魔力無しのB級冒険者~『無』そのものが世界を見守り導くようです~   作:くろくまけーき

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導かれる勝利の一撃

 朝の冷たい空気が、私の頬を刺すように通り過ぎていく。見張りの時間は無事に終えたけれど、気分はまだ落ち着かない。これから迎えるのは、初めての大きな戦い。そして、何より──仲間たちと共にする、はじめての朝だ。

 

 彼らと一緒に過ごした時間はまだ短い。ディランさん、リーフさん、サラさん。みんなそれぞれ頼りになるのは分かるけど、私にはまだ少しだけ距離があるように感じてしまう。

 

「そろそろ、みんなを起こさないと……」

 

 私は自分に言い聞かせるように呟き、テントの方に歩き出した。まずはディランさんから。頼りになるリーダーの彼だけど、さすがに起こすのは少し緊張する。ちゃんと話せるかな……。

 

「ディランさん、朝です。起きてください」

 

 少し控えめな声で肩を叩くと、彼はすぐに反応して目を開けた。

 

「あ、フェイか……おはよう」

 

 ディランさんは少し寝ぼけた様子で目をこすっていたけど、すぐに目をしっかり開けて起き上がった。なんだか、やっぱり頼りになる人だと感じた。

 

「今日は本番だな。気を引き締めていかないと」

 

 次にリーフさんのテントへ。彼はいつも冷静で、すでに起きているだろうな、と思いながらも、少しだけ緊張して声をかける。

 

「リーフさん、朝です。もう起きていますか?」

 

「おはようございます、フェイさん。はい、すぐに準備しますよ」

 

 彼はやはりすでに目を覚ましていて、テントからすぐに出てきた。そして道具を手早く点検しながら、静かに準備を進める。こういう冷静さが、私にとって少し安心材料になる。

 

 最後はサラさんのテント。彼女はいつも元気で明るいけれど、私とはあまり話す機会がなかったから、少し緊張する。

 

「サラさん、もう朝です。準備しましょうか」

 

「うぅ……朝かぁ……」

 

 テントの中から、眠そうな声が聞こえてくる。彼女もまだ慣れない私に対して遠慮があるのか、少し間を置いてから顔を出してきた。

 

「うん……わかった、準備するわね」

 

 そう言いながら、彼女は目をこすりながらも顔を洗い、少しずつ目を覚ましていった。私たちはこれから、本当に仲間として一日を過ごす。まだちょっとぎこちないけど、きっと大丈夫だ。

 

 

 ──-

 

 朝食は簡単に済ませたけど、なんだか私だけが妙に緊張しているような気がしてならなかった。みんなは淡々と準備を進めていて、その姿を見て少しほっとする反面、私ももっとしっかりしなきゃ、と思う。

 

「さあ、今日はオーガ討伐だ。気を引き締めていこう!」

 

 ディランさんが意気込みを込めて言った。彼のその言葉に、私も自然と背筋が伸びる。みんなが頷きながら準備を進める姿を見て、私も気合を入れ直す。

 

 オーガは巨大で、恐ろしい相手。私は治癒魔法しか使えないけど、みんなのサポートに徹すれば、きっと役に立てるはず……。

 

 

 ──-

 

 私たちは、森の奥へと足を進めていく。木々が生い茂り、冷たい空気がどんどん肌に刺さるように感じられる。木の葉が揺れる音や、小枝を踏む音が、妙に大きく響く。心なしか、緊張が高まってきているのがわかる。

 

 地面には巨大な足跡が残されていた。オーガのものだ。私の胸が大きく高鳴る。

 

「これ……オーガの足跡ですよね……?」

 

 私がそう口にすると、サラさんがそれに答えるように頷く。

 

「そうみたい。かなり近くにいるわね」

 

「気をつけて。油断できないぞ」

 

 リーフさんが辺りを警戒しながら言った。その冷静さが、少しだけ私の不安を和らげてくれる。

 

 

 ──-

 

 進むほどに、空気はさらに重く、暗くなっていく。私たちが進む先には、確実にオーガが待っている。それがはっきりと感じ取れた。

 

 そして、突然のことだった──遠くから重い足音が響き、地面が微かに揺れた。どすん、どすん、と。巨大な何かが近づいてくる。私の胸が緊張でいっぱいになる。

 

