人生ドロップアウトTS娘は今日も飯を食う   作:てぬてぬ@TSF

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16.鯖の味噌煮(缶詰)

秋晴れの空。そろそろ冬の足音が聞こえてきそうな昼前の時間に、俺はアパート近くの道を軽くジョギングしていた。大した距離じゃないのに足腰は疲れ切り、息が上がってしまっている。あまりにも弱い。

 

「ふぃー」

 

額に滲む汗を首にかけたタオルで拭いて一息つく。やっぱり足腰がなまってるな。高校時代とは比べ物にならない。これは肉体が女になったからとかは関係無く、純粋にだらけ過ぎていたのが原因だろう。

 

生理も終わり気持ちを持ち直した俺は、前々から考えていたことを実行に移していた。軽い運動から始めて、少しずつ体を鍛えようとしているのである。

 

「あー、しんど・・・・・・」

 

実際、この身体の非力さや脆さは自覚している。だから、今までは運動全般を避けてきた。男の頃、野球の為に鍛えていたものとは全くの別物になった体と向き合いたくなかったから。女々しい話だよな、どうにも。

 

しかし、このままではいけないのは俺自身がよく分かっている。自炊の時と同じで、やれる所から手を付けないと駄目だ。いやまぁ結果は散々だけど。すぐに息が上がるし足が重い。入院していた頃から実家暮らし、アパート暮らしに至るまで怠け過ぎていた。最近、一番重労働だったのはスーパーのレジ袋を提げてアパートに帰る程度だったからな。純粋に運動不足だ。

 

その為軽いジョギングから始めてみていけど・・・・・・なんか、逆に良かったかもしれないな。今の俺がバテてるのは運動不足のせいだ。男も女も関係無くだらけていたせい。だから、自分の非力さに対する本能的な忌避感が湧いてこないらしい。

 

自分の心がどう反応してこうなってるかは分からない。だけど、想像していたよりも精神的には楽だ。肉体的にはすごいキツいけど、野球部の練習を思い出してどこか懐かしい。そんな感慨に浸りつつも、足の筋肉が限界を迎えかけている俺は帰宅を決意した。

 

感覚的にも理論的にも、運動に無理は禁物だ。こんな細い手足なら猶更。というか、絶対筋肉痛ヤバいだろうな・・・・・・明日が怖い。若干よろめきつつもアパートへの帰路を急ぐが走りはしない。息を整えるように、ゆっくりと歩いていく。

 

ふと、落ち葉が風に舞っている様が目に入った。そろそろ秋も終わりか。この辺りは全然雪が降らないが、冬はかなり冷え込む。気力のある時にちゃぶ台を片付けて炬燵を出さないと。今日は多分無理だけど。

 

俺がうだうだしている内にも、季節はどんどん変わっていく。時の流れは待ってはくれないのだ。だから、置いていかれない為にも色々と足掻くしかない。へとへとの体を引きずりながら、俺は遠くに見えたアパートにのろのろと近付いていった。

 

あぁ、全身が汗でべたついて気持ち悪い。帰ったらまずシャワーを浴びよう。

 

 

 

 

 

鏡を極力見ないようにシャワーを浴びて汗を落とした俺は、部屋着に着替えて台所に立っていた。本当は何か作ろうと思っていたんだけど、ジョギングで体力が底を尽いている。まともな料理をするのは夕飯に回そう。とりあえず、お昼ご飯はどうしようか。出来合いの総菜は無いし、うーん・・・・・・。

 

「まぁ、適当でいいか」

 

いつものレトルトご飯のミニに、おかずは缶詰とかにしようかな。大分汗をかいたので塩分も多めに採りたいし、お湯で溶かすだけでいい味噌汁も付けよう。一瞬カップ麺を食べることも考えたが、生理中頻繁に食べてしまっていた。別にカップ麺が悪いわけじゃないけど、頼り過ぎないようにしないと。いや、缶詰も同じか?

 

「いやいや、これはしょうがないから、うん」

 

言い訳をひとりごちて、俺は味噌汁の素をお椀に入れてお湯を沸かす。缶詰は鯖の味噌煮をチョイスした。缶詰の魚系って普通の魚と違って別の美味しさがあるんだよな。缶切りがいらないタイプなので、プルタブをつまみ開封する・・・・・・つもりだった。

 

「んぐ、固い・・・・・・!」

 

どうやら軽めのジョギングは手の方にも疲れを溜めてしまったらしい。顔を真っ赤にしながらなんとか開けるが、中の汁が少し飛び散ってしまった。いや、うん。しょうがないしょうがない。というかマジで体力が無さ過ぎるぞ、俺。

 

沸騰しかけたやかんの火を止めてゆっくりと深呼吸。震える指でやかんを掴み、具材入りの粉末が入ったお椀に注いだ。味噌のいい匂いが漂ってきて食欲をそそる。レトルトご飯もレンジでチンし終わり、今日の食事をちゃぶ台に並べた。

 

「いただきます」

 

手を合わせて、まずは鯖から箸を付ける。塊をほぐして食べやすい大きさにし、ご飯に乗せて口に運んだ。うん、無難に美味しい。缶詰は濃い目の味付けだから白米とよく合う。味噌汁もホッとする味だ。自炊は出来てないけど、こういうのも悪くない。

 

ちょっと品が無いけど、缶詰の汁をご飯に回しかけた。ほぐした鯖の身と一緒に軽く混ぜる。これがまた美味しいんだ。しょっぱい汁が白米に絡まって、いくらでも食べられそうな気がする。実家でやると母親がいい顔をしなかったけど、美味いもんは美味いし俺一人で食べるのは問題無いはずだ。

 

「ごちそうさまでした」

 

残った味噌汁で飲み干し手を合わせる。ジョギングでお腹が空いてたのもあり、ちょっと多めだったがぺろりと平らげてしまった。食器を片付けた後、疲労と眠気に抗えず横になってしまう。ちょっと運動しただけでバテ気味の肉体が、睡眠を強く欲していた。

 

「食っちゃ寝は牛になるって、マジで・・・・・・」

 

そうぼやくが、押し寄せる睡魔には抗えない。せめて、早めに起きて夕飯の用意はしないと。その想いも虚しく、俺は日が落ちるまでぐっすりと寝こけるのだった。




普段運動してないと、ちょっと動くだけでも腹が減りまくります。絶対ダイエットとか出来ないよ。
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