人生ドロップアウトTS娘は今日も飯を食う   作:てぬてぬ@TSF

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23.手作りサンドイッチ

病院の一角。休憩用のスペースで、俺は小さな弁当箱を広げていた。

 

「あー、相変わらず疲れるなぁ・・・・・・」

 

いつもと同じ定期検査、採血やCTを経てお昼時になっている。この体になってから何度もやってることなのに、未だに気疲れしてしまうんだよな。それはともかくとして、今回は初の試みをしていた。お昼に食べる弁当を作ってきたのである。

 

と言っても大したものじゃない。適当にあったものを挟んだサンドイッチだ。弁当箱に詰められたそれを前に手を合わせる。

 

「いただきます」

 

二つある内、右のサンドイッチを手にするとチーズとレタスが挟んであった。一応パンの内側にバターを塗ってあるんだけど、ちょっと湿っぽいのはレタスの水分が出てしまったせいかもしれない。まぁ、これくらいなら大丈夫だろう。実際口にしてみるとそこまで違いを感じない。チーズの濃厚な味とレタスの食感が合わさって普通に美味しかった。

 

もう一つのサンドイッチにはツナマヨが挟んである。ちゃんと油分を切ってマヨネーズと混ぜたので、液状になって染みたり零れたりしていない。うん、こっちの作り方は正解だったみたいだ。味は当然美味しい。今度は胡椒とかを混ぜてもいいかもしれないな。

 

「ごちそうさまでした」

 

手を合わせた後、病院の自販機で買ったお茶を飲みながら一息つく。そういえば、午後は新しいカウンセラーとの顔合わせがあるらしい。知らない人というだけで緊張してしまうのに、上手く会話出来るだろうか。正直かなり心配だ。

 

というか、結局新しいカウンセラーが来る理由を聞いてないな。前に医者の先生と話した時ははぐらかされたし、一体何を隠してるんだろう。もやもやとした不安が広がるが、きっと大丈夫だと自分に言い聞かせる。病院の人達は俺の為に尽力してくれてるんだから、疑うなんてよくないし。

 

「・・・・・・そろそろ、行くか」

 

お昼休憩もあと少しで終わる。俺は弁当箱を片付けて立ち上がった。ひとまず、診察室に戻ろう。

 

 

 

 

 

 

 

「やーどうも、初めまして。ほら、そこに座って」

 

「あ、は、はい・・・・・・」

 

医者の先生に案内されて着いた場所は、広めの会議室のような場所だった。長机が並んでいる中、一人の女性がにこやかな笑みを浮かべて座っている。対面の椅子に座った俺は、おそるおそるといった感じで女性を観察した。

 

俺よりは背が高いけど小柄な体形で、髪の毛は後ろで縛っている。アイドルや俳優をしていてもおかしくないくらい綺麗な顔立ちだ。白衣を着ているが胸元は大きくせり上がっていて、不味いと思って目を逸らした。

 

「さて。君のことは聞いてるよ。君が罹った奇病のことも。折角だ。カウンセリングの前に話しておこう」

 

「は、はぁ・・・・・・」

 

なんか、奇妙な印象を受ける人だな。申し訳ないけど軽薄さを感じてしまう。そんな失礼なことを思い浮かべた俺に、とんでもない言葉が告げられた。

 

「実は、俺も同じなんだ。元は男だったんだけど、病気のせいで性別が変わってしまった。だからまぁ、君の先輩みたいなものかな」

 

「え・・・・・・え、えぇ!?」

 

予想だにしない話に、俺はどもりながらも驚愕の声を上げる。俺以外にも発症した人はいると聞いていたけど、数億人に一人くらいの確率だったはず。だから、日本人では俺だけなんだと勝手に思っていた。

 

「ははは、まぁ驚くよね。俺だってびっくりだよ、日本人の発症者が出たって聞いた時は椅子から転げ落ちそうになった」

 

「え、あの、マジでそうなんですか?」

 

「マジだよ。これ、免許証と昔の写真。信じてくれるかは君に任せるけど」

 

机に並べられた免許証には、確かに男性の名前が記されている。写真には中学生くらいの少年が映っていて、やんちゃそうな笑顔でピースしていた。写真と目の前の人を見比べるが、似ても似つかない。それもそうだ、そういう病気なんだから。

 

「・・・・・・」

 

