飛行機雲   作:神風

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 食堂でカイルが連れていかれてから今どこで何をしているのか、一切情報はなし。

 自分の失態がきっかけとなったが故に気掛かりで、スモーカーはふとした時にカイルの姿を探すようになっていた。

 そんな自分にも嫌気が差して人気のない倉庫の一角で煙草を吸っていると、ヒナがやってきた。

 

「ここにいたのね、スモーカー君。カイル君から連絡はあった?」

「チッ……ありゃとっくに伝えてる」

「それもそうね。キール君も知らないって」

「キールく……お前、カイルの父親と言えど工廠長だぞ」

「いいよ、って言われたわ」

「はぁ」

 

 いつからか、ヒナは煙草を吸うようになっていた。

 俺たちの影響かと聞けば違うと言うが、今ヒナが火をつけたものはあいつが吸っていた銘柄に見える。

 吐き出した紫煙を眺めていると、カイルと初めて葉巻を吸ったあの時を思い出す。

 あの頃は海軍内部がこうも世知辛いものだとは気づきもせず、ただ訓練に明け暮れ仲間と肩を並べられていた。

 いつまでも仲良しこよしでいられるなんざ思ってはいないが、同期の中でも1歩2歩前に進むカイルを見ているとどうにもむしゃくしゃする。

 

「カイル君を連れてったあの海兵、階級は少佐で、センゴク大将のお気に入りらしいわよ」

「へぇ、そうかよ」

「全く興味ないのね」

「俺がそれを知ってどうなる。ただでさえ、あのバカ上司がやらかしたせいで俺たちゃ仕事も与えられず待機命令だ。バカのやった事の証拠隠滅を計らないためだとよ……ケッ」

「すっかり腐っちゃって。元はと言えばね!あなたのやらかしをどうにかするためにカイル君は頑張ったの。あなたがそんなのじゃ、報われないわ」

「その言い方やめろ、まだ生きてるだろ」

「海兵いつ何が起こるかわからないものよ。とにかく、今できることをやりなさい」

 

 ヒナは短くなった煙草を揉み消し、その場を去っていった。

 

「できることったってな……」

 

 ──

 

「……、水素燃料か!」

 

 その一声からカイルの行動は早かった。

 その植物を全て譲り受け、やれ帰ろう、すぐ帰ろうとロシナンテを急かし船の手配を済ませた。

 

 報告書をどう書くか頭を悩ませるロシナンテには悪いが、船の上で仕上げてもらおう。

 

 そんなこんなで、マリンフォードへ帰る事となった。港にはトムズワーカーズの皆が見送りに来ていた。

 

「ソラ!空飛べるようになったら見せに来いよ」

「お前も、もうちょっとマシなデザインできるようになっておけよ」

「ぁんだとテメェ俺のデザインのどこが悪ぃってんだこの野郎」

「言っておくがな、お前の船は独りよがりだ。乗る人の事を、運ぶ物の事を考えて作れ。それと無造作にバトルシップを並べるな。勝手にアイスバーグが乗れる程だ、悪意ある者が乗っ取るかもしれないだろ」

「〜ッとに、お前は最後まで口うるせぇやつだな!今までそんなことなかっただろ!」

「この先あるから言ってんだ、心に刻めよ。今回はアイスバーグがお前を守るために使ったが次は誰かがお前の大事な人を貶める為かもしれない。忠告はしたぞ」

 

 同じ歳頃の2人の言い合いを他は微笑ましげに眺めていた。

 

「ンマー、俺が言いたいこと全部言ってくれたな」

「たっはっは!仲がいいこった。またこの島に来ることがあれば相手してやってくれ」

「「仲良くない!」……コホン、ですが、この件の報告が問題なく出来れば是非またここに。ロシナンテには苦労をかけてしまうけど」

 

 斜め上に視線をやると顰め面がこっちを見ていた。

 ごめんって。

 

「いやはや、来たのが君達で良かった。他の奴じゃこうはいかなかっただろう。改めて、礼を言う」

 

 握手を求めるトムにこたえ、握り返すと勢いよく抱きしめられた。

 

