
『えっと、難しい質問ですね。』
正直、あまり考えたことがなかった。
もしかしたら、考えないようにしていただけなのかもしれないけど。
『先輩であり、生徒会長であり、目を離せない人ではあるんですが・・・どれもしっくりとは来ませんね。』
そして、大切な人でもある。
それは、何となく言葉にするのが気恥ずかしくて言わなかったけど。
『もし一言で表すとしたら・・・』
この言葉がしっくりくる気がする。
『”日常”でしょうか。』
「・・・自覚は無いんだよね?」
先生の反応から推測するに。
『・・・もしかして私
”
重い・・・重いのか・・・
重い女は嫌われると聞くし、言葉選びには気を付けないといけないかもしれない。
それはもう今更か。
”もし、もしもの話なんだけど・・・私がユメと付き合い始めたらどう思う?”
『・・・先生なら安心してユメ先輩を任せられます。幸せにしてあげてくださいね?』
”うーん・・・確かに恋愛感情はないのか・・・”
先生は、私なんかよりずっと優しくて頼りになって・・・
少しだけマイペースで甘すぎる所はあるが、ユメ先輩と相性はいいだろう。
だから、きっと先生ならユメ先輩を幸せにしてくれるだろう。
ユメ先輩が幸せなのが一番なのだから。
『ああ、でも・・・なんででしょうか。』
”・・・どうしたの?”
先生の隣で笑う、ユメ先輩を想像して。
何故かはわからないけど、少しだけ―――
『・・・嫌だな。』
―――胸がズキリと痛んだ。
▼最終日 夜 先生視点
砂祭りの喧噪から少し離れた、比較的静かなこの場所。
誰も人が来ないのは、ここが物資置き場でスタッフ以外の立ち入りが出来なかったからだろう。
「いや〜綺麗だね〜花火。先生もそう思うでしょ?」
” う、うん。そうだね。”
花火はとても綺麗だが、正直なところ別の事に意識が向いてしまってそれどころではない。
この砂祭りを取り巻く、ある噂のせいで。
「どうしたの先生?もしかして体調悪い?それなら医療ブースに・・・」
”ああ、いや。そう言うわけじゃないんだけど・・・”
「そう?それなら良かった。おじさん一安心だよ〜』
夜の暗さのせいで分からないが、パッと見はいつも通り振る舞っているように見えるホシノ。
とは言えいつまでも結論を出すのを先延ばしにする訳にもいかないだろう。
大人である私が切り出さなきゃいけない。
”言わなきゃいけない事が・・・あるんだ。”
「きゅ、急にかしこまってどうしたのさ先生。」
”がっかりするかもしれないけど・・・実はこの砂祭りに縁結びの噂があるなんてあの時は知らなかったんだ。本当にごめん。”
一瞬だけポカンと言う表情になるホシノ。
綺麗な浴衣まで着て、こんなに準備をしてきてくれたと言うのに。
もっと早く切り出すべきだった。
「・・・知ってたよ?」
”・・・えっ?”
「なんだぁ、もしかしてさっきから俯いてたのってそれが原因?まさか実行委員会側のおじさんが知らない訳ないじゃん〜」
脳裏によぎるのはシノとの今までの会話。
〈先生はホシノ先輩と見るんですよね?花火。〉
〈ああ、まあ・・・先に約束してましたしね、先生の方から・・・〉
し、シノ・・・!何か含みがあると思ったら、途中から分かって黙ってたな・・・!
