「ソラ!こっちだ」
爆発の翌朝、カイルはロシナンテを連れ、廃船島を訪れた。
「ソラ?偽名を?」
「名乗らない方が良かったか?」
「いいや、最後まで突き通すならいい」
「ロシナンテは……なんて呼べばいい?」
「なんとでも」
フランキーは2人を連れ、トムズワーカーへと迎え入れた。
「トムさん!コイツが言ってたやつだ」
「あぁ、お前さんがソラか。確かにひょろいな」
コンゴウフグの魚人であるトムと比べると大体のものはひょろく見えるだろうけどさ。毎日トレーニングしてる身としては刺さる言葉だ。
お前らがでかいんだよ。
「初めまして、突然の訪問申し訳ありません」
「いやいや、気になってたのはワシのほうだからな。フランキーが迷惑かけてなきゃいいが。たっはっは……ッ!……ッ!」
「トムさん、俺こいつらとマリンスノーの事件を調べて来ようと思ってんだ」
「あぁ?潜るってのか?ついて行きたいが、俺ァ海に入れば逃げると思われるからな。気ぃつけていけよ」
「おぅ!」
意気揚々と準備にかかるフランキーは船の準備にかかろうとした。
「なぁ、フランキー。潜るって、裸一貫で潜るつもりじゃないだろうな」
「あぁ、ここで潜水服用意するつもりだ。待ってろよ、SUPER Cooolなもン作ってやるぜ!潜るのは俺とソラ、2人か?あんたのツレぁ泳げねぇらしいからな。船で酸素の調節をさせるつもりだ」
「あぁ、それでいいよ。こういうつくりの潜水服なんかどうだ?」
この世界の潜水服は随分と粗末なもので、樽を繋げたものが使われることもあった。
マリンスノー造船会社の二の舞にならないよう安全を第一と考え、前世の記憶を頼りに、安全な潜水服を提案した。酸素ボンベは無理なのでうえから酸素を供給するチューブを伸ばす形だ。
この島は造船技術が高い。ということは製鉄技術も高い。海列車を作る彼らだ、こういう分野はお手の物だろう。
その肝心な鉄も、近隣の島から輸入しているようだが、海列車が出来ればよりこの島の造船業は活気を増すだろう。
「お、いいな。だがCoolじゃねぇ。ここをこうして、突起つけたらいいじゃねぇか」
「突起をつける意味がない。Simple is best.潜る際、パニックに陥ってみろ、その突起があるせいで救助に支障が出る。それに水の抵抗が「なぁに言ってんだ、かっこよさがなけりゃいけねぇ!」
「……今回は安全に観測できることが第一だ。それが達成できるならいい。昔島があった場所だ、水深はそんなに深くない、水圧もそこまで気にしなくていい」
「へいへい、なんかお前カリカリしてねぇか?何があったか知らねぇがあたるんじゃねぇよ」
「は?」
「あぁん?」
「あーもぅ喧嘩するんじゃねぇよ」
どうどう、とロシナンテに上から頭を押さえつけられ宥められる。
「すまないな、こいつ昨日大事なもの無くしたらしくてさ。昨日夜通し探し回ってもなかったみたいで寝不足なんだよ。許してやってくれ」
「あー……、確かそんなこと言ってたな探さないとって、早く見つかるといいな」
なんだこれ、なんで俺がガキっぽい感じで落ち着いてんだよ。突起に関してはスルーしてやったろ、ムカつく。しかも、"もの"じゃねぇし。
じとっとした目をしていたのかまたデコピンしてきやがった。くそ
「後で俺も一緒に探してやるから、今は集中しろ。怪我してほしくねぇ」
「……わかったよ」
その後無事に潜水服は出来上がり、船に乗り込み死亡事故現場へと向かった。
──
