「もし俺が行方不明になってもマンタのせいじゃないからな……きっと灰も残らず溶けるせいだ」
「気持ちはわかるが、自業自得としか」
「ぐぅの音も出ねぇ」
カイルは無事、共に卒業を迎えた同期たちと打上げと称して、島のとある飲み屋で飲んでいた。
卒業式では証書と辞令を受け取る。
サカズキ中将への行動に反して、無事に卒業出来たと胸をなで下ろしたと同時に辞令を見て胃痛で蹲りそうになった。
正装での晴れ姿だ、根性で耐えたが。
「サカズキ中将に銃口向けたやつなんてお前以外いないぜ」
「しかも、結局飲み込まれたやつは1週間もすりゃ別個体から吐き出されるって話だろ?追加で上陸した監督官が分裂した内の1匹確保してたって言うんだから、取り越し苦労だったな」
「あの状況じゃわからないだろ!?もう俺の味方は一緒に退学覚悟したスモーカーしかいない!」
ヒンッと泣き真似をして隣で静かに飲むスモーカーの腕を抱きしめる。
あの行動で2人して上層部から睨まれたことは間違いないだろう。前世に読んでいた漫画で野犬と評されていたのはその通りとなった。
「カイル、飲みすぎだ。もうその辺にしておけ」
「うるせぇ、そういうお前は飲んでねぇだろ。飲めよ、ほら!」
「チッ、めんどくせぇな。そんなに辞令がこたえたか?サカズキ中将はいじめ目的で新人を補佐官に据えるほど暇な人じゃねぇだろ」
「辞令のせいでのんでるわけじゃねぇよ」
「じゃぁ何だよ」
「……同室なら分かれよ、バカ。俺、あっちのテーブルのやつらと飲んでくる」
あーあ、煙には名残惜しさとか寂しさってのが分からないのかねぇ。
グラスをもち、テーブルを移動するとヒナ嬢がいた。
「や、ヒナ嬢。隣いい?」
「カイル君。えぇ、どうぞ」
返事をする前に少し席を詰めてくれた。
「試験の時は、力になれなくてごめんなさい」
「なんで謝るんだよ。他の奴らに聞いたけど、赤組の負傷者対応して、再編成して応援にかけつけようとした所でサカズキ中将に止められたんでしょ?俺の単独行動のフォローしてくれたじゃん。ちゃんと力になってるよ。ありがとう、ヒナさん」
「どういたしまして。森からマンタ連れて出てきた時は驚いたわ。今はあの子どうしてるの?」
そう、あのマンタ。
同期達を吐き出した後もずっと傍で揺蕩い、島からマリンフォードへ向かう際も一緒にいた。
なんだかずっと見てると可愛く思えて撫でてみたが甲板撫でてるのかマンタ撫でてるのか感触が分からなかった。本人?は嬉しそうに身体を震わせていたから良しとしよう。
そんなマンタを研究対象にしようと思ったのか、帰港し、タラップを降りたと同時に数人の海兵に囲まれ、研究室に連行された。
俺から剥がそうと頑張っていたけれど意思があるのかどうやっても離れなかった。
しまいには、俺の皮膚に張り付いて、さながらマンタのタトゥーをいれたみたいになった。半透明のマントでよかった、全身真っ黒になるところだ。
というわけで、今も俺の皮膚表面でマンタが泳いでいる。
女の子とイチャイチャする時は身体から出てってくれるよう言わないとビックリさせるな……
「今は見えないけど、元気に泳いでいるよ」
──
卒業試験が終わり、数日後
センゴクは男を呼び出し、島内の焼鳥屋で酒を飲んでいた。
「お前の息子はどうなってるんだ、例の実験動物さえも懐柔するとは」
「どうもこうも、動物にも好かれる自慢の息子ですが何か?」
「仲間思いなのは今回の試験で十分理解した。したが、上官に銃口向けるようなやつ、誰が下につかせたがる」
「上官にもはっきり意見を言える、上官を正すことの出来るいい部下になるね」
「こんの親バカが!」
卒業試験の後に配属先を考えると言ったが、こうも難しくさせるとは思わなかった。
海軍工廠トップであり同期のキールを呼び出し酒につきあわせたのもまちがいだったか。
あのマンタは元々海賊を追い詰めた際、発見した生物だ。
生態から察するに悪魔の実を食した可能性が高いと島を海軍所有とし、調査していた。何の実を食べたかはまだ分かっていない。
報告書を読む限り、分かっているのは
1.海を泳ぐように平面を泳ぐこと。
空気が接触する面と言い換えてもいい。
2.触れた物を感電させ、取り込むこと。
取り込んだものは一定期間経つと吐き出されるようだ。
飲み込まれた者の証言として、ブラックアウトしたように意識がなくなり、気がつけば吐き出されていた、とある。中での時間感覚がないようだ。
この2点のみ。
その後調査に進展もなく、何らかのきっかけが掴めないか、また無駄に島を持っているのもなんだ、ということで卒業試験に利用していた。窮地で人の本質は見える。割と良い篩になっていたんだがな。
