飛行機雲   作:神風

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「……と、いう事だ。お前らの被害状況を確認しに来た。だからさっさと警戒を解け」

「その話が本当ならこの島に長く滞在するのは危険だな……、確認しよう」

 

 赤組に囲まれ両手を上げた状態のスモーカーはほっと息を吐いていた。

 久しぶりの再会だとしても物騒だな。

 話を聞くに白組で4名の行方不明が判明、食糧も消え去った。赤組にも被害が出た場合、試験どころではない。監督官に報告&指示を仰ぐ必要がある。

 

「赤組総員点呼!」

 

 確認したところ、赤組は白組で捕まった者を除き2名の行方が知れないことが判明した。

 

「厄介な事になったなスモーカー。こっちも情報共有したいことがある。見つけた日誌に興味深いことが書かれてた」

「日誌?」

 滝裏で見つけた船のことと日誌の内容を掻い摘んで話した。

 

「攻撃すると分裂する?海には入れない?……悪魔の実の能力者か?」

「俺もそう思ったんだけど、この森、人が暮らしてる気配はないんだよな。しかも這い寄り、人を取り込むときた。人間じゃない可能性だってある」

 

 見合わせた顔はお揃いの顰めっ面。

 

「絶対これ試験会場ハズレだよね」

「こっちの監督官は行方不明だ、お前らの所の監督官に聞けばいい」

「いやぁ、それが俺達も見てないんだよね。2日目の朝はいたんだよ、一緒にご飯食べたもん」

「休戦だ。……お互いの旗持って沖のサカズキ中将に報告するか」

「俺サカズキ中将苦手なんだよなぁ」

 

 足元の水溜まりを蹴っていじける。

 するとどこからがピギッと声がした。

 

「スモーカー。聞こえたか?」

「あぁ、近いな」

 

 スモーカーの能力で周囲に煙を這わせると、2箇所、風を切ったように移動する流れが出来ている。サイズは人間1人横になったぐらいか。

 

「でかいぞ!」

 

 当たらないよう、進路方向に鉛玉を打ち込み、塩分補給の為に貯めてあった海水をぶちまける。

 

 ピギッ

 

「カイル!海水撒くなら言え!」

「力抜けるぐらいだろうが、我慢しなさい!」

 

 煙も消えてしまい、また見失う。だが形は覚えた。

 翼を羽ばたかせ泳ぐようなその姿はまるで海を泳ぐマンタだ。

 

「くそ!やっぱり人間じゃ無さそうだな。まだ周辺にいる、お前ら警戒しろ!」

「スモーカー、攻撃するなよ!分裂して厄介だ」

「うわっ!!」

 周りの同期にも声をかけるが、足元に何か通った感触がしたとビビった奴が発砲してしまった。

 

 ピギッ

 

「おい、まさか」

「増え……うわぁ!!アガッ」

 

 足元を掬われ転倒した同期は感電したかのように震え、そのまま地面へと吸い込まれていった。

 

 

「なっ……に、逃げろーッ!」

「地面から離れろ!吸い込まれるぞ!」

 

 

 行方不明の原因を目の当たりにした面々は高台へ逃げようと走り出した。

 しかし、走り出す者を追いかけるように分裂したソレは高さをものともせず、段差を泳ぐように登る。

 ソレに触れたものは感電し、バタバタと倒れてゆく。

 

「海だ、海へ逃げろ!旗を持って沖へ緊急信号を送れ!白組にも伝えろ!」

 

 足に自信があるコリーに伝令係を言いつけ、海へと皆を誘導する。

 

「スモーカー、負傷者はおまえが運んでやれ。俺を抱えて飛んだろ、あれの要領だ」

「お前はどうする」

「俺はアイツの生態を多分知ってる!滝まで引き付けておくから、早く!」

「避難がすんだら戻ってくる、やられるなよ!」

 

 煙となって負傷者を背負い去っていくスモーカーを見送り、愛銃を握る。

 

 

 さて、ここで皆さん。

 俺はこいつに思い当たる節がある。

 

 正六面体の機械に小さなディスクをセットし、遊ぶゲーム。

 その中でも水をぶちまけ島を綺麗にしていく配管工のゲームに出てきた生物。ヤツのペンキに触ると痺れ、ホテルのような大きいものも取り込む力をもつ。

 

 そう、プレイヤーにトラウマンタと呼ばれた、あのふしぎせいぶつだ。

 

 夏休みに親に叱られるまでやったやつ〜〜!!!

 何回死んだか!それをリアルでやれと!?