「……来たか」

 

 ディランさんが声を低くして言う。私たちは全員、一斉に武器を構えた。リーフさんは弓を引き、サラさんは魔法の詠唱に集中する。

 

 そして──目の前に巨大な影が現れた。

 

 オーガだ。3メートルを超える巨体、鋭い牙、そして右手に握られた巨大な棍棒。圧倒的な威圧感が全身を包み、私は思わず息を飲んだ。

 

「……すごい、こんなに大きいなんて」

 

 サラさんの声も、少し震えている。でも私たちに恐れる余裕はない。目の前にいるオーガは、一瞬の油断で命を奪いかねない相手だ。

 

「全員、気を引き締めろ。こいつは強敵だぞ」

 

 ディランさんの声が全員に響き、私たちはそれぞれの役割に集中した。私も治癒魔法を準備し、仲間たちが怪我をした時にすぐに対処できるようにした。

 

 

 オーガが巨大な棍棒を振りかざしながら、こちらにゆっくりと迫ってくる。その目は鋭く、私たちを一瞥すると、すぐに攻撃の準備をしているようだった。私はその圧倒的な威圧感に、一瞬体が硬直した。

 

「よし、やるぞ!」

 

 ディランさんが双剣を構えて、すぐに突撃しようとした。それを見て、サラさんも笑顔を浮かべながら魔法を構え始めた。

 

「こんな敵、さっさと片付けちゃいましょう!」

 

 しかし、その光景を見た私は、どうしても不安を感じていた。作戦を立てる時間もなく、勢いだけで突っ込んでいく二人の様子に、私の胸の中に警戒心が膨らむ。

 

「ちょ、ちょっと待って……! こんな相手に無策で攻めるなんて……!」

 

 けれども、私の声は彼らに届かないまま、ディランさんとサラさんはすでにオーガに向かって突撃していた。ディランさんが双剣を振り下ろし、オーガの腹を狙って一気に斬りつけた。しかし──

 

「硬すぎる……!」

 

 ディランさんの双剣は、オーガの硬い皮膚に弾かれ、まるで歯が立たない。かすり傷さえもつけることができなかった。

 

「くそっ、どうなってる……」

 

 ディランさんが後退する間もなく、オーガが巨大な棍棒を振り下ろしてきた。地面が砕け、土が舞い上がる。

 

「サラ、援護してくれ!」

 

 ディランさんが叫ぶと、サラさんが風の刃を放った。しかし、その魔法もオーガの巨体にはほとんど効果がない。風の刃は勢いよくオーガ肉体に当たったものの、動きを止めることができなかった。

 

「くっ……どうすれば……!」

 

 私は焦りながら、どうすればこの圧倒的な巨体を攻略できるのか、頭を回転させた。リーフさんも弓を構えて狙っていたが、やはりオーガの硬い皮膚に矢が届くことはなかった。

 

「このままじゃ……消耗戦になるだけ……」

 

 私は深呼吸して、冷静に考えようとする。そして、一つの作戦が頭に浮かんだ。まずは、オーガの動きを封じることが最優先だ。

 

「……そうだ! みなさん、聞いてください!」

 

 私は焦りを抑え、みんなに声をかけた。

 

「リーフさん、痺れ薬を使ってください! オーガの動きを鈍らせるんです。その間に、サラさんは風の魔法でオーガのバランスを崩してください! そして、ディランさん、急所──首を狙って攻撃を加えてください!」

 

 ディランさんが一瞬驚いたが、すぐに頷いた。

 

「なるほど……それならいけるかもしれねえな。よし、それでいこう!」

 

 リーフさんもすぐに矢に痺れ薬を塗り、準備を整えた。

 

「了解。これで少しは動きを鈍らせられるはずだ!」

 

 サラさんも風の魔法を準備し、集中し始めた。みんなが私の作戦を信じてくれているのがわかり、私は少し自信を持つことができた。

 

「よし、やるぞ!」

 

 リーフさんが矢を放ち、矢はオーガの肩にかすった。だが、痺れ薬の効果が現れるには少し時間がかかる。オーガはまだ動きを止めず、巨大な棍棒を再び振り上げていた。

 

「くそっ……早く効いてくれ……!」

 

