褪せ人君はこの小説の主人公ですけど、エルデンリング世界の主人公ではないです。
褪せ人の長征はそれはそれは楽しいものだった。強大な戦王と戦友たる元黄金の英雄に歴戦の戦士達、安住の地など要らぬとばかりに戦いだけを求め船に乗り、島を見つければとりあえず向かう。島に乗り込んで友好的なら
そうして最後まで残っていった戦士達は最後に蛮地へと辿り着いた。
「ここまでか」
一人の褪せ人が呟く。それは深い悲しみを滲ませた言葉だった。
世界の果てにたどり着き、戦士達のお祭り騒ぎはここで幕を閉じた。
最高の大金の稼ぎ方とは何だ?犯罪で大金を稼ぐ?論外、堅実にコツコツ稼ぐ?時間がかかり過ぎる。
株やらギャンブルで一攫千金?不確実だし危険。あえて言おう最高の稼ぎ方とは「宝探し」だ。
ここアビドス高校には金がいる、億超えの借金に毎月の利子。砂嵐に呑まれかねない校舎の維持費。もはや自分達の生活費すらも学校に回す必要がある程、アビドスには余裕がない。
そこで生徒会長の梔子ユメはある提案をした。
「大オアシスの下に、希少鉱物が埋まってる、ってことですか?」
「そっ!」
過去の生徒会がオアシスの下に埋めたという希少鉱物の花火、それを掘り当てて一攫千金を狙おうという提案だ。
「…ユメ先輩は、自分がいま何を言っているのか分かってますか?」
「えっ…?その…」
「こうしてる場合じゃないですよ!今すぐ探しに行きますよ!!」
今のアビドスは三つの方法でお金を稼いでいた、一つは学区外の生徒たちの出稼ぎ、褪せ人による賞金稼ぎ、そしてユメが発案する宝探し等の一攫千金を狙ったものだ。
本来、この時点でアビドス生は減らぬ借金や悪化する治安に絶望して転校・退学し、アビドス高校の生徒はユメとホシノの2名のみという惨状に陥っている。
しかし、状況は変わった。褪せ人が行うアビドス防衛部としての活動による校舎周辺の治安の維持、そしてアビドスを隠れ場所としてやって来る指名手配犯の捕縛は多少なりとも学校に余裕を齎し、本来なら辿るはずのルートから外れ、未だ残る生徒が居るのだ。
「うへへ、行きましょう先輩!!」
「うん!これで私たちも大富豪だよ、ホシノちゃん!」
…
……
………
「で、水着でオアシスまで行って何も見つからず帰って来たと…」
「ひぃん…」
「深くまで掘ったんですけど、一向に見つかりませんでした…」
何をやってるんだこの2人は…まぁユメは納得だが、ホシノもノリノリでついて行ったらしい。初対面の印象とは随分と違うな。人が治安維持活動をしている間に宝探しとは…というか何で水着?
「地面を掘ったらドカーンって地下水が湧き出るかもって、砂漠化が解消されてめでたしめでたし〜って思ったのに…」
「脳天気が過ぎる」
「ユメ先輩が脳天気なのは今に始まったことじゃないじゃないですか」
「ひぃん…ホシノちゃんまで…」
ホシノ、ついて行ったお前もお前だぞ。内心ではそう思うが言わないでおく。
「にしても、希少鉱物の花火ねぇ…」
「ユメ先輩が持ってきた資料を見るに、見つかったら相当な値打ちになるんですけど…」
「あれ、嘘だったのかなぁ…」
「いや?あるぞ」
「「え」」
「刺激でプラズマを発するやつだろ?昔の生徒会が埋めてたのは確かだ」
大分昔の話だが、確かにオアシスの辺りに埋めてた筈だ。というか埋めさせられた。あそこが干からびる前は相当な規模のオアシスだったからな、坩堝の諸相で短時間だが飛べる俺がやらされたのだ。
「それを早く言ってくださいよ!!」
「ホシノちゃん、もう一度堀に行くよ!」
そう言った途端ホシノ達は大慌てで出立の準備を始める。褪せ人の発言でお宝の実在が判明したのだからもう一度掘りに行くのは当然のことだろう。
「あっ!褪せ人さんも案内お願いします!」
「いや、やめたほうがいいぞ」
「「えっ」」
「埋めた場所なんて覚えてないが、保管もかねてかなり深くに埋めさせられた覚えがある」
「掘るのは現実的じゃないな」
曲がりなりにも希少鉱物を使った花火だ、いざという時のための貯金か何かだったかで深くに埋めされられたものだ。掘り起こすにはそれこそ、重機を使うなりしなければならないだろう。
そして砂漠に重機を運ぶ資金などアビドスにはない。
「…そうですか」
「まっまぁ!あることが分かれば十分だよ!ねっホシノちゃん」
「…そうですね、そんなに深く埋めたのなら大規模な戦闘でもない限りそのままでしょうし…希望があると分かればまぁ」
(分かってくれたようで何より。俺はこれ以上動きたくないし、寝っ転がりたいし…砂漠に遠足とかご勘弁願いたい)
これが今のアビドスの日常であった、褪せ人は賞金稼ぎに出かけ、帰ってきたらダラダラし始め、ユメとホシノは宝探しを始め様々な方法でお金を稼ぐ。偶にユメの提案に褪せ人が巻き込まれ、面倒臭そうに助言する。こうして少しづつアビドスは活気を取り戻してきていた。
宝探しの翌日の朝、防衛部の部室の前にホシノが来ていた。真剣な表情で何か悩んでいるようで、部屋の前でウロウロと行ったり来たりしているが意を決して部室に入ると褪せ人に声をかけた。
「すみません、お願いがあるんですが…」
「おぉ?」
(朝っぱらから部屋の前で歩き回ってると思ったら…まだ少し迷っているようだが…何だ?)