「じゃ、俺たち潜るから酸素の調節は任せた。ドジるなよ、フリじゃないからな!?絶対ドジるなよ!」
「だぁいじょうぶだって。ほら、行ってこい!」
自信満々なロシナンテを船の上に残し、フランキーとカイルは海の底へと潜ってゆく。
乳青色の海は光が通りにくく、少し潜るだけで濁る海にお互いが消えないよう身を寄せる。
水中でも会話が出来るよう、小型電伝虫を潜水服内に取り付けているため意思疎通はできるが、姿が見えないのも危険だろう。一応、ロシナンテにも聞こえるよう、船上にも同種の電伝虫をおいてある。
ドジった声も聞こえるだろう……
海の中はとても静かで自分の心音が大きく感じる。
周りを警戒しながら、さらに潜る2人はようやく地面に足を着けることが出来た。足元には石畳が、周りには崩れた建物が広がり、昔島の端であったことが伺える。
「こちらソラ、地上へ。海底についた、これから探索に入る。どうぞ」
「こちら地上、了解。2人とも気をつけていけよ、以上」
辺りを探索するとやはり造船所の跡らしく、繋がれた船や鉄材が放置されている。
「ソラ、アレ見てみろ」
肩を叩き、指さすフランキーの目線の先には昔水路であった凹みに簡素な潜水服を着た白骨死体が横たわっていた。
水路へと降り、白骨死体に近づくと首のネックレスに気づく。
開くとこの人物の家族だろうか、こちらに微笑みかける女性が写っていた。
「後で上につれてってやろう」
「おうよ」
白骨死体があるということはここが事故現場だ。
周りに何か事故の原因はないかと見渡すも特に目立ったものは無い。
木材に鉄くず、足元には汚泥。
……汚泥?
「フランキー、ウォーターセブンの人達って、排水とかゴミとかはどうしてる?」
「排水は各家に浄化槽が入ってるはずだ。それに噴水のおかげで常に水は流れて入れ替わる。ゴミは、大体は燃やすか、ヤガラの餌にしてるかだな。それでもダメなら水分飛ばして漏れ出ないように箱に詰めて埋め立てる」
「極限までゴミを減らす努力はしてるか」
「水が生活の中心にあるんだ、汚すバカはいねぇよ」
「だよな。エメラルドの奴らは別として。埋立地はどこ辺り?」
「あー……ここから少し行ったとこだが、ここ数年で沈んだな」
そう埋立地の方向を指さした時だ。
ゴゴン、ゴゴンッと鈍い音と振動が指さした先から響いてくる。
「おいおい、海王類かぁ?」
「そうなら俺たちはもうすぐ仲良く腹の中だ」
「確かめて海王類なら一旦上がるぞ」
フランキーは鉄材を、カイルは水中銃を。
役にも立たないが一応手に、音の鳴る方へ恐る恐る足をすすめる。
ゴゴン、……ゴゴンッ……
音は次第に大きくなり、不規則に鳴り続けていた。
近づくにつれ、黒い影が蠢いていたのが段々と鮮明に見えてくる。
細く長い尾ひれと4本の鰭
馬のような顔
鬣のような背鰭
その正体はキングブル。
だが、地上でみたヤガラより痩せこけ、身体は傷だらけで鰭はちぎれ、みすぼらしい。
「キングブルだ、アイツら普段は温厚なのになんで……」
「ここらはヤガラも近づかないって言ってたのに。おい、フランキー、あれ、なにか刺さってないか?」
「あぁん?」
身体には材木やモリが刺さり、誰かが故意に傷をつけたのがわかる。
「あの棘が痛くて暴れてるって訳か。誰があんな事」
「辺りにちらばってるのは埋め立てていたゴミか。痩せこけてもう長くはなさそうだな」
「思い出した、あいつぁマリンスノー造船会社が飼ってたキングブルだ。随分前に見たことがある。きっと、海に沈んだマリンスノーの奴らをずっと守ってたんだ。っくぅ〜、泣けるぜェ!!」
