飛行機雲   作:神風

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自然着氷試験:航空機が雲や霧の中を飛行すると、着氷が機体表面に生じ、飛行特性、性能に影響を与えるため、着氷条件下においても安全に飛行できるかの試験。


自然着?試験

 シェルズタウンを出発して程なくすると、前方にレッドラインを目視出来るような距離まで飛行してきた。

 

「イーックソ寒ぃ。中入っとけよ、寒いだろ」

「ヒッ」

「あっそ、飽きたら中入れよ」

 

 現在、高度約2,000mと言ったところか。

 約1,000mの上昇で6℃気温が下がるため【地上の気温-12℃】なのがこの世界だ。

 風向きは北風、じわじわとカイルの体温を奪っていく。

 

 レッドラインに向かって高度を上げつつ飛行し、10分程するとガタガタと機体は揺れ、操縦桿の動きが重くなってきた。

「山の近くは気流が乱れやすい、【晴れた日の富士山の近くは飛ぶな】だったか」

 雲に紛れ、乱気流に揉まれつつもカイルは前世の記憶を頼りに機体を操る。

 方向転換をサポートする翼の一部、エルロン

 揚力を得るフラップ

 これらもどこかぎこちない動きになったように感じる。この感じ、乱気流のせいだけでは無いな?

 サンガードをあげて目を凝らすと、プロペラに何か白いふわふわしたものがまとわりついていた。

 

「……なんだ?」

 

 

 同時刻、スワロー島

 特殊な金属を使用した潜水艦は未だ完成せず、問題に直面していた。様々な専門書、論文を読み込んでも分からない、試行錯誤の集中が切れ、港へと散歩に来た。

 

「はぁあ……」

 

 降りしきる雪の中、頭は冷え、吐く息は白くあがり霧散する。吐息を目で追えば、夕陽に照らされる雲に混ざるよう何かが移動していた。

 なんだアレは、望遠鏡で見る限り金属の塊だ、あの曲線を出すのはさぞ苦労したことだろう、しかし何故飛んで……いや、落ちている?

 金属の塊はまるで所々に雲を纏ったような見た目のまま海上へ滑り飛沫をあげた。

 潜水艦の資料になるかと小舟で近づき見れば、やはり素晴らしい技術だ。是非ともこれを造った者と酒が飲みたい。

 白い靄を剥ぎ取り、中を覗けば人間が突っ伏していた。

 

「おい!生きてるか!?」

 

 声をかければ呻き声が聞こえる、よし生きてはいるな。

 服装から見るに海兵か。どうにか長駆の男を引きずり出す。海軍の技術なら空を飛ぶ事も可能なのか……?

 仕組みをよく見ようと振り返ればいつの間にかそこにあった乗り物が無くなっていた。化かされでもしたのか、しかし男は実在する。

 寒空の下怪我人を置いておく訳にはいかない。今は男を陸にあげるのが優先だ。

 

 ──

「第153支部の火災時、消火活動に協力したそうだ。上空からの消火活動が可能なら、攻撃にも転用出来そうだな」

「今回は支部の上空ギリギリを飛行したと言うじゃないか、目視できない高度からの投下なら目撃されない」

「しかし、あの子がこれをつくったのか。やはりこちらに配属させるべきだった」

「皆思ってる事だ。だがカイルはそれを望んじゃいない」

「あぁ、知ってる。上からの命令で探りを入れた結果がこれだ。カイルに嫌われたんだ!きっともうここに寄り付きもしないね!」

「嫌うって程じゃないだろ、テスト飛行が終わってマニュアル化する時は一緒に働けるさ。そう落ち込むなよ」

 

 白衣の男達は黒板に貼りだされた数枚の写真や火災報告書から情報を抜き出そうと議論していた。

 科学力をもって海賊壊滅を目指す組織、科学部隊には幼いカイルを可愛がった者もいた。幼いながらも大人と同じ土俵で論理的に話す子供は可愛がられ、その才能を伸ばしてやりたいと惜しみない知識が注がれた。

 