しかし、今回の卒業試験でマンタの意志により期間をおかなくとも吐き出すことが可能だと判明した。
その上、来期から別の方法で篩をかけねばならない。
「上に目をつけられてると言ったろう。なぜ更に厄介なオプションつけて自分から目立つんだ」
「本人はそんな気さらさらないんだろうけどね。あの子は6歳の頃から自分の好きを追求してきただけだ。私がそれを止められるはずがないだろう。きっと、卒業試験でもあの子の琴線に触れたから深く関わろうとしたんだろうよ。センゴクさんもお子さんいるからわかるでしょ?親心」
ね、とねぎまを片手ににこにこ笑うキールを見てると実の親より頭を悩ませているのがおかしくなってきた。
「それにね、あの子がやらかしたならケツを拭くのもあの子にやらせりゃいいんだよ。サカズキ中将に迷惑かけたなら、その分役に立たせるといい」
「……それも、そうだな。サカズキなら上からの圧力に屈する奴じゃなし。悩んでたのが馬鹿らしい!キール、飲むぞ!」
「ごちそうになります」
──
配属初日
サカズキ中将執務室、そこでカイルは先輩方に囲まれていた
「君がサカズキ中将に銃口向けたっていう新人か」
「はっ、本日よりサカズキ中将付き第2補佐官を拝命致しました、カイルと申します。若輩者ですが、よろしくお願いします!」
拳骨の一つや二つ飛んでくるかと身を固くし敬礼するカイルに反し、耳に飛び込んできたのは喜びに湧く声だった。
「よっしゃぁ!中将に物申せる奴がきたぞ!」
「1度銃口向けたならもう何でもできる!最強新人現る!」
「これで少しは家に帰れるかな……」
よく見ると彼らの机の下には寝袋が置かれ、部屋も臭いが少しこもった感じがする。
賞金首海賊捕まえるまで帰れま10でもやってるのか?
「第1補佐官のルルイ准将だ。補佐官としての仕事は私が教える。あの人の好みとルーティン、書類の捌き方等は追追な。中将はその奥の部屋にいらっしゃる」
挨拶に行ってこい、と促されるまま奥の執務室へと案内される。
「中将、入ります」
「……今日からか」
堆く積み上げられた書類に囲まれ、ペンを動かすサカズキ中将はフードのせいで顔色は分かりにくいが声からして疲れた様子だった。
「は、第2補佐官を拝命致しました、カイルと申します」
「おどれのことは……よぉう躾ちゃるからの。わかったな」
「はっ」
「その背中のヤツも、手綱握っちょれよ。そん時は今度こそ溶かしちゃるからの」
それだけ言うとまた書類に視線を戻してしまった。
もっとガッツリ怒られると思ってたんだけど……今は書類仕事が優先みたいだ。
「カイル少尉、今は書類仕事で猫の手も借りたい程だ。さ、役に立ってもらうぞ」
ルルイ准将に任された書類仕事は、前世、どれほどパソコンに助けられていたのかを実感するには十分なものだった。
──
空は暗雲、横殴りの雨風が吹く。
海は大荒れ、波しぶきが身体を打つ。
「死ね!このクソ海軍が!」
海賊の咆哮、開いた瞳孔に血走った瞳、カトラスと銃がぶつかる音、カトラスを押し返す重さ、何もかもが前世と今世まとめても初めての事だった。初めての事で、身体が咄嗟に動かなかった。
カイルは海兵になり、初めての長期遠征に参加していた。
遠征の目的は賞金首の目撃情報があった島々への巡回及び海賊の捕縛。
サカズキ中将率いる部隊は軍艦2隻で出港した。
数日後、グランドライン特有の急な天候の変化がみられた。突然の嵐にも船員は慣れた様子で仕事をこなす。
悪天候での航海もアカデミー時代経験はあったが、こうも視界が悪いのは初めてではないだろうか。
空の様子を見る限り、この嵐は明日も続きそうだと考えていた時だ。見張りが海賊旗を掲げる船を発見し、戦闘に発展した。
「戦闘準備!位置につけ!」
雨風が強く、狙いを定めやすいよういつもより近く海賊船に横付けすると砲手の出番だ。
「装填良し!」
「目標3時方向、海賊船、テェッ!!!」
放たれた弾は船を砕き、木片が散らばる。
マストが折れ、沈みゆく船を捨て、海賊はロープを伝い、こちらへ乗り移ってくる。
カイルは愛銃を手に、乗り移ろうとする海賊共を必死に撃ち落としていた。
「悪く、思うなよ……!」
肩や足を狙い撃ち、海へと落としていく。
死なない程度の怪我をさせて足でまといにしてやった方が全体的に機動力が下がる。怪我をしたやつを庇おうと、助けようとするから。
そう、自分に言い訳をしていた時だ。
「死ね!このクソ海軍が!」
「ッ……」
初めのシーンに戻る。
海賊の咆哮、開いた瞳孔に血走った瞳、カトラスと銃がぶつかる音、カトラスを押し返す重さ、何もかもが初めての事だった。初めての事で、防御するのが精一杯だ。