 

 とりあえず水辺にまで誘い込んでぶっかけ続けるしか……滝まで走れるか

 

 分裂体は現在4匹。小さくなって追いかけてくるまで水を浴びせないと消滅しない。先程発砲でもダメージを受けていたから愛銃も役に立つだろう。

 

「おーい!こっちだノロマ!遊んでやる!」

 

 仲間を取り戻すため、走り出した。

 

 ──

 

「行方不明の原因と交戦中!?赤組の拠点ね、応援に向かうわ。私の檻で捕獲する」

「待ってくれ!ヒナさん!相手は地面を泳いで、人を感電させて取り込む生物だ。ヒナさんの檻と言えどすり抜けるかもしれない」

「なら黙って避難しろって言うの?仲間がやられてるの、ただ見てるなんてできない!」

 

 今にも走り出しそうなヒナをおさえ、コリーは白組へと正確に情報を運んだ。

 

「カイルがいま応戦してる。俺たちができるのは退路を確保し、これ以上被害を広げないことだ。沖に停泊してるサカズキ中将にこのことを知らせて応援に来てもらう方が助けになる」

「なら旗はコリー君に任せるわ。白組も海岸で赤組と合流次第、その生物を討ち取るために編成しなおす。カイル君1人に任せてなんかいられないわ」

「……わかった、赤組拠点から東へ行ったところの海岸に一時避難してる。スモーカーもいるはずだ」

「了解!」

 

 海岸へ到着するとちょうどスモーカーが負傷者を森から運び出していた。

 赤組は身体に麻痺を抱え、満足に動くことの出来ない者が大半だということが伺える。

 

「ヒナ、来たのか。負傷者の手当は任せる、さっさと戻らねぇと」

「白組はまだ動ける、編成し直して私達も向かうわ。沖へは既に信号を送ってもらってる。すぐに応援が来るはずよ」

「そりゃいい。監督官より役に立つだろうな!」

「ちょっと、スモーカー君!」

 

 ──

 

「島より報告!コチラ赤組、緊急事態発生、応援ヲ要請スル、負傷者多数!」

「ようやく報告してきよったか」

「サカズキ中将、これでも早い方ですよ」

 

 沖では、手旗信号を受け取り上陸の準備がなされていた。

 

「連絡してきたのは赤組コリー。赤組拠点近くの海岸に両組避難しているようです。見たところ十数人見当たりません」

「追加の監督官からは定期連絡は」

「来ています。赤組カイルが1人で引き付け、仲間を逃がしたようです。白組スモーカーが負傷者を運び、ほか白組が手当とヒナが再編成を。先の監督官はやはり見つからなかったようです」

「ほうか。……準備が出来次第上陸、負傷者の手当をしてやれ。わしも上陸する」

「はっ」

 

 初日に上陸した監督官2名から定期連絡が途絶えた。

 電伝虫の不調かと追加の人員を割き、確認させたが姿が見えない。

 アカデミー生にも被害が出ている。

 

 

 しかし、彼らに焦りは見られなかった。

 

 ──

 

 日はゆっくりと地平線へと沈みかける。日に赤く染められた川の中、カイルはマンタを前に立ち尽くしていた。

 

 川の中から水をまき続け、既に消滅していい頃の小さいマンタが川岸でびちびちしている。

 集合体恐怖症じゃなくて良かったと心から思う。

 

「はぁ、……は、なんでピンクにならないんだ……○リオだったらもうクリアしてるだろ。なんだ、まだまだ構って欲しいってか!?」

「「「「「ピッ」」」」」

 ふしぎな鳴き声が聞こえる。

 

「……今、返事した?」

「「「「「ピッ」」」」」

「……、右手あーげて」

「「「「「ミッ」」」」」

「左手あーげない」

「「ヒッ」」

「そこ2匹ひっかかるな」

 

 どうやら意思疎通でき、分裂したあとは別個体として行動思考出来るみたいだ。しかも○リオと違ってアイツら手を上げる時、地面から少し浮き出てた。平面から抜け出すことが出来るのかもしれない。

 

 それに、

 意思疎通できるなら何故人を攫ったのか分かるかも。聞いてみるか。

 

 川岸へ、1歩

 

「君らが連れ去った人間、生きてるのか?生きてるなら右手あげて」

「「「「「ミッ」」」」」

「連れ去った理由は?縄張りを荒らされたから?それとも構って欲しいから?前者は右、後者は左あげて」

「「「「「……ヒッ」」」」」

「その人たち、解放できる?君ら消滅させないと解放できない?」

「「「「「……」」」」」

 

 どっちだ。嫌だからしないのか、出来ないからなのか。

 

 もう一歩

 

「構って欲しくて攫うなら、俺がこの島から連れ出して一緒にいてやるって言ったら……解放する?」

「「「「「……ミッ!!」」」」」

 

 全員右手挙手。全会一致で可決です。おめでとうございます。

 

 消滅させなければ解放できないと思っていたが違ったようだ。ゲームと違う仕様になってる、もしかすると消滅したら戻って来れなくなる可能性だって捨てきれない。

 会話して本当に良かった。

 

 会話によって敵意も失せたようだし、水辺から出ようと足を進めたと同時。

 