 あの子がそんな存在になったきっかけを話そう。

 あの子は初め、父親の仕事についてきた。多分6歳かそこら、その時はただのガキだと皆遠巻きに見ていた。仕事にガキを連れてくるなよ、ここは保育所じゃねぇぞ、騒いだら放り出してやるなんて小言も出てた。実際はそんなことなくて大人しい子だったがな。

 それで、なんだったか、そう、科学部隊が入った施設の廊下には所々に黒板が設置されていて、仕事の息抜き、お遊びとして問題が書かれている。例えば、戦闘における戦闘員の減少度合いの計算(これは俺が出した問題)、兵站の効率化、補給所要量の計算、軍に身を置く組織だお遊びにも戦闘が関わってくる。いわゆるオペレーショナルリサーチの一環だ。

 それが、いつの間にか解かれていた。何度問いを変えてもだ。

 初めは研究員の誰かが解いたのだろうと思っていたが、書かれた解は全て黒板の下半分に書かれており、身長の低い者が書いたと推測できる。それに、研究員達への聴取の結果、書かれたであろう時間帯には必ずあの子がいた。

 それからだ、研究員達がカイルに声をかけ始めたのは。

 理路整然と語るその声は声変わり前で、抱き上げてやらないと黒板の上半分に手が届かない。そんな彼は、研究に明け暮れ、癒しが足りない研究員のアイドル的存在になった。本人はその自覚はなかったが。

 今でもあの子を腕に抱えた重さが懐かしい。

 

 そんなカイルが1人で開発したこの機体、解析すればするほどあの子がどれだけ丹精込めてきたのかわかる。

 それを、探りを入れたせいで、あの子の俺を見る目が変わった。上からの命令に従わない道は無いが、後悔してる。

 あの子が当時開発した水上バイクも今やマリンフォード周辺の巡回などに利用され重宝されている。

 報告書にまとめた該当機もきっと海軍の武力として重宝されるだろう。カイル曰く、操縦士がいなきゃただの鉄の塊らしいが、その鉄の塊に使われた技術を他の武器に利用すれば上位互換を生み出すことも出来る。

 

 大きくなったあの子は今どこを飛んでいるのだろうか。

 怪我などしていないだろうか。

 

 研究員ランチェスターはカイルが乗っているであろう飛行機の写真を空へと掲げた。

 

 ──

 

「ヒ……ぶえっくしょいッデェ!!!」

 

 激痛と共に目を覚ますと古びた小屋に寝かされていた。

 どこだ、ここは。

 ベッドから見えるのは机、椅子、本棚、水槽に暖炉。誰かの家に保護されたのか。家主の気配はなく、ただ暖炉からパチパチと木が爆ぜる音が部屋に響く。

 自らの身体に違和感がないか服を覗くと治療の痕跡と胸に大きく赤紫の痣が広がっていた。さっきの痛みはコレか。それ以外は特に問題はなさそうだ。五体満足、手足も動く。

 

 何があったのか、状況整理といこう。

 水上機にブラックボックスは詰んでないから検証することも難しい。

「ターズ、生きてるか?」

「ミッ」

「あぁよかった、生きてるな。白い靄が絡みついたあと、操縦桿の動きが鈍くなった。翼の上にいたろ、何か分かったことあるか?」

『It was sugary!』

「甘かった……って、お前アレ食べたのか!?」

「ミッ」

「わけわからないもの食べるな!あぁ〜でもそうだとすればアレ、飴雲か。レッドラインにぶつかって上昇、冷却され凝固し、ノースブルー側で飴になると。……どう対策とったものか、てか、その砂糖はどこからきたんだ」

 

 飴雲の原理を頭に思い浮かべるが、気化した砂糖など聞いたことがない。

「あの時は約4000mを飛んでたよな。5〜6000mは飛べるようには設計してるがまだ最高高度の試験はしてないし」

「なんと!そんな高さを飛ぶことが出来るのか!どういう原理で飛んでいるかはわからんが、金属の加工にはさぞかし苦労したことだろう」

「そうそう、何度やり直したことか……ッどなたです?」

 

 いつの間に入ってきたのだろうか、男は玄関からベッド脇まで詰め寄ってきた。

 こわいこわいこわい、誰!?誰なの!?