「ぉわっ」

「親父さんによろしく伝えてくれ」

「なっ、……知り合いだったのか」

「若い頃にな。目元がよく似てる」

 

 なるほど、ここの内情に詳しいはずだ。

 

 先に荷物積み込んでるぞ、とタラップを上がってくロシナンテを横目に、身体を離したトムは俺達が乗り込む予定の船を見上げる。

「いい船だ、目的地まで安全に届けてくれるだろうよ」

 

 にこにこと微笑む彼は数年後、海列車を作ったにも関わらず極刑を言い渡される。古代兵器プルトンを手に入れようとする世界政府の思惑で。

 こんなにいい職人が消えるのは、残念でならない。ここで、俺が足掻いてみても無駄なのだろうか。

 先程までトムに触れていた手をじっとみる。

 数年後のロシナンテの死に抗う予定だが、抗った結果、何が起こるか分からない。

 それなら、1度小さく関わってみるのはどうだろう。

 

 設計図に関わるものが1人増えた場合、原作はどう変わるのか。

 

 しかし、ちっぽけな俺の行動が世界の渦に支障をきたす事などあるだろうか。賭けてみる価値はある。

 

 カイルは意を決し、汗かく手を握りしめた。

 

「トムさん……今、例の設計図はどこに?」

「……何の話かわからんな」

「CPがこの島にいると言ったでしょう。下手な場所では見つかりますよ」

「どこでその話を聞いたかは知らんが、忘れろ。危ういものとは承知しとる。だがな、最悪の事態を考えての行動をしとるつもりだ」

「貴方の愛弟子に危害が及ぶとしても?」

「そんな事、わしがさせん。その言いぶりだ、お前さんはアレを奪い取ろうなぞ考えとらんのだろう」

「1箇所に力が集まれば最悪になることは目に見えてる。集まる前に、先に消してしまえば」

「それを分かっている者が内部にいるだけでも、最悪を免れる確率は上がろうよ。だが、……もし、万一、わしの力が及ばなかった時は力を貸してくれ」

 

 トムはこれ以上話すと目につく、とカイルの背を押しタラップを登らせた。

 

「良い航海を!」

 

 ──

 

「A定食、B定食、スイーツあがったよ!」

 

 昼時の海軍本部食堂は賑わい、厨房は戦場と化す。

 イザベラはコックとして途切れることの無い注文に手を動かし続ける。

 動かし続けないと、息子のカイルが今どこで何をしているのか、頭の中を占めてしまうからだ。

 

 今日のA定食は千切りキャベツとヒレカツ、味噌汁に白飯。

 B定食はミートソースパスタとサラダ、オニオンスープ。

 スイーツはみかん入りミルク寒天だ。

 

 

 10数年前、カイルが帆に押し潰されたと聞いた時は着の身着のまま、作っていたカレーを放棄して向かったからその日のカレーは焦げて苦かった。

 コックである前に母親だ、とその時の上司に慰められ翌週の金曜日は美味しいカレーを披露して挽回したものだ。

 

 カイルが海兵になってからは、昼時にはサカズキ中将執務室の同僚と食事をとっていたり、同期のスモーカー君やヒナさんと食事をとり和気藹々と話してるところをよく見たが、最近とんと姿を見せなくなった。

 夫にそのことを伝えれば、あいつは俺達と同じ海兵になったんだ、と何か知っているような口振りで思い詰めた顔をしていたので抱き締めたのは記憶に新しい。

 

 あの子が思うように、飛び立てればそれでいい。

 そして無事に帰ってきてくれれば、それで十分。

 

 ただ待つしか出来ないもどかしさを胸に、イザベラは今日も厨房で戦っていた。

 

「はい、おまちどおさま!」

 

 ──

 

「仕事しなくていいって言われてんだから甘んじて休んでればいいじゃない」

「休んでる暇があったらもっと強くなりたいんで」

 

 ヒナに焚き付けられたスモーカーは昼寝中のクザンをわざわざ起こし、仕事をください、と直談判しにきた

 

