魔力無しのB級冒険者~『無』そのものが世界を見守り導くようです~   作:くろくまけーき

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新米冒険者 フェイ・アルデン

朝の光が差し込むギルドの扉を押し開けると、いつもの活気が広がっていた。冒険者たちの笑い声、依頼に関する議論が飛び交い、活気に溢れている。俺は軽く周りを見渡しながら、カウンターに向かった。

 

「カナタさん、おはようございます!」

 

受付嬢のエイミーが、いつもの元気な声で挨拶してくる。彼女の明るい笑顔は、ギルド全体をさらに活気づける。

 

「おはよう、エイミーさん」

 

軽く返事をしながら、掲示板に目をやる。まだ依頼を決めていなかったので、いくつかの依頼書を手に取る。

 

「今日はどんな依頼を探してるんですか?」

 

エイミーが興味深そうに声をかけてくる。俺は少し考えてから答えた。

 

「ああ……今日は少しゆっくりしたい気分だから、軽めの依頼がいいかな」

 

「それなら、最近多い薬草の採取依頼なんてどうですか? 危険も少ないし、今のカナタさんの気分にはちょうどいいかも」

 

エイミーが数枚の依頼書を見せてくれる。その中の一枚を手に取り、内容を確認する。森で薬草を採取するだけの簡単な依頼だ。

 

「うん、これにしよう。今日はのんびりさせてもらうよ」

 

「いいですね! でも、気をつけてくださいね」

 

エイミーの言葉を聞いたあと、周りを見てみると、カウンターの前で一人の少女が不安そうに立ち尽くしているのが目に入った。

 

ギルドでは見かけたことはない顔だ。いくつか冒険者用の装備を持っていることからも、おそらく彼女は冒険者登録をしようとしているのだろう。が、緊張しているのが明らかだった。

 

俺は彼女に近づき、優しく声をかけた。

 

「冒険者登録をしに来たんだよね? 手伝おうか?」

 

驚いた顔でこちらを見た彼女は、しばらく戸惑っていたが、やがて小さく頷いた。

 

「……はい、お願いします」

 

彼女の声は緊張で震えていたが、少し表情が柔らかくなったように見えた。俺は彼女をカウンターに案内し、エイミーに話しかけた。

 

「エイミーさん、この方が冒険者登録をしたいみたいなんだ。手続きを手伝ってあげてくれる?」

 

エイミーは優しく微笑んで頷いた。

 

「もちろんです! 初めての冒険者登録は誰でも緊張するものですから、ゆっくりやっていきましょうね」

 

エイミーの明るい声に少し安心したのか、彼女は静かに名前を名乗った。

 

「フェイ……フェイ・アルデンです。治癒魔法を、少し使えます」

 

「治癒魔法! それは素晴らしいですね!」

 

エイミーは驚きの表情でフェイに笑顔を向けた。

 

「治癒魔法を使える冒険者は本当に貴重です。これからきっと、たくさんの人に感謝されますよ!」

 

フェイはその言葉に少し驚いたようだが、すぐに視線を落とした。

 

「でも……私、戦うことができないんです」

 

その言葉に俺は軽く首を振った。

 

「戦うだけが冒険者の仕事じゃないよ、フェイさん。治癒魔法で誰かを助けられるって、すごい力だと思う」

 

彼女は一瞬驚いた表情を見せたが、まだ自信が持てない様子で視線を下に向けた。

 

「……私、そんなにすごい力じゃないと思います……」

 

フェイの声には弱々しさがあったが、その奥に人を助けたいという強い意志が感じられた。

 

「カナタさんの言う通りですよ。大事なのは自分の力を信じること。きっと自信は後からついてきますよ」

 

エイミーの優しい言葉に、フェイは少し考え込んでから、小さく頷いた。

 

---

 

森に入ると、ひんやりとした空気が肌に触れる。森の中は、いつ何が起こるか分からない場所だ。俺はフェイに、森での心得を教えることにした。

 

「フェイさん、採取の時でも気を抜かないことが大事だよ。森には魔物も潜んでいるから」

 