隣で号泣するフランキーは置いておいて、カイルは考え始めた。
1つ、マリンスノー造船会社の従業員はサルベージ中に次々と亡くなった。
聞き込みによると海面に上がってきた遺体には外傷はなかったらしい。先程見た白骨死体も骨は全て残っていた。
1つ、エメラルドカンパニーは大海賊時代になってから出来た会社で、奴らが来てから海が汚れ始めた。
エメラルドカンパニーは産業廃棄物を海へ不法投棄していた。今いる地点からエメラルドカンパニーまで目と鼻の先だ。
この世界では環境汚染という問題はまだ話題に挙がっていないが、前世では至る所で起こっていた。
地球温暖化、光化学スモッグ、酸性雨に砂漠化、海洋汚染……
未だ文明がそこまで発展していない島では少ないだろうが、ここは言ってしまえば工業地帯だ。
ありえない話では無い。
それに、海の色が変わったと聞く。
確かに大海原と比べるとここの海は乳青色に近く、魚の活きも悪いと言っていた。
前世の記憶で該当するものがあるなら、これは《青潮》だ。
青潮の原因は海水の富栄養化だ。
家庭や工場から排出される有機物や、海で発生した大量のプランクトンの死骸が海の底に沈むと、バクテリアが有機物を分解するために大量の酸素を消費する。 その結果、海の表面から酸素が供給されないと、海の底に酸素の薄い層ができる。そこに強い風等により、薄い層が海表面に押し上げられ、大気中の酸素と薄い層に含まれるバクテリアによって生み出された硫化水素が反応し、硫化硫黄が出来上がる。
現に目の前で苦しむキングブルも酸素の薄さに苦しめられているのだろう。弱った身体をくねらせ、水面へ首を伸ばしている。
まあるい気泡を持つ黄色い海藻が周りにいくつかあるが、キングブルが利用しないのなら酸素では無さそうだ。
マリンスノー造船会社の彼らもサルベージ中に硫化水素溜りに当たり、硫化水素中毒で亡くなった可能性も考えられる。
「今抜いてやるからな!待ってろ!」
「えっ、あ、バカ待て!」
──
「修理した会社の特定もままならんとはな」
「主管にどやされるぞ。何も出来ないくせに口だけは達者だからな、あいつは」
「今回は海軍の尻拭いより古代兵器設計図の方を重点的に探せとのお達しだ。どうせ海軍側も潜入してるんだろう、自分で尻拭いさせればいい」
「修理請負の有力候補のエメラルドカンパニーは爆発、従業員も見つかってない。海にでも沈んでいてくれれば我々の手間も省ける」
夜明け頃、島全体を見下ろせる屋根に立つ彼らはCP5。
スパンダムの命令で古代兵器プルトンについて調査に赴いていた。それと同時に海軍からの尻拭いを依頼されたのだ。
「残り主要なカンパニーは7つだ。片っ端から潜入するぞ」
「おい待て、ありゃなんだ。影が動いたぞ」
「鳥か雲の影だろ」
「いや、建物の影だ。あの広場の建物の隙間に入ってった」
「それこそ見間違えだ。時間がないんだ、さっさと行くぞ」
月歩を使い、CP5の面々はその場を去った。
そのすぐ後だ。
1人が指さした広場の建物との隙間から大きくたおやかな翼が姿を覗かせ、人も疎らな広場に何かを吐き出した。
「ゥ……ゲホッゴホッゴホッ..」
「ヒィ……しん、死んだッ……て、死んでない……?」
「あれ、俺たち爆発して……」
「「「ウギェッ」」」
呆然とする彼らの上に更に吐き出されたものは金庫。押しつぶされた彼らは身を縛るロープと金庫で身動きが取れず、苦悩の表情を浮かべていた。