「待機命令だしてから少し経つけど、なにか心境の変化でもあったの?」

「カイルが、同期が奮闘してるのに俺が立ち止まってれないでしょう」

「カイル……、あー、お前ら同期だったか。確か俺がアカデミーに行った時もいたな。うん、いいよ、仕事任せる」

 

 ずい、とデスクの書類タワーを押し付けるクザンはまたアイマスクをつけて昼寝を始めてしまう。

 

「君、それクザン中将しか出来ない書類だから戻していい。暇してるならこの人を働かせる任務を与えよう。方法は問わない、この人が仕事してくれりゃそれで」

「……こんなのでやってけるんですか」

「やってけるように周りが動いちゃうようなお人だからなぁ。さ、頼むよ。このタワー今日が締切なんだ」

「!?」

 

 遠い目をする補佐官に同情を隠しえないスモーカーはやれることをやり始めた。

 

 とりあえず、クザンを起こすことから。

 

 ──

 

「帰港すぐにセンゴクさんに報告するから、カイルはサカズキ中将のとこに報告してくればいい。……それ、何してんだ?」

 

 ウォーターセブンから出港し、海軍からの迎えの船に乗り換え、マリンフォードへの航路を行く甲板の上でカイルはターズの上にうつ伏せで倒れていた。

 

「遅ればせながら再会のハグ」

「確かそれ卒業試験の時にいたやつだろ?俺、飲み込まれた覚えあるぞ、大丈夫か?」

「俺の大事な仲間だ。ちなみに、俺達を爆発から救ってくれたのも多分この子だからな。感謝しろよ」

 キッ、と睨むカイルにロシナンテは苦笑して隣に腰を下ろした。

 

「しかし、ターズが単独行動するなんてな。俺達の会話聞いてたのか?えらいなぁ〜よしよし」

「ミッミ♪」

「そいつトムズワーカーズの船大工捕まえて船の上の俺んとこまで来てたぞ」

「えっ……お前他の人と意思疎通なんてどうやって」

 身体の下のターズを見るためプランクの体勢を取ると、ざわざわとターズは分裂し、ある形を象った。

 

 "Like this"

 

「こ、言葉も習得しただと……天才過ぎないか俺のターズ。これでいっぱいお喋り出来るなぁ〜♡」

「……親バカめ」

 甲板に頬擦りするカイルにロシナンテは苦笑していた。

 

「それはそうと、初めての任務にしちゃ、手際よくいったな。一週間以上はかかると思ってたが」

「解決はしなかったけどね。上手く誤魔化してね、ロシナンテ」

「簡単に言ってくれるなぁ」

「んはは、だってこれ以上あの人達苦しめられないでしょ?……今回の任務でさ、俺達の正義は人を選ぶって事、理解した。海の戦士ソラみたいに、勧善懲悪ものだったら楽なんだけど、俺達の正義は、世界政府は自分達に都合のいい物事しか守らないんだ。もどかしいな」

「……そうだな」

 頬を床に押し付けていたカイルからは、ロシナンテの表情は見えなかった。

 

「そろそろ着くぞ。身なりを整えておけよ」

「Aye,aye,sir」

 

 着岸し、正義のコートを肩にかけタラップを降りると数日しか離れていないのに懐かしさを感じるのは毎度のことだ。

 

「ぉ〜グッドタイミングだねぇ」

 

 でもな、出迎えにボルサリーノ中将が来るとは思わんでしょう。

 

「ボルサリーノ中将、お疲れ様です。何か急ぎの御用ですか?」

「用があるのはそっちだから、君はセンゴクさんに報告してきなぁ」

「は、では失礼します」

 

 敬礼をして去ってくロシナンテの背を見送ると、ボルサリーノはカイルの肩に手を置いた。

 

「君の帰還を待ってたよォ。ま、こんな所でもなんだし、わっしの執務室までいいかぁい?」

「は、……はぁ」

 

 山折り帽子に手をかけ、先に歩き出したボルサリーノ中将の後をついていく。

 着いたのはボルサリーノ中将の執務室。

 ボルサリーノと彼の部下2名、自分というアウェイな空間の中、示された席につく。

 港までボルサリーノが迎えに来たのも逃さない為だろう。

 

