褪せ人となって暫くたった時のことだ、女王マリカは我々褪せ人を狭間の外に追放することを宣言した。
当然ながら多くの戦士は荒れに荒れた、中には暴動を起こす者も現れ、混乱が広がっていく。そんな中でも俺は
あの時始めて実感したが、祝福を奪われることはとても心細い、マリカのルーンのテキストにはこう記されていた、『女王マリカが自ら授けた祝福』『その黄金の残滓』『その輝きは、英雄をすら盲目にする』
残滓ですらそれなのだ、強い祝福を直接受けた我々がそれを突然奪われた、その焦燥は測りしれず、知っていた自分も不安で体が震える程だ。
唯一の例外がゴッドフレイ王、偉大なる覇王は祝福なき褪せ人となっても衰えを知らず。褪せ人となった戦士達に王斧片手に一言った「着いてこい」と
あの初対面から早一月、私はユメ先輩の補佐として副生徒会長となり、借金の返済に尽力していた。母校を離れて活動している先輩達のおかげで少しずつではあるが借金は返せている、しかし元々の借金が多すぎて焼け石に水…しかも稼ぎによっては利子の支払いで手一杯……
「なんであの人は働かないんですか!?」
「ホ、ホシノちゃん落ち着いて…」
「落ち着いてられませんよ…学校外の先輩達も頑張って借金返済に尽力してくれているのに、校舎に住んでいる人が何で何もしていないんですか…おかしくないですか…?」
「ひぃん、それはご尤もだけどぉ…」
私は頭に来ていた。一向に減らない借金。能天気で危機感の足りないユメ先輩。何よりなにもせず働かず、話しかけてもちっさい声で「おう」とか「うん…」とかしか言わない褪せ人…一月我慢しただけでも褒めてほしいぐらいである。
褪せ人がちゃんと役職どおり働いているならば文句もない。
だが褪せ人は働かない、一切働かない。そもそも学校への攻撃が滅多に無いから防衛部としての仕事がない。そのくせちゃんと三食食べているようだ。
砂ばかりのアビドスは荒れ放題だが、何故か校舎に不良達は近付かない。ただ遠巻きで覗いてくるだけである。ユメ先輩曰く、褪せ人がコテンパンにしたからだというが、ならば街の方の治安もどうにかしてほしい、一応は自治区*1なのだ、アビドス防衛部という名ならば防衛対象であって然るべきだろう。
「褪せ人さん!」ガラガラ
感情のままに走り出し、勢いよくアビドス防衛部の部室を開ける、そこには何時ものように鎮座している鎧姿の大人…褪せ人がいた。
「今日という今日は言わせて貰いますが、貴方はアビドス防衛部という部活に所属しているのだから少しはアビドス自治区の防衛にですねぇ!」
「ーーーですので、アビドスの市街地を守ることはひいてはアビドス高校を守ることにも繋がる大事なことなんですよ!」
「…」
「…」
「…」
「…無視!?」
またこれである、始めてあったときからずっとこうだ、挨拶とかはともかく説教となると無視される。少しくらい身動ぎするならばともかく、それすらしない。もはや起きているのかも怪しい。
実際、私は今まで褪せ人が動く姿を食事の時と排泄の時と風呂の時以外で見たことがない。ユメ先輩の話がなければ、
「ひぃん…ホシノちゃん走るの速すぎだよぉ…」
「ユメ先輩からも一言ぐらい言ってください!何度言っても無視されるんですよ!置物ですか彼は!?」
「えーと…ホシノちゃんの言う事もご尤もだし、少しでも良いから市街地の方も助けてくれると有り難いかなぁって…」
「…………了解した」
相変わらず小さい声である。彼はユメ先輩の言うことは聞くのだ、以前なぜユメ先輩の言うことのみ聞くのかを褪せ人に質問したことがある。返答は期待していなかったが、驚くべき事に小さい声で「契約だから」と返された。何のことか分からないが、ユメ先輩曰く歴代の生徒会長が引き継いできた契約があるらしい。何年生きているんだこの人…