爆発の瞬間、ターズはカイルとロシナンテ、金庫とエメラルドカンパニー従業員3名を飲み込み、咄嗟にカイル達を海へと吐き出した。
その上、2人の会話から、広場へ金庫と従業員を置けばいいと判断し、単独行動に移ったようだ。
爆発を受けて、野次馬から身を隠し広場まで来た頃にはすっかり夜も明けていた。
「ピッ、ピッ♪……、……ギ?ギギ……」
1人で任務遂行できたと、金庫の周りを楽しそうにぐるぐると旋回するターズは更に何かを吐き出そうと震え始める。
半透明な身体から顔をのぞかせたのはプロペラだった。
ターズは飛行機を身体に隠し持った。しかし、身体にとめおけるのは1週間ほど、その期限が今日だったのだ。
完全に吐き出されたソレは広間に鎮座し、金庫の下の者達は目を向いていた。
「ンマー……こりゃ、なんだ。アイツが書いた設計図と瓜二つじゃねぇか」
「ピギッ!?」
「おぁ!?なんだ、やめっ、飲み込まれっ……アーッ!!」
後ろからの声に驚き、ついケフッと1人、続いてもう一度飛行機を飲み込んだターズはこれ以上目撃されぬようカイルの元へと急いだ。
だが、宿に行っても2人の姿はなく、荷物はそのまま。なんならオーナーが荷物を漁ろうとしていたので感電させておいた。
まさか海にまだ漂っているのかと爆発現場の近くの港へ飛んで行った。
「ピギィ……ピィ……」
しかしターズは海には入れない。
うろうろとカイル恋しさに鳴き、海を眺めていると見慣れた大男が船の上で黒いチューブを引っ張っていた。
あの男が生きているならカイルも生きているはずだ!
どうにかあの男の元まで行けないか。
そうだ、あの船大工に連れて行ってもらおう!
「ッグェ」
──
「それで?カイルがやってる事を渡さないとどうするって?」
「ぉ〜わっしの口から言わせるつもりですかい?こうやってここに赴いてるだけでもこんなに心痛めてるのに」
「その顔のどこが痛めてるんだ。カイルがやってる事は水上バイク以降はなにも関わってない。もうあいつも19だ、いつまでも親の保護下にいるわけないだろう」
マリンフォード、工廠長執務室ではキールとボルサリーノが向かい合っていた。
「軍艦バカって言われてるぐらいでしょう?身近に新しい技術が生まれようとしてるのに首を突っ込まない方がおかしいよねぇ」
「親子だからこそ首を突っ込まないんだよ、突っ込みすぎると嫌われる、君もいつか子供を持つだろう、それまでに覚えておけ」
「よそはよそ、うちはうちっていうけどねぇ」
「ああ言えばこう言うやつだなぁ。そんなに科学部隊はネタ切れしてるのか?優秀な人材の集まりなんだろう」
「その科学部隊と小さい頃から繋がりを持たせたのはアンタでしょうが」
「アレは天才だからな、才能は伸ばさにゃならんだろ」
「相も変わらず親バカだねぇ〜。……でも、アレ、ほんとに君の子かぁい?」
「!?」
燻らせていた葉巻を灰皿に押し付ける音が部屋に響いた。
「6歳頃だったかねぇ、工廠内で事故があったのは。そこを転機にあの子は変わった」
「……それだけのショックを受けたんだ」
「煙草屋の親父に聞いたよ、あの子ディスレクシアだったんだってねぇ」
ディスレクシア。いわゆる読字障害。
「読む」「書く」「計算する・推論する」能力に関係する特性だ。
主な症状としては、
どう読むか分からない音韻処理不全
文字の形が分からない視覚情報処理不全
がある。
マリンフォードは医療体制が整っており、産まれた子供は定期検診を受けることが出来る。
