人生ドロップアウトTS娘は今日も飯を食う   作:てぬてぬ@TSF

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28.映画館のフードメニュー(後編)

「良かった・・・・・・!」

 

上映後。エンドロールまで全てを見届けた俺は、思わず感嘆の溜め息を漏らした。いやもう最高だった。原作のシーンをただ再現するだけじゃなく、アレンジの仕方が絶妙で・・・・・・!駄目だ、上手く言葉が出てこない。

 

「ふぅー・・・・・・」

 

シアターを後にして、再び人気の無い場所に移動する俺。フードコートの隅でテーブルに突っ伏し心地いい疲労を味わう。うん、本当によかった。こういう心身の疲労は久しぶりだ。満たされている感じがするな。と、

 

ぐうぅ~

 

大きな音を立ててお腹が鳴る。思わず手で押さえて周囲を確認するが、どうやら他の人には聞こえなかったようだ。俺は頬を赤らめながらも自身の空腹に気付く。映画に集中していたから今の今まで気にしていなかった。

 

先に買っておいたマスカットジュースにポップコーンは、既に映画中盤辺りで平らげてしまっていた。せっかくフードコートにいるんだ。もう映画は見た後だけど、何か食べてもいいかもしれない。それこそさっきは避けたガッツリ系でお腹を満たしつつ、余韻に浸るとしよう。

 

そうと決めた俺はスマホで再びメニューを確認する。やっぱり品揃えがいい。映画館の大きさに比例して、フードコートも大規模なんだよな。流石にご飯物は無いけど、パン類やスイーツも充実しているようだ。

 

さて、どうしようか。ざっと眺めていると、とある食べ物が目に入った。ピザだ。丸いの一枚じゃなくて、1/4にカットされている奴。具材とチーズがたっぷり乗っているので、1/4でも結構なボリュームがありそうだ。今の俺には丁度いいかもしれない。よし、これにしよう。

 

というわけで早速レジへと向かう。せっかくなので飲み物も追加したいけど・・・・・・ピザにはコーラを合わせたい。でも、流石にやり過ぎな気がする。そもそもマスカットジュースとポップコーンも食べてるし、ここは妥協するか。

 

「すいません、ピザとアイスティーのMを一つお願いします」

 

「かしこまりました、少々お待ちください」

 

スムーズに注文し、数分もかからずにピザとアイスティーを受け取った。フードコートの隅に戻り席に着く。改めてピザを見てみると、メニューの写真と同じでボリュームたっぷりだ。色んな具材がチーズとトマトソースの中に埋もれ、油分でてらてらと輝いている。思わず唾を飲み込みつつ、俺は手を合わせた。

 

「いただきます」

 

紙包みごとピザを持ち上げ、尖っている部分にかぶり付く。うん、美味い。チーズの濃厚な旨みは言わずもがな、色んな具材の食感と味が混ざり合って、それをトマトソースが纏めてくれている。想像以上に食べ応えがあるな。

 

アイスティーで脂っぽさを洗い流しもう一口。味はかなり濃いんだけど、くどくならないギリギリに抑えられている気がする。そのおかげか食欲が止まらない。具材はマッシュルームやサラミ、輪切りのピーマンなどが乗っているようで、どれもがチーズとの相性が抜群だ。

 

そして、生地はカリカリじゃなくて厚みのある奴。イタリアじゃなくてアメリカ的な感じである。どっちがいいとかは俺には分からないが、食べ応えという点では厚い方が良いのは間違い無い。一口食べて咀嚼、飲み込んでからアイスティー。そしてまた一口・・・・・・という感じであっという間に食べ切ってしまった。

 

「ごちそうさまでした」

 

手を合わせた後、ほぅと息を吐く。思い浮かぶのはさっきの映画。想像以上のクオリティーは、俺の心を満足させるに充分なものだった。いや、違うな。正直心から溢れてるかもしれない。それだけ映画の内容は凄かったのだ。

 

原作の漫画を知ったのは中学1年の頃だったっけ。そこから単行本を買い続け、高校2年辺りに完結した。この時点でアニメ化はしていたけど、まさか今になって劇場版が見られるとは。感無量である。

 

一応、買い揃えた漫画は実家にあるはず。しかしわざわざ取りに戻るのもアレなので、スマホで電子書籍版も購入していた。そのおかげもあって、読み直して復習もばっちりな状態で映画に臨むことが出来たのである。

 

目を閉じれば、明瞭な映像が脳裏をよぎる。・・・・・・もう一度見ようかな。いや、やめておこう。これ以上は俺の情緒が持ちそうにない。その内配信サイトで配信されるようになるだろうし、そうなってから見直すとしよう。

 

・・・・・・実の所不安はあった。こんな状況の自分が映画を楽しめるのかって。だけど、そんな不安は全くの杞憂だった。俺は心の底から映画を堪能したし、なんならフードコートのメニューもばっちり味わった。以前のような心境では、こんな風に楽しめなかっただろう。

 

目を閉じながら椅子の背もたれに体を預ける。人気が少ない場所とはいえ、普通に他者がいるスペースなのに俺はリラックス出来ていた。映画を見た満足感と高揚感だけが原因じゃない。少しずつでも、前に進めているんだ。

 

「・・・・・・ふふ」

 

いやまぁ、うん。たかが映画を見に来て、普通に楽しんでいるだけなんだけど。それでも、俺の口には笑みが浮かぶ。周囲の喧騒に耳を傾けながら、脳裏で映画の内容を反芻した。じっくりと噛み締めるように。幸せな時間だ。

 

たっぷり数十分余韻に浸った後、俺は立ち上がり軽く伸びをする。ずっと席を占拠するのも良くない、そろそろ出よう。俺は買い忘れていたパンフレットを購入した後、晴れ晴れとした気持ちで映画館を後にした。




映画館でがっつり食べると値段がね・・・・・・。
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