飛行機雲   作:神風

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 違和感を覚えたのはアカデミーに科学部隊の研究員がやってくるようになった頃だ。

 

「アカデミーに入ったと聞いてね、お祝いを持ってきたんだ」

「最近は何を研究しているんだい?構想案は部屋に?」

「今度研究室においで、お茶でもしよう」

 

 幼い頃に会っていた人達がよく来るようになった。

 

「ありがとうございます、私なんぞに勿体ないですよ」

「最近はなにも。水上バイクでもう精一杯です」

「私が行ってもお邪魔になるだけですよ。それに、アカデミーの訓練で精一杯で。折角誘って頂いたのに申し訳ないです」

 

 彼等は部屋に入ろうとしてきたから、一時期壁の飛行機のスケッチを剥がしていた。

 探るような目が不気味で、何となく隠した。

 部屋のドアに誰かが入ったと分かるように仕掛けをして、同室のスモーカーと行動を共にした。

 

 案の定、仕掛けは作動していた。

 

 へぇ、こういうことするんだ。

 

 俺がこの十何年かけて考えたものを横から掠め取るようなやり方は嫌いだ。つくりたいなら俺をプロジェクトの中心に置くべきだろうが。

 何が何でもお願いされなきゃ教えてやるものか。

 至極真っ当なことを言ってるつもりだが間違ってるか?

 

 

 静かに憤るカイルは、外出時は飛行機と重要書類をターズに飲み込ませ、身体に隠した。

 

 それから6日目の夕方。

 フランキー達から聞いた事実を胸に、ロシナンテの元へとカイルは走っていた。

 

「ロシ、ロ……っ、……ロシナンテ!」

「どわっ!ど、どうしたんだ」

「コケたままでいい、聞け。俺たちが探してる会社はもう無い、4年前に海に沈んでる」

「はぁ!?」

 

 無様に転けたロシナンテを起き上がらせ、2人に聞いた話を伝える。

 

「この島は海に沈みゆく島だって知ってるだろ。海底には島の残骸が残ってる。この会社は島の残骸やら作りかけの船をサルベージして船の造船や修理に当ててたんだ。腕は良かったらしい。だが、ある時、作業中に従業員が次々に死んでいった。今じゃ誰も残ってない」

「死んだって……じゃぁ、あの軍艦は誰が」

「わからん。昔の話を知ってるやつを酒場で探すか、実際行ってみるしかない」

「……幽霊、でないよな」

「出たら出たで幽霊に聞くしかないだろ」

 

 ──

 

「その焼印久しぶりに見たな、マリンスノー造船会社だったか?どうなったか?……やめとけやめとけ!お前もおっ死ぬぞ」

 

「元請のエメラルドカンパニーでもその話はもう誰もしてない。ヤガラ達もあそこには行きたがらないんだ。しかし、お前らそんなことなんで知りたがる」

 

「ただでさえ魚の活きも悪いってのにこんな噂まであると海列車ができたって誰も来やしないぜ」

 

 

 夕方、船大工の集まる酒場で話を聞いても皆一様に顔をしかめていた。

 

 聞き込みもそこそこに、2人はうるさい店内の中、樽をテーブルに頭を寄せ合った。

「なぁ……カイル、思い付いた最悪なこと言っていいか?」

「オブラートに包んで」

「もしかしてさ、あの会社の従業員って元締のエメラルドカンパニーが……沈めた?」

「オブラートって知ってるか?それに、元"締"じゃなくて元"請"だ。それを知る手がかりはないし、その真相を知るのと俺らの目的とはまた別じゃないか?」

「そりゃそうだがな……面倒なことになった」

 

 うっすい酒をあおり、げんなりした顔の2人はとりあえずおかわりを頼んだ。

 

「あいよ、おかわりね。なにさ、あんたらしけた顔して。若いんだからしっかりしな!……あとね、この酒場で滅多なこと言うんじゃないよ。エメラルドの奴らもいるんだ」

 

 おかわりを持ってきた酒場の女将は小声で言い後方を気にするような素振りを見せ、続けた。

 

「まぁ、私もエメラルドにはいい印象はないんだけどね。新参のカンパニーで海を平気で汚す。アイツらが来てからだよ、海の色が変わったのは」

 

 彼女が視線を向けた先には若い男が4人程で酒を飲み、商売女を横に侍らせていた。腕にはジョリー・ロジャーが彫られ、海賊崩れだということが伺える。

 