冷静に考えてみれば、そうにきまっているのだが・・・
どうやら私も冷静ではなかったらしい。
「そう言う事なら緊張しなくて良いからさ、一緒に花火を楽しもう?」
”あはは、そうさせてもらおうかな・・・”
隣に座って、夜空に打ち上げられていく花火を眺める。
安心した反面、何故か分からないが・・・
残念に思っていた自分がいた事に驚きを隠せない。
私は、一体どうしたかったと言うのだろうか。
「どうしたのさ、先生?」
”本当に何でもないよ、ごめんね。”
心配そうに私の顔を覗き込んでくる彼女。
ホシノとも長い付き合いになるから、きっと私が何かを迷っていることは気づかれてしまっただろう。
色んな事件を越えて、様々な日常を送って来た。
カイザーPMCとの争いも、色彩を中心とした騒動も、雷帝の遺産の裏に隠された陰謀も。
アビドスの皆でリゾートに行ったり、オアシスで遊んだりもした。
そうして時間を過ごすごとに、小鳥遊ホシノと言う人間を知るごとに。
飄々としていて、面倒くさがりのような言動の裏に凛々しさと優しさを隠した・・・
そんな彼女に、確かに私はいつの間にか惹かれていた・・・のだと思う。
「でも、確かにちょうど良い機会だよね。」
「言葉に出来ないで後悔するのはもう・・・沢山だから。」
覚悟を決めた様子の彼女の言葉を。
聞くべきではないのかもしれない。
話を変える方が良いかもしれない。
そう考えて・・・やめた。
結論を出すことを引き延ばすのは逃げるのと同じだ。
それは、彼女の為にも私の為にもならない。
「さっきさ、知ってたとは言ったけどさ。」
「・・・やっぱり私も期待してなかったと言ったら嘘にはなるんだよね。」
何を、とは聞けなかった。
確かにあくまで私
もし私が同年代なら、彼女と
それでも私は「先生」で、ホシノは「生徒」だ。
大人と子供、私と彼女では少なくない歳の差だってある。
あれからずっと考えていた、私はどうするべきなのかを。
そうして出した結論は・・・
”ごめんね、ホシノ。やっぱり私はその気持ちには応えてあげられない。”
「ううん、半分分かってたから・・・でも、そっか。そうだよね・・・」
やはり一人の大人として、そして先生としても生徒とそういう関係になることは出来ない、と言う事だった。
”話はそれで終わりじゃないんだけど・・・聞いてくれるかな。”
「うん、聞かせてほしい。」
本当は、ここから先の話をするべきではないのかもしれない。
でも、外付けの理由で彼女の思いを手折ってしまいたくなかった。
そして、それはきっと私自身も。
確かに世間体とか外聞とかそう言う問題も無くは無いけど。
本当に問題なのは別の事だ。
”今は、キヴォトスのアビドス・・・つまり学校って言う狭い世界で、唯一の大人の先生って言う存在は魅力的かもしれないけど・・・”
”これからホシノは卒業して、社会に出ていろんな経験や出会いをすると思う。その前に私が・・・先生である私が、生徒の事を囲い込んで・・・生徒の出会いを奪ってしまうのはフェアじゃないと私は思う。”
やはり生徒を囲い込んで出会いを奪う・・・生徒の選択の幅を狭めることは。
大人としても、先生としてもしてはいけない事だと思ったから。
「それってつまり・・・大人になったら。」
”も、勿論・・・本当にホシノがそれまで気持ちが変わらなければだけど。”
きっとこれから社会に出て、同年代の子と魅力的な出会いを重ねていけば・・・
きっと私のことなんて忘れてしまうだろう。
それが良い・・・それで良い。
「先生は本当に・・・狡い人だね。」
”ごめんね、酷なことを言ってるのは分かってるつもりなんだけど・・・ ”
年単位の時間というのは、とても長い時間だ。
学生である彼女にとっては尚更。
だからこそ、それだけの時間があれば世界を客観的に見ることができると思う。