 

「わしか!わしは天才発明家ヴォルフ!お前さんをここに運んだ言わば命の恩人だ!今の話からするとあの飛行物体をつくったのは君か!?」

「は、はぁ……」

「あの機体をもう一度みたい!だがお前さんを船に乗せた瞬間消え去った!どういうことだ、海に沈んだにしては早すぎる!海軍で製造されたものか?設計図は残ってないのか?是非見たい!世の中はギブ&テイク!知ってるか!?」

 

 アロハシャツに赤いサンバイザー、足元はサンダルといった気候と真反対の格好をした中年男性は興奮したように捲し立てる。ヤバいやつに助けられてしまった

 

「あー、まず、助けてくださりありがとうございます。海軍本部所属のカイルと申します。そういうことを知りたがると言うことは、ヴォルフさんは何か開発途中なんでしょうか?人が乗り込むようなものを」

「カイル?聞いたことある名前だ。金属の加工技術について論文を書いてなかったか?確か、造船分野の第一人者キールと連名で。そう、確かこの本棚に、あぁこれだ。丁度いい!金属加工の技術が欲しい。どんな水圧にも負けない、丈夫な乗り物にしたい。わし1人の知識では悔しいがとても間に合わん」

「よくそんなマイナーなもの読みましたね?水圧って、潜水艦でも造るおつもりで?」

「ほぅ、潜水艦を知っているか。既に海軍では利用されているのか?」

「ノーコメント。しかし、助けてもらったお礼として、私が言える範囲で金属加工についてはお話できます」

 

 海軍でどういう研究がなされてるかなんて民間人においそれと話せる内容ではない。だが、このまま暇な時間を過ごすよりはこの変な発明家を助ける方がよっぽど有意義な時間を過ごせるだろう。

 

 ──

 

「あー……なんだ、ほら、おまえさぁ」

「もっと上手くやれっていうんだろ、出来てりゃやってる」

「許せねぇのは分かる、だが工夫しろって話だ。お前は目的地に直進してるだけだ、突き進んで海王類誘き寄せてどうすんだよ。ストッパー役……いや、水先案内人がいなきゃできねぇか?」

「なんでアイツが出てくるんだ、関係ねぇだろ」

「俺は一言もカイルとは言ってねぇよ。例え話だ。そう思うってこたァお前自身そう思ってるってことだろ?お前のことは買ってんだ。頭冷やしてきなさいや」

 

 数件の報告書の(てい)をした抗議文をクザンは書類の塔に加えた。

 ここ最近、カイルに追いつくため、スモーカーは任務に明け暮れ、そのいくつかで上官に逆らい行動するようになった。

 逆らった上官命令は失策、人道に反した命令だったのは報告書からでも分かるが命令無視はこの上下社会では罪だ。

 現代では第二次世界大戦後、 兵士にはその命令が明白に違反あるいは人道に反する場合、抗命義務があると国際法上確立されているが、この世界ではそんなものは無い。

 上官の命令に従わない兵士はいらないのだ。

 無視した結果がいい具合に落ち着いているからまだこの程度でおさまっているが、任務失敗となれば責任追及されるだろう。

 スモーカー自身もその事は十分に分かっていた。

 自分がまだ若造であること、クザンの懐にいること、これらが自分を守っていることも。

 自分で自分のケツを拭けないことに腹が立った。

 

 鍛錬で紛らわそうと、スモーカーの足はトレーニングルームへと向かう。

 

 小銭や鍵、邪魔になりそうなものはロッカーに預けておくか。煙草とライター……は持ち込む、どうせ吸うだろう。海軍内の喫煙率は高く、煙たい中仕事するのは日常茶飯事だ。

 アカデミーを卒業してすぐ、こんなに喫煙自由な職場環境ありか!?喘息持ちの地獄だぞ、って驚いてたな。あいつ喫煙者の癖してどの立場で言ってんだ。そもそもマリンフォード出身ならそれが普通なんじゃねぇか?