「大海賊時代になってから出来たカンパニーなのか?」

「なんだおめぇら知らねぇのか。あのカンパニーには造船がわかるやつは極小数だ。近辺の中小企業を傘下において滅茶苦茶な納期で船作らせてる。他のカンパニーが中小を引き抜こうとしたら言いがかりをつけて営業妨害したりな。傘下の奴らも大事な物を人質に取られたりで逆らえねぇ」

 

 隣で呑んだくれていた親父も話に入り、エメラルドカンパニーの噂が集まる。

 

 曰く、

 営業をかけ、仕事はとってくるがほぼ相手は海賊。注文には全てYES。海賊相手だ、下請に正規の値段が入ってくる訳もない。

 途中で仕様を変更させるが、納期は変わらず。廃棄物は全て海に捨てる。仕事を与えてやっているのだからと、無理難題を押し付けられる。

 

「滅茶苦茶だ、なんでそんなのがのさばってられるんだ」

「そりゃ、金がなくて世界政府加盟国じゃない島が海軍に泣きついたって何もしてもらえないだろ。自警団が出たのだって5,6年ぐらい前だ。荒事やってた奴と船大工、単純な力では勝てる可能性はあるが悪知恵は奴らの方が上だ。何が海軍だ、何が正義だ。金がなけりゃ何もしてくれねぇ」

 

 吐き捨てるように罵る男に2人は口を噤むしかなかった。

 

「ほら、その辺にしておきな。この子らに言っても仕様がないじゃないか」

「でもよぉ!」

 

 呑んだくれを雑に扱う女将に礼を言って2人は酒場を後にした。

 

 

「なぁ、カイル。手伝ってくれるか?」

 

 ──

 

 同時刻、トムズワーカーズ

 フランキーはココロの作ったカレーをかきこみながら、今日あったことをふと思い出した。

 

「なぁ、トムさん。4年前に沈んだマリンスノー造船会社って覚えてるか?」

「忘れるはずがねぇ。エメラルドのヤツらにいいようにされちまった。なんだ、どうした」

「いや、今日知り合った奴がそこの焼印見せて、船を修理したやつに会いたいって」

「……!!……っ!たっはっは!!」

「何笑ってんだよ」

 

 笑い始めたトムさんはココロのばーさんと見つめ合い何度も頷きあっていた。何が何だか分からねぇ俺達はただカレーを口に詰め込むしか無かった。

 

「フランキー、その聞いてきた奴はどんなやつだった」

「ソラって言ってたな。ひょろっちい船大工だが、空を飛ぶ乗り物とか煙で動くバイクとか作ろうとしてる。図案も見せてもらったがまぁ、いい出来だったよなアイス」

「ンマー、いつかあいつの作った船を見てみたいな」

「……お前達、そいつにまた会うことがあれば力を貸してやれ」

「なんでトムさんがそいつを気にかけるんだよ、知り合いか?」

「いや、知らねぇな。だがいい風が吹いてきた証拠だ」

「だぁからなんだよ!」

 

 笑うばかりでちっとも教えてくれねぇトムさんに痺れを切らし、食い終わって廃船島のバトルフランキー号(以下BF号)の元へと駆け出した。

 

 昼間は海列車の開発につきっきりで、BF号を乗る暇は飯の後のこの時間ぐらいしかない。試乗して船の不具合や乗り心地、改善点を調べるのだ。

 

 波の揺れと潮風を体に受け、フランキーはふと思った。

 

「行ってみるか」

 

 ──

 

 波音だけが響く夜、路地裏にマスク姿の2人の人影。

 

「いくぞ〜カイル!"俺達の影響で出る音は全て消えるの術"!」

「……!……!!〜ッ!!」

 

 突入前に凪をかけてやるとジャンプしても、発砲しても無音な事にカイルは驚いていた。どうだ、凄いだろ!

 一頻り音が鳴らないことを堪能してから俺たちはエメラルドカンパニーへと侵入した。

 

 酒場の親父に、あそこまで言われちゃ、海兵として立場がない。

 エメラルドカンパニーへ侵入し、悪事の証拠、中小企業が握られている大事なものを解放すると共に、海楼石に関する資料が残されていないか確認するつもりだ。

 

 カイルはサカズキ中将付き補佐官として任についてるから、普段サカズキ中将についてるか、小隊単位での突入に慣れているだろうな。だが今回は2人のみ。お互いをカバーし合っての突入となる。

 現場での動き方は知らないだろう、俺が先導してやらないと。

 

 まず照明を撃ち抜き、敵を混乱させる。

 ここでポイント、俺達も暗さに惑わされちゃならない。先に片目だけ暗さに慣れさせておく事。

 

 カイルは大丈夫かと目を向けるといつの間に海賊崩れを適当な縄で縛ってた。……なんか手馴れてないか?