また、教育環境も整っており、5歳頃には皆簡単な読み書きならマスターしている子がほとんどだ。
しかし、幼いカイルは文字が歪んで見え、流暢に読むことが困難だと検診時に発覚した。
「将来困らないように、読む訓練とかしてたんだってねぇ。それが事故直後、航海術や気象学の本を引っ張り出して黙々と読み始めた。それに、教えてもない敬語も使いだした。不思議通り越して不気味だよねぇ」
「……ボルサリーノ中将、誰に向かって何を言ってるのか分かってるのか」
「アンタだって思ったはずでしょう。元のあの子じゃない、別人みたいだ、って。あぁ、でも安心もしたかもねぇ。工廠長の息子が読み書きができないなんて恥ずか「黙れ!お前がなんと言おうとカイルは俺達の子供だ!昔も今も!俺の子供じゃない?だから技術を勝手に横流ししようと後ろめたくないってか?技術が欲しいなら本人に教えを乞え。開発者はその技術の行く末を見守り、時に軌道修正する責任がある。これ以上ぐだぐだぬかすなら工廠全体でストしてやる、上にも言っとけ!分かったか!わかったならさっさと出ていけ!」
ボルサリーノ中将のお帰りだ!と半ば強制的に部屋から追い出されたボルサリーノは一つ息をつき、帽子を被り直した。
どっちつかずの正義を掲げ始め早4,5年。
やりたくない仕事も与えられるようになり、どうにかして着地点を見つけなければならない事も多々あった。
今日の仕事もそうだ、カイルの空飛ぶ技術を科学部隊に取り込ませ、実用化を急ぐようお達しがでた。
Dr.ベガパンクの手にかかれば空を飛ぶなどすぐさま出来るだろうが、彼は今他の課題に取り組んでいるらしい。優先順位もその課題の方が上だ。
今日わざと怒らせたのも、時間を引き伸ばすため。
色んな方面からリサーチしてみましたが、ダメでした、カイル本人に連絡を取る以外術はありません。といった報告書を書く予定だ。
「はぁ〜、嫌な役回りだねぇ……。さっさと手柄とって自分で黙らせてくれりゃァわっしも楽できるんだけどねぇ」
──
『キングブル!落ち着け、その槍抜いてやるからな。お前が守ってたマリンスノーのやつらも上に連れてってやる!だからもう暴れるな!』
『バヒヒーン!!』
電伝虫が海底の様子を話す前でロシナンテは伸びていく酸素チューブを引き止めていた。
「やめろ、海ん中じゃお前らに勝ち目は無い!「ピッギーッ!!」なんだ!?」
何の鳴き声か、音の方へ顔を向けるとバトルシップが1隻、こちらへと猛スピードで向かっていた。
「あんたがソラの相方か!!ソラはどこだ!」
「フランキーと一緒に海底だ!暴れるキングブルを抑えてる!」
「ンマー!無茶しやがって!」
「バヒヒヒーン!!」
隣接した船の上で声を上げていると、首に酸素チューブが絡まったキングブルが勢いよく浮上し、海水を撒き散らした。
「くっ、力が……」
「「ピギ……ッ」」「「ピギ……ッ」」
「フランキー!!無事かーッ!?待ってろ、今ぶちかましてやる!」
バトルシップでやってきたやつは船搭載の大砲を準備し、照準を合わせ始めた。
「待て撃つな!酸素チューブが絡まってるって事は俺の仲間かフランキー、どっちかが傍にいる!」
「こいつぁフランキーが初期に作ったバトルシップだ、命中率は高いが威力はクソ弱ぇ、信じろ」
「信じられるかぁ!!」
ごちゃごちゃと船越しに騒いでいるとまさにその酸素チューブの先がキングブルの首元に吊られているのが見えた。
どっちだ!あいつら身長同じぐらいだから潜水服姿じゃ分からねぇ!
