人生ドロップアウトTS娘は今日も飯を食う   作:てぬてぬ@TSF

14 / 80
14.豚キムチ野菜炒め

目の前にあるのはフライパン。アパート暮らしを始めた時に買ったものだが、そこまで使い込まれた様子は無い。当然だ、俺は自炊が苦手なのだから。

 

在宅のバイトをする気力は湧かず、定期的にしている外出でも人混みを避けている現状を変えなければいけない。そう心に決めた俺は、まず自分が出来そうなものから手を付けることにした。即ち、自炊である。

 

今までの俺は出来合いだったりレトルトだったりの食品に頼り過ぎてきた。いい加減、最低限の自炊能力を身に着けるべきだ。もう二度と野菜スープの悲劇を起こしてはならない。

 

「よーし・・・・・・!」

 

服の裾を捲って気合を入れる。きっと大丈夫だ。だって今回は事前にレシピを調べているんだから。ちゃんと材料も用意してある。キャベツにもやし、豚肉にキムチ。これで野菜炒めを作ろうと思っていた。

 

調味料が揃っているのも確認し、俺は深呼吸して集中力を高める。大袈裟だと自分でも思うけど、見切り発車でやらかした前科があるのだ。身構えるに越したことは無い。さて、まずは・・・・・・。

 

「えっと、豚肉を切るんだったな」

 

スマホでレシピを確認しつつ、俺はまな板を用意した。そこに豚肉のパックを開封してぼとりと落とす。食べやすい大きさに切ればいいらしいけど、どれくらいがいいんだろう。うーん・・・・・・とりあえず小さめに切るか。普段からこの体の口の小ささは思い知っているし。

 

で、次。もやしを洗って根を落としておく。あ、こっち先にやった方が良かったか。生肉を切った包丁とまな板を洗わないといけなくなってしまった。まぁ、これくらいミスの内に入らない。自分に言い聞かせながら前準備を進めていく。後はにんにくをスライスして、キャベツを適当な大きさに千切っておくんだよな。

 

「・・・・・・うーん」

 

結果、狭い台所には食材が乗ったボウルが乱立することになった。なんか、もうちょっとやりようがあった気が・・・・・・いや、大丈夫。全然致命的じゃない。軽く首を振って気分を切り替え、フライパンをコンロの上に乗せる。ごま油とさっき切ったにんにくを入れて火を付けた。

 

しばらくすると、油のパチパチという音と共ににんにくの食欲をそそる匂いが漂ってくる。そろそろいいかな。俺は豚肉が入ったボウルを手に持ち、菜箸で一気に投入した。塊にならないように広げていく。ジュウジュウと肉が焼けていくのは、見てて結構気持ちがいい。

 

ここで塩コショウを軽く振って、焼き目がちゃんと付くまで焼いていく。あー、ちょっと細かく切り過ぎたかもしれない。でもこれくらいなら問題無いはずだ。レシピを再確認すると、次に入れるのはキムチ。丁度使い切りサイズのパックを用意してある。

 

「あ、やべ」

 

しかし、事前に包装を剥くのを忘れていた。慌てて火を止め包装を剥こうとするが、テンパってるせいで中々上手くいかない。一分くらい格闘してなんとか開封し、火をつけ直した後ドバっと投入する。・・・・・・ちょっと多過ぎるか?いやいや大丈夫、大丈夫だってきっと。

 

ざっと炒めてキムチに火が通ったら、もやしとキャベツをぶち込んで麺つゆを目分量でかけていく。レシピでは三倍濃縮の麺つゆを使っているので三倍入れればいいのだろうか。いや、味付けはこの後でも調整出来るから少な目の方がいいかも。この辺りは経験を積まないと加減が難しい。

 

とりあえず麺つゆは少な目に入れつつ、コンロを強火にした。具材を菜箸で混ぜながら一気に炒めていく。うお、凄く美味しそうな匂い。もしかしなくてもいい感じじゃないか?ある程度火が通ったと思った所で、更に醤油を回しかける。もう少し炒めてから一旦火を止めた。菜箸で豚肉の欠片とキャベツをつまみ、冷ましてから味見をする。

 

「ふー、ふー・・・・・・あむ」

 

・・・・・・ん、んん?ちょっと味が薄いかもしれない。醤油をもう一度回しがけして、十秒ちょっと炒め直した後もう一度味見。お、いい感じになった。欲を言えばもう少し濃い味が好きだけど、全体的にはこれでいいだろう。物足りなければご飯の時に調味料を追加すればいいしな。

 

フライパンから適当な量を皿に盛って、ちゃぶ台に置いた後レトルトご飯のミニをレンジでチンする。丁度お昼時なので温かい内に食べちゃおう。いつものように手を合わせて呟く。

 

「いただきます」

 

さて、味見したから大丈夫なはずだけど・・・・・・頼むぞ。箸で野菜炒めをつまみ、ご飯に乗せて一緒に口に入れた。

 

「ん、お、いけるなこれ」

 

普通に美味しい。事前の準備が功を奏したのか、ご飯が進む味だ。豚肉の肉としての旨みは勿論のこと、キムチの食感と酸味、そしてピリ辛な感じが素晴らしい。もやしとキャベツも食べ応えがあるし味付けとマッチしている。これは大成功じゃないか?

 

バクバクと勢いよく食べていく。少しだけ味の付き方にムラがある気もするけど、これくらいなら全然気にならない。何よりも、自分で作ったという達成感が最高のスパイスになっていた。

 

「ごちそうさまでした」

 

いつもよりも食が進み、ぺろりと平らげてしまう。流石にお腹いっぱいだ。残った野菜炒めは大きめのお皿に移しラップをしておく。気温的に冷蔵庫に入れなくても悪くはならない・・・・・・よな。夕飯にも食べるつもりだし。

 

なんか色々満たされた感じがするな。たかが自炊で野菜炒めを作っただけだけど、胃袋と心は満足している。少なくとも何もしないよりは前進しているだろう。

 

「さて、と」

 

食器を洗い一息ついた。最近の俺には珍しく、気分が晴れやかだ。これからも無理の無い範囲で自炊をしていこうかな。凝った料理は作れる気がしないけど、ここから料理を腕を磨いていけばいい。明確な指針を見つけた俺は、上機嫌でスマホを操作しレシピを調べるのだった。




適当に火を通して混ぜれば料理になるんだ。一人暮らしの自炊はそれくらいでいいんだよ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。