フェイは驚いた顔で俺を見た。

 

「採取でも、魔物が出るんですか?」

 

「そう。たとえばスライムなんかは、一見無害そうに見えるけど、体力をじわじわ奪う厄介なやつだ。油断しないように気をつけて」

 

俺はスライムの危険性について説明し、彼女が油断しないようにアドバイスを送った。

 

「何かを採取する時も、周りの状況を常に確認しながら進めることが大事だ。森では何が起こるか分からないからね」

 

フェイは真剣な顔つきで頷いた。

 

---

 

目的の薬草が群生している場所にたどり着くと、フェイは少し緊張しながらも薬草を摘み始めた。俺は彼女の様子を見守りながら、周囲の気配を感じ取っていた。

 

その時、静かに近づいてくる気配を感じた。

 

(スライムか……)

 

遠くから小さなスライムの気配が近づいていることに気づいたが、危険はなさそうだ。ここでフェイに経験を積ませるため、あえてすぐには対処しなかった。

 

「フェイさん、下がって」

 

俺はそう言いながら、スライムが現れる方へと立ち位置を変えた。やがて、茂みの中から半透明の緑色のスライムがゆっくりと姿を現した。

 

「え……これがスライム?」

 

フェイは驚いた様子でスライムを見つめていたが、彼女の目には不安の中にも、何か自分も役立ちたいという意志が感じられた。

 

「カナタさん、私……何かできることはないですか?」

 

彼女の声には不安が含まれていたが、助けたいという強い意志も見えた。俺は優しく微笑み、彼女の気持ちを尊重することにした。

 

「フェイさん、落ち着いて。俺がスライムを倒すから、その後に俺の傷を治してくれる?」

 

そう言いながら、俺はスライムの攻撃をあえて受け、軽い傷を負った。だが、フェイにはそれを伝えずに進めることにした。

 

フェイは震えながらも、目を閉じて魔力を集中させ始めた。彼女の手が震えていたが、少しずつ自分の力を信じようとしているように見える。

 

俺がスライムを斬り伏せると同時に、彼女の治癒魔法が俺の傷に触れ、温かな光が包み込んだ。

 

「……できた……私、やれたんだ……」

 

彼女の声はかすかに震えていたが、同時に驚きと喜びが混じっている。しかし、俺にはまだ彼女が完全に自信を持っていないことがわかった。

 

「フェイさん、本当にすごいよ。あなたには他の人が持っていない才能があるんだ」

 

俺は彼女に笑顔を向けながら、優しく声をかけた。フェイはまだその言葉を素直に受け取れない様子で、俯いたままだった。

 

「でも……私はまだ、戦うことができないし……やっぱり、冒険者として十分じゃないです」

 

彼女の声には、まだ強い不安が残っている。それに対して、俺は彼女の考えを少しでも変えたいと思った。

 

「戦うことが全てじゃないさ。それに俺なんて、魔力がないんだよ」

 

「え……魔力がないんですか? カナタさんが……?」

 

フェイは驚いた表情で俺を見つめた。

 

「ああ、俺には魔力がない。でも、それでもこうしてB級まで来られた。何かができないことは、必ずしも欠点にはならないんだ」

 

フェイはさらに驚きの表情を浮かべたまま、俺を見つめていた。彼女の中で、何かが少しずつ変わり始めているのが感じられた。

 

「でも、フェイさんは違う。あなたには治癒魔法という素晴らしい才能がある。それを使えば、たくさんの人を助けることができるんだ」

 

俺は優しく、確信を持って彼女に伝えた。フェイは何か言いたそうにしていたが、言葉に詰まり、また黙ってしまった。だが、その目には、少しずつ前向きな光が宿り始めているように見えた。

 

「俺も、初めて冒険者として活動を始めた時は不安だった。でも、自分の力を信じることが大事だよ。そうすれば、自然と自信がついてくる」

 

俺の言葉に、フェイは小さく頷いた。まだ完全に自信を持てたわけではないが、彼女の心には小さな希望の種が植えられたように思えた。

 

「……いつか、私も自信を持てるようになるんでしょうか……」

 