「でもさ、そんな先生だからこそ。私は・・・」
一際大きな花火が上がって、そちらに目を向ける。
その瞬間、熱くて柔らかい唇の感触が頬に残る。
「好きだよ、先生。」
少しずつ静かになっていく夜空と、柑橘系のシャンプーの香りが・・・
「私、絶対忘れてなんてあげないから。」
今も消えずに頭の片隅に残っている。
▼最終日 夕方 シノ視点
あと少しで砂祭りも終わりか・・・長かったような短かったような・・・複雑な気持ちだ。
この二日間でいろんな人たちと出会った。
もし、あの日別の選択を選んでいれば・・・交わる事の無かったはずの道。
あれから忙しいのもあって、いや・・・
きっと忙しさは言い訳だろう。
私はまだユメ先輩を砂祭りに誘えていない。
・・・あんなの、単なるつまらない噂だって言うのに。
『・・・でも、警備の仕事だってありますしね。』
警備は重要な仕事だ、もしもトラブルがあったとして・・・
私が私情を優先したばかりに、この砂祭りが失敗に終わってしまっては意味がない。
だから、これでいい。
「・・・随分と辛気臭そうな顔。」
「み、ミサキさん!流石に失礼じゃないですかね!?確かにこの世の終わりみたいな顔をしていましたが・・・」
「・・・そこまでは言ってないけど。」
「一回客観視した方が良いと思うよ、はいチーズ。」
「アツコ止めておけ・・・流石に可愛そうだ。」
『ずっ、随分と好き勝手言ってくれるじゃないですか・・・アリウスの皆さん。』
「別に話しかけるつもりは無かったけど。丁度横を通りたかっただけ。」
アリウススクワッドの4人と話したことは数えるほどしかない。
まあ、彼女達の出自を考えれば先生以外は話した事がある生徒の方が少ないとは思うが。
高那シノとしては、二度目と言うことになるだろう。
そんな彼女達にも分かるくらいに、ひどい顔をしていたのだろうか。
『何でもないんですよ、少し考え事をしていただけなので。』
「どうせ考えたって意味なんてないんだし・・・自分の人生なんだから、自分の好きなようにするんじゃないの?」
既視感を覚える発言、一体どこで聞いたんだったか。
確かにその通りではあるかもしれないが、私にだってやらなくちゃいけない事がある。
『それは・・・でも私にだって役目がありますし。』
「実はこの会場には仕事を探しに来ていたんだ。ちょうど今月は何かと入り用でな。警備を任せてくれる太っ腹な依頼主が居ればこちらとしても助かるのだが・・・」
恐らくは、気を利かせてくれたのだろう。
だが、これでもう仕事のせいにはできない。
『・・・ありがとうございます、報酬は期待しておいてください。』
「ああ、行ってくると良い
『なっ、何時から気づいて・・・いえ、それでは急ぐので!』
小さな背中は遠ざかって行って、やがて見えなくなった。
確証はなかったのだが、どうやら勘は当たっていたらしい。
「状況証拠だけで、確証はなかったがやはりか・・・」
「まあ、貸りっぱなしっていうのも癪に障るよね。」
「えっ、彼女がそうだったんですか?ひぇっ、後で追いかけられたりしませんよね・・・!?」
少しお節介だっただろうか、行動しても必ずしも良い結果に進むとは限らないというのに。
それでも、行動を起こさなければ初めから諦めているのと一緒だとも思う。
「それにしてもさっちゃん、今日はオフだって言ってなかった?」
「こういう時は野暮な事は言うものではないぞ、アツコ。」
▼最終日 夜 シノ視点
電話を掛けようとしたが、ユメ先輩には繋がらなかった。
大方、使いすぎて充電が無くなってしまったのだろう。
だから、探し出そうとしてこの日広い砂祭りの会場を駆ける・・・駆ける。
でも、人は多いし広いから中々目当ての人物は見当たらなかった。
会場のスタッフ用の休憩テントに辿り着いたが、今は誰もいないらしい。