マリンフォードで生まれ育った為、捕縛された海賊を見るのは珍しくなかった。海軍の仕事も、身近に感じていた。だが、いざ自分がその立場になると、だ。
「っ……クソッ」
「なんだ?そそる顔するじゃねぇか、あぁ?処女みたいな顔して。ギャハハッ「せせろぅしぃ!お前も何しとるんじゃ、このおんびんたれが!」
舌なめずりする海賊を殴り飛ばし、カイルの胸倉を掴みあげたのはサカズキだった。
「さ、サカズキ中将……」
「わしに銃口向けたあの気概はどこ行った!今は命のやり取りしとるんじゃ、お前の戦い方は逃げじゃ、海賊は悪!情けなんぞかけるな!」
濡れて力が抜けるだろうに、フードの奥からのぞく瞳はギラギラと己を突き刺していた。
「次は無い、わかったな」
「は、……はっ!」
サカズキ中将の檄を貰ってからは、無我夢中に戦い続けた。
殴り、骨を折り、自らの撃った弾で血を流させる。
やらねばやられる、不思議と罪悪感はなかった。感じる暇がなかった。
戦闘はしばらくすると収束し、最後に残ったのは懸賞金をかけられた者たちだけだった。
彼らも手錠をかけられ、今ではすっかり大人しく檻に入れられている。
終わった。
そう思った瞬間、どっと疲れが襲ってきた。
──
卒業試験数日後、サカズキはセンゴクに呼び出された。
テーブルの上には1人の卒業生の書類が置かれている。
「サカズキ、お前の下で育ててやってくれ」
「この、わしに銃口向けて来よった奴を、ですか?」
「思うところもあるだろうが、こちらにも事情がな。早いところ使えるようにしてお前の戦力でも懐刀にでもにすればいい。上からのお達しは囲いこんでおけ、だ。囲ってどうするかは何も言われてはいない」
「お守りはわしの仕事じゃぁなかったはずですが」
「そう言うのもわかるがな。だが、お前も気にはなっているだろう?お前に噛み付くやつなんかそう居なかったはずだ。お前の好きにすればいい、叩き潰して従順にするのも、その反抗心を利用するのも」
この言いぶり、ハナから決まっちょったようじゃ。しかも面白がっとる。
「ほんに……好きにしてもええんですかいの」
「保護者からは許可を得ている。自分でケツを拭かけろとな」
「わざわざ保護者に許可を?もうええ歳でしょうが」
「とにかくだ、任せたぞ。第2補佐官にしておく。ルルイ准将も助かるだろう。行っていい」
面倒事を押し付けられたとしか思えん。
書類を見るにアカデミーでは座学は優秀、戦闘でも及第点ではあるが、持久力に難アリ。
卒業ラインをこえとるとしても、実際現場に出れば、足でまといになることは目に見えちょる。
早い段階で己のレベルと温室育ちの考えを見直させにゃいけんの。
「ルルイ。最近、賞金首目撃情報のあった島ぁリストアップしとけ。遠征じゃ」
──
遠征には、前準備として各部門、各支部への申請書やら書類仕事が必要となる。
今回は1ヶ月以上の遠征だ、停泊する予定の島への申し送りや食糧、燃料調達、かかる予算計画、やる事は多岐にわたる。
多すぎる書類仕事にへきえきしていると緊張した顔のカイルが挨拶にきた。釘をさしておく。
後でルルイ准将に聞けば、1を聞けば10を知り、仕事も早くて助かる、らしい。
実際、茶を淹れさせたり、書類について二三言葉を交わした時も妙に脅えたりせず淡々と受け答えしていた気がする。
センゴクさんの言い方だと内勤として扱うのはいかんだろう。戦えるようにせねば。
思った通り
人の生き死にから遠い人生を歩んできたからか、いらぬストッパーがかかっとる。
初遠征で遺体で帰ってくるなんて笑えん。
悪天候の中力は抜けるが、海賊を殴り飛ばすぐらいわけない。ひよっこの胸ぐらを掴み立たせる。
海賊に処女呼ばわりされるなんぞ恥と思え。恐怖心は持っていいが顔には出すな。
激を飛ばしてからの動きは多少はようなった。
この遠征の間に使えるよう、戦闘に慣れさせるしかない。
たかが100人の海賊相手でこの様子じゃ、覇気を使いこなせるようになるまでどれだけかかるか。
「カイル!なにをしちょるんじゃ、ほがを食うな!」
「はい!」
男主
この度サカズキ中将付き第2補佐官に任命。
怖いけど、仕事は仕事ですからね。しっかり仕事しますよ。
マンタを背負い込み、初の長期遠征へ。
戦国時代の初陣ってこんな気持ちなんだろうな…
休日には飛行機開発をして癒されよう。
寝袋パイセンsはみんな君のために頑張ったんだよ。
サカズキ
面倒事を押し付けられた。
親の七光りで入れられたとしても使えんヤツはいらん。
部下教育の為に急遽遠征を計画した男。
育つ見込みはありそうじゃの
広島弁翻訳(ネット調べ)
せせろぅしぃ=うるさい
おんびんたれ=臆病者
ほがを食うな=ぼーっとするな