「吊られてるやつ!お前がフランキーなら!お前のバトルシップの威力を体験できるぞ!しっかりしがみついとけ!!」
「やめろ〜〜!!ッぉわ」
あぁ、俺はこういうやつだよ。いざと言う時もドジをする。
火種をもつ男を止めようと滑って転んで点火しちまった……。
「〜ッカイル!!」
──
バトルシップから放たれた砲丸はキングブルの身体に命中し、悲痛な声が上がった。
元々弱ってたのもあるが、ろくな抵抗もなく沈んでゆく。
絡まった酸素チューブの先の潜水服も一緒に沈んでいく。
「ヨコヅナ!助けてやれ!」
「ゲロッ」
沈みゆくキングブルから酸素チューブを引きちぎり、潜水服を持ってきたヨコヅナは船の上へと明け渡した。
「ンマー、随分無茶を……、おい、中身がないぞ。ヨコヅナ、中身はどうした!」
「ゲロッゲロゲロッ?」
落としたか、とオロオロ周りを見渡すヨコヅナ。
潜水服の頭を外し、中を覗くアイスバーグ。
慌てる2人の横から笑い声が聞こえる。
「おいおいおい!バカバーグ!俺がそんなちっせぇ男なわけねぇだろうがよ!」
「間一髪、助かったな……ターズ、よくやったぞ」
ロシナンテが乗っていた船にいつの間にか2人は戻ってきていた。
状況を掴めずにいるロシナンテとアイスバーグをよそに、荒く息を吐きながら2人は笑いあっていた。
──
「ンマー、それで?結局何がどうなってたんだ。ちゃんとわかるように説明しろ」
トムズワーカーズの事務所に戻ってきた面々はココロのいれる茶を飲み一息ついていた。
「俺達はマリンスノー造船所の事故について調べてたんだ。朝、お前廃船島にいなかったろ」
「あぁ、広場の方にな。いきなり目の前にエメラルドカンパニーの奴らと金庫、それにソラが見せてくれた設計図そっくりの乗り物が出てきたと思ったらブラックアウトだ。そもそもこいつァなんなんだ」
カイルの足元で揺蕩うターズを一瞥し、アイスバーグは椅子の上で胡座をかいた。また吸い込まれる事を危惧しているようだ。
「あー……この子は俺の相棒みたいなもので、体内にものを取り込めるただのマンタだ。人に危害は加えないよう言い聞かせてたんだが、迷惑かけたみたいで申し訳ない」
「ピィ」
「話を戻すぞ、俺たちゃマリンスノー造船所の奴らがどうして死んだのか調査しに潜った。昔の水路に白骨死体を発見して、近くに暴れるキングブルを見つけた。覚えてるか、アイス、あいつぁ元々はマリンスノーの奴らの家族だ。沈んだファミリーを健気にも守っていやがったんだ。だが、最近の海のせいで弱って、長くはなかった……。どうしてなのかはソラ、なにか心当たりがあるんだろ」
話をふられたので、簡潔に青潮について伝えると昔の海を知るトムは何度も頷いていた。
「こいつの言う通りだ、海の色も匂いも変わって魚の活きも悪くなった。俺ァ裁判にかけられてから海には入れてないが入らずとも分からァ。だが、それがゴミのせいだとは知らなかったな」
「現状打開策としては、海中曝気、植生浄化なりあるだろうが、ゴミを捨て続ければまた同じことが起きる。島全体の廃棄物処理制度を見直す必要があるね。フランキーに聞いた限りは海洋汚染に配慮してると思ったが、どうせ守ってないやつもいるだろ。そこら辺については島を取りまとめる市長か何かがいればいいんだけどな。この島の政治については俺は余所者だ、何も言うことは無い」
目を見て言った"市長"という言葉に、考え込む若きアイスバーグはこの先7つのカンパニーを取りまとめ、市長となり、更には沈みゆくウォーターセブンを守る策を講じる未来を俺は知っている。
きっと原作通りにやってくれるだろう。
「島の未来は島民しか作れないんだ、あんた達が作ってる海列車もその未来のひとつだ。開通すればきっと拓ける」