彼女の声にはまだ迷いがあったが、その迷いの中にも、少しだけ前向きな気持ちが感じられた。

 

「必ずそうなるよ。焦らずに、少しずつ進んでいけばいいんだ」

 

俺はフェイに優しく微笑みかけ、彼女の肩に軽く手を置いた。彼女も恥ずかしそうに微笑み返したが、その目には少しずつ自信が芽生え始めているのが見えた。

 

---

 

ギルドに戻ると、エイミーさんが笑顔で迎えてくれた。

 

「おかえりなさい、カナタさん! フェイさんも無事に戻ってこられて良かったです」

 

「うん、無事に採取も終わったよ。フェイさんもすごく頑張ってくれた」

 

俺はフェイの成長をエイミーさんに伝え、エイミーさんも温かい笑顔でフェイを見つめた。

 

「それは良かったですね! フェイさん、これからも一歩ずつ頑張ってくださいね」

 

フェイはまだ少し照れくさそうにしていたが、小さく頷いた。彼女の心には確かな成長の兆しが見えてきた。今はまだ完全に自信を持てていないかもしれないが、少しずつ、その自信を育てていけるだろう。

 

エイミーさんとの会話を終えた後、俺はギルドにあるテーブルに座り、今日の任務が無事に終わったことに一息ついていた。すると、カウンターからフェイがこちらに歩いてくるのが見えた。彼女の表情はまだ少し硬いものの、何か話したそうな様子が伝わってくる。

 

「カナタさん……少し、お話ししてもいいですか?」

 

フェイは少し躊躇いながらも、静かに声をかけてきた。

 

「もちろんだよ、どうしたの?」

 

俺は優しく声を返しながら彼女に向き直った。フェイは少し俯きながら、ゆっくりと話し始めた。

 

「今日のこと、本当にありがとうございました。初めての冒険者としての任務で……すごく不安だったんです。でも、カナタさんが一緒にいてくれたおかげで、なんとかやり遂げることができました」

 

彼女の声には感謝の気持ちが込められていて、その真剣さが伝わってきた。俺は軽く頷きながら答えた。

 

「フェイさんが頑張ったからだよ。俺はただ、少し手助けしただけさ」

 

フェイは少し照れくさそうに微笑んだが、すぐに顔を真剣な表情に変えた。そして、思い切ったように口を開く。

 

「その……もし良ければ、次からは『カナタ』って呼んでもいいですか?」

 

彼女の言葉に一瞬驚いたが、俺はすぐに微笑んだ。彼女が少しずつ心を開いてくれている証拠だ。

 

「もちろん、構わないよ。フェイさんがそうしたいなら、気軽に呼んでくれ」

 

そう言うと、フェイは少し安堵したように微笑み、頷いた。

 

「ありがとうございます、カナタ……さん」

 

彼女は最後に少し照れながら「さん」をつけたが、次第に慣れていくことだろう。俺は彼女の成長を見守りながら、もう一つ提案してみる。

 

「それなら、俺もフェイって呼ばせてもらっていいかな?」

 

フェイは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに少し笑顔を浮かべた。

 

「え……私のことを……ですか?」

 

「うん。呼び捨てでお互いに呼んだ方が、これからもっと仲良くなれるんじゃないかって思ってさ。無理なら構わないけど」

 

俺は軽く肩をすくめて付け加えた。彼女がどう思うか少し気にしていたが、フェイはすぐに首を振り、小さく微笑んだ。

 

「いえ……それなら、私もカナタって呼びますから……カナタも、私のことをフェイって呼んでください」

 

彼女の顔には少し照れが見えるが、その奥には確かな決意も感じられた。

 

「ありがとう、フェイ」

 

俺は彼女の名前を初めて呼び捨てにしながら微笑んだ。フェイも少し頬を赤くしながら、恥ずかしそうに頷いた。

 

「えと……これからも、よろしく……ね。カナタ」

 

お互いに呼び捨てで呼ぶ関係が始まったことで、フェイの中で俺への認識はより重要なものになっただろう。これからも、成長させていく一人として、見守っていくこととしよう。

 

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