「お話とは、なんでしょう?」

「単刀直入に言うと、君の新しい技術が欲しいってぇ話。子供の頃に発明した水上バイクは今でも海軍内で重宝されてる。そんな君が新たに手がける技術、きっと役立つだろうねぇ」

「水上バイクは工廠の方々にご尽力して頂いたから出来たものです。過大評価していらっしゃいますよ」

「またまたぁ、謙遜してもなんの得にもならないよォ?あぁ、君はサカズキの補佐で忙しいだろうから、後は科学部隊に任せてくれればいいからねぇ?科学部隊の技術力と君の発想が組み合わさればいいものも出来るはずだ」

 

 のらりくらりと受け答えし、2人は相手の出方を見ている。

 だが、カイルの心の中は荒れていた。

 

 後は科学部隊に任せろだ?プロジェクトに関わらせず、良いとこ取りするつもりか。馬鹿言うな、これまでの努力をなんだと思ってやがる。

 そもそも、飛行機を作ったとしても飛ばす人間がいなけりゃタダのでかい鉄の塊だ。パイロットを育てる人間が必要なこと、わかってないな?まぁ、ゴミのように海兵を使い倒す我が海軍だ、死人を出しても飛ばせるよう行き当たりばったりでやって行くんだろうよ。上は人の命をなんだと思ってるんだ、反吐が出る。

 あぁ、疲れた体に心理戦は堪える。さっさと終わらせて水素燃料の続きをしたい。

 

「では、私も単刀直入に申します。無理です。私の飛行機は、海軍仕様ではありません」

「海軍仕様ぉ?」

「あれは飛行に重点を置いたものです。海軍で手荒に使うには心許ないもの。また、父に手掛けたものはその最後まで見届けるよう躾られております。私が生み出したものは手放す訳にはいきません」

「頑なだねぇ。君の発明は海軍にとって大きな利益になると思うし、きっと出世にも影響するけどねぇ?」

 

 ティアドロップ型のサングラスの奥から視線が刺さる。

 

 あ?……もしかしてこれ、パワハラ?パワハラだ!?

 例えるなら、君絵が描けたよね?君の絵、会社の広告で使うね!広告に合うようにこっちで加工するね。え?報酬?必要?チャチャッと描いたものでしょ?君、ここの会社員でいたいよね、ダメなんて言わないよね?

 レベルは違うが、こんな感じだろうか。

 絵は殺傷能力はないが、飛行機は別だ。使い方によっては死人が出る。あとね、個人資産をかっ攫うつもりなら契約書と金を持ってこい。

 やってること海賊と一緒だぞ。

 

 カイルの脳内では両手中指を立てた状態だが、おくびにも出さないのは前世の分人生経験が豊富だからだ。

 

「……従った結果、海軍が不利益を被ると目に見えているからこその具申です」

「新しい武器が手に入るのにどこが不利益なんだい」

「我が海軍全体の殉職率をご存知でしょうか?もしこのまま開発を進めれば、……投入した人員の少なくとも約30%は犠牲になるでしょう。というのも、繰り返しになりますが、飛行機はパイロットが居なければただの鉄の塊です。この世でアレを飛ばせるのは構造をよく知る私以外いません。そんな私を排除すれば、製造費と海兵の命を海に捨てることになるだけです」

「利益を得る為には、君を中心に据え、人が育つまで待て、ということかい?数年がかりになりそうだねぇ」

「人というより人を育てるシステムが安定して運用できるまで、ですから10数年はかかるかと」

 

 

 にっこりと言外に誰が渡すかコノヤロウ、と伝えるカイルにボルサリーノは頬杖をつき、考えた。

 

 調べさせた通り、ディスレクシアだったとは思えない成長ぶり。19にしてここまで意見を上の者に臆することなく言えるとはねぇ。サカズキが可愛がるはずだァ。覇気の稽古なんてつけちゃってさ。

 そりゃぁ、昔会ったチビが大きくなってわっし達とおんなじ海兵になったのは喜ばしい事だと思うけどね?中身が変わったって所が気持ち悪いよねぇ。今考えると、6歳にしては礼儀も言葉遣いも大人びていたのも、頷ける。