 

 あぁクソ……、またカイルのことを思い出している。

 

 眉間に皺を寄せ、ベンチプレスで自分を追い込む。普段なら負荷をかける筋肉に集中してこなすはずが頭の中をあいつが邪魔する。

 普段からうるせぇ奴だったがいなくなってもうるせぇ。

 

「くそっ」

「随分荒れてるみたいだね」

 

 頭上からかけられた声にウェイトを戻し見上げるとカイルの父親、キールが立っていた。

 

「カイルが工廠に連れてきた以来だ。噂で聞いてるよ、上官命令無視して無茶してるって。あぁ、そのまま続けて、サポートしよう。時間は効率的に使わないと。いやね?最近デスクワークが多いから体もなまっちゃって、鍛えないとって来たはいいけど1人だと退屈でね。私の休憩がてら話に付き合ってよ」

 

 頭の上でペラペラと喋るキールは歳の割に締まった体をしている。彼の目元と口数の多さがカイルとよく似てる。いや、カイルがこの人に似ているのか。

「君とはゆっくり話したいと思ってたんだ。カイルが唯一私に紹介してくれた友人だからね」

「唯一?」

「うん、あの子は外面はいいが本当に懐くのは少数だったからね。周りを観察して長い物には巻かれるかと思えば自分が決めたことは曲げない頑固者だ。それについていける人間も限られる。今回の遠征だって頑固を通した結果、そうだろ?」

「科学部隊に飛行機の技術を渡せば、無駄な死人が出る。それに、発明したものは見届け、軌道修正してやらないといけない、とか言ってましたね。貴方の受売りだとか」

「そうか、……そうかぁ嬉しいね。最近は滅多に仕事の話はしないから心配してたんだ。もちろん、君の事も心配してるよ」

 

 軍艦バカと呼ばれる所以は未だ知らないがお人好しな人物なんだろう、トレーニングが終わったあとも飯に誘われ、いつの間にか酒を手にしていた。

 

「ここが美味いってこの前カイルが教えてくれたんだ」

「はぁ、俺もカイルに連れられて来たことあります」

「えっ、いつ」

「アカデミー入って、ひと月ぐらいの時に」

「……こないだまで父さん父さんって言ってくれたのになぁ。今のカイルにとって、君が大部分を占めてるんだろうね」

「俺じゃなくて飛行機の間違いじゃ?」

「飛行機は逃げないでしょ?繋げておきたい関係って意味だ。じゃなきゃ君の力になろうと工廠まで来ないよ。君もあの子の事そう思ってくれてると嬉しいね。そういう関係が人生を豊かにする」

 

 実際、アカデミーの頃から世話を焼いてきたり、謹慎処分後フォローしてくれたり、今回の遠征前に電伝虫をかけてきたり、甲斐甲斐しい限りだ。

「俺だって、そういう関係でありたいですよ。……卒業試験の時、試験監督に刃向かったのはご存知でしょう。あの時、本気であいつと退学になってもいいと思った。結局2人とも卒業出来たが、扱いにくいレッテル貼られて同じスタートだったのにあいつはもう少佐だ。それだけ実力がある奴だって知ってるし、あいつはあいつにしか出来ない事をやってる。その点俺はまだ何も出来ていない。やっても空回りだ。置いてかれるのが嫌なんじゃない、一緒に走ってやれない俺が歯痒い」

 

 握りしめた樽ジョッキがミシ、と音を立てる。

 持久走でヘロヘロになって横で走っていたあいつが今は背中しか見えない。こんな状態では相棒ではいられない。

 

「んははは!いいね!カイルは良い友人を持ったなぁ。その歯痒さを忘れるな、それがバネとなり力になる。私もそうだった。君にならカイルの事任せられるな!」

 バシバシと背中を叩くその手に、他人事だと思いやがってとスモーカーは酒を豪快にあおった。

 

 ──

 一方その頃、カイルはヴォルフに出されたスープを食べながら設計図に赤を入れていた。

「水圧に耐えうる構造、どこから圧力がかかっても均等に分散する構造でなきゃすぐに海の藻屑だ。この構造だとこことここが弱い、球形なら耐えられるだろうけどスペースが限られる」