 

 ぐーすか寝てる奴、酒飲んでクダ巻いてる奴、武器を磨き、火薬を仕込んでる奴、巻き上げたであろう金銭の帳簿をつける奴様々いたが気づきもせず不意打ちで縛り上げた。

 

「金庫はどこだ」

 

「し、知らねぇ!お前らこんなことしてタダで済むと思うなよ!エメラルドかいぞ、カンパニーを舐めるなよ!」

「海賊崩れがナマ抜かすなよ……この帳簿、字が汚いし計算が間違ってる。つけてる意味ねぇから俺達がしっかり0にしてやるよ」

「そんな!」

 

 帳簿を読むカイルもノリノリで悪人ぽいな。

 その後金庫番に金庫を開けさせ中を確認する。俺には造船の事はさっぱりだし、カイルに任せた。

 

 暗いから蝋燭に火をつけて照らしてやるついでに一服、ここに海楼石の情報も入ってりゃ任務終了、帰れるんだけどな。

 

「どうだ?目的のものはあったか?」

「金と宝石、中小企業から分捕った権利書や設計図に道具ばっかで……こっちは仕様書か?うん、アレに関するものはないな。縛り上げた奴らは……島民に任せるか?」

「あぁ。島の中心広場に金庫の中身と一緒に置いておくか。死にゃしないだろうが覚悟しとくんだな」

「なぁ、その宝石くれてやるからさ、これ解いてくれよ!こんな事して、お前らにメリットねぇだろ」

「お前のものじゃねぇ。大事なもの奪った挙句強制労働だ?こういうこと、してっから、バチが当たったんだよ。アンタらのボスにもそう言っとけ」

 

 言葉の区切りと一緒に丸めた設計図で男の頭を叩くカイル。いい音鳴らすな。

 

 あー、煙草うめぇ……っ、とっ、と、ぉわッ

 

 ──

 

「たしか、この辺だったか?」

 

 フランキーは、かつてマリンスノーの従業員が死亡した事故現場にBF号で赴いていた。

 夜の水中を覗くも濁っていて、何も見えない。

 

 俺も聞いた話だ、詳しくは知らねぇが、マリンスノー造船会社はエメラルドカンパニーに搾取され、木材を買う金も満足に用意できなかったらしい。

 だから、昔島の端があった地点でお手製の潜水服着てサルベージして材料を用意していたって話だ。

 アクア・ラグナで泣く泣く土地を手放し、島の中心へ引っ越す会社が多く、固定された船や木材が沈んでても不思議じゃない。ま、多くは浮力と波で流されてるだろうがな。

 

 そのサルベージ中に起こった事故。

 

 

「……この下に何かが、こりゃ俺が解決してやらねぇとな!」

 

 懐中電灯を頭につけ、シャツを脱ぎ、パンイチで飛び込もうとした時だ。

 

 島の方から腹に響く爆発音と振動が波を伝ってきた。

 

「なんだなんだぁ!?」

 

 煙が上がっている場所はかの悪名高いエメラルドカンパニー、現在地から1番近い港に建っている。

 周りの民家も音に驚いたのか続々と部屋の明かりがついていく。

 今の風向きだと民家に火の粉が振って火事が起こる可能性も高けぇ

 

「こうしちゃいられねぇ。BF30号、飛ばすぜぇ!!」

 

 俺様がつくったCoooolで性能の良いBF号はあっという間に港湾区域に到着だ。港は見物人で溢れて上陸するのは難しそうだな。

 土埃と焦げた匂いが充満して、瓦礫も散らばってらぁ……

 

「派手にやりやがったな、誰がこんなこと」

「おい!フランキー!」

 

「……?誰か呼んだか?」

 

 遠くの港を見ても俺を見てるやつなんていない、どこから聞こえる?水音が、ありゃなんだ黒い固まりが2つ……って、人間か!?