 ディランさんが焦りながらも、オーガの動きを見守っている。私は冷静さを保ちながら、治癒魔法をかける準備をしていた。いつでも誰かが傷を負った時に備えなければならない。

 

「サラさん、風魔法を!」

 

 私の声でサラさんが風の魔法を発動させ、オーガの足元に強烈な風が吹き付けられた。オーガの巨体が少し揺らぎ、バランスが崩れた瞬間──

 

「今だ、ディランさん!」

 

 ディランさんがすかさず双剣を握り直し、オーガの首に向かって突撃した。双剣がオーガの首元に鋭く突き刺さり、確かな手応えがあった。

 

「効いてる……!」

 

 しかし、オーガはまだ倒れない。痺れ薬が徐々に効いてきたのか、動きは鈍っているものの、致命傷には至っていない。

 

「くそっ、まだ……足りない!」

 

 ディランさんが歯を食いしばりながら叫んだ。私もまた、火力不足を痛感していた。このままでは倒しきれない──。

 

「……そうだ! 私の魔力を纏わせれば!」

 

 私は急いでみんなに声をかけた。

 

「みなさん、もう一度! 今度は、私の魔力をディランさんとリーフさんの武器に纏わせます。それで攻撃力を一気に上げましょう。そして、サラさんは最大の魔法を貯めてください! それでオーガを倒せるはずです!」

 

 ディランさんとリーフさんが少し驚いたが、すぐに頷いてくれた。

 

「頼んだ、フェイ! これで決める!」

 

 私はまず、ディランさんの双剣に魔力を注ぎ込み、次にリーフさんの弓にも魔力を纏わせた。彼らの武器が淡い光を放ち、力がみなぎっていく。

 

「すごい……こんなに力が増幅されるのか!」

 

 ディランさんが双剣を握り直し、リーフさんも弓を構えた。そして、サラさんは魔力を集中し、強力な一撃を放つための準備をしていた。

 

「今度は俺たちが時間を稼ぐぞ!」

 

 ディランさんが再びオーガに向かって突撃し、リーフさんも矢を放った。魔力を纏った双剣がオーガの硬い皮膚を斬り裂き、リーフさんの矢も確実にオーガにダメージを与え始めた。

 

「効いてる……これなら……!」

 

 私はその間、ディランさんとリーフさんに治癒魔法をかけ続け、少しでも長く持ちこたえられるように全力でサポートした。

 

「サラ、どうだ!? 準備はできてるか!」

 

 ディランさんが叫ぶが、サラさんはまだ集中して魔力を貯め続けている。

 

「もう少し……今はまだ!」

 

 彼女の周りに膨大な魔力が渦巻いている。私たちは必死に時間を稼ぎ続け、オーガの攻撃を避けながら耐え続けていた。

 

 そしてついに──

 

「これで終わりよ……炎よ、全てを焼き尽くせ!」

 

 サラさんが限界まで貯めた魔力を解き放ち、巨大な炎の渦がオーガの巨体を包み込んだ。その炎は強烈な輝きを放ち、オーガの皮膚を焼き尽くす。

 

 オーガの巨体が大きく揺れ、ついにその場に崩れ落ち、その巨体が地面に轟音を立てて横たわるのを見て、ようやく私たちは戦いの終わりを実感した。

 

 息が切れ、体中に疲労がどっと押し寄せてくる。今まで張り詰めていた緊張の糸が一気に解け、私はその場にへたり込んでしまった。

 

「本当に……倒せたんだ」

 

 リーフさんが疲れ切った声で呟いた。その手から弓がゆっくりと地面に降ろされ、彼の表情には驚きと安堵が入り混じっていた。私たち全員が、まだこの勝利が現実のものなのか信じられないような表情をしていた。

 

「やったぁぁぁっ!! 俺たち、オーガを倒したぞ!!」

 

 ディランさんが突然大声で叫び、双剣を高々と掲げた。その声が森に響き渡ると、私たちもその瞬間、ようやく実感する。

 

「ほんとに……やった……」

 

 サラさんも地面にへたり込んで、嬉しさに満ちた笑顔を浮かべながら息を切らしている。彼女も限界まで魔力を使い切っていたようで、その表情には疲労感がありながらも達成感がにじみ出ていた。

 

 私は、自分が信じられなかった。こんなに強大な敵を、あのオーガを──私たちが本当に倒せたんだ。あの巨体、あの恐ろしい力に対抗できるはずがないと思っていたのに……。

 