もしかしたら、このまま見つからないかもな。
でも、これで良かったのかもしれない。
私は最善を尽くしたのだから。
「・・・本当にそれでよろしいので?」
居るはずのない異形に後ろから声を掛けられる。
まさか、こんな所で出会うとは思わなかったが。
『
「いえ、今日はあくまで砂祭りを楽しみに来ただけですので・・・銃は下ろしていただきたい。」
まあ、確かに今更黒服がこんな所で何かをしでかそうとしているとは思っていない。
黒服って名前なのに、アロハシャツだし。
『それで良いってどういう意味?見つからないものは仕方ないでしょ?』
「おや、私にはそうは見えませんでしたが。まるで諦める理由を探しているような。」
痛い所を突かれる、確かに私は全力を尽くしたとは言えないかもしれない。
でも仕方ないじゃないか。
『怖いんだよ、今の関係が崩れてしまうのが・・・堪らなく怖い。』
絞りだしたような声に乗せたのは、私の本音。
今が、心地良くて暖かいから・・・だからその関係を壊してしまうかもしれないのが怖い。
何かを選ぶのが怖い、何かを失うことが怖い、万が一にでも・・・
―――ユメ先輩の隣にいられなくなることが怖い。
「気持ちは分かりますが、貴方の信じる梔子ユメとは・・・その程度の存在なのですか?」
『そんなことは・・・無いけど。』
「なら、貴方のしたい様にすれば良い。あくまでも無理強いはしませんが・・・」
『でも、奇跡なんて起こりえない。ここで私が闇雲に走り回ったってユメ先輩を見つけられる可能性なんて限りなく低いんだよ。』
早々、奇跡なんて起きえない。
世界はそんな都合の良い形をしていないのだから。
「あるでしょう、一つだけ。この広い会場から一人の人間を探し出せる方法が。」
『それは一体・・・まさか。』
「えぇ、
とても騒がしく、人で混みあった砂祭りの会場。
<ピンポンパンポーン。>
そんな会場に突如として鳴り響いた会場案内のチャイム。
何故か猛烈に嫌な予感がする。
<迷子のアビドス高校三年の梔子ユメさん、中央受付でお連れ様がお待ちです。>
「ひぃん!?絶対シノちゃんでしょ・・・!流石にこの歳になってそれは恥ずかしいよ・・・!」
会場案内を使えば、確かに迷子を探し出すことは出来る。
焦りと不安からか視野が狭まっていたらしい。
「もう、酷いよシノちゃん!とっても恥ずかしかったんだからね!!!」
まあ、本人の尊厳と引き換えにだが。
『それはごめんなさい・・・でも、電話に出ないユメ先輩にも問題はありますよね。』
「そ、それは・・・ごめんね?実はスマホの電源が切れちゃって・・・」
『はぁ・・・だから寝る前に充電はしないとダメだって言ったじゃないですか。』
「ひぃん、ごめんって・・・それでどうして私を探してたの?」
少しドキリとする、そうだ・・・探し出すのはあくまでスタートラインに過ぎない。
『それは、あぁ・・・えっと。』
「えっと?」
『砂祭りも最終日ですし、えっと・・・』
そんな事が言いたいんじゃないだろう。
『私と一緒に砂祭りを回ってくれません・・・か?』
喉が嫌に乾く、緊張しているというのだろうか。
遊びに誘う・・・それだけの行為の筈なのに。
「ほんと?私もシノちゃんと回りたかったんだぁ、でもなんかここ数日避けられてる気がして。」
『うぐっ、それは・・・ごめんなさい。』
返って来たのは、肯定の反応。
結局は私の気持ちの持ちようの問題だったんだろう。
覚悟を決めて誘ってみれば、存外スムーズに話は進んだ。
「とりあえず・・・浴衣借りよっか?」
『ユメ先輩はともかく私も着るんですか?似合わないと思うんですけど・・・』
「え~絶対似合うって!馬子にも衣装ってやつだよ!」
『良いですけど・・・知ってました?馬子にも衣装って別に誉め言葉じゃないんですよ?』