「まぁ、鵜呑みには出来ないよね。俺だって、こうして君に会うまでは半信半疑だったんだから。世界中で見てもほんの数十例しか確認されていない病だし、何より君と俺は初対面だ。だからまぁ、とりあえずは気にしないでくれ」

 

「い、や、気にするなって言われても・・・・・・」

 

信じられない。でも、目の前の女性が嘘を言っているようにも思えなかった。というか、考えたことも無かったのだ。俺と同じ境遇の、性別が変わってしまった人と会えるなんて。

 

「えっと・・・・・・その、すみません。カウンセリングの前に、貴方の話を聞かせてくれませんか?俺も、出来れば信じたいので」

 

「そっか、分かった。それじゃあ今日のカウンセリングは無理だな。なんてったって、俺の身の上話は長くなる。色々経験してきたからさ」

 

そう言って、カウンセラーさんはにっこりと微笑む。さっき感じた軽薄さは全然無い。俺は信じたい気持ちと疑念の両方を抑えながら、彼女・・・・・・彼の話に耳を傾けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「───で、だ。心理カウンセラーの資格を取った後は語学を勉強しつつ、世界のあちこち飛び回ってるってわけ。数億人に一人って確率でも、世界中を見れば結構な数の罹患者がいるんだ。俺達とは違って、女の子から男の子になった事例もある。まぁ、そっちの患者は俺の管轄外だけど」

 

「そう、なんですか・・・・・・」

 

カウンセラーさんが語ってくれた身の上話は、俺にとって物凄く為になるものだった。俺が感じていた不安や恐れ、今の肉体にどう向き合うべきか。悩みや苦痛を共有出来る相手がいるだけで、心は数段軽くなる。それは目の前のカウンセラーさんだけじゃなく、彼が今まで担当してきた患者の存在もだ。

 

「えっと、さっきの話ですけど。貴方は、元の性別・・・・・・男として振る舞ってるんですよね?」

 

「うん、そうだよ?多様性の時代でもあるし、俺は俺だって感じで好きに生きることにした。でも、今まで会ってきた人達の中には、変化した後の性別を受け入れて家庭を持ったケースだってある。どれが正しいとかじゃなくて、どれも正しいのさ」

 

あっさりと言い切って、カウンセラーさんは俺を真っすぐに見つめる。視線に貫かれた俺は顔を逸らせず、視線を返すしかない。

 

「勿論、周囲の理解が得られるかどうかは別だ。俺達が世間から見て異常ってのは変わらない。いっそ奇病の存在を公表すればいいんだが、社会に不要な混乱を招くってことで許可が下りないんだよ。まったく、生き辛い世の中だよなぁ」

 

「そうですね・・・・・・でも、はい。俺は恵まれてる方ですよ。家族の理解も一応得られてるし、他の人達も優しい人達ばかりで」

 

「いんや、優しいのは君の方だよ。俺が見てきた中では、苦悩やストレスを外部への攻撃性で発散させる人も多かった。でも、そっちの方が予後はいいんだ。他者に当たらず、内側に溜め込むような優しい人程苦しみが長引くことが多い」

 

その言葉に、俺は膝の上で拳を握り俯いた。優しい。いや、俺はそんなものじゃない。ただ・・・・・・。

 

「おっと、そんな顔しないでくれ。君の担当医にどやされてしまう。君の優しさは他者を傷付けることを許さなかったんだ。俺は君を褒めてるんだよ。色んな患者を診てきた俺が断言する。それは、誇るべきことだ」

 

そう言って、カウンセラーさんは手を伸ばし俺の肩をポンポンと叩く。手のひらから温もりが伝わり、俺は泣きそうになってしまった。潤む瞳を手で覆い隠すが止まらない。ぼろぼろと、涙が零れ落ちる。

 

「ご、ごめんなさ、止まらなくて・・・・・・!」

 

「うん、泣け泣け。この部屋には俺と君しかいない。どれだけ泣いても許されるさ。溜め込んでいたものは、ここで一気に吐き出してしまおう」

 

カウンセラーさんの言葉を受けて、俺は抑えるのをやめて泣き出した。嬉しいのか悲しいのかよく分からない。分からないけど、いつもみたいな絶望感は無かった。俺はずっと泣き続ける。嗚咽と共に涙を零し、心のしこりを全て洗い流すように。




もしかすると、現実にも性別が変化する事例があるのかもしれませんね。滅茶苦茶過酷な可能性が高いですけど。
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