「……良かった……本当に……」

 

 自然と、そんな言葉が口から漏れた。全身が震えているけど、それは恐怖からではなく、むしろ喜びからだ。自分でも信じられないほど、心の奥底から湧き上がる達成感。今、私たちは強大な敵に勝ったんだ──私の中で、カナタの言葉がふと浮かぶ。

 

「自分の力を信じて、少しずつ進めばいい」

 

 あの言葉が、私の心を支えてくれていた。どんなに困難な戦いでも、カナタの言葉を思い出せば、私は一歩ずつ前に進める。それが今回の戦いでも──私の力になった。

 

「フェイ、お前がいなきゃ、どうなってたかわかんねぇよ!」

 

 ディランさんが笑いながら私の肩を叩いた。その軽快な仕草と笑顔には、本気の感謝が込められているのが伝わる。

 

「いやいや……みんなが頑張ったから、勝てたんです」

 

 私がそう言うと、ディランさんは頭をかきながら笑った。

 

「いやいや! お前があの作戦を考えなかったら、俺たちはやられてたぜ。ほんと、ありがとな!」

 

 彼の笑顔に、私は少し恥ずかしくなりながらも心が温かくなるのを感じた。確かに私が作戦を提案したけれど、それが本当に役立ったのか──そんな自信はまだ持てていない。

 

 でも、こうやって仲間が喜んでくれて、感謝してくれている。それだけで、少しだけ自分を信じることができた気がする。

 

「フェイがいてくれて助かったわ。本当に、ありがとう」

 

 サラさんも疲れた声でそう言いながら、私に微笑んでくれた。彼女の目には感謝の気持ちが溢れていて、その優しい笑顔に私も少し安堵した。

 

 でも──私の心の中には、ある人の存在がずっと浮かんでいた。

 

「……カナタ」

 

 心の中でその名前を呟く。彼がいなければ、私はきっとこんなところで戦うことなんてできなかった。カナタは誰よりも冷静で、私たちの誰よりも強くて、とても優しい。私が冒険者になった時から、ずっと彼の言葉が私を支えてくれた。どんな困難に直面しても、カナタの存在が心の中にあるだけで、私は頑張れる。

 

 彼がここにいたら、こんな戦いなど簡単に終わらせていただろう。だけど、それはカナタに頼るんじゃなく、私たち自身の力で勝利を掴むことが大事だった。そう、カナタがいつも言ってくれたのは、自分の力を信じること。

 

 今回の戦いで、私は少しだけその意味がわかった気がする。カナタがいなくても、私たちはこうして勝てた。彼が教えてくれた「自分を信じること」が、今の私を支えてくれたんだ。

 

「……ありがとう、カナタ」

 

 静かに心の中で感謝を伝える。カナタに届いているだろうか? 彼はいつも優しく、そしてどこか遠くから見守ってくれている。そんな気がしてならない。

 

「フェイ、どうしたの?」

 

 リーフさんが不思議そうに私を見つめる。私は慌てて微笑み返した。

 

「いえ、なんでもないです。ただ……自分を信じて良かったって思って」

 

「なるほどな。でも、フェイがいなければ俺たちはどうなってたかわからなかったぜ。ほんと、ありがとな」

 

 リーフさんも笑いながら私に手を差し伸べてくれる。その手を握ると、彼の優しさが伝わってきた。

 

「ありがとう、みんな……」

 

 私は小さくそう言いながら立ち上がった。少しずつ、自分が成長していることを感じる。でも──まだまだ、私はカナタには追いつけない。

 

 彼はいつも私の前を歩いていて、いつも冷静で、強い。そして、その目の奥には何かを見透かされているようで、少し怖い時もある。

 

 でも……。

 

「いつか、追いつけるかな……カナタに」

 

 彼の背中を追いかけ続ける。いつか彼のように、自分の力で立ち向かえるように──そう、心に誓いながら私は前を向く。

 

「よし、みんな、ギルドに報告に戻ろう! オーガを倒したなんて、大ニュースだぜ!」

 

 ディランさんが元気に声を上げ、全員が笑顔で頷いた。私たちは互いに助け合い、共に成長していく仲間──そして、この勝利はその証だ。

 

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