「そんなこと分かっとるわい!だから今こうして苦労してるんじゃ!」

「戦闘行動をとらないなら深く潜るデザインにフォーカスできるけど、この大海賊時代だ、そんな悠長なこと言ってられない。高速航行をとるなら耐圧殼の強度を下げる、深度をとるなら機動性能を下げる。二つに一つですよ」

「ぐぁぁぁ〜!!どっちも欲しい!」

「だめだ、机上論だけじゃ話にならない、実際その金属の前で「よしきた!なら明日までに動けるようになっておけ、ワシは今から研究に戻る!食べ終わった食器は洗っておけ!この部屋にあるものは適当に使っていい、ではな!」

「いや、でも貴方のベッ……、行っちゃった」

 脱兎のごとく出ていったヴォルフを尻目に、先程見せてもらった設計図を思い起こす。

 かなり理にかなった図だったが、実際使用する金属が特殊なものらしく、加工方法に難儀しているようだ。

 

 この世界でも潜水艦は数は少ないが運用されている。どこどこの海賊が珍しい潜水艦に乗っているらしいから鹵獲(ろかく)してくれ、と父さんがセンゴクさんに言っていた記憶がある。

 潜水艦については詳しく学んでないし、電伝虫で父さんに聞けば何かわかるかもしれないな。レッドライン挟んではいるが通話は可能だろう。

 マリンフォードを離れてから1週間も経たずに親に連絡なんて……。

 

「父さん意外と寂しがり屋だし、喜ぶよな。ターズ、電伝虫出して」

「ミッ」

 

 ぷるぷるぷるぷる……

 

『こちらキール』

「もしもし、父さん?今いい?聞きたいことあってさ。昔、潜水艦鹵獲(ろかく)させて研究してたでしょ?あれ『あー、まてまて、今それどころじゃない。スモーカー君と飲んでるから、今忙しい!潜水艦の話なら昔したろ、あいつら使ってる金属脆すぎて話にならない!鋳造もので魚人島なんざ目指せば即死だ』

「ちょっとまって、なんでスモーカーと飲んでんの!?変わって!?」

 渋る様な声の後、馴染んだ声が響く。

『……カイルか?』

「うん、ごめんな、父さんが無理矢理、大丈夫か?嫌なら逃げていいんだぞ」

 

 酒が入ってるにしては違和感がある。今まで一緒に飲んだ時のあいつは声が一層低く聞こえて、目の色が濃くなる。飲む時は大抵すぐそばにいるから、スモーカーの声が響いて眠たくなる。飛行試験前夜もそうだった。

 だが久しぶりに聞いたスモーカーの声は覇気がなく、電伝虫の表情も虚ろに感じた。

 

 この数日で何かあったのか聞き出そうにもどう聞いたものか。

 

「なぁ、スモーカー。なにか『カイル、俺はまだ隣にいていいのか』

「……どういう意味だ?」『いや……いい、忘れろ』

「待て待て、ちゃんと話せ。そんな声してるお前ほっとけない。それに、お前の声が聞きたかった所だ。飛行機じゃ話し相手ターズしかいないし、結構寂しいんだぜ」

『は、自分から飛んでったくせに』

「それはそうだけどさ、それとこれとは別じゃん。俺の隣はお前なの。今更どこ行くってんだ、寂しくて泣くぞ」

 

 泣き顔を作り、おどけてみせると鼻で笑う声が聞こえた。

 少しはマシになったか?

「怪我は?してないか?」

『あぁ、お前は』

「大丈夫だ。スモーカーより安全な仕事だからね」

『嘘つけ、胸か?息の仕方が浅い、打ち付けでもしたか?お前は少しでも可能性がありゃ強行突破しやがる、卒業試験の時だってそうだ、無茶したな?』

「うわ、お前ほんと気持ち悪いな、なんなんだよその耳の良さ。きっとバナナワニの個体差も聞き分けれるぞ」

『なんでバナナワニがでてくんだ』

「大佐になったらきっと分かるよ。とにかく、俺のことは心配するな。元気でやってる。強行突破云々はお前もだろ。似た者同士この軍社会で生きていけるようずる賢くならないと」

