人生ドロップアウトTS娘は今日も飯を食う   作:てぬてぬ@TSF

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2.サラダチキンのチーズサンド

ピピピピ!ピピピピ!

 

「んが・・・・・・」

 

耳元でアラーム音が鳴り響き、意識が徐々に覚醒する。いつもの位置に手を伸ばしスマホを掴んだ俺は、アラームをオフにして上半身を起こした。寝違えたのか首がちょっと痛い。首筋を揉みながら立ち上がり、冷蔵庫へと向かう。

 

時刻は朝7時。別になんの予定も無いが、以前の生活リズムを出来るだけ崩したくなかった。まぁ、部活をしてた時は今より一時間以上早く起きてたけど。

 

「えーっと、これでいいや」

 

冷蔵庫からペットボトルのお茶を出しキャップを開ける。口をつけ、一気に半分くらいを飲み干した。人間は寝てる間にコップ一杯分の汗をかくらしい。だけど、まだ残暑が厳しい夜だ。寝起きは喉が渇いて仕方が無い。

 

「ふぅ・・・・・・。あー、朝ご飯どうしよう」

 

一人暮らしを始めてから、かなり独り言も多くなった。まぁ、引きこもりニートみたいな生活してるからな。外を出歩くこともあるにはあるけど、どうしても周囲の視線が気になってしまう。俺にとって、外出は滅茶苦茶ストレスの溜まる行為だ。女になってしまった俺を見られたくないという意識が原因なんだろう。

 

とりあえず、前に買っておいた食パンがまだ残っているはず。6枚切りの薄い奴が。賞味期限は・・・・・・よかった、まだ大丈夫だ。なんかいつもよりお腹空いてるし、二切れ残ってるから両方食べちゃうか。何付けよう。冷蔵庫を確認するが、好物のマーマレードジャムを二日前に使い切ったのを忘れていた。んー、それじゃあ・・・・・・。

 

「おっ」

 

冷蔵庫の隅の方、スライスチーズが丁度二枚残っていた。少し固くなってそうだけど、温めれば問題無いだろう。このままチーズサンドにしてもいいが、今日はそれだと物足りなさそうだ。他に乗せられるものはないかと探していると、目に留まったのはサラダチキンだった。

 

サラダチキン。自堕落な一人暮らしの心強い味方だ。いつもは何もつけずそのままかぶりつくけど、食パンで挟んでもいいかもしれない。包丁で切ろうかとも思ったけど面倒臭くなり、手で千切って食パンに乗せていく。不揃いだけど、まぁ味は変わらないしいいか。

 

更にその上にスライスチーズを被せて、皿に乗せつつ電子レンジに入れる。オーブンやトースターは無いので仕方ない。適当な時間温めて、スライスチーズがいい感じに溶けた所で取り出した。そこにマヨネーズを軽く搾り、もう一枚の食パンを重ねて完成。即興のチキンチーズサンドだ。

 

「いただきます」

 

コップに牛乳を注いだ後手を合わせる。手に取ったチーズサンドは思ったよりも熱くない。大口を開けてかぶりつくと、蕩けたチーズとサラダチキンの味が口一杯に広がった。うん、普通に美味しい。変なことをしてないから当たり前だけど。

 

もぐもぐと咀嚼しながら手元のチーズサンドを眺める。あれだけ口を開けてかぶりついたのに、その歯形は小さい。そもそもの口が随分と小さくなってしまっているのだ。男だった頃は、ハンバーガーとかを2、3口くらいで食べ切っていた。今だと何口くらいで食べられるのだろうか。近所にハンバーガー店が無くて、この体になってからは試していない。

 

「あーん、んぐ」

 

時折牛乳を飲みつつ、時間を掛けてゆっくりと食べ進める。早食いすると喉に詰まりやすいのだ。これも、男だった頃とは違う。野球部の顧問に食べ放題に連れてもらった時は、殆ど噛まずに飲み込むように腹を満たしていた。食道の太さも男女によって違うのだろうか。

 

ふと、網戸にしていた窓から子供の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。もう通学時間らしい。屈託の無い笑い声は、何故か俺の心を憂鬱にした。無意識の内に自分の現状と比べているのか。馬鹿馬鹿しい、流石に卑屈に過ぎるぞ、俺。

 

チーズサンドも残り半分、この時点で大分満腹になってきた。いくらお腹が空いていたとはいえ、食パン二枚はやり過ぎたか。いやでも、こんなに薄いのに・・・・・・小さくなった胃にまだ慣れていないようだ。こうなってから数年も経つのにな。

 

結局食べ残してしまい、ラップをかけて冷蔵庫に入れておく。あー、そういえば顔洗うのを忘れてた。洗面台に向かい、乱暴な手つきで顔を洗う。タオルを拭く感触も男の時とは違った。なんというか、肌が敏感な気がする。

 

錠剤を飲み下した後にそのまま歯磨きをしていると、洗面台に移る少女と目が合った。やはり、鏡は嫌いだ。目を逸らす。美少女と言ってもいい顔立ちも、自分のものだと思うと息が苦しくなりそうだ。胸の膨らみも、細く筋肉の付いていない手足も、まだ俺は受け入れられていない。自分なのに他人にしか思えない感覚をずっと感じているのだ。

 

半月に一回の検査の際にカウンセリングもしてもらっているけど、中々改善しない。当然だ。面影も残らない程に見た目が変わり、性別すら変わってしまった。症例が少ない奇病だから、メンタルケアの手段も確立していないらしい。

 

それでも、医者の先生達は優しく、丁寧に接してくれている。親身になって相談も受けてくれるはずだ。それなのに、俺は彼らに心を開くことが出来ていない。心の奥底に溜まった、どろどろとした感情を吐き出せていなかった。

 

「うあー・・・・・・」

 

歯磨きを終え、寝転がった俺はゾンビのような呻き声を上げる。今日は何をしよう。いい加減、外に出る回数を増やすべきだ。どれだけ周囲の視線が怖くても、一歩前に進むしかないんだから。頭の中ではそう理解している。して、いるけども・・・・・・。

 

「ん-・・・・・・」

 

食べてすぐに横になったせいで、気だるげな眠気がやってきてしまった。よくない。これはよくないぞ。だけど、抗う気力も湧かない。結局、俺は満腹からの二度寝というやらかしをしてしまうのだった。




サラダチキンはダイエットの味方なのでチーズやパンと一緒に食べたら全部が0カロリーになるんだよ。
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