エルデンリングの世界に転生した。日本で育った記憶はあるが、死因は不明。寝て起きたら赤ん坊の姿で狭間の地にいた。としかいえない状況だった、知らない天井とか言うレベルじゃない。ここが狭間の地であると気付くのに相当な時間が掛かった、当時は黄金樹が無かったもんだから、不便なファンタジー世界だとしか思えなかった。
しかも記憶は殆どないにも等しく絶望した。大好きだったゲームや職場の友人、大学の親友や家族の事は覚えていたが、それ以外のこと…とりわけ、数学やら科学やら、かつて覚えた筈の知識はほぼ消え去っていた、辛うじて割り算までの基本的な算数は覚えていたが、これでは定番の知識チートなぞ出来やしない。俺つえーしようにも転生特典も何もなく、世界を知ろうにも本もない、まともな学校もない何にもないクソド田舎では村長以外に文字を読める人間がいなかったのだ。
そんなこんなで村で成長して数年後、もう故郷の記憶も薄れ、かつての家族や友人は全部妄想なのではないかと思えてきたその時、俺は見たんだ…
戦王を、戦場へと進撃する大戦士を
衝撃だった
この世界がエルデンリングの世界であるという気付き、それ以上に素人目からでも感じれる王たる者の覇気。そして湯気のように溢れる闘気。
まだエルデの王ではないからだろうか、セローシュを背負っていないゴッドフレイ王は狭間の地を平定する闘争の最中、たまたま村の近くを通っていた。
そこからは早かった。まず自分は体を鍛え、体力を付けるために走り込みをし、剣を振り始めた。目的はただ一つ、黄金樹以前の戦争に参加すること、そして褪せ人となりエルデンリングの世界を旅することだ。村の人からは突然の変化に不思議がられたが数日後には慣れたのか、特に何も言われなくなった。
そうして戦士となり、黄金樹勢力に自らを売り込み戦士の1人となった俺は王と共に戦場に立つことを許された。
今思えば、出身地の村は後の影の地にある村だった、女王マリカの故郷…巫女達の村の位置を考えれば、あの時の王はマリカの王となってすぐの頃、黄金樹の戦史にも記されぬ様な小さな戦いに赴くところだったのだ、戦士となるを志願しに行った際、思ったよりも小さい勢力だったのがその証拠である。意図せず、最古参の戦士の1人となっていた。
多くの戦いを経験した、死にかけた回数も一度や二度ではない。この世界はゲームではない故、当たり前の事だがローリングで敵の攻撃はすり抜けられないし、敵の攻撃もAIやらパターンやらに嵌まらない自由なものだ。女王マリカに影従マリケス、戦士ホーラ・ルー、黄金のゴッドウィン、坩堝の騎士達のほかゲームにて語られなかった多くの人物。アルター高原の平定、ゲルミア火山攻略、巨人戦争、嵐の王との戦い、モーン城攻防戦。考察要素の一つであった多くの出来事に語られぬ無数の戦い。
それらを経験した俺は王の側近の一人として、黄金の英雄の一人として女王より強い祝福を授かり…
そして━━━褪せ人となった
━━アビドス高等学校
そこは、かつては学園都市キヴォトス1の規模を誇る学園であり、多くの羨望の眼差しを受けた栄光の地。
だがそれも今は昔、砂漠化の進行に伴う住人の減少、砂漠化対策に投じた多額の資金、それでも止まらぬ砂漠化についには借金に手を出し、今や先も見えぬ程荒れ果ててしまった土地にて、そんな最悪な状況を振り払うような声が響いていた。
「ようこそホシノちゃん!私の名前は梔子ユメ、このアビドスの生徒会長をしているの!」
「私は小鳥遊ホシノと言います。よろしくお願いします、ユメ先輩」
ユメは凄まじく上機嫌だった、元々楽観的でポジティブな彼女だが、その日は有頂天だった。何故なら後輩が出来たから、現在でも2桁の生徒がいるが、ほぼ全員が学区外で金銭を稼いで借金返済に勤しんでおり、なかなかアビドスに帰ってこれない、1人寂しく校舎に居ることの多いユメにとって、新しい後輩に色々紹介できるのはとても嬉しいイベントだ。
「それじゃあ校舎内を案内するね!まぁ使われている部屋はあまりないんだけど…」
「大丈夫です、アビドスの校内マップはもう読み込んでいます」
「ひぃん…この子、私よりしっかりしてるよぉ…」
「あっでもでも、ホシノちゃんはあの人のこと知らないだろうから、あの人のところまで案内するね!」
「?…あの人?」
はて?事前に一通り学校の事を調べたが、この学校は生徒会長のユメ先輩以外に校舎に人はいない筈…自分の調べた範囲に漏れがあったのかな?ホシノは少し考えながらユメ先輩の案内について行った。
ついて行った先は1つの教室だった、標識にはアビドス防衛部と書かれており、その中に1人の鎧姿の大人が鎮座していた。
「っ…!?」
あり得ない筈の光景に目を剥く。初対面の人物に向ける顔としては失礼なものだが、そんな事を考える暇がないほど彼女は混乱していた。
「褪せ人さんこんにちは!紹介するね、この子は小鳥遊ホシノちゃん!アビドスに新しく入学してきた新入生だよ!」
「…………………よろしく」
なんて?
「え…?今なんて言いました、声ちっさ…ていうかなんで鎧姿なんですかこの人…人?」
ホシノは混乱していた、挙句の果てに人かどうかも疑う始末である。無理もない、彼女が知る『人』とは自分達と同じヘイローを持つ生徒か二足歩行の動物、またはロボットである。突如現れた鎧を着込んだ声の小さ過ぎる存在は彼女が培ってきた常識を粉々に破壊した。
「この人は褪せ人さんだよ!凄く昔からこの教室に住んでいる人で、アビドスの校舎が襲われた時に守ってくれてるの!」
どうやらこの人は褪せ人と言うらしい、変な名前?である。
「え…と褪せ人さん?新入生の小鳥遊ホシノです、今日からよろしくお願いします」
ひとまず挨拶をしたホシノ、ユメ先輩が言うには襲われた時に防衛を担ってくれる人とのことなので、これからもお世話になるだろう。ひとまず失礼のないよう挨拶と自己紹介をした。
「…………」
「…………」
「…………」
無視!?
まさかの無視。さっきユメ先輩の言葉には反応したのに、今は石の様に無反応である。どころか身動き1つしない、石どころか岩山のように動かない、動かざること山のごとしとはよく言うが、自己紹介に無反応とか山もビックリである。
「もぉー褪せ人さん!なんで無視するんですかぁ!」
ポコポコと褪せ人を叩くユメ先輩、キヴォトス人にしては優しい効果音に力など一切入れていないのが分かる。それに対し褪せ人は少し鬱陶しそうに顔を歪めていた。
これがアビドスでの日常であるかのように感じる微笑ましい光景だが、渦中の中にいるホシノにはたまったものではない。
(この先…大丈夫かなぁ…)
1人不安気な顔を浮かべてホシノは天を仰いだ。
ここの褪せ人はステータスオール99のツヨツヨ褪せ人です。
後、彼が居た狭間の地はゲームではなくあくまで現実です。