『それに関してはお前の方が得意だろう』

「得意、なのかなぁ。俺1人で何とかしなきゃ飛行機も何もかも取り上げられると思うとね。部下もいないし、身軽なのはいいけど自分を守れるのは自分しかいないだろ?特別監査官にしたのも孤立させる為もあるかもな。その点、スモーカー、お前には慕ってくれる部下がいるだろ。彼らがお前を助けてくれるよ」

『チッ……お前の隣は俺なんだろうが。待ってろ、すぐに追いついてみせる。それまでいいようにされるなよ』

「んは、うん、頼りにしてるよ」

 

 もう夜も更けたと通信を切り、ベッドに横になる。

 痛む胸を撫ぜ、先程の通信を思い返す。あいつ以外に相棒なんて呼べる人間いないの知ってるくせに、何を考えてんだろうか。あんな凶悪な顔して可愛いヤツめ。

 今夜はいい気分で寝れそうだ……

 

 翌日、早朝

 海兵として規則正しい生活を送ってきた日々はカイルをいつもの起床時刻に目覚めさせた。

 起きてしまったものは仕方がない。身体も動くし、水上機の状態も点検したい。今日の夕方にはG-1支部には着いておきたいが、水上機の状態にもよるな。ベコベコに凹んでなきゃいいんだが。

 

 朝食を適当にとり、ヴォルフの分も一応作って置いておく。冬島なのに、新鮮な野菜が備蓄されてるのには驚いた。

 重たく目立つコートはハンガーにかけたまま部屋を出る。いきなり消えたと騒がれるのも忍びない、何時までには戻ると置き手紙を机に置いておいた。

 小屋を出てみれば、町外れに位置し、遠くに町の中心部が見える。少し散策してみるのもいいかもしれないな。

 

 胸の痛みに背を丸め、朝早く澄んだ空気を少しずつ肺に取り込む。見知らぬ町の朝を1人出歩くのはなんだか冒険に似た空気を感じられて好きだ。

 町の中心部に着いてみれば厳かな雰囲気を纏う神殿が現れた。

 

「あんた、海兵かい」

 

 声に振り返れば、口にパイプを銜えた老人が神殿の階段に腰掛けていた。足元には雑種だろう、凛々しい顔した犬が控えている。

 

「そう見えます?」

「歩き方と雰囲気がな。しかし、軍艦なんざ港に来てなかったはずだ。休暇でこんな島に?」

「そんなところです。ここは何を祀ってるんです?」

「クソッタレな海の神だ。とはいっても中はただの洞窟だがな。人間は己の行いと結果のバランスを取りたがる。いまこうして海で生きていられるのは神に祈ったからだ、祈っているから明日もきっと生きていられるとね」

「貴方もバランスをとりに?」

「いいや、俺はそんなヤツらを笑いに来てる。祈ったってダメな時はダメだ。あんたも海兵なんだ、今までそういう機会あったろ」

 

 シニカルに笑う老人の言う通り、祈りや努力等ではどうにもならない不幸はよくある。貧困、差別、戦争、大きなものから小さなものまで。正義を象徴する海軍に助けを求める一般市民をサカズキ中将との遠征でどれだけ見たか。

 

「自分で選択しなかった結果が今だ。自分の道は自分で決めろよ、若人。舵輪を他のやつに握らせるな。海軍もあてにするな。所詮は天竜人手飼いの組織だ。使えなくなれば捨てられる運命だ」

 

 そう言って満足したのか老人は犬を連れて行ってしまった。

 

「なんで年嵩の人って喋るだけ喋ってこっちの話聞かないんだろうね」

「ミィ」

 

 ──

 

「そりゃぁ、元海兵のジジィだな。優秀な海兵だったらしいが、噂じゃ部下を全滅させて自分だけ生き残ったんだと。退役した後は神殿近くで酒浸り。うたた寝してると思えば魘されて、起きれば日長神殿に来るやつを眺めてる。なんだ、絡まれたか」