「あぁ、もちろんだぜ。完成したら絶対乗ってくれよ!」
「後3年ぐらいだったか?楽しみにしてる」
にこやかに話しているが、お気付きだろうか。
我々の任務は全くと言っていいほど進展がない。
誰が軍艦の修理をし、何故焼印なぞつけ、そのまま海軍へと返したのか。
エメラルドカンパニーへの潜入では金庫の中身は島民の大事なものばかりで無駄足だった。
……無駄足は言いすぎた。ゴミ問題の一角を潰せた。
進展のない報告ほど気まずいものは無い。
ロシナンテと共にどうするかと頭を悩ませていた所、夕食も食っていけとトムが帰ろうとする俺達を引き止めた。
ココロさんのつくる夕食は質素ながらも愛が込められていて美味かった。このココロさんがあのココロさんになるとは……時の流れというものは……。
満腹になったフランキーとアイスバーグはいつの間にか寝静まり、寝室へと運ばれていった。
「そろそろ、俺達も宿に戻ろう。トムさん、ありがとうございました」
「おいおい、まぁ、そう急ぐことないだろう。海兵さん達よ」
「「!?」」
「たっはっは!!いーいリアクションだ!まぁ、こっち来い、酒でも飲みながら話そう」
トムは1等大事にしている酒とグラス3つを持ち、席に着いた。
「あんたらの軍艦を修理したのは確かだ。だが、誰が関わったかは言えねぇ。言えば殺しにくるだろ?」
「最初から、分かってたのか」
ロシナンテは真剣な表情でトムの目を直視した。
「最初からもなにも、軍艦にマリンスノーの焼印を残したのはあんたら海兵をこの島に呼ぶためだ。俺がやった。まぁ、一か八かの賭けだったがな。結果を見れば俺の勝ちだ」
「何が目的だ」
「エメラルドカンパニーの解体。建物ごと綺麗さっぱり吹き飛ばして、取られたもんまで無事に返してくれた。これが十分じゃなきゃなんだ。今朝から島民は大盛り上がりだ。3人からボスの居所聞き出して各カンパニーから屈強な職人共が見舞いにいったらしい。あんたらは海に出てたから知らないだろうがな」
「……な、なんの事だか知らないな。それにしても海楼石付近を弄るのはやりすぎだ。ただ焼印を残すだけでよかったはずだ」
「仕方ねぇだろう、損傷箇所が箇所だ。それに、そういう所じゃなきゃ来ないだろ」
「それはそうだがな。海楼石加工技術を消すために殺しに来るのは目に見えてたろ?」
「は、1度裁かれとるからな、どっちにしろ一緒だ。俺が指示したってわかりゃ海列車開通まで手も出せないだろ」
「ずる賢い奴だ」
特徴的な笑い方で酒を飲むトムはこうも言った。
「海楼石に関する技術は弄ったやつもよく分かってないし、エメラルドカンパニーの圧政に苦しんでたやつだ。解放してくれたやつの不利になることはしねぇ。恩を仇で返すような奴はこの島にはいない」
「海軍を誘き寄せる事を知ってる奴は他にもいると……。CPも来てるんだ、知らぬ存ぜぬで済むかどうか」
「随分心配してくれるんだな。この荒廃した島を守る為海軍を利用したんだ。覚悟はしてる」
ロシナンテは溜息をつき、出された酒を一気にあおった。
「報告書にはうまく書いておく」
──
翌日、早朝6時。
2人の泊まる部屋の戸を叩く音が響いた。
「ソラ!設計図の空飛ぶアレ!ちゃんと見せてくれ!アイスバーグだけ見たなんてずりぃぞ!」
「朝イチの声量じゃねぇぞ、この野郎……」
「どうせおめぇらもうすぐ帰っちまうんだろ、その前によく見てぇんだよ!」
「疲れてんだよ、ゆっくりさせろ。マリンスノーの彼らの引き上げはどうなったんだよ」
「それは他のカンパニーが合同でやった。キングブルもちゃんと引き上げて弔ってやるんだ。早くしないと海王類が寄ってくるからもう始まってるんじゃねぇか?」