 突然の浮遊感と嗅ぎなれた煙の匂いが鼻を擽る。

 

「カイル!無事か!?」

「っ、スモーカー!飛ぶなら一言かけろ!」

「そんなこと言ってる場合か!近づいて何してた!増えてるじゃねぇか!」

 

 

 ふと、眼下の川岸を見るとマンタ達は翼を羽ばたかせぴょんぴょんと飛び跳ねていた。

 

「おい、ありゃぁ、なにしてるんだ」

「……知らない」

「生態知ってるって言ってたろ」

「知ってたのとちょっと違うんだよ。俺が間違ってた。あいつらただの構ってちゃんだ。寂しくて人を攫ったらしい」

「行方不明の奴らは生きてるのか」

「生きてる。寂しくないよう構ってやれば返してくれる。だから降ろしてくれ!」

 

 腹を抱える太い腕を叩く。

 しかし更に腕に力が入るだけだった。

 

「お前まで取り込まれたらどうする。今避難すりゃ被害は増えない」

「仲間取り返せる可能性があるなら、諦めきれねぇだろ」

「せめて応援が来るまで待て、ヒナ達がすぐに来る」

「でも!」

 

 無理やり降りようと身体を捻ったその時だ。

 

 

「応援は来んぞ、試験は終いじゃ。さっさと海岸まで集合せぇ」

 

 茂みからあらわれたサカズキは右手をかざし、マンタ達をマグマで囲んだ。

 マンタ達はパニックを起こし飛び跳ね互いにぶつかり音を立て地に落ちる。

 

「こんなものに早々にやられるたァ、今期の奴らは知れとるの」

「サカズキ中将!待って下さい!仲間がまだっ」

 

 円はジワジワと狭まり、焼き尽くそうとする

 

 だめだ、焼かれたらあいつらが、仲間が帰って来れなくなる。

 スモーカーの腕の中、出来ることはこれしか無かった

 

「ッやめてください!サカズキ中将!」

「……ッ!おどりゃぁ、誰に銃口向けとるか分かっとるんかァ!!」

「わかっています!でも、そいつらを殺せば、戻って来れなくなる!」

「上官に楯突く気か。海兵になれんでええっちゅうことか!」

 パーカーの奥から鋭い視線が突き刺さる中、愛銃を構え直す

 

「中将、俺ァ、誰かを見捨てて得たモノなんか誇りにもならんのですよ」

「チッ……助けられる部下を見殺しにする上官なんざクソ喰らえだ。カイルを落とすなら、俺も落とせ」

 

 真後ろから聞こえた声に息が止まる。

 俺はどうなってもいいが、お前がここで落ちれば原作が変わってしまうだろう。

 

 ゆっくりと地に足が着き、水の冷たさに頭も冷えてゆく。

 

「……そこまで言うなら、やってみぃ。出来んかった時は、わかっとるじゃろうなぁ」

 

「ひぇ」

 

 ──

 

 マグマを消した途端、マンタ達は飛ぶようにサカズキから逃げ、カイルの目の前に集まった。

 

「ごめんな、怖かったな」

「「「「「ヒィ……」」」」」

 

 わさわさ集まるマンタ達をどうすれば、仲間達を解放できるのか……

 俺、ゲームのお前らしか知らないよ……

 

 遠くから様子を見るサカズキ中将の目から逃げるように、その場であぐらをかいてマンタ達に問いかける。

 

「なぁ、……俺さ、空を飛ぶために海軍に入ろうとしてんだ。空って自由なんだ。何にも縛られないで飛び回れる。この世界じゃ他に飛んでるやつなんて鳥ぐらいだ。あと時々タコとか?それに領空権なんて言葉もないしな。

 そりゃ、お前らが昔いたかもしれない海も自由かもしれないけどさ、今海入れないだろ?しかもこんな狭い島に閉じ込められて。寂しくて人を吸い込んで、そっからどうしてるかわかんないけどさ、いい翼持ってるのに、勿体ない。腹ん中の奴、吐き出して、軽くなって、……んで、俺と一緒に自由に飛ぼうよ」

「「「「「……」」」」」

 

 これでダメなら、土下座でも何でもしてスモーカーの不合格だけは免れよう。聞いてくれるかわからないけど、あいつは海軍にいなきゃダメだ。

 

 目を閉じ、この後の行動を巡らせていた時、何かが産み落とされたような、粘着質な音と数人の噎せる声が聞こえた。

 

「おい、カイル。やったぞ、おい!」

 後ろから肩を掴み揺さぶる、興奮したスモーカーの声に顔を上げると、目の前には同期と監督官が転がり、そして足元には、巨大なマンタが地面に揺蕩っていた。

 

 ──

 

 辞令

 

 海兵育成アカデミー卒業生 カイル

 4月1日付で貴殿を海軍本部少尉に任命する。

 

 サカズキ中将付き第2補佐官を命ずる。 以上

 

 海軍本部人事局

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