「ひぃん!?そ、そうなの・・・!?」
浴衣を着て。
『似合ってますね、ユメ先輩。でもお揃いにするとやはり差が目立つというか・・・』
「そう?私はシノちゃんも似合ってると思うけど・・・あっ!」
「ねえねえ、見てシノちゃん!あっちに射的があるよ!」
『ユメ先輩・・・そもそも当てられるんですか?』
「酷いよシノちゃん!?止まってる的に当てられない訳ないじゃん・・・!」
射的をして。
「・・・よし!」
『なにが”よし!”なんですか。結局一発も当たってませんよね?』
「だ、だって・・・!練習したのなんて一年以上前だし・・・!」
「き、気を取り直してリンゴ飴食べようよ!ほら、シノちゃんも好きでしょ?」
『見事に話をそらしましたね・・・まあ、良いですよ。奢ってくれるんですか、ユメ
「うっ、今月厳しいんだけどな・・・まあかわいい後輩の頼みだし・・・」
リンゴ飴を食べて。
「金魚すくいしたいな~」
『掬った後の金魚の面倒は見れるんですか?まあ、私も嫌いじゃないので別にいいですけど。』
「ふふん、任せてよ!」
『毎日ちゃんと水も換えるんですよ?』
「・・・日替わり当番にしよっか?」
『私が言うのもなんですが、何時までも私が住んでいて良いんですか?』
金魚すくいをして。
誘う前は緊張したが、始まってしまえば心地良い時間が流れる。
やはり、私にとってユメ先輩は日常のようなものなのかもしれない。
噂は所詮噂にしか過ぎないとも言える。
先ほどの、誰もいなかったスタッフ用の休憩テントに戻って来た。
折角花火を見るのなら、場所にも少しこだわりたかったから。
ここなら、椅子もあるし飲み物の類も完備してある。
楽しい時間と言うのは、過ぎるのが早いと言うが・・・どうやら祭りの方も終わりを迎えそうだ。
ライトアップが徐々に小さくなって、大きな緑色の花が夜空に咲く。
「わっ、綺麗だね・・・たまや~!」
『確かに、綺麗ですね。でも、これで砂祭りも・・・終わるんですね。』
花火は綺麗だが、それはこの砂祭りの終わりが近い事も示している。
どんな楽しい事にも、何時かは終わりが来る。
終わりがあるからこそ、美しいのかもしれないが。
「金魚ちゃんの為におうちに水槽買わないとね・・・どれくらいのを買おっか?」
『高い方がいいかもしれませんね、金魚の寿命って10年位あるんですよ。』
「い、意外と長生きなんだね?10年後かぁ、想像つかないなぁ・・・」
『私は26歳ですか・・・本当に想像がつきませんね。』
「ね、年齢の話はやめておこう?」
10年後、私はどうしているだろうか。
何処に住んでいるのだろうか、どんな仕事についているのだろうか。
私の隣には・・・ユメ先輩は居るのだろうかなんて重すぎるけど
でも、10年後も20年後もずっとその先も・・・
隣に居たいなんて思う、これは独占欲なのだろうか。
少しだけ違う気もする。
「どうしたの、シノちゃん?」
そんな時、何故かあの時の先生との一連のやり取りを思い出した。
私達の中に恋愛感情の類は無いと思っていた。
ずっと一緒にいて、今更と言う感じもするし。
それでも、ユメ先輩の事は大切だし幸せになってほしいとも思う。
・・・そこまで考えて、一つこの感情に心当たりがあった。
確かに恋愛感情ではないけど、だとしたらこの感情はあまりにも重たすぎる。
「大丈夫シノちゃん?お顔が真っ赤だけど・・・」
『あっ、ああ・・・だっ、大丈夫ですよ。』
自覚してしまうと、真っ直ぐにユメ先輩を見れない。
余りにも気まずすぎる。
「そう、体調が悪かったりしたらすぐに言ってね?」
言えるわけがない。
まさか・・・恋心を通り越して・・・
貴方を愛しているだなんて。
「ほんと?熱は無いかな・・・」
ピトリと額をくっつけるユメ先輩。
フワリと彼女のお日様のようなにおいがする。
一度考えてしまうと、いつも以上に意識してしまう。