まぁこれから市街地の防衛をしてくれのならば心強い、ユメ先輩が言うには凄まじく強いらしいし、市街地の治安は重要だ。
少しでも借金を減らす為に必要なことなのだ。治安が安定すれば観光客も来るかもしれないし、治安が安定すれば犯罪も減って健全な経済循環が活性化するし良い事づくしである。ちゃんとやる気になってくれれば良いんだけど…
(面倒…)
俺は、褪せ人。名前はもう無い。ばりばり覚えているし普通に名乗ってもいいけど、俺は褪せ人である。そう自負して記憶やら精神やら色々を保ってきた。
狭間の地から何だかんだでこの学園都市に流れ着いて幾星霜…最初は未知に心躍らせたものだが、今やほぼ全てが既知である。最終的に最大の学園であるアビドスに行き着いたが、今や廃校寸前となり僻地と言えるほど荒廃している。
昔は何もしなくても良かった、シェマタとの契約で生徒会長以外からの命令は無視しても良かったし、生徒会長からの命令なんざ数年に1回あるかないか…あってもそれは心躍るような闘争だったものだが今や…
(はぁ…不良生徒との戦いは味気ないし市街地にいる奴らは大体が生徒でもないし…)
(やっぱどこまで行っても俺は戦士…褪せ人だなぁ)
歯応えがない…余りにも、かつては戦士であった身、闘争の中で我を満たし、傷付き傷付けられることで心臓を滾らせる…闘争の中でこそ魂が輝くのが戦士というもの。
前世での倫理観的にどうなのとは思うが、前世とかもう万年以上前だしもう記憶にない。なんかあったなぁそんなの…みたいな感じだ。
自分を蝕みやる気を出させないものの正体は分かっている。俗に燃え尽き症候群と言われるものだ。狭間の地*2にてやる事を全てやった俺はラニと新しい律を敷き…そして気付いたら最初の礼拝堂にいた。
我ながら意味不明である。所謂周回プレイというやつだろうが、最悪だ。
次はエルデンリングを継いで完全律を掲げたがその瞬間に戻された、そんな感じで周回を重ね、ついにはやる事が無くなり、それでもいつかはループから抜け出せるやもと周回を重ね…俺は心が折れた。燃え尽きた…真っ白に…なんか髪も白くなってるし全く誰とも喋らないからか声小さくなってるし…もう散々である。
いい加減このループに絶望した俺はついには何もしなくなり、そうしてたら時は進み、エルデの王が新しく生まれ、そこから更に時間が経って地殻変動やら何やらに巻き込まれたらキヴォトスにいたという感じである。
アビドスの市街地。その路地裏を歩きながら記憶を思い返していた、長く生きた、たまに記憶を掘り返さなければ昔のことを忘れてしまう。何故キヴォトスに居るのかを昔に忘れかけ、発狂しそうになってから偶にこうしている。
「おっ居た居た」
不意に彼は呟いた。そして目の前にいるガラの悪いロボットの集団に対してそこらの石を全力で投げる。
「痛って…!んだぁテメェは!」
「俺等に喧嘩を売るとかいい度胸じゃねぇか!」
「この数に勝てると思ってんのか!?アァ!?」
「うるさいなぁ…静かにしなさいよ」
「声ちっせぇ!?」
ゲラゲラと不快な笑い声が響いている。今目の前にいるのはここ最近アビドス市街で勢力を増していた総勢20人ほどの
アビドスは今やド田舎である、こんな所で調子に乗っている奴らなど敵ではない。現に彼らの威嚇など戦士たる褪せ人からしたらアリが牙を向けてきているようなもの。もはや暇潰しにもならないが数は多い。そして銃、あれは危険だ、この人数で一斉に撃たれたら歴戦の褪せ人とて余裕で死ぬ。褪せ人はヘイローを持たぬがゆえに、鎧込でも防御力は一般生徒以下だ、なのでこういう時、彼はこうする。