面倒事でなければいいなぁ…褪せ人はそう考えながらホシノの言葉を待っていた。一瞬だが逡巡した後。ホシノは口を開いた。
「嫌なら断ってくれてもいいんですが…」
「私と一度、戦って貰えませんか?」
「おん?」
急に何を言い出すのかと思ったら…詳しく話を聞くに、昨日の帰りにユメから俺の話を聞いたらしい。俺が強いのは承知していたようだが「ユメ先輩の語った話が信じられないものだった」とか何とか。
(ユメの奴…余計な事を…)
ユメが俺をどう語ったのかは知らないが、おそらく祈祷や魔術のことも語ったに違いない。〝信じられないもの〟とかそれ以外にあり得ないだろう。ユメには以前、襲撃してきた不良生徒の撃退で戦闘を見られているからなぁ、特に秘密にしていないとはいえ、勝手に暴露するのはどうかと思う。
「それに…」
ホシノが続けて言った
「私、ユメ先輩を守れるようにもっと強くなりたくて…」
「ほお」
「ユメ先輩って凄く優しいじゃないですか…それに脳天気で楽観的で…いつか悪い大人に騙されると思うんですよ」
「だな、同意する」
「はい…ですので、いざという時ユメ先輩を、アビドスを守れるようにもっと強くなりたいんです」
「ふむ…」
眩しい…無意識に目を細める。
他人を守りたい。その願いは人が抱くものの中で最も尊いものの1つだ。ホシノはアビドスが大切なのだろう。守りたいという願いは大切なものがあって初めて抱く想いだ。
(今の俺にはないものだ…)
かつての俺もそうだった、王の戦士のなろうと努力した時、王の隣で戦った時、褪せ人となって追放された後も。そして狭間の地に帰還した時も。大切な何かがあった筈だ。
褪せ人はホシノと過去の自分を…燃え尽きる前の自分を重ねていた。だからだろうか、褪せ人にしては珍しく〝やる気〟というものが出てきたのは。彼の眠たげな表情は真剣なものになる。
「いいぞ」
「えっ!?」
OKを貰えると思ってなかったのだろう、ホシノはかなり驚いているようだ。
「…場所は校庭でいいか?時間は?」
「えっと、場所は校庭で時間は今日のお昼でお願いします」
「よし分かった、昼飯の後にしようか」
珍しくやる気になった褪せ人にホシノは動揺している。ユメ先輩以外の頼みを聞くとは思っていなかったのもあるが、彼の表情がいつになく真剣なものだったのだ、何時もは常時眠そうな顔をしているが、今はキリッとしている。雰囲気も別人のようで、もはや誰だてめぇ状態だった。
そんな事を考えているホシノを差し置いて、褪せ人は準備を始める。
今回行うのはあくまで模擬戦である、彼はホシノの強さを知らないため、祈祷や魔術は威力の低いものと強いもの、対処が難しいもので分けた。
具体的には『輝石のつぶて』『獣の石』などの威力が比較的低く、使い勝手のいいものと『ほうき星』『巨人の火をくらえ』などの威力の高いもの。そして対処が難しい『黄金の弧』などの対人で力を発揮する祈祷や魔術を加えた訓練用のものだ。
防具に関しては何でもいい。銃を扱うキヴォトスにて防具は基本的に対した効果は期待できない。神秘を扱う生徒達の弾丸はそれが顕著だった。故に彼は回避を主体に戦うようにしている。重い防具だと威嚇以上の効果は望めない。
少し悩んで彼は『アンスバッハシリーズ』の胴体までを身に着ける。理由は単純、軽くてカッコいいから。何を着ても同じならカッコいい方がいい。それだけの理由である。『老賢の仮面』をつけないのは前が見えづらくなるからだ、元はアンスバッハ専用のものだったためか、少しサイズが合っていないのだった。
そして数時間後、昼食を食べ終わった褪せ人とホシノ、見物のユメは校庭に来ていた。
「来たか、ホシノ」
「うへ、そんな服持ってたんですね…」
「お世辞はいい、始めるぞ」
「ホシノちゃーん!褪せ人さーん!頑張ってー!」
ユメの間延びした声を背後に戦闘が開始された。
展開な雑な気がする…