愛と恋の明確な違いなんて私には分からないけど。
彼女が幸せな事が、私の中で一番大切な事になっていた。
「うん、大丈夫そうだね。気疲れかな・・・ちょっと休む?」
『落ち着いたので大丈夫です、ほら花火も盛り上がってきましたよ。』
徐々に勢いを増す花火、もしかしたらクライマックスが近いのかもしれない。
「砂祭りももう終わりかぁ・・・」
『大変でしたけど、楽しかったですね。』
「そうだね、来年もこうやって遊べたらいいね。私はその時は卒業してるけどさ。」
『留年しなければ・・・ですけどね?』
「ひぃん!?酷いよシノちゃん!」
『冗談ですよ、授業も真面目に受けてるし成績も悪くないですからね。』
「そ、そうだよね!?」
『だから自信を持ってください、ユメ先輩なら大丈夫です。』
「そうだと・・・良いなぁ。」
きっと来年には、ユメ先輩はアビドスを卒業する。
来年も再来年も、きっと一緒にいることは出来るだろう。
でも、今のような関係ではきっといられない。
ユメ先輩にだって、ユメ先輩の人生があるのだから。
変化を恐れて何もしなくても、いや・・・何もしないからこそ変わっていってしまう。
「シノちゃんはどうするつもりなの?卒業してからさ。」
『私は・・・』
だからこそ、
きっと、今を逃してもタイミングはあるとは思うけど。
引き延ばすのは、逃げるのと変わらないから。
『わ、私は・・・』
「うん。」
『10年後も20年後もずっとその先も・・・貴方の隣に居てもいいですか。』
「私あんまり察しが良くないから・・・しっかり言葉にしてくれないと分かんないかも。」
分かってはいるのだろう、でもやっぱり・・・
言葉にしなきゃいけない想いだってある。
『あ、貴方を・・・・・・愛しています。』
「私もだよ、シノちゃん。」
一際大きな花火の光が、会場を染め上げる。
初めての口づけは、仄かにリンゴ飴の甘い味がした。
緊張と恥ずかしさで、顔を見れない。
場を包むのは遠くから聞こえる少しばかりの祭りの喧騒と、静寂。
それを破ったのは、ユメ先輩だった。
「ふ~緊張したぁ・・・!」
『や、やっぱりユメ先輩も緊張してたんじゃないですか。』
案外余裕そうだなと思っていたが、確かに耳が真っ赤に染まっている。
「そりゃあ、先輩として頼れるところをちょっとくらいは見せないとね?」
『ふふっ、何ですかそれ・・・』
例えそんな事をしなくたって、私は貴方を尊敬しているし・・・頼りにしているというのに。
「そういえばシノちゃんは梔子の花言葉って知ってたりする?」
『いや、聞いたことはないですけど。何なんですか?』
「んーとね・・・やっぱり内緒、また今度ね!」
『な、何なんですか気になるじゃないですか。』
「調べちゃダメだからね?もし調べたらその時は・・・どうしよっかなぁ〜」
『勿体ぶらずに教えてくださいよ・・・!』
祭りの喧騒は次第に落ち着いて、夜は更けていく。
そろそろ、閉会式が始まるだろう。
私達も、ゆっくりと祭りの中心へと歩いていく。
「これからもよろしくね、シノちゃん?」
『えぇ、これからもよろしくお願いします・・・ユメ先輩。』
いつか終わりが来るその日まで、この手に掴めた日常を手放さずに歩いていこうと思う。
ユメホシも先ホシも見れるのは多分ここだけ。
物語としてはこれで終わりですが、これから先も青春は続いていきます。
ここから先は、皆さんでお好きに補完していってください。
本編で語りきれなかった部分もいくつかありますが、気になった所や疑問などがあれば感想の方にいただければ時間のある時にお答えしようと思います。
ここまでお付き合いしていただき、ありがとうございました!
評価やコメントと感想等・・・とても良いモチベーションになりました。
また他の作品でお会いできたら幸いです。
天野ミラ