 

「フランキー!助けて!ぉぶ……溺れそ」

「その声、ソラか!おめェ泳げねぇのか!?」

「俺の連れがな!早く助けろ!」

 

 サーチライトで照らしてやると確かにソラは大柄なやつを引っ張って何とか泳いでいやがった。

 

「おいおいおい、何がどうなって溺れてたんだ」

 

 2人を船に引き上げ、噎せるソラの背を撫でてやる。

「いや、ちょっと……俺も何が何だか。こんな夜更けに船出すバカがいて助かった」

「だぁれがバカだ。俺ぁ、おめぇの話が気になってよ。マリンスノー造船会社があった所にな。潜ろうとしたら、 BOOM!! ここに駆けつけたってわけだ」

「潜るって……死亡事故があったんだろ?危なくないか?」

「俺がやらなきゃ真相分かんねぇだろ?」

「だからって1人でやるなよ……。行くなら誰か連れて日中に調査しろ。なんなら明日、一緒に行こう。とにかく陸地につけてくれ。探さないと」

「?」

 

 ──

 

 突入後、ターズに男達を軽く感電させ、後ろ手に縛ってその辺に放置していった。

 金庫を漁ると目的のものは見つからないが、エメラルドカンパニーが奪いあげた島民達の大事なものが詰まっていた。

 

 金庫を照らしてくれたロシナンテは一服していたが、嫌な予感は的中するもので。

 

「とっ、と、ぉわッ」

 

 足元のワインボトルにつまづき、手をついた木材がテコの原理で樽ジョッキを飛ばす。

 飛ばした先には金庫を照らしていた燭台があり、床へと転がり落ちた。それと同時にロシナンテは仰向けに倒れ、その衝撃で燭台はコロコロと転がり、火薬を仕込んでいたエリアの床に。

 火は火薬にじりじりと燃え移る。

 

「!?まてまてまてまて!!……フーッ!!フーッ!!」

 その光景を目撃した、後ろ手に縛られたカンパニーの男達は必死に消そうと息を吹きかける。

 だが、新たに酸素を供給された火種は、男達の思惑と反対に燃え上がってしまう。

 

「あっ」

 

 零れた火薬の先には最近大量に卸した火薬の樽の山。

 

 男の声と同時に閃光が走った。

 

 これが爆発の原因。

 

 俺とロシナンテは気がつくと海へと飛ばされていた。

 

「ぶはっ……、海!?なんで、……ってロシナンテ浮け!沈むな!」

「もう力が抜けちゃってェ全然動けなくてェ……」

「悪魔の実なんて食うからだ!浅く呼吸!」

「でも、最初楽しかったろぉ」

「くそ、デカい図体してんなぁ!」

 

 アカデミーで習った救助者の運搬法を実践する時が来るとはな

 

 悪魔の実を食べると海に嫌われるというが、ほんとに力が抜け……あれ、ターズって……?

 

「ターズ……ターズ!どこだ!?」

 

 腕を見ても、シャツを脱いでもどこにもターズはいない。

 最悪の結果が頭を過ぎるが、救助者をつれてはどうにもいかない。先に陸に上がるのが先決だ。

 

 

「派手にやりやがったな、誰がこんなこと」

 

 あの声は

 

「おい!フランキー!」

 

 

 ──

 

 

 フランキーに助けられた後、無事上陸し、翌日廃船島で待ち合わせる約束をして別れた。

 

「ロシナンテ、少し別行動する」

「は?何しに行くってんだ。手当だって「朝には帰るよ」

 

 ホテルを出て、夜更けの道を探し歩く。

 瓦礫ばかりの爆発現場とその付近の港、酒場、最初に降り立った港、どこを探してもあの大きくたおやかな翼は見えない。

 

「ターズ、まだ一緒に飛んでないだろ。腹ん中の物なんて吐き出しちまっていい、また作ればいい話だ。でもお前はそうもいかないだろ……なぁ、どこだよターズ」

 

 靴は汚れ、爆発の衝撃で受けた傷もそのままに歩き続けた。

 

 これだけ探しても居ないなら、本当に海に散ってしまったのかもしれない。そう海を眺めていると日の出に照らされ水面が煌めき出した。

 絶望感を抱える自分を置いて煌めく世界が憎たらしい。

 

 

「はぁぁぁ……」

 

 柵に身をもたれさせ、ため息をつく。日が明けたのだ、憎たらしい海を調べに行かなきゃならない。

 バシン、と頬を叩きカイルはホテルへと戻り、心配するロシナンテをよそに一眠りした。

 

 

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