「や、ご高説を賜りまして……そうなるとPTSDぽいか、傷痍軍人手当は厳しいなぁ」

「ぴ、ぴー……なんだ?」

「あぁ、こっちの話です。しかし、よくこんなもの手に入れましたね。いい値段したでしょう」

「あてがあってな」

 

 町を散策後、水上機の点検修理を終わらせ小屋に帰ると、研究所へと連行された。

 研究所は洞窟を利用した空間で、ヴォルフが開発したであろう物が並べられていた。

 発電機のプロトタイプが放られているのを見て思わず手に取りそうになったほどだ。開発した物はまるで前世を知っているかのような物ばかり。

 この人ももしかすると前世の記憶を持った人なのかもしれない。

 

 ヴォルフが用意した金属は、チタン合金。

 潜水艦を作るには最適な金属だ。

 海水中の塩化物イオンに対する耐食性が高く、自己修復特性も持つ優れた金属で、船舶や舶用機器に向いていることから前世ではマリンメタルとも呼ばれていた。

 優れた金属がゆえ、加工が難しいのも有名で、個人で加工するには難しいものだ。

 

「この金属は強度が高くて切削や溶接が難しいんですよね。熱がこもるから工具の方が先にやられる」

「扱ったことがあるのか」

「ないですけど、知識としては」

「ほんとかぁ?まぁいい、その知識を聞かせてくれ」

「その代わり15時には解放してくださいよ。仕事に間に合わなくなる」

「軍人が24時間制で言うの本当なんじゃな。しかし、命の恩人への謝礼に制限時間か?近頃の若者ときたら全く」

「そうしないと際限ないでしょうよ」

「なら連絡先ぐらい教えろ」

「え〜……まぁ、いいですよ。貴方の開発したものにも興味がある」

 

 ──

 

 ぷるぷるぷるぷる……ガッチャ

 

「なにかネタ掴んだんだろうな。ほぅ、横流しと収賄の疑いが?どの筋から聞いた。あぁ?ちっ、なんだ微妙だな。だが、俺が追ってる男の父親がそこのトップだ、いい切り札になりそうだな。おい!まだあいつは見つからねぇのか!」

「先程スワロー島の記者から連絡がありました!謎の飛行物体が島に不時着したと!」

「クワハハハ!ナイスタイミングだ!全速力でスワロー島へ向かえ!」

 

 豊かな羽根に黄色く大きな嘴をもちシルクハットを被った男、モルガンズは世界経済新聞社の社長として日々ニュースを追い求めてきた。

 活字のDJを自称し、自らの手で世の中をわかせることに力を注ぐ男は目下ある問題に悩まされていた。

 それはニュースの伝達速度。

 ニュースは鮮度が命、ニュースクーをもって一斉に新聞を配ろうとも、記事を書く、新聞を刷るその工程の速度が遅ければ鮮度が落ちてしまう。編集部を移動式にできれば、よりニュースを早く届けることが出来るはずだ。

 そう考えたモルガンズは常日頃解決策を探していた。

 そこに飛び込んできた空飛ぶ人間の話、これを逃す手は無い。あらゆる情報網を駆使して調べた結果、空飛ぶ人間は海軍に所属し、幼い頃から乗り物を開発していたようだ。

 

 そうしてスワロー島にやってきたモルガンズは島にいる海兵について聞き込みを始めた。

 

「あの人の事かな?部下を亡くして、ずっと神殿で彼らの冥福を祈ってる」

「あの人にゃ世話んなった。13年前、海賊が攻めてきた時もあの人の機転で助かったんだ。町は壊滅したけど、命があるだけ儲けものだ。この町の住人は彼を尊敬してるよ」

 

 ちがうちがうちがう!そんな老人のこたァ聞いてない。

 もっと若い海兵が居たはずだ。

 

「さぁ、知らないね。そもそも軍艦も来てないよ」

 

 軍艦が来てないなら、なにか空飛ぶようなものは来てなかったか?昨日ここに落ちたはずだ!

 

「空飛ぶって……、あれの事かい?」

 

 島民が指さす曇り空には1本の線のような雲が流れていた。

 

 クソ!!!

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