きっと令和66年はこうなる。


 ※この短編はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

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令和66年

 

 

 

 カビ臭い四畳半。

 

 アイツがバイザーを取る。その腰は震えていて、口からはよだれを垂らしていた。

 

「あーぁ……ふぅ、ってお前ら来てたのか」

「今日の分の宿題届けに来たんだ」

「いやー、サンキューな」

 

 僕は友達と一緒に、そのまた別の友達に宿題を届ける役目を仰せつかった。僕が一緒にここまで来た友達が優等生のダビデ。そして今日学校を休んだ友達がヨージ。僕たち3人は幼なじみだった。

 

 どうも、トランスヒューマンのおばちゃん先生は放課後忙しいらしい。彼女は「今日だけは定時に帰りたい」そういって僕たち2人に配達係を頼んだ。僕が思うに、今頃はテキトーな量産型アンドロイドと性交渉の導入動作に励んでいることだろう。

 

「なぁヨージ、また一日中ぶっ続けで神経VRやってたのか?」

「ん? ああ、そうだよ。メッチャいいやつ見つけちゃってさ」

 

 ダビデの問いかけに、ヨージは恍惚とした表情でそう答えた。それを見て、僕は一言言わずにはいられなかった。

 

「あんまり休んでちゃ、留年しちゃうよ」

「へへへ、分かってら。こう見えて勉強はやってんだ」

「それも裏モノの神経接続で、だろ?」

「あったりまえだろ? 人生は短いんだ、時間は有効に使わなくちゃ」

 

 椅子から立ち上がって、ぐいぐいと伸びをするヨージ。

 

「それに、俺は平山病だから頚椎アダプタ手術、保険適用なんだぜ?」

 

 そう言いながらヨージは首筋に垂れた頚椎アダプタから神経接続プラグを引き抜く。

 

「……じゃあ僕たち帰るね」

「おう! 気を付けてな二人共」

 

 僕たちは玄関先まで一緒に歩いた。

 

「ところでヨージ。一体何のVRやってたんだよ」

「ああ、今日はそんな変な裏モノじゃないぜ。いわば国民の義務的なやつかな。ダビデ、お前もやるか? お前になら貸すぜ」

 

 ヨージの答えにダビデは訝しんだ。

 

「国民の義務ぅ? あんな気持ちよさそうになるのが国民の義務なら、ここはユートピアだろうな」

「あー、まぁアレは違うんだ。もののはずみでああなっちまっただけで、俺はマジメに見てたんだよ」

「……何を?」

 

 ガチャリ。ヨージが家主として玄関を開く。そして振り向いて言った。

 

「衆議院のアーカイブと、選挙演説だよ」

 

 

 *

 

 

 僕はダビデと帰路につく。その途中、我慢しきれずに僕はダビデに言った。

 

「ねぇ、ダビデ。ヨージの神経VR、どうにかならないかな?」

「んー? まあいいだろ。あいつが好き好んでやってんだ」

「だけど、政治モノのVRであんなふうになるなんて、おかしいだろう?」

「……それが大人になるってことだよ。あいつが、自分で選んだんだ」

 

 僕は思わずダビデの顔を見る。ステート・ビルの摩天楼をその背に背負ったダビデ。その顔は目を細めて、どこか寂しそうにも見えた。

 

「じゃあ、ダビデも僕も、選挙に行く前はああならなくっちゃいけないってコトなの?」

「ハハハっ、まさか。それに俺は選挙なんて行く気無いよ」

「え、どうして? 選挙は民主主義のキホンの一つだって人間社会科のイー先生が……」

 

 僕とダビデの家は、この街のイースト・サイドとウェスト・サイドにそれぞれあった。

 

 T字路の反対側へ歩きながら、ダビデは手を振って言う。

 

「牧羊犬には、そのための犬しか選ばれないもんだぜ」

 

 僕は生まれてこの方、羊なんて見たことなかった。

 

 

 *

 

 

 ひとりになった僕は少し街を散歩することにした。

 

 いろんな人達とすれ違い、まるで教室の蛍光灯にかわりばんこで引き寄せられる羽虫のように街の中をぶらつく。

 

 与党である「自由民主主義・護ろうみんなの政治9.0党」の党本部は昼間っからネオンでキラキラ輝いている。

 

 いろんな人達とすれ違い、まるで教室の蛍光灯にかわりばんこで引き寄せられる羽虫のように街の中をぶらつく。

 

 野党である「世界社会党」の党本部からはキャデラック・エスカレードが並んで出てきた。

 

 いろんな人達とすれ違い、まるで教室の蛍光灯にかわりばんこで引き寄せられる羽虫のように街の中をぶらつく。

 

 誰も居ない公園には殿様の銅像が立っていた。雨で真っ青になった殿様。その顔は凛々しい。戦国時代にこの地方を平定し、この街を造った英雄だ。台座の紹介文は「二十歳の頃は最高の名君であり、四十を過ぎて暴君となった後も立派にこの街を御守りになられました。その功績は後世の歴史家に高く評価され」云々。

 

 いろんな人達とすれ違い、まるで教室の蛍光灯にかわりばんこで引き寄せられる羽虫のように街の中をぶらつく。

 

 男。女。老人。中年。大きい人。小さい人。太った人。痩せた人。お金持ち。乞食。トランスヒューマン。

 

 いろんな人達とすれ違い、まるで教室の蛍光灯にかわりばんこで引き寄せられる羽虫のように街の中をぶらつく。

 

 役所の戸籍住民課住民記録係でお姉さんを呼び出す。

 

「あの、国籍を捨てたいんですけど」

「ワタナベ・ヒトシ様ですね……どの国籍がお好みですか? 国籍変更のお手続きまでお繋ぎしますよ」

「いえ、どこの国籍がほしいとかではないんです」

 

 しばらく押し問答した後、ガタイのいいおじさんトランスヒューマンに「早くお家に帰る」ように言われてしまった。

 

 いろんな人達とすれ違い、まるで教室の蛍光灯にかわりばんこで引き寄せられる羽虫のように街の中をぶらつく。

 

 殿様の居ない公園で、一人でシーソーを漕ぐ。そのほうが、まだ面白かった。

 

 いろんな人達とすれ違い、まるで教室の蛍光灯にかわりばんこで引き寄せられる羽虫のように街の中をぶらつく。

 

 最後にホームセンターに寄った。お会計は5392円。

 

 いろんな人達とすれ違い、まっすぐ国民アパートに帰る。

 

 

 *

 

 

 僕は首を吊った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ぐぇ。

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