人生ドロップアウトTS娘は今日も飯を食う 作:てぬてぬ@TSF
ますます冷え込んできたアパートの部屋。俺は炬燵に体を突っ込みながら、ジャージ姿で窓を眺めていた。時刻は午後三時。本来ならば今日はジョギングに出ようと思っていたんだけど、急遽中断した。理由は明白、雪が降り始めたからである。
「今年は早めだなぁ・・・・・・どうりで気温が下がるわけだ」
舞い落ちる雪は勢いを増し、深々と降り続ける。これ、下手したら積もるかもしれないな。去年積もった時は大家さんは雪かきしてくれていたみたいだけど、今年は出来れば手伝いたい。今の俺の非力さでどこまでやれるかは分からないが。
「んー・・・・・・」
とりあえず、今日の予定は全キャンセルだ。といってもジョギングくらいしか無かったけど。洗濯も乾燥機能で回せば外に干さなくていいし、昨日スーパーに行ったばかりなので何か買いに行く必要も無い。明日の予定は雪の様子を見つつ考えよう。
図書館から借りてきた本も読破してしまっている為、スマホの漫画アプリを開き適当な漫画を読むことにした。夕飯は何か適当に作るつもりだけど、流石に今からは早過ぎる。漫画なり小説なりで時間を潰さないと。炬燵のぬくもりを感じつつ、俺はジョギング用のジャージのまま怠惰に過ごす。雪が止む気配は今の所無さそうだ。
「さて、と」
シャワーを浴びて着替えた後。薄暗くなった部屋の電気を付け、軽く伸びをした俺は台所に立つ。朝は目玉焼きトースト、昼は賞味期限切れ間近の豆腐を食べたけど、そもそも動いてないからお腹もあまり空いていない。いつものミニレトルトご飯に、なんか適当なおかずを・・・・・・。
「お、これにするか」
冷蔵庫の冷凍スペースから取り出したのは、四尾入りの冷凍子持ちししゃも。解凍しないままフライパンで焼けば食べられるらしいし、残った分は明日の朝ご飯に回せばいい。後は汁物も欲しいな。折角だし、インスタントのものじゃなくて自分で作ってみるか。
とりあえずフライパンを用意して、そこにクッキングシートを敷く。調べた所によると、ししゃもは皮が薄いからそのまま焼くとフライパンにくっついてしまうらしい。クッキングシート越しに焼けるかは心配だけど、色んな料理サイトとかに乗ってるしきっと大丈夫だろう。
ししゃもをフライパンに乗せてコンロを点火した。弱火から中火で焼いていくと、少しずつししゃもが解凍されていくようだ。溶けた分の水がパチパチと蒸発し、魚特有の食欲をそそる匂いが広がり始める。
「よ、っと」
ある程度焼いた後、菜箸でししゃもをひっくり返していく。うん、いい感じに焼き目が付いてるな。焦げない程度にしっかり火を通さないと。ただ、焼いてる途中に触り過ぎると身が崩れやすいらしい。どれだけ焼けてるか、ちゃんと目視で確認する。・・・・・・いまいち分からない。そりゃそうだ、焼き魚の経験無いし。
焦げる寸前まで焼き、もういいだろうと皿に移した。四本全部は食べられないと思うけど、さっき考えた通り残った分は明日に食べればいい。さて、次は味噌汁だ。確か、前見たサイトに一人前用味噌汁の簡単な作り方が乗っていたはず。えーっと内容は・・・・・・。
「そうだ、その為に買ってきたやつがあるんだった」
先日の買い物を思い出し、台所の棚を漁る。あったあった、ボトルに入った液状味噌。最悪これを溶かすだけでも味噌汁にはなるらしい。確かに味噌の汁ではあるけど、それだけだと味気ないよな。乾燥わかめと、粉末のかつおだしも入れてみよう。
やかんでお湯を沸かしつつ、わかめを温水で戻しておく。粉末のかつおだしも溶いておいた方がいいのかな?まぁ、今回はこのままでいいや。液状味噌をお椀に垂らし、戻ったわかめも投入。沸騰したお湯を注いで、粉末のかつおだしも入れて軽く混ぜる。味見をした感じ少し薄かったので、最後にちょっとだけ液状味噌を足して完成だ。
レンジで温めておいたレトルトご飯を茶碗に盛って、ししゃもや味噌汁といっしょにちゃぶ台へ並べる。なんかいかにも和食って感じだ。実家ではこういう食卓が当たり前だった。家族が和食派だったからな。
「いただきます」
手を合わせ、まずはししゃもをつまみ口に運んだ。齧ってみるとたっぷりの卵が入っている。ぷちぷちとした独特の食感に濃厚な味は、他の魚だと中々味わえない。何より白米に滅茶苦茶合う。骨を取ったりせず丸々食べられるのも、面倒臭がりの俺にはありがたかった。
そして自作の味噌汁は・・・・・・うん、無難に美味しい。味噌だけじゃなくてかつおだしも入れたのが良かったのか、なんというか奥行きのある味になっている。具であるわかめも良い感じだけど、ちょっと物足りない気がするな。ネギや豆腐も入れればもっといいかもしれない。
思ったよりも食が進み、ししゃもは一尾を残して全部食べてしまった。勿論ご飯と味噌汁も完食。なんか、前に比べて食える量が増えているのか?何が原因かは分からないけど。
「ごちそうさまでした」
手を合わせ、食器をシンクに運びさっと洗う。ふと窓を見ると、雪はさっきまでと変わらず振り続けていた。風が強くなってきたのか、白く小さな欠片達が一層舞い踊っている。・・・・・・駄目だ、上手い詩的表現は出来ないな。最近色々な本を読んでるから、それに感化されたのかもしれない。
食器を片付け、俺は炬燵に潜り込んだ。まだ寝るには早過ぎる。台所に立つ前まで読んでいた漫画を、再びスマホのアプリで読み始めた。漫画の内容はいわゆる超能力バトル物。10年以上前の作品だけど全然面白い。
「あっ」
こたつで温まりながらだらだら読み進めていると、主人公とヒロインのデート回に行き当たった。二人は初々しくも嬉しそうに、トラブルに見舞われながらもデートを楽しんでいる。少しだけ心がざわついた。今の俺は、主人公にもヒロインにも感情移入出来ない。
デート回を読み切った後、俺はスマホを充電ケーブルに繋いで放置する。そろそろいい時間だ、寝てしまおう。炬燵の電源を切り布団に移る。寝床は冷えているけど、毛布にくるまれば大丈夫なはずだ。
明日はどうしようか。雪が積もっていなかったら図書館には行きたい。ジョギングは・・・・・・まぁ、道路の状態を見てからだな。自身の体温で徐々に温かくなる毛布の中、俺は明日の予定を考える。先ほどの心をざわつきを、頭の隅に押しやりながら。
子持ちししゃも(樺太ししゃも)。本物のししゃもってどんな味がするんでしょうね。