「おい!こいつヘイローがないぞ!?」
「はぁ!?なんだそりゃ…ヘイローがないとかキヴォトス人じゃねぇのか?」
「問題はそこじゃねぇだろ!こいつに銃なんて使ったらこいつし…死んじまう!?」
ヘイローのない褪せ人に気付いて彼等は狼狽える。そうだ、キヴォトス人は死を恐れる。それも異常な程に、狭間の地からすればかなり甘いことだが利用させてもらう。
「テメェ、ヘイローが無いくせに俺等に手を出すとか死にてぇのか!?」
無視して近づく
「近付くな!ほんとに撃つぞ!」
無視して近づく
「なんだコイツ!?」
無視して近づく、死が禁忌であるキヴォトスにて、死を恐れず散歩のように軽快な足取りで近づいてくる褪せ人は明確な異物である。端的に言うと物凄く不気味で怖い。
「ヒッ!」
褪せ人は自分を囲むロボット達…その1人に目をつけ急接近する、最も自分を怖がった奴…機械の顔からは読み解き難いそれ目線等から瞬時に察知し、懐の『大いなる彼方の杖』を発光させながら翳す。突然の凶行に驚いたビビリなロボットは反射的に銃を撃ち、周囲のロボット達は鉄製の顔を更に冷たくさせた。
「あっ…!!」
ロボット達は咄嗟に目をつぶるか背けてしまう。ヘイローの無い生身の人に銃を撃つ意味を知らないものはいない。
「おい!銃は不味いだろ!…あれ?」
1人のロボットが叫ぶと同時に異変に気付く。血を吹き倒れている筈の大人は何処にもいなかった。至近距離で銃を撃たれて避ける方法などなく、ましてやこの数瞬で消えるなど不可能である。通常ならば…
「あいつ何処行きやがった!?」
「いない!?」
銃を撃たれた…否、撃たせた褪せ人はそこから瞬時に魔術を使う。それはキヴォトスにはない超常の業、神秘溢れる狭間故に見出されたものの一つ。褪せ人は霧の中に瞬時に消え、そして全く別の場所から現れる。彼らの視覚外、背後だ。
自分を見失ったロボット達に気付かれる前に、彼は脚を振り上げ地面に叩き付ける。
「うわぁぁぁ!?」
「何だ!足がぁぁぁ!!!」
神獣獅子舞の追憶から得た力を現実にて振るうとゲーム以上に強力だ、自分の腰までを超えるサイズの氷棘は鉄の足を悠々と貫き、霜が走る地面はまともに動けるものじゃない。それに褪せ人は畳みかける。
突然足を貫いた氷棘に叫ぶ暴力集団達を無視して、彼等の目の前にやって来た褪せ人は、先ほど発光させた『大いなる彼方の杖』を今度は地面に突き刺した。
吹き荒れる嵐は氷を纏い、神獣霜踏みの影響で身動きの取れないロボット達の体を容赦なく攻め立てる。氷嵐が消え去った後、彼等は全員気絶していた。これでも生きている時点で凄まじい生命力である。八寒地獄もかくやという地獄絵図であるが、褪せ人は気にもせずロボット達を縛り上げていく。
褪せ人としては武器を振るいたい所だが、武器では範囲攻撃が不得意だ、集団戦となれば『魔術』なり『祈祷』なり『戦技』なりを振るう方が手っ取り早い。狭間の地での鉄則である。
全員を縛り終えた後、ヴァルキューレに引き渡し賞金をGETするのだ。もちろん、変な事を言わないようにロボット達の記憶処理*3を行ってからだが…
…
……
………
…………
「え!?もう稼いできたんですか!?」
「すごーい!これで今月の利子は何とか成りそうだね!ホシノちゃん!」
「まぁ…これでも借金返済には程遠いですけどね…」
「やる気無くすだろ言うなよ…」
褪せ人は呟いたが、声が小さすぎて聞こえていなかった
褪せ人君は普通に喋ります。初対面の時は喋る気がなかっただけです。褪せ人達は自由なものなので