人生ドロップアウトTS娘は今日も飯を食う   作:てぬてぬ@TSF

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15.鍋焼きうどん

「んぐぅ・・・・・・」

 

夕焼けが窓から差し込み、赤く染まったアパートの一室。俺は毛布を被りながら丸まっていた。下腹部がジクジクと痛み、全身がだるい。この体になってから何度も経験したけど、全然慣れないんだよな。内側からの苦痛は、特に今日は重過ぎる。

 

俺の体に起きているのは、月に一回くらいの頻度で起きる女性特有の現象。つまり、生理だ。正直しんどい。痛みや全身のだるさもそうだが、何よりも子供が産める体になっているという事実が俺の精神を苛んでいる。

 

これは、男だった時と比べても決定的な違いだ。もうお前は男ではないと突きつけられてしまっている。いや、現実に俺は女になってるんだから間違いないんだけど。肉体の変化を受け入れられてない俺にとって、生理は己の現状を無理矢理に理解させられてしまうのだ。

 

「うあー・・・・・・」

 

意味の無い呻き声を上げつつ下腹部をさする。肉体的にも精神的にも辛い。世の中の女性は、いつもこれを乗り越え続けているんだろうか。だとしたら凄いよな。死ぬまで生理と付き合い続けてるなんて、俺にはとても耐えれない。

 

「こんなの、いらないのにさぁ」

 

そう呻き苦痛に耐え続ける。生理用の鎮痛剤は飲んでいるけど、いつも通り効果は薄いようだ。数年前に初めて生理になった時から、俺はこの痛みにどう向き合えばいいのか分かっていない。受け入れたくないが、受け入れなければいけないのに。

 

眠ることも出来ず、ひたすら時間が過ぎるのを待つしかない。医者の先生から生理中は眠くなりやすい場合も多いと聞いているが、俺には当てはまらないらしい。こんなのが後何日か続くなんて無理だ。毎回毎回思い続けている絶望は、どれだけ経験しても褪せることは無かった。

 

「ちくしょう・・・・・・」

 

駄目だ、涙が出てきた。己の境遇を恨む気持ちと、情けなさから自責の念が湧き上がってくる。どうして俺がこんな目に。拷問のような時間はゆっくりと流れていき、心身を蝕む苦しさは永遠に消えないかのようだ。

 

気付けば時刻は夜。いつの間にか夕焼けは街灯の明かりにすり替わっている。暗くなった部屋のお陰で時間経過を知った俺は、重たい体をなんとか動かして立ち上がった。なにかしら食べて薬を飲まないといけない。そうしないと、この苦痛が一層増す気がする。

 

しかし、意識さえぼんやりとなっている有様ではまともな自炊も出来ない。しょうがない。生理の時にいつも食べているやつにしよう。冷蔵庫から取り出したのは、冷凍されている鍋焼きうどんだ。電子レンジで温めるだけで食べられるタイプ。お湯を沸かす気力も無い生理時にいつも世話になっていた。

 

のろのろとした動きで電子レンジを開け、鍋焼きうどんを突っ込む。温めてる間に深皿を用意しようとしたが、手が滑って落としてしまった。幸い布団の上だったから割れなかったけど・・・・・・なんかもう色々と駄目だ。せめて中身がある時は落とさないようにしないと。

 

レンジからチーンという音が鳴る。火傷しないように端をつまんで取り出し、ハサミで上の部分を切り取って深皿にぶちまけた。少し汁が零れたけど気にしない。そのまま落とさないようにちゃぶ台に運び、のっそりと腰を下ろして手を合わせる。

 

「いただきます」

 

箸でうどんの麺をつまみ持ち上げた。湯気が凄いな。下腹部の痛みに顔をしかめながら息を吹きかけ冷ましていく。そのまますすり、あまり噛まずに飲み込んだ。うん、食べやすい。味というよりは、温かさと喉越しの良さが今の俺にはありがたかった。

 

目の前の鍋焼きうどんを無心で腹に詰め込んでいく。食事というより、これはただの栄養補給だ。味わって楽しむ余裕は今の俺には無い。

 

「っ、ふぅ・・・・・・。ごちそうさまでした」

 

うどんが伸びるくらいの時間をかけて、なんとか完食した。残った汁をシンクに捨てて、洗う気力も起きずに放置する。駄目だ、せめて薬だけは飲まないと・・・・・・。鎮痛剤にいつもの常備薬をなんとか嚥下して、俺は毛布にくるまった。

 

どうしてこんなことになったんだろう。俺は何か悪いことでもしたんだろうか。女になって、野球の道を諦めて、挙句生理に苦しんでいる。男性に恐怖し、視線に怯える日々。この地獄はなんで俺に降りかかるのか。

 

分かっている。医者の先生も言っていた。性別が変化する奇病は、理由も無く突発的に発症するものだと。だから俺に責任は無いのだ。だけど、俺は理由を求めずにはいられない。現在の苦痛に、何か意味を見出さずにはいられない。

 

他でもない俺が発症した理由は。心身共に痛めつけられている意味は。答えなんて無いと理解しているのに、思考は止められない。駄目だ駄目だ駄目だ。寝てしまえ、寝るんだ。自分に言い聞かせて、ぎゅっと目を閉じても眠気はやってこなかった。

 

生理が終わればまた前を向けるだろうか。地獄の真っただ中にいる俺には想像もつかない。つい先日まで、自炊出来たとはしゃいでいたのが嘘のようだ。いや、違う。こんなものは一過性だ。ホルモンのバランスが崩れてるとかどうとかで、精神に影響を与えてるだけに過ぎない。医者の先生から言われたことの中から、都合のいい言葉だけを抜き取って言い訳をする。

 

「・・・・・・うぐぐ」

 

俺ではどうしようもない。そんなことが多過ぎた。どれだけ嫌になっても下腹部の痛みは治まらず、全身の気だるさに加えて頭もボーっとする。いっそこのまま死んでしまいたい。極端な考えが脳裏をよぎる程に参っていた。

 

それもこれも、きっとホルモンバランスのせいだ。それが精神にまで影響を及ぼしているに過ぎない。でも、だったら俺の精神はどうなってしまうのか。このままだと、体だけじゃなく心まで女になってしまうんじゃないか。怖い。恐ろしい。もう嫌だ。

 

男に戻りたい。強く強く願いながら、俺は眠れぬまま毛布にくるまり続けた。叶うわけがないと分かっているのに。




TS娘の生理は重い。多分肉体変化の影響が出ているんだと思います。
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