「そうかい」
「日中は海列車の作業だし、終わるのも日が暮れてからだ。そうなりゃお前ら帰っちまうだろ」
「……、人目の無いとこ、縦横12m高さ3m以上の空間を用意できるなら」
「ならいい所がある!行くぞ!」
連れてこられたのはトムズワーカーズの倉庫だった。
原作でメリー号のクラバウターマンについてフランキーがウソップに語った所だったか。
「ここなら広ぇし、人目にもつかねぇ。あんたの相棒の中に入ってんだろ?早く見せてくれよ!」
「……職人バカなお前だから見せるが、他の奴らには絶対言うなよ」
「絶対言わねぇ!」
握り拳を胸に言い切るフランキーを前に、カイルはしょうがないなぁ、とどこか自慢げにも飛行機をターズに出させた。
高さ8ft 10in翼幅39ft 長さ31ft
乗組員1人、乗客数4-6人
鼻先にプロペラ、足には浮舟のような艤装を持ち、プロペラの奥にレシプロエンジン※1を搭載している。
「どうだ、美しいだろう」
手塩にかけて作ってきた水上機は完成まであと一歩の所まできていた。
「これが、空を飛ぶのか」
開いた口が塞がらないフランキーは水上機の周りをうろうろと眺める。
彼の作るバトルシップの技術も前世のものに近く、廃船島で並ぶ姿を見ていた俺と同じ状態だ。
「現段階ではまだ飛べない。燃料をどうするか、動力源に悩んでるって言ったろ」
「蒸気はどうだ?海列車も蒸気を使ってる」
「空を飛ぶんだぞ、重たい石炭や水を蓄えて飛ぶ訳にもいかない」
「んん……ゴム!こう、ねじって」
「飛距離が短いし、ゴムは劣化しやすい。こいつをピストン運動させる動力さえあればいいんだがな……」
水上機を前に、2人して頭を抱えているとココロさんが出社してきたようだ。
「あんたらこんな所でなにしてんだい。2人して頭抱えて」
「燃料について考えてたんです。軽くて、馬力のあるやつ」
「そんな夢のような燃料があるなら海列車にとっくに使ってるさ」
「ですよね」
あと一歩、あと一歩なんだけどなぁ……
形は完璧に整った水上機を眺めていると外から男共の声が騒がしく聞こえてきた。
「担架もってこい!」
「爆発しやがった!なんだあの草!」
「キングブルの腹から出てきたんだ」
ちょうど倉庫は橋の下にあるからか、上で作業する男達の声が聞こえてくる。
「なんだぁ?てこずってやがるじゃねぇか……ちょっと見てくらぁ」
「俺もいく」
ターズにもう一度飛行機を飲み込ませ、橋の上に上がると、大勢の男がキングブルを囲み、出てきた内容物を避けていた。
丸い気泡をもつ草は海底で見た事のあるものだった。
「何があった」
「煙草吸ってた奴があの気泡の中に吸殻捨てたら爆発したんだ」
「ありゃぁ、海底にあったやつだろ?」
「おーい!植物図鑑もってきたぞ!枕にしてたから多少くせぇが我慢しろ」
荒廃し、貧困に喘ぎ、自殺者も多数いるこの島でも知識は未だ大切に扱われているようだ。
てか寝心地悪そうだな
「えぇ、と……ルデズミトスヤモっていう植物らしい。えー、《土から離れても空気中から栄養を蓄えて自生し、汚染された地域にも生えていることから、浄化作用がある可能性が考察される。気泡はシャボンディ諸島のヤルキマン・マングローブに似た性質で中に入ることも可能だが、オススメはしない。力を加えると気泡は圧縮でき、もぎって保管することも可能。発見者が気泡内ガスを燃焼させると水が発生したことから、ルデズミトスヤモと命名された》……?」
「ルデズミトスヤモ?変な名前だな」
「…………、水素燃料か!」
※1レシプロエンジン
燃料の熱エネルギーをピストンの往復運動に変換し、回転運動として出力する原動機。