 きっと正体を聞いたとしても昔の彼はアレの中にはいないんだろうねぇ。

 

「犠牲ぃ?この仕事に従事してる以上そんなものあって当たり前だよねぇ。重要なのは海軍にとって、後々有用なものをどう早期に実現させるかでしょうが。君一人の想像力より、科学部隊の頭脳を突合せて練った方が早いとわっしは思うけどねぇ?それに、これ以上君と上との間の伝書鳩になるのもいい加減面倒なんだよねぇ」

 

 ボルサリーノがわざと揉み消した葉巻の匂いが充満する中、カイルは怯えるどころかおだやかな口調で挑戦的な目をしていた。

 

「科学部隊の天才達の時間を盗む程愚かなことはありませんよ。この世での飛行機の持つメリットデメリットも明らかになっていません。それが明らかになってからでも、科学部隊の出番は遅くはないでしょう?ですから、現段階で不確かな技術をお渡しすることは出来ませんが……1つ、ご提案があります」

「……はぁ、言ってみなぁ?」

 

「飛行機が完成し、飛行可能となればレッドラインを飛び越える移動時間の短縮など船と違い機敏性に長けた行動が可能となります。物資の輸送など大きなものは不可能ですが、書類や人1人ぐらいなら今の飛行機でも可能でしょう」

「メリット、わかってるじゃない」

「デメリットがまだです。それに、飛行特性や問題点を把握し、収集したデータを元に操縦マニュアルの作成が必要です。データ収集のテストパイロットには私が。……そのついでに、海軍のみが使える"伝書鳩"なんていかがでしょう」

 

 こいつ……

 自分で開発したのだから最後まで見届けさせろ、運用方法も口を出させろ、操縦はまず自分にやらせろ、ってところか。

 もう少し彼に研究を続けさせ、マニュアルとやらが準備できてから取り入れても遅くはないだろう。

 その最中に死ねば機体をサルベージでもさせて分析させればいい。

 

 ボルサリーノは頭の中の算盤をはじく。

 科学部隊の面々も抱えてる仕事量は多く、また犠牲者が増えれば増えるほど遺族補償年金等も必要となり、予算内でのやりくりが難しくなる。

 1人でやらせて、1人で死んだ場合、業務外での出来事であるし、こちらの損害は少なくて済む。

 

「はぁ、よくもまぁ口が回るもんだねぇ」

「口から先に産まれたのかも知れませんね」

「テスト後、操縦マニュアルと"海軍仕様"を約束するなら君の言い分を通すとしよう……報告後、連絡を寄越すからそれまで通常業務に戻っていいよ」

 

 これ以上は無駄だろう。退出していい旨を言い渡し、同席していた部下には箝口令を敷く。

 

 この子が直接上に意見してくれりゃァ楽なんだけどねぇ。ま、いち少尉にできるはずもなし、どうやって報告しようかね……。

 しかし、どうも薄気味悪い青年になったもんだ。

 "この世"なんて言い方、普通するかねぇ。まるであの世を見てきたみたいじゃない。

 

 ──

 

「カイル少尉、ただいま帰還致しました」

「おん、怪我でもしようもんなら鍛え直してやらにゃ思うとったが……」

「サカズキ中将の御指導の賜物です」

「ふん」

 

 サカズキの元へと戻ると、いつも通りの強面の顔にどこか安心してる自分がいた。

 デスクに戻ると、先輩方も安堵の表情で迎えてくれた。

 

 帰還報告後、直帰の許可と1日の休みを言い渡されカイルは自宅に飛んで帰った。

 そりゃぁ、もちろん飛行機を完成させるためだ。

 

「落ちても大丈夫なように一応パラシュート搭載して、まずは鳥人間コンテストみたいにUターンして帰ってくる方式かな。どう思う?」

『Birdman Rally?』

「あー、人力で空飛ぶコンテストだよ」

 

 制服を脱ぎ、ターズから飛行機やら譲り受けた植物ルデズミトスヤモを取り出し倉庫で作業を始める。

 

