ジェーンとあまり健全じゃない関係の男 作:──
「……ねぇレオくん?アタイに隠し事、してない?」
「ないです」
ある日の昼下がり、ソファに座るレオに後ろからしなだれかかったジェーンはそう聞いた。
レオはそんなものはない、と即答する。
「昨日の夜、アタイの同僚と君が話してるのを見たんだけど」
「……昨日の夜?」
「誤魔化さないで」
レオの首にジェーンの尻尾が巻きつき、その鋭い先端が顔に向けられて初めて、その問いが冗談なんかではなく比較的真面目な審問だと気づいたレオは必死で昨夜のことを思い出す。
「……あっ、朱鳶さんですか?」
「そう」
「あれはたまたま会って、あちらから声をかけてきたんです」
「何を話したの?」
「別に他愛無い──」
「他愛無いかどうかはアタイが聞いてから決めるわ」
ジェーンは声量を強めてレオの言葉を遮ると、レオの背後から、正面へと回り込み、その目を見て言葉を続ける。
「ここはアタイとキミが帰ってくる場所。君と二人で、休む場所だって、アタイはそう思ってるわ。……この場所もキミも、同僚にだって譲れないの。わかってくれるかしら?」
その言葉を聞いてレオは、最初は真面目そうな顔をしていたものの、数秒経つと笑いを堪えるように肩を震わせ始めた。
「ちょっと、何がおかしいの?」
「すいません、ちょっと……、ふふっ、俺が朱鳶さんに聞かれたのは、今の生活はどうですかとか、そんな程度です。初対面ですし、ジェーンさんの友達だって聞いてましたよ。同僚とは知りませんでしたけど。」
「へっ?」
理解に数秒の時間を要した後、ジェーンの顔が少しずつ朱に染まって行く。
「俺はただ、『ジェーンさんの数少ない気を許せる人みたいですから、どうか仲良くしてやってください』なんて言われただけです」
「……もう知らない」
ジェーンはレオに背を向けつつ、彼が座るソファのその隣に腰をかける。
その尻尾は、不機嫌そうに垂れている。
「それで、なんて答えたの?」
「……毎日が楽しくて退屈してないって、言いました」
「………………──そう、なら許してあげる」
ソファの背もたれ側に背を向けて、尻尾分のスペースを空けるいつも通りの座り方に戻ったジェーンの尻尾は心なしか楽しげに揺れている。
少し時間が立つと、尻尾のレオの方向への揺れが大きくなり、ついにそれはレオの手に触れた。
「ちょっと、触らないで。シリオンの尻尾は敏感なの」
「……えっと、触ってないっていうか、尻尾がぶつかってきたというか……」
「へ……?」
ジェーンの尻尾は彼女の意志を離れ、すりすりとレオの手に擦り寄ったかと思えば、その腕に巻きつき初める。
レオはこんな、いつも揶揄われている仕返しをする絶好の機会を逃さなかった。
「ジェーンさんもしかして……俺に惚れちゃいました?」
「ちょ、前の私と全く同じ煽り方じゃない」
「いつも揶揄ってるのに隙を見せるジェーンさんの落ち度じゃないですか?」
自身の腕に巻きついた尻尾を、くすぐるようにすりすりと弄ぶレオ。
彼の逆襲は、堪忍袋の尾が切れた真っ赤な顔のジェーンが彼の頭に拳を降らせるまで続いた。