 水素エンジンは酸素と水素を反応させ、燃焼爆発のエネルギーを動力に使う。

 エネルギーを電気としてモーターを回すものもあるが、この世界では電気はあまり使われていない印象がある。また、それを実現する技術はまだない。

 

「さぁ、これが終わればもうすぐ完「カイル!!いるこたぁわかってんだぞ!出てこい!」……あぁ、もういい所なのに!」

 

 倉庫の扉を乱暴に叩く音にイライラと開け放つと同時、身体は煙に包まれ、床へと押し倒された。

 

「ッぐ……ってぇな、スモーカー!」

「帰ってきたんなら一言ぐらい声をかけろ馬鹿野郎!」

「っ……」

「……はぁぁ、心配かけさせやがって」

「ご、ごめん」

 

 胸倉を掴む手を弛め、項垂れるスモーカーの初めて見る様子に押し倒された事はどうでも良くなりただ呆然とするばかりだった。

 

「立て」

 

 大きく息を吸い、顔を上げたスモーカーはカイルを立たせ、頬をつかみ左右させ、ボディチェックさながら怪我がないか確認していく。

「ちょ、っと……やめ、スモーカー、そんな大怪我してないってば」

「食堂で別れてからなんの音沙汰もねぇ。今何の任務に着いてるかもどこに行ったのかも分からねぇ。それが俺のやらかした末の出来事だ、どれだけ気を揉んだかわかるか」

「だって……機密だったし」

「そりゃ仕方ねぇな、だが帰ってきてすぐやることがなんだ?飛行機弄りか?ヒナもテメェがどうしてるのか毎回会う度に俺に聞いてきやがる程気にしてたんだぞ!挙句の果てにボルサリーノ中将に連行されてただ?何やらかした、言え」

「何もやらかしてないってばぁ」

 

 眉を垂らし、されるがままのカイルをじっと見つめるスモーカーは溜息をつき、飛行機を指さす。

 

「ありゃぁ、お前がずっと言ってたやつか」

「うん、もうすぐ完成する。明日、試験飛行してみようかと思ってる」

「大丈夫なのか?」

「やってみないことには分からない。明日は休みを貰ってるし、軽く飛んでくる」

「軽くってお前な……。俺も着いてく、休みだ。海には落ちるなよ、助けられねぇ」

「じゃぁ、あの時みたいに飛んで助けに来て」

「……卒業試験みたいに上手くいけばいいがな」

「きっと上手くいく。俺の飛行機は最高だし、相棒も最高だ」

 

 ウィンクつきで口説けば呆れたように笑うスモーカーと酒を飲みその日は共に夜を明かした。

 

「ただいま」

「……あぁ、おかえり」

 

 ──

 

 翌日早朝

 快晴、波はまぁ……多少荒れてるが範囲内

 

 2人はマリンフォードから30分程沖へ出た海域にいた。

 

「あの小島を起点にUターンしてここに戻ってくる。問題が起こればすぐに照明弾を撃つからその時は頼んだ」

「並走すればいいじゃねぇか」

「計算上は君よりよっぽど速いぜ。そういう事だから、よろしく」

 

 ターズが海へと吐き出した飛行機に乗り移り、エンジンをかけると、プロペラが始動しバタバタと音が鳴る。

 心拍数が上がっていく。

 汗ばむ手を服で拭い、操縦桿を握る。

 

「いい子だから、頼むぞ」

 

 飛行機は水面で、風を切る。

 窓には飛沫が横に走り、思っていた速度が出ていることが分かる。計器も正常に動いているようだ。

「よしよしよし」

 

 機首を上げ、離陸を目指すも波が高く揺れが酷い。

 

「いけ、飛べ……飛んでくれっ」

 

 徐々に機首が上がり、小さな浮遊感が度々生まれる。

 

「そう、そうだ、上がれ!上がれ!!」

 

 全身に力が入り、揺れで身体をぶつけようとも気にしてられない。

 

 一際大きな波を乗り越えた瞬間、浮遊感は連続し、機体は空に飛び上がった。

 

 機体がバラけることも、バランスが取れずに墜落することもなく、飛行機は飛び立った。

 

「